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魔女っていうな!  作者: 舳里 鶏
第一章 ハンバーグ
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「いや、ムカついたから」

 「お、良かった。やっぱり、待ってて正解だったね」

 検査を終え病院から出たゆうきの前には、スポーツドリンクを持った証が佇んでいた。

 「……………何の用だ」

 「別に。先輩の検査結果が気になっただけだよ。因みに僕は平気。至って健康」

 「私も平気だ」

 「そう、良かった」

 証は安堵したように言うとスポーツドリンクをゆうきに投げてよこした。

 ゆうきは、取り損ない地面に落とした。

 「どんくさいなぁ………」

 「うるさい。物を投げるな。ちゃんと渡せ」

 「奢ったげたのに」

 「頼んでない」

 「じゃあ、お金ちょうだい」

 ゆうきは、ムッとした顔で財布から二百円を取り出して証に握らせた。

 「おつりはやる。じゃあ、これで」

 「待ってよ」

 証は、帰ろうとするゆうきを引き止める。






 「『アレだけのこと』って何?」






 先程、ゆうきの顔色が明らかに変わった言葉の意味を証は尋ねた。






 通り過ぎようとした足が止まり、証を見る。

 「何で、証に話さなくちゃいけないんだ」

 「何でって………」

 「悪いがその話は、するつもりはない」

 「………………は?」

 「特に証みたいにデリカシーがない奴には話さない」

 取り付く島もないほど、ピシャリと言い放つゆうきに証は、思い切りデコピンを放った。

 思わぬ衝撃にゆうきは、でこを抑えてしゃがみ込み、涙目になりながら証を睨みつける。

 「何をするんだ!!」

 「デコピン。知らないの?」

 「そんなことは知っている!!何で突然するんだ!!」

 「いや、ムカついたから」

 「今時、小学生だってそんな理由で殴らないぞ!!」

 証の理不尽な物言いにゆうきは、たまらず言い返した。

 そんなゆうきなどどこ吹く風という感じで証は続ける。

 「こっちだってね、好きでデリカシーのない発言してるんじゃないんだよ」

 「分かっている。馴れ馴れしい上に図々しいからそう見えるだけだよな」

 「コイツ………デコピンじゃなくて殴っときゃ良かった」

 証は、忌々しそうに舌打ちをしてから続ける。

 「あのね、先輩と話すと一々地雷を踏むことになるから、先にそう言うことがないようにしたいっていう、僕なりの配慮なんだよ」

 「じ、地雷だと?」

 予想外の発言に思わずたじろぐゆうきに証は、頷いて話を続ける。

 「根暗で話が苦手な先輩とやっと会話が出来たと思ったら何気ない言葉でいちいち傷ついた顔するんだもの。今後は、そう言うことがないようにしたいんだよ」

 「色々言いたい事はあるがまず、根暗って言うな」

 「じゃあ、陰キャで」

 「悪化してるじゃないか!!」

 「別に悪化はしてない。同じ意味ってだけだ」

 「そうなんだ良かったとはなりませんからね!ひいらぎ様!!」

 ゆうきは、頭の上にいるひいらぎを睨みつけ、証を真っ直ぐ見据える。

 「私は証と仲良く会話をする必要性を感じていない。だから、私が証に話すことはない」

 「部活の仲間と仲良く会話する必要がないわけないでしょ。このコミュ障根暗隠キャ」

 「おい、全部乗せの欲張りセットにするな!!」

 言い返す語気が強いところを見るとゆうき自身自覚があるようだ。

 まあ、自覚がなかったら問題があるレベルではあるのだが。

 ゆうきは、もう一度拒否をしようとして再び、証に向き直って息を呑んだ。

 色々言っておきながら興味本位で聞いていると言う表情は一切ない。余計な一言が腐るほどあったせいで分かりづらいが、証は、純粋にゆうきを理解しようとしているのだ。

 (………クソ!)

 そんな証の目を見ていられず俯くゆうきの目を魔女帽子のツバが隠す。

 「…………………私は、五行陰陽の術は使えない、そう言ったな」

 ゆうきは、ポツリポツリと語り出した。

 「でも、そんな私にも一つだけ使える術があるんだ」

 自分の手の平を見つめぎゅっと握りなおす。

 「私は、人間に対して身体強化の術をかけることができる」

 証は、ゆうきの言葉に首を傾げる。

 「身体強化?なんか陰陽師にそう言うイメージないんだけど………」

 「陰陽師でも武闘派の連中はいるからな。そう言う連中にとってはありがたい存在だ」

 ひいらぎの回答に証は、更に首を傾げる。需要のある存在ならゆうきには、もう少し自信があるはずだ。そんな風に思っている証を察してゆうきは、静かに首を振る。

 「私の身体強化は強力すぎて人間では耐えられないんだ」

 「耐えられない………?」

 静かに頷くゆうき。

 「私の身体強化を受けた人間は、その強化に身体が耐えられず大怪我を負うことになる」

 しかも、と言葉を続ける。

 「調整が出来ない。ゼロか百かしかない」

 ゆうきの告白に証は、息を呑む。証の息の音を聞き、ゆうきの声が震える。

 「あぁ。証の想像通りだ。妖怪と戦っている時、私は一緒にいた陰陽師にデメリットを知っていながら術をかけた」

 人間では耐えられない強化の術を受けた人間の末路。

 「私のせいで、その陰陽師は、右腕に大怪我を負った……………」

 ゆうきは、唇を噛みながら続ける。

 「そりゃあ、陰陽師なんだから怪我もする。場合によっては命を落とすことだってある。でも、それは、少なくとも………味方に、仲間にされることじゃない」

 本来傷付けられるべき存在ではない、味方、ゆうきに怪我を負わさせられた陰陽師。

 「じゃあ、先輩がこの学校に来た理由って………」

 「そんな事をした私は、あの場にいられなくなった。だから、陰陽師養成所を出て、普通校に転入した」

 もちろん、賠償金も払ったと最後に付け加えた。

 「…………さて、聞きたいことは全部か?私は帰るぞ」

 「まあまあ、待ってよ先輩」

 証は、そう言って右手を差し出す。

 「何だこれは?」

 「握手。話してくれてありがとうってことも込めてさ」

 証からの唐突な握手の申し出にゆうきは少しだけ戸惑った後、黒い手袋をつけた右手を差し出した。

 証は、にっこり笑って頷いた後、目にも止まらぬ速さでその手袋を取った。

 「─────!!」

 「あぁ、やっぱり、そう言うことだよね」

 手袋の下から出てきたゆうきの右手は、思わず目を背けたくなるような、傷とアザで覆われていた。証も覚悟をしていなければ、目を背けていただろう。

 このまま喋らせればゆうきは、間違いなく、拒絶の言葉を吐きそのまま戻ってこない。

 それが分からぬ証ではない。

 「先輩、今の話、嘘はないけど全部話したわけじゃないでしょ?」

 だったら、喋らせない。それより先に言いたい事を全部言う。

 「一つ教えてよ。人にかけなきゃ分からない身体強化のデメリットを先輩は、どうして知ってるの?」

 「…………それは」

 「先輩は、五行陰陽の術を使えない。そして、ひいらぎ様の話によれば陰陽師の中には武闘派もいる。その話を総合すれば、自ずと答えは見えて来る」

 手袋を持ちながら指を差す。指の先は、ゆうきの右手だ。





 「その術の第一被験者は、先輩でしょ」





 指を差された右手を握り締めながらゆうきは、目を逸らした。

 「その反応は、当たりかな?」

 にぃっと口角あげる証とは対照的にゆうきの顔は強張ったままだ。

 そう五行陰陽の術が使えないゆうきは体術に賭けた。

 そして、体術を強化できる術を試したのだ。

 結果は、ゆうきがわざわざ語らなくても今白日の下に晒されている傷だらけの右手が雄弁に語っている。

 「アレ?先輩怒ってる?」

 「喜んでいるように見えるなら眼科に行ってこい」

 怒気というより殺気に近いものを発するゆうきに対し証は、一歩も引かない。

 「何故こんな事をした?普通、ここまでしたら縁を切られたって文句は言えないぞ」

 「でも、ここまでしないと先輩、どうせ料理部に居づらくなってしまうでしょう?」

 証の返答にゆうきは、再び言葉に詰まってしまう。

 自分が怪我をさせたと言うのにその場から背を向けたと言う事実を人に知られるというのは、ゆうきにとって重くのしかかっている。

 そんな状態の関係などゆうきにとっては針の筵でしかない。

 「先輩は、自分の術のデメリットを分かっていたのに人にかけた。それは、相手に自分なら大丈夫だから掛けろとか言われたんじゃないの?」

 そんなゆうきに証は、更に畳み掛ける。

 「でも、先輩はそれを僕に説明しなかった。何でだと思う?ひいらぎ様?」

 ゆうきに聞かず証は、ゆうきの手に収まっているひいらぎに尋ねた。

 「言い訳のように聞こえるからだろ?客観的に見て怪我の原因はゆうきだ。そこへの経緯を説明すればするほどドツボにハマる。特に言っている本人が一番そう聞こえる」

 証は、パチパチと手を叩く。

 正しいはずだが、言い訳にしか聞こえない説明程苦しいものはない。

 もともと人と接するのが苦手なゆうきにとってはとても耐えられるものではないのだ。

 「特に赤の他人より少し親しい程度の人間に話してれば余計そう思っちゃうよね」

 言葉が続かないゆうきに証は、更に続ける。

 「ま、そんなわけだから、今回、僕はここまでリスク背負って先輩に聞いたってわけ」

 最後まで言い切ると証は、ゆうきに先程奪った手袋を手渡した。

 「それとこれも」

 更に証は、二百円握らせた。

 「これは………」

 自分の元に戻ってきた二百円に戸惑うゆうきに証は、ウィンクをする。

 「お詫びとお礼ってこと」

 そう言って証は、ゆうきに背中を向けて歩き出す。

 「そんじゃあ、また明日ね~」

 手を振りながら病院を後にする証をゆうきは、ただ見送ることしか出来なかった。

 「赤の他人よりは親しい程度の人間、か………」

 大怪我をさせたことを話したことより、自分と証との関係をそう言葉にされたことがゆうきにとってショックだった。

 「『仲良く会話をする必要を感じない』みたいなこと言われれば誰でもそう思うだろ」

 「…………そう思ってるのに普通あんなことしますか?」

 ゆうきの問いにひいらぎは杖から猫に変わると肩に乗る。

 「……………想像でしかないが、いつの間にか消えられるより、自分が原因でしっかり別れられた方がいいと思ったんだろ」

 証は向き合った。傷つくことも傷つけることも覚悟したうえで踏み込んだ。

 だが、ゆうきはどうだ。

 そこまで覚悟した者に取った行動は果たして正しかっただろうか?

 







 今、証に渡された二百円を見ながら立ち尽くすことしか出来ないのが、きっと答えだ。




最近、温度が一定しません。私はいつになったら、冷房を使えるんだ!!

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