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魔女っていうな!  作者: 舳里 鶏
第一章 ハンバーグ
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「まあ、地雷だと分かった上で踏み込だんだけど」

 「私、今日は部活ないから早く帰ろうと思ったのに………」

 翌日の放課後、涼音と証は調理室に向かっていた。

 証の隣を歩く涼音は、不満そうに口を尖らせる。

 「いやぁ、あはは………」

 隣を歩く証は、申し訳なさと気まずさが混ざり合った表情で目を逸らす。

 「で、あんたの話をまとめると、詳しくは言えないけど確実に先輩を怒らせたから、証一人で顔を合わせるのは怖いとそう言うことね?」

 「ま、まあね」

 昨日の威勢は何処へやら。

 証は、肩を丸めて涼音の後ろを歩いていた。

 証としては、その時はベストを尽くしたつもりだったが、思い返すとやり過ぎたのでは、と考えるようになった。おかげで昨日は、中々眠れなかった。

 「というか、会えるかも分かんない。下手すればいないかもしれない………」

 「あんた、ホント、何したのよ」

 「…………先輩の隠し事を暴いた」

 「あんた、先輩のこと嫌いなの?」

 「そんなわけないよ!!ただ、仲良くなろうと少し頑張って踏み込んだんだよ!!」

 「踏み込んだところが地雷だった自覚は、ある分だけマシと見るべきみたいね」

 「まあ、地雷だと分かった上で踏み込だんだけど」

 「訂正。あんた、どうしようもないわね」

 涼音の言葉は、証の顔に申し訳なさと気まずさに後ろめたさを追加させた。

 「証、その薄氷の上でドリフトするような人間関係の構築の仕方やめなさいよ」

 「良く滑りそうだね」

 「滑る前に落ちるわよ」

 証に追撃を食らわせていると調理室に辿り着いた。

 しかし、証はいっこうに扉を開けようとしない。

 涼音はため息と吐くとともに扉を開ける。

 そして、フリーズする。

 「ちょ、ちょっと涼音?」

 突然動かなくなってしまった涼音に証は、戸惑いながら声をかけつつ涼音の視線の先を追う。

 涼音の視線の先には、メイド服に身を包んだゆうきが魔女帽子で目元を隠して佇んでいた。

 「え、えーっと、せ、先輩?」

 「くそ、証が誰かと来るとは思わなかった…………」

 ゆうきは、そう呟くと二人を睨みつけた。

 「いいから閉めろ!!」

 「「は、はい!!」」

 二人は、慌てて調理室の扉を閉めた。

 「閉めたな?よし、じゃあ座れ」

 「あ、あぁ、そうですね。ほら、証座って」

 涼音は、証を促して座らせ、自身は、立ったまま、手を振る。

 「それじゃあ、あたしは、これで………」

 「待て、誤解を解いておきたいから残れ」

 (えー………ヤダ)

 だが、口が裂けても先輩相手にそんな事は言えない。

 涼音も丸椅子に座る事になった。

 二人が座ったことを確認するとゆうきは、顔を赤くしながら、言い辛そうに魔女帽子のつばで目元を隠したまま小さく呟く。

 「その………昨日は、悪かった」

 「へ?」

 まさかの謝罪に証から間抜けな声が出た。

 寧ろ、証の方が謝らなければと思っていたぐらいなのだ。

 思わぬ展開に涼音と証は、顔を見合わせる。

 「その………私は、喧嘩するような友人がいた事ないから、どうやれば許してもらえるか分からなくて…………」

 ゆうきは、ぎゅっとスカートを握りしめる。

 「と、とりあえず、証のテンションが一番高かったメイド服を着て謝ろうと、お、思ったんだが…………」

 最後の方は消え入りそうになりながらボソボソと喋っていた。

 出来る限りのベストを尽くしたら、まさかの証の友人の登場だ。

 出来る事ならこの場から逃げ出したい。

 しかし、証にとってしまった態度。

 そして、証にあんな事を言わせてしまったことは謝らなければならない。

 ゆうきは、精一杯考えて今日の謝罪に辿り着いたのだ。

 今にも泣きそうなゆうきを見て涼音は、隣の証に耳打ちする。

 「(早くなんとか言いなさいよ。でないとあんた、これから年下の先輩にメイド服着せて謝らせた変態坊主って呼ばれることになるわよ、私に)」

 「君にかよ!!」

 証は、コホンと咳払いをして、一旦深呼吸する。

 「いや、その、そこまで僕は気にしてないから、大丈夫だよ」

 証の返答にゆうきは安堵した表情を浮かべる。

 「本当か!?」

 「うん」

 「良かったな。ゆうき。メイド服まで着たかいがあったな」

 「はい!」

 ひいらぎの労いにゆうきは、大きく頷く。

 昨日違えそうになった仲はなんとか元通りとなった。

 覚悟には覚悟を持って応える。

 証の行動は最悪の形で収まることはなかったのだ。

 (うーん………マジであたしなんでここにいるんだろ)

 完全に巻き込まれた涼音。

 まあそれでも険悪になるところをみるより、仲直りをするところを見た方がいい。

 だが、ことの経緯をほぼ知らない涼音としては当然の疑問が残る。

 「ところで、先輩、こいつは何をしたんですか?証の話によれば、隠し事を暴いたって聞きましたけど」

 「あぁ、私の手袋を取ったんだ」

 ゆうきは、黒い手袋をはめた右手を振る。

 「…………………先輩、その手袋の下ってどうなってるんですか?」

 「人に見せるのは(はば)かられる怪我の痕と痣がある」

 涼音は証にゴミを見る目を向けそうになるが、何とかこらえる。

 「………い、いや、手袋の下を知らなかったという可能性も」

 「いや、予想ぐらいついてたよ」

 ゴミを通り越して肥溜めを見る目を証に向けた。

 そう証は言っていたではないか、『地雷だと分かっていた上で踏み込んだ』と。

 「ちょっと、何そのめええええええええ!!」

 最後まで言い切る前に涼音は証の頭に拳骨を落とした。

 そしてそのまま痛そうに頭を抱える証の頭をつかみ無理矢理下げさせる。

 「先輩、ホント、マジでごめんなさい」

 「い、いや、別に私は謝ってもらわなくても………」

 突然目の前で繰り広げられた光景にゆうきは、戸惑いながら頷いた。

 「いやいやいや、このいたずら坊主、自分も悪いクセに先輩にだけ謝らせようとしたんですよ」

 「涼音は知らないかもしれないけど、僕、ゆうき先輩に飲み物おごってあげたんだよ?」

 「二百円もしないものでチャラになるわけないでしょ」

 涼音のもっともな一言に証は目を反らす。

 おろおろするゆうきと迷惑そうでそれでいて少し後ろめたさが見え隠れする証。

 涼音としては、証を謝らせたい。それでやっとチャラになるというのが涼音の思いだ。

 だが、当事者である二人はこのやりとりで満足している。

 二人の間で決着がついているのなら涼音がこれ以上色々いう筋合いはない。

 納得はいかないが、証に拳骨を落としたあたりが涼音としての落としどころだ。

 「はあ………これ以上あたしから言うのは、野暮ですね」

 涼音は、そういうと証の頭から手を離した。

 二人の謝罪が済んだところで、ひいらぎが証に尋ねる。

 「ところで、証、今日は何をするつもりだったんだ?」

 「ん?ああ、今日は、先輩のお父さんを調べに図書館に行こうと思ってたんですよ」

 ひいらぎの質問に証は、頭を撫でながら答えると隣の涼音に顔を向ける。

 「そうだ。涼音、せっかくだし手伝ってよ」

 「あんた、あたしの話聞いてないでしょ」

 部活がないので帰りたいと言っていた涼音。

 そんな彼女を平気で誘う証に涼音は、心底嫌そうな顔をする。

 「だいたい、あんたが先輩に出された宿題でしょ?あんたでどうにかしなさいよ」

 涼音の発言にゆうきは、首を傾げる。

 「私が出した宿題?何のことだ?」

 ゆうきの反応に涼音は、目をパチクリさせる。

 「え?証が余計な入部テストしたからそれに怒った先輩に名前の由来を当てるという問題を出されたんですよね?」

 「いや、違うぞ。死んだ両親がつけた私の名前の由来を探して欲しいと言う依頼を証にしたんだ」

 「厳密に言うと吾輩がしたんだがな」

 証の説明とは微妙に違う答え。

 涼音はじとっとした目を証に向ける。

 「仕方ないでしょ?依頼人の秘密なんだから」

 確かに依頼人の秘密を守る事は最も優先すべき事だ。

 そもそも、涼音が変な勘違いをしたから証は、あんな説明をせざるを得なかったのだ。

 「……………………分かったわ。手伝うわよ」

 「そうこなくっちゃ!!」

 大きくため息を吐いて了承する涼音に証は、パチンと指を鳴らして笑った。





涼音の心労はまだもう少し(?)続きます

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