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魔女っていうな!  作者: 舳里 鶏
第一章 ハンバーグ
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「僕の目の前にいるんだけど!先輩、番号いくつ?」

 「ゆうき!」

 「はい!」

 ゆうきは、返事と共に帽子のつばを少しだけ上にあげる。

 すると、帽子の中から札が数枚現れゆうきの右手に収まった。

 「うえ?何それ?どうなってんの?」

 「うるさい!後で説明してやる!」

 ゆうきはそのうちの一枚を妖怪に向かって投げる。

 札は、空中で止まり、妖怪を弾き飛ばした。ゆうきはその隙にもう一枚結界を張る。

 「結界を張った!証!!逃げるぞ!!」

 「え?あ、うん!!少年走れ……ないね!僕の背中に!!」

 証は、そういって、少年を背負って走り出した。

 「ゆうき、念のためもう一枚張っておけ」

 ひいらぎはいつの間にか猫の姿になるとゆうきの肩でそう指示を出した。

 ゆうきは、頷くと再度札を投げ結界を張り、証の後を追いかける。

 「証!警察か陰陽師に電話しろ」

 証に追いついたゆうきがそう指示をする。

 「僕の目の前にいるんだけど!先輩、番号いくつ?」

 「ふざけてる場合か!!」

 「大真面目ですぅー!!先輩、陰陽師見習いなんでしょ!?どうにか出来ないの!?」

 証の返答にゆうきは、顔を曇らせる。

 「……………ないんだ」

 「へ?」

 「出来ないんだ…………私に妖怪倒す力がないんだ」

 ゆうきは、唇を噛み締めながらそう続ける。

 「陰陽師は、通常陰陽五行を用いて妖怪と戦う。だが、私は陰陽五行のどれも満足に使うことが出来ない………母の才能を受け継げなかった私には、何とか呪符や法具を使って時間を稼ぐのが精一杯なんだ………」

 証は、足を動かしながらゆうきの言葉に耳を傾ける。

 「………いやでも結界張れてるじゃん」

 「ゆうきが使うものは、力を込めれば発動するものだけだ」

 「つまり?」

 「懐中電灯に電池を入れれば光るというのが分かりやすいかな?」

 ひいらぎの解説に証はようやく納得がいった。懐中電灯は光ることは出来るが、それ以外のことは出来ない。ゆうきもそれぞれの機能が備わったものしか使えないのだ。

 「っ!!結界破られた!」

 「え?わかるの?」

 「自分の張った結界の状態ぐらいはな」

 ゆうきの言葉を裏付けるように地鳴りが響く。

 「分かったら証は、陰陽師か警察に連絡入れろ!私は結界を張るので精一杯だ!!」

 ゆうきは、再び札を投げ結界を張る。

 「と言われても僕、両手塞がってるし…………少年、スマホか携帯ある?」

 「あるけど、ランドセルの中………」

 走りながら取るのは不可能だ。

 「どうする?人通りの多い方に逃げて紛れ込む?」

 「いや、人間の不審者相手ならそれでもいいが、今回は妖怪だ。人が多かろうと少なかろうと追ってくるぞ」

 「妖怪って言ったって理性のあるタイプなら………」

 「あるように見えたか?」

 「あんまり」

 闘牛の方が大人しく見えるレベルだった。

 「というか、少年はどうして妖怪に追われてたの?」

 「とくに何も………目があったら追いかけてきたんだよ」

 「今後のために言っておくが、そういうものとは目を合わせないようにしろ。目が合うというのはそれだけでスイッチになるからな」

 「少年へのアドバイスありがたいんだけど、今の状態に対して僕にもアドバイスない?」

 「とはいわれても………」

 ゆうきは少し考え込んだ後、口を開く。

 「そうだ!神社だ!神社に逃げ込むぞ!」

 「神社?なんで?」

 「私の力は神道の流れを汲んでいるから、神社の中だと私の結界も少し強くなる」

 「おお!!すごくそれっぽいこと言ってる。じゃあ。今度巫女服着てよ」

 「何が『じゃあ』だ!」

 「巫女服よりもメイド服の方がいいのではないか」

 「ひいらぎ様も悪ノリしないでください!」

 ひいらぎと証の悪ふざけにゆうきがブチ切れる。

 「ああ、もう!んな下らないこと言ってないで、神社の場所を教えろ!!私は、転校したばっかであまりここの地理に詳しくない!!」

 「因みに神社ってどの程度のもの?神主さんとかいないとだめ?」

 「いや、そこまでは求めない。鳥居と社、贅沢をいうならご神体もあるといい」

 ゆうきから出された条件を頭にいれながらしばらく考えた後、証は頷いた。

 「ある!ちょっと距離があるけど、魔女先輩走れる?」

 「安心しろ。スポーツは苦手だが陰陽師の訓練で鍛えられた体力がある」

 「よっしゃ!」

 小学生を背負ったまま証はそういうと更に足を動かした。



◇◇◇◇◇


 「なんとか逃げ込めたけど………」

 三人とひいらぎは証の案内で神社に逃げ込めた。

 ゆうきは肩で息をしながら札を神社の鳥居に向かって投げる。

 札は宙で止まり結界を張った。

 「先輩、そこだけでいいの?妖怪が鳥居だけから入るとは限らないんじゃない?」

 「鳥居というのは入口だ。そこ抑えれば神社全体に効果が及ぶ。下手にあっちこっちに結界を張るよりも効率がいいんだ」

 「へえ、そうなんだ」

 「ついでにいうなら、認識阻害効果もあるんだ」

 「まあ、あまり長時間の効果は期待できないがな」

 自身の肩から下される辛辣な評価にゆうきは、舌打ちを交えつつため息を吐く。

 「…………そういうわけだから、とっとと電話しろ」

 「はいはい」

 証はそう言って陰陽師の緊急連絡先を調べ、そこに電話する。

 まさにその真っ只中に妖怪がゆうきたちの前に現れた。

 少年は思わず声を上げそうになるが慌てて口をふさいで飲み込む。

 ゆうきは、鳥居の外にいる妖怪から目を反らさない。

 ここにいることがバレるのも時間の問題。いや、少し希望的観測が入りすぎている。

 (もって二分………)

 その時間は、バレるまでの時間ではない。

 妖怪が気付いてから、ゆうきの結界を破るまでの時間だ。

(頼む!気づくな気づくな気づくな)

 自分の力を誰よりも理解しているゆうきは神社でひたすら神に祈り続けるしかなかった。

 


 だが、願いや祈りというのは、得てして叶わないものだ。



 鳥居の中に先ほどの人間たちがいることに妖怪は気づいた。


 

 猛然と結界に向かって体当たりをはじめた。

 「くっそ!!」

 ゆうきは、さらに札を鳥居に投げつける。結界は二重三重と張られていく。

 「証!!陰陽師は、あと何分で来るんだ?」

 「三分だって」

 「一分で来てもらえ!!」

 「いや無理でしょ!」

 「それが無理ならな、私たちは今ここで死ぬんだよ!」

 喋っている間に結界は、一つずつ破られていく。

 そして、そこからすぐ、最後の結界が破られ、妖怪が神社に入ってきた。

 妖怪は、拳を振りかぶり、ゆうき達に向かって振り下ろした。

 証は、慌ててゆうきと少年を抱えて転がる。三人のいた場所は、大きくひび割れていた。

 その惨状に証の頬を冷や汗が流れ落ちる。

 「分かったろ!!三分なんて持たないんだ!」

 「んなこと言ったって、来れないもんは来れないでしょ!」

 「じゃあ、どうするんだ!!」

 「僕に当たらないでよ!!えーっと、そうだ!ひいらぎ様は、何か出来ないの!?付喪神なんでしょ?」

 「歌って踊れる」

 「よっしゃあ!忘れないでね!ここから逃げ延びたらフラメンコ見せてもらうから!」

 「ってのは冗談だ。『変化』」

 ひいらぎはその言葉と共にいつもの杖の姿ではなく紙垂の垂れた祓串へと変化した。

 「へぁ!?」

 その光景に証は目を丸くした。

 「かしこみかしこみもうす!!」

 ゆうきの祝詞と共に姿を変えたひいらぎの紙垂が淡く光り出した。

 「祓いたまえ清めたまえ!」

 そして、ゆうきはせまる妖怪の拳に祓串をぶつけ弾き飛ばした。

 思わぬ反撃に態勢を崩す妖怪。

 その隙を逃さずゆうきは再び札を使って結界を張る。

 再び弾かれた妖怪は、忌々しそうに目の前の結果を殴り続ける。

 「先輩!すごいじゃん!その調子ならどうにかできるんじゃない?」

 「私一人なら三分はギリギリでどうにかなる可能性はあるが、二人がいる状態は絶対無理だ」

 もともと、力量のないゆうきにとって誰かを庇いながら戦うというのが、かなり厳しいのだ。

 「~~~~~~先輩!!他になんかないの?」

 「妖怪の力、妖力を徐々に削る札ならある」

 「じゃあ、それ使おう!!」

 「だが、私の場合、才能がなさ過ぎて、削るまで時間が凄くかかる」

 「具体的にどれくらい?」

 「三十分ぐらい」

 「却下!!時間無いって言ったの先輩でしょ!!」

 「証が他にないか聞いたんじゃないか!!」

 目の前に迫る危機に対し、言い争いをする証とゆうき。

 (ああ、もう!奥の手使うしかないか……)

 証が覚悟を決めた時、牛の妖怪に殴られている結界が目に留まった。

 「先輩!それ、使って囲めない!?」

 現状、ゆうきの張っている結界は、目の前に壁を用意しているに過ぎない。

 証は、それを使って妖怪を閉じ込められないかと言っている。

 「…………出来なくはないが……」

 「なんか言いづらそうだね、どうしたの?」

 「やったことないから上手くいくか分からない」

 「……それはね、出来ないと言うんだよ」

 証からゆうきは目をそらして札を構える。目の前の結界は、そろそろ限界だ。

 「ぐだぐだ言ってても仕方ない!ゆうき、証の案でいけ!」

 ひいらぎの言葉に後押しされるようにゆうきは覚悟を決める。

 「いや、出来るの?」

 自分で言っておきながら不安そうな証にゆうきは、大きく息を吸う。

 「出来る出来ないの話はこの際どうでもいい。大事なのは、」

 「やるかやらないかってこと?」

 「やらなきゃ死ぬってことだ」

 ゆうきはそう言って四枚の札を放った。

 札は、妖怪の四方を囲う。その瞬間目の前の結界が壊れた。

 妖怪は、札で囲われたところから出ようとする。

 「出て…………くんな!!」

 証は、その鼻っ柱を思い切り殴りつけた。妖怪は、思わぬ衝撃に仰け反る。

 「助かった、ありがとう証!!」

 ゆうきは、両手を叩きつける。パァンと柏手を思わせる音が鳴り響く。

 「かしこみかしこみ申す!!」

 ゆうきが唱えると妖怪の足元から、十字の展開図が現れる。

 そして、それは、箱を形作るように妖怪を囲った。

 「って、先輩!!上上!!何にもないよ!!出てきちゃう!!」

 「うるさい!!集中してるんだから、静かにしろ!!」

 証を怒鳴りつけると合わせていた両手を組む。

 「(カン)!!」

 蓋をするように天板が落ちてきて妖怪を閉じ込めた。

 「よっしゃあ!!流石!!」

 証が手を叩いて喜んでいる横でゆうきは、歯を食いしばりながら、必死に結界の中で暴れ回る妖怪を押さえ込んでいた。

 今まで貼っていたのは結界の一部、壁のようなものだ。

 それを今回、理論だけで作り上げた。神社の中で無ければとっくに崩壊している。その脆さを示しているかのように牛の妖怪が暴れる度に結界の檻にヒビが入る。

 (私に才能はない。それでも……)

 ゆうきの側には証と少年。

 (陰陽師が来るまで必ず持たせてみせる!)

 「くおぉおお!!」

 ゆうきは歯を食いしばって耐える。神社でなければとうに崩れていてもおかしくない。

 「おい、証、後何分だ?」

 「後、一分切ってる!いけるよ!先輩」








 「その必要はない」









 突然聞こえた声に振り返る証の横を人影が通りすぎた。

 理解が追いつかない三人に構わず、人影、陰陽師達は、ゆうきが拘束している結界ごと妖怪を叩きのめした。

 結界と共にチリとなって消えていく妖怪。

 それを見て三人は、腰が抜けたように地面に座り込んだ。

 「た、助かった〜」

 証は、大きく息を吐き出す。

 「お待たせして申し訳ありませんでした」

 陰陽師の一人が証達に近づきながら頭を下げる。証は、スマホの時間を確認する。

 (三分たってない………!流石)

 「怪我などはありませんか?」

 「私はないです。それより証は?さっき思い切り殴ってただろ」

 「僕も大丈夫だよ。あ、少年は?」

 「ぼくも大丈夫」

 そんな三人を見て陰陽師は、少し驚いた表情をした後安堵のため息をつく。

 「それじゃあ、救急車が来るまでの間話を聞かせてもらうから」

 「え?救急車?僕ら大丈夫なんだけど」

 「妖怪の中には呪いをかけるような奴がいるからな。一度、病院でちゃんと見てもらう必要があるんだ」

 ゆうきの説明に証はそんなもんかと納得すると、自分の後ろにいる少年に話しかける。

 「とりあえず、少年は親御さんに連絡しなよ」

 「わ、わかった」

 少年は、少し離れて電話をかけた。

 「じゃあ、まずはあなたから」

 そう言って陰陽師はゆうきを指名した。

 「じゃあ、名前は?」

 「えっと陽…………」

 「あれ?陽川じゃん!!」

 名乗るより先にゆうきに気づいたもう一人の陰陽師が駆け寄ってきた。

 ゆうきは、目を丸くした後、ふっと視線を逸らす。

 陽川という言葉に目の前で調書をとっていた陰陽師の手が止まった。

 「陽川………?もしかして、陽川ゆうき?」

 「…………はい」

 そう答えたゆうきの声は今にも消え入りそうだった。

 そんなゆうきのことなど構わず、ゆうきと歳の近そうな男の陰陽師が側に行く。

 「お前、今、何してんの?」

 「す、鈴蝶高校に通ってる」

 「鈴蝶って、普通校だよな?………まあアレだけのことをしちまえば仕方ねーか」

 その言葉が出た瞬間、ゆうきの顔が強張った。そんなゆうきを見て証は、眉を顰める。

 「おい。お前には、守秘義務という概念はないのか?」

 ゆうきの肩で祓串から猫の姿になったひいらぎの言葉が陰陽師に降ってきた。

 その言い方に明らかに不機嫌な顔になるが、直ぐに調書をとっていた陰陽師が止めた。

 「今のはお前が悪い。いいから、あの牛の妖怪の後始末をしろ」

 歳の近い陰陽師は、渋々牛の妖怪の方へと歩いて行った。

 「悪かったね。それじゃあ、続けるよ」

 そう言われたゆうきは、今すぐにでもこの場から逃げ出したいのを必死に堪えながら質問に答えていった。

 それから救急車が来るまでゆうきは、一切証の方を見なかった。




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