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魔女っていうな!  作者: 舳里 鶏
第一章 ハンバーグ
8/97

「グーでいかなかっただけでも感謝してよ」

 「ふう、着いたー」

 証達は、学校から少し移動したところにある市の図書館に来ていた。

 「というか、魔女先輩着替えたんだ~、もったいない」

 「あの格好で出歩く神経はない。後、魔女じゃない」

 メイド服から制服に着替えたゆうきは、残念がる証をじろりと睨みつけた。

 睨みつけられた証は、肩をすくめる。

 「それで、図書館で先輩のお父さんなんてどうやって調べるのよ?」

 そんな二人のやり取りを横目で見ながら、涼音が証に訪ねる。

 「確かに。私の父は、歴史に名を残すような人ではないぞ」

 「歴史に名を残さなくても、記録には名を残してるはずだよ」

 首を傾げるゆうき達に証は、説明を続ける。

 「先輩のお父さんは、先生だったって言ってたよね?」

 「ああ。公立の教師だったぞ」

 「公立の先生は、異動すると新聞に載るんだよ。どこの学校からどこの学校に異動したってのがね」 

 ゆうきの横でふわふわと浮きながら聞いていたひいらぎが尋ねる。

 「つまり、それを元にゆうきの父がどこの学校にいたのかを突き止めるってことか」

 「そゆこと。どの学校にいたかが分かれば先輩のお父さんのことを知っている人にもたどり着けると思うわけです」

 同じ学校で働いた人、或いは教わった生徒、それが分かればゆうきの父の人となりを知る手がかりとは言えないが、足掛かりにはなる。

 「ところで、先輩のお父さんが先生やってたのってどれくらい?」

 証の質問にゆうきは顎に手を当てて考え込む。

 「父が亡くなったは、私が小学生のころだから、最低でも七、八年前までは先生だったはずだ」

 「じゃあ、そこから遡るように探そう」

 証の提案に涼音はようやく自分がここに連れてこられたわけを理解した。

 「なるほど、そりゃあ人手も必要になるわね」

 教師の異動する人数など、両手どころか両足足したってたりない。

 詰まる所人海戦術で探し出すしかないのだ。

 涼音は、今日、何回目か分からないため息を吐く。何事も諦めが肝心だ。

 「ところで、どうやって新聞を探すんだ?」

 何も知らないゆうきが証に尋ねる。

 「受付で、何年の新聞のどの記事が見たいか頼むんだよ」

 受付にいる図書館司書は、当然、ゆうきの知り合いではない。

 「…………………………ハードル高いな」

 「アレ以上低いハードルないでしょ。コンビニとかと一緒なんだから」

 「コンビニの店員と会話なんかしないだろ!!」

 「あぁ、たまにいますね。無言で商品だけ置く客」

 涼音はうんうんと頷く。

 「おい!失礼なこと言うな!『袋いいです』といって商品を置いているぞ!!」

 「低レベル通り越して低次元の発言だよ」

 「こんなに情けない反論を力強く言う人初めて見ました」

 じとっとした目を向ける二人にゆうきは、耐えられなくなり、手に持っているひいらぎに助けを求める。

 「ちなみに、お前、あのコンビニで袋要らずの魔女って呼ばれているぞ」

 「誰が死体蹴りをしろと言いましたか!!というか、何でそんなあだ名で呼ばれてるのひいらぎ様知ってるんですか?」

 助けを求めたゆうきに与えられたのはどこまでも無慈悲な言葉だった。

 「いつもお前がコンビニに入るたびに奥でこそこそ言っていた」

 「もう、あのコンビニ行くのやめよ」

 まさかのあだ名にゆうきは、顔に影を作って斜め下を見つめる。

 「あのー」

 そんな会話をしているゆうき達の後ろから声が聞こえる。

 振り返った先にはエプロン姿に首から職員証を下げた女性が遠慮がちに頭を下げている。

 「何かお探しですか?」

 下らない言い合いをするゆうき達を見かねて司書が声をかけてきた。

 「え、えーっと、その」

 チラリと証達を見るが二人とも首を横に振る。自分で頼めということだろう。

 「いや、証は首をふるな!私依頼人だぞ!」

 「厳密に言うと依頼人は、ひいらぎ様だし…………何よりこれが一番重要なんだけど」

 「なんだ!?この後に及んで下らないこと言ったら──────」

 「僕、先輩のお父さんの名前知らない」

 「太陽の『陽』に三本線の『川』に透明の『透』で陽川透教員の異動先が掲載されている新聞記事の閲覧をお願いしたいのですが………」

 ゆうきは、証に背を向けなるべく司書と目を合わせないようにしながらそうたのんだ。

 「閲覧だけでよろしいですか?お金はかかりますが交付することも出来ますよ?」

 司書の言葉にゆうきは、ピタリと動きを止めてしまう。

 ゆうきの想定ではその後、持ってきた新聞を確認するつもりだった。

 司書としては当然のサービスを案内しているわけなのだが、ゆうきの想定を超えたやりとりに完全にフリーズしてしまった。

 「交付でお願いします」

 そんなゆうきの横から流石に見かねた証が助け舟を出した。

 「証……………」

 「何?感謝なら別に」

 「もっと早くに助け舟出して欲しかった」

 「デコピン!」

 図書館に鈍い音が響き、ゆうきは、思わず額を押さえて座り込んだ。

 「えーっと、交付でよろしいですか?」

 「ああ。それで頼む」

 二人のやりとりに戸惑う司書に猫の姿になったひいらぎが、カウンターにちょこんと座って答えた。

 「承知しました。少々お待ちください」

 ひいらぎの言葉ににこやかに微笑み、奥の事務室へと消えていった。

 「ま、また、デコピンしたな!!」

 「グーでいかなかっただけでも感謝してよ」

 涙目になりながら食ってかかるゆうきを適当にあしらい、財布の中から十円玉を探す。

 そんな二人のやりとりを見て、涼音はカウンターにいるひいらぎに話しかける。

 「またって、前もやったんですか?」

 「まあ、前回も今回もゆうきが余計なこと言ったのが原因だがな」

 涼音は少し考え込んで何か思いついたように顔をあげる。

 「なるほど。余計な事をやるのが証で余計な事を言うのが先輩、となるほど釣り合い取れてますね」

 ひいらぎの言葉に涼音は、うんうんと頷く。

 とりあえずセットの場合は近くにいたくない。

 「お待たせしました」

 そんなやりとりをしていると先程の司書が印刷された新聞記事をもってきた。

 「それでは、三枚印刷しましたので、三十円でお願いします」

 証は、財布から三十円を渡して領収書を貰った。

 「こちらが『陽川透』さんの名前が記載されている教職員の異動記事です」

 「あ、ありがとうございます」

 ゆうきは、そうお礼を言うと印刷された新聞を受け取る。

 「記事自体は、少ないんだけど………」

 何せ県内中の教師の異動の記事だ。単純に項目が多い。

 「こりゃあ、涼音を呼んで正解だったね」

 「先見の明があって何よりだわ」

 呼んだというより無理矢理連れてこられた涼音は、何の感情も込めずに答える。

 「すまない。私のせいで」

 「先輩、頭を下げないでください。自分の仕事を無理矢理手伝わせてるこのいたずら坊主が全部悪いんで」

 ほっぺを引っ張りながら、涼音は、頭を下げるゆうきを止める。

 そんなやりとりをしながら三人は、記事を持って閲覧スペースに座る。

 証は、ポケットから三本マーカーを出す。

 「まずは、先輩のお父さんの名前をマークしていこう。んで、出てきた学校は、ノートに書くってのでどう?」

 「いいと思うぞ」

 涼音とゆうきは、そう言ってマーカーを受け取ると新聞記事にマークしていく。

 そんな二人を見て証は、頷いて席につく。

 「さて!僕も頑張るぞ」




◇◇◇◇

 



 「さて、できたけど…………」

 ゆうきの父、陽川透のいた小学校、中学校のリストアップは終わった。

 「それで、ゆうきの父の赴任先はどこだ?」

 ひいらぎに急かされ三人は、ノートを持ち寄る。

 三人のノートにはそれぞれ陽川透の赴任先が書かれている。

 「思ったよりもあったけれど、この先どうするつもりなのよ?」

 涼音の質問に証は指を二つ立てる。

 「一つは、これをもとに赴任時期が被っている先生を探す」

 そう言って証は、中指をしまい、人差し指だけ建てる。

 「もう一つは──」

 証がもう一つの案を口にした瞬間、ゆうきの肩がポンと叩かれた。

 



 「よ!何やってんだ?」

 


 「ヒョッ!」

 突然肩を叩かれたゆうきは、奇妙な声をあげた。

 驚いて振り返ると、そこには同じクラスメイトの拓矢がいる。

 「た、拓矢か」

 バクバクいう心臓を押さえながらゆうきから出るのはその言葉が精一杯だった。

 「いや、悪い。そこまで驚くとは思わなかった」

 ゆうきのあまりの驚きように拓矢は申し訳なさそうに頭をかく。

 「んで、何やってんだ?」

 「拓矢こそどうしたんだ?ここは図書館だぞ?」

 「………お前、俺のことなんだと思ってんだ?」

 「半妖がやってはいけない事で課金とか答える男」

 「馬鹿って言いたいのか?馬鹿って言いたいんだな!?そう言う奴にはこうだ!!」

 拓矢は、そう言って自身の右手をゆうきの前に突き出す。

 「くらえ!!稽古終わりの剣道部の右手」

 「ゔぉ!!」

 突然鼻を刺す異臭にゆうきは、思わず顔を背けた。

 「それで、先輩はどうしてここに?部活は?」

 そんな二人のやりとりがひと段落したのを見届けた証が拓矢に尋ねる。

 証に先輩と言われて露骨に嫌そうな顔をしながら、拓矢は口を開いた。

 「うちは、今日部活短い日なんだよ。だから、稽古終わりに本を借りに来たってわけ」

 そう言いながら拓矢は、手に持った本を見せる。本には、『剣道』と書かれていた。 

 「この本は、試合の前日の過ごし方が載ってんだよ」

 「学校の図書館にはないのか?」

 鼻を摘んでいるゆうきの肩の上でひいらぎが尋ねる。

 「なかったんだよなぁ」

 そう言って本をカバンにしまう。

 「んで、もう一度聞くけどお前ら何や…………」

 そう言いながら拓矢の視界にゆうき達のノートが入った。

 拓矢は、何気なくゆうきのノートと新聞記事を手に取る。

 「おお!陽川先生じゃん。懐かしいー」

 拓矢のその言葉に三人は、固まった。

 「い、いや、拓矢。どうして陽川透を知っているんだ?」

 ゆうきは、戸惑いながら尋ねる。

 そんなゆうきを不思議そうに見ながら首を傾げる。






 「何でも何も、俺の小学校の頃の担任だぜ」


 













 ───もう一つは、魔女先輩のお父さんの教え子を探すこと────





 


 証が言えなかったら言葉が今、目の前に現れた。




 




さあさあ続きますよ

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