表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

序章 女帝の愛人

ワイウイ17開幕!

楽しんでいただけたなら幸いです

 闇は、光がなければ存在できない。

人々の心に入り込んで、簡単に破滅させるだけの力を持ちながら、光に敵わず、光がなければその存在すら認識できない。

 精霊達の住まう異界・イシュラースには、昼の国・セクルースと、常夜の国・ルキルースという2つの国があった。

闇を司る精霊達の暮らす、闇の領域は、そのどちらの国にもない。2つの国の狭間に存在している、閉ざされた場所だった。

そんな、創世の時代から見向きもされなかった闇の領域が、突如、セクルースに出現し、その存在を誇示した。

それを成し遂げてくれたのは、新女帝、2代目翳りの女帝・シェラ。

彼女は太陽の光でさえ温めることのできないような闇のような冷たい眼差しで、しかし、焼け付くような灼熱の恋心を秘めた、聡明で、可憐さと美しさを持った美姫だった。

 彼女が先代女帝であるロミシュミルを討ち、闇の王の証を奪い取ってくれてから、闇の領域は瞬く間に栄えた。

しかし、彼女を女帝にした経緯はとても、強引なモノで、それを画策して主導したロミシュミルの右腕だった精霊、影法師の精霊・ルッカサンは、早くもその代償の支払いを迫られていた。


 黒いドレスの、黒髪の美姫が、その背に生えた灰色に変色してしまったモルフォチョウの羽根から鱗粉を落としながら、裸足のまま走っていた。

時折後ろを振り返るその大きめな紅茶色の瞳には、恐怖と未だ信じられないというような色が浮かんでいた。黒い大理石の廊下を走る彼女の背後を、ゆっくりと小柄で童顔な青年が、追いかけるように付いてきていた。

「ペースが落ちてきてるぜ?もう降参かよ?シェラ!」

金色の半端な長さの髪を縛らずにそのままに、彼の、燃えるような光の立ち上る金色の瞳には、面白がるような、得物を追い詰めて悦ぶようなそんな暗い微笑みが浮かんでいた。

15代目風の王・リティル。

雄々しき金色のオオタカの翼を持った、世界の刃と呼ばれ、循環する魂の流れを管理する死を導く精霊の王だ。戦う宿命の為に短命で、不老不死の精霊という種族であるのに、15代も代替わりしてしまった不遇の精霊だ。

烈風鳥王という異名を持つ彼は、慈愛の王などと呼ばれ、精霊達から慕われていた。だが、ルッカサンは、そんな彼を変えてしまったと恐れおののいていた。

「風の王!後生です!」

こんな事態を導いてしまったのはルッカサンだ。

リティルは、精霊達が永遠に風の王の座にいてほしいと願う、イシュラースの財宝の如き王だ。そんなリティルには、愛する妃がいる。いや、いた。

「ああ?邪魔するなよ。1週間の休暇もぎ取るために、昨日まで死に物狂いだったんだぜ?やっと逢いに来られたんだ。わかるだろ?」

睨むような微笑みを向けられ、ルッカサンは彼の行く手を遮った体を、彼の前から退かせるしかなかった。

「はは、殺されねーだけマシだと思えよ?けどな、オレはおまえを許さねーよ」

殺さない?いや、まだ殺さないの間違いではないだろうか。

ルッカサンは、クーデターを起こし、見事成し遂げた。彼の望んだ者が、女帝となってくれたが、それは、風の王を激怒ではすまないほど怒らせる結果となった。

甘かったのだ。風の王・リティルは、底なしに優しいことで知られている王だ。外道な行いをしても、その後の闇の領域を見れば納得してくれると、世界を安定させることも仕事としている彼なら許してくれると思っていた。

いや、優しさを甘さと捉え、侮っていたのだ。彼の愛妻に手を出して、無事だった者などいないと、知っていたのに。

「嫌!やめて、リティル!」

新女帝のシェラは、あんな弱々しい女のような悲鳴を上げるような方ではない。威厳に満ちあふれ、聡明で表情を崩さない、女帝の名が相応しい女性だ。そんな彼女は今、シェラよりも10センチ背の低い、小柄なリティルに捕らえられ、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「何をやめるんだよ?君の愛しい元夫が、愛人になってやるって言って来てるんだぜ?君も溜まってるだろ?オレといいことしようぜ?」

リティルは怯える彼女の頬を掴むと、無理矢理にその唇を奪った。まだこの場にルッカサンがいるというのに、お構いなしだった。

「――ん……あ、!リ――あっ……!!」

シェラのくぐもった悲鳴を飲み込みながら、リティルは彼女の抵抗を完全に封じてその唇を貪っていた。仕える主を守ることさえできずに立ちすくむルッカサンに、リティルは、シェラに深く口づけたまま、視線を向けた。

「去れ」射殺すような瞳が、確かにそう言っていた。

ルッカサンは、為す術なく踵を返した。

「やめてっ!リティル!リティル……!」

背中に、シェラの悲鳴が突き刺さってきたが、ルッカサンには、リティルが寝室へシェラを引きずり込むその行いを、止める権利はなかった。


 風の王・リティルには愛する妃がいた。

花の姫・シェラ。現在の翳りの女帝である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ