「失礼な奴だ」
部屋の片づけをしていました。
部屋の隅にあった古いジャンプ読んでたら全然進みませんでした。
…………なんでよりによって、鬼滅の最終決戦が載ってるジャンプがあるんだよ………
その日の放課後。
涼音は、ゆうきの前で演奏できなかったきらきら星の譜面を睨みつけていた。
けしてそこまで難しい曲ではない。
だが、今のスランプのせいでこんな曲も吹けないというのは、一抹の不安とそして自身の実力へ不満がある。
これからコンクールもあるというのにこのていたらくだ。
「はあ…………」
「大きなため息だな」
声のした方を向くとゆうきが音楽室いた。
「何しに来たんですか?」
おにぎりをもって音楽室にきたゆうきに涼音は困惑しながら訪ねる。
因みに涼音はジャージに身を包んでいた。
「学校の周りを走っているのが見えたから、おにぎりの出番かなと思って」
「凄い。マネージャーの鑑ですね」
最高の誉め言葉だが、惜しむらくはゆうきが吹奏楽部のマネージャーではないことだろう。
「というかそのおにぎりどうしたんですか?」
「料理部で私が作った」
「…………そうですか」
困惑する涼音にゆうきは無言で、おにぎりを差し出す。食えということなのだろう。運動した後におにぎりを食べるのは理にかなっている。問題は、ゆうきの料理の腕が信用できないことだ。
「他の部員はどうしたんだ?」
「今は、みんな空き教室で練習中です」
とはいえ流石に食べないのは申し訳ない。涼音はゆうきの持ってきたタッパーに入ったおにぎりを一つ取り出すとラップをはがし頬張る。
「おお。普通のおにぎりですね」
「誉め言葉に使う表現じゃないな」
ゆうきは不服そうに残ったおにぎりに噛り付く。
「今度は何か具と一緒ににぎるといいんじゃないんですか?」
そう、今回もその前も延々と塩むすびを握っていたのだ。
ゆうきの塩むすびを頬張りながら涼音はふと思ったことを口にする。
「そう言えば証はどうしたんですか?」
「ぬらりひょんが今度こそパフェ食べたいと騒ぐから喫茶店に連れて行った」
「なんやかんやでよく一緒にいますね、何で?」
「まあ、こっちにもいろいろあるんだ」
流石にぬらりひょんの護衛をしているとは言えないため、そう答えざるを得ない。
ゆうきのその歯に物が挟まったようなものいいに対して、涼音は深く追求せずおにぎりをもう一口頬張った。
「というか、涼音。なんで走ってたんだ?演奏は?」
「今日はランニングの日なんです」
「そんな運動部みたいな………」
「走る文化部ですから」
吹奏楽部の別名。文化部とは思えない体力を必要とするため普通にトレーニングをするため、こう言われる。
ゆうきもタッパーにあるおにぎりを食べる。
「結構上手く出来たな」
「普通は下手にできませんよ」
苦笑いをしながら涼音は間髪入れずに言い返す。そんな涼音の言葉にゆうきはバツが悪そうに目を反らす。
涼音は目の前のおにぎりを見つめながら、一つの推測を口にする。
「予想ですけど、先輩、証にあたしが上手く吹けないこと話していないでしょ?」
「涼音が証に………友達に、話していないことを私がべらべら話すわけがないだろ」
ゆうきは残りのおにぎりをパクリと頬張り、数回咀嚼して飲み込んだ。
「行き詰まった時は、一人にならない方がいい」
そう言ったゆうきを涼音はポカンとした顔で見ている。
「なんだ、その顔は」
「……………もしかして、心配してますか?」
「なんだ、もしかしてって…………結構分かりやすく心配してるだろ」
「いや、全然。例えるなら猫だかトラだか分からない生物が出てくる田舎で傘を突き出してくる少年レベルでした」
「………え?あれと同レベル?」
地味にショックを受けるゆうきに涼音は思わず吹きだした。
「…………今の笑うところか?」
「いや、失礼失礼、申し訳なかったです。くくく」
そう言いつつも笑いがこらえられない涼音。そんな涼音にゆうきは不満そうに頬を膨らませた後、諦めたようにため息を吐く。
それと同時にカーテンが風に揺れた。
まだギリギリ心地よいと思える温度の風が音楽室を吹き抜ける。
「まあいい。笑えるなら笑っておいた方がいいしな」
「そうですね。最近の分の負債を今払った気分でした」
いつものように吹けるようになったわけではない。それでも少しだけ心の鉛が少しだけ減った気分だ。
「陽川先輩」
「なんだ?」
「今度は、梅干しのおにぎり持って来てくださいよ」
涼音からの料理のリクエストにゆうきは何を言われたか分からなかったが、すぐに理解をして頷いた。
「ああ。任せろ」
「言いましたね」
「男に二言はない」
「うーん………微妙な説得力」
「失礼な奴だ」
ゆうきは黒髪の長髪を触りながら舌打ちをした。
◇◇◇◇◇
「おい、この写真の奴ら分かったか?」
「はい」
そう言って黒服の男が涼音達の写真を清志と兜太を見せる。
「鈴蝶高校の生徒です。後言われた通り、通学ルートもある程度絞れています」
更に地図を渡され二人は目を通す。
「しかし、何故こいつらなんだ?こんな胸倉をつかむような奴じゃなくてぬらりひょんと一緒に飯を食ってるこの女どものじゃなくていいのか?」
「ぬらりひょんはただ飯を食う妖怪だぞ。そいつらとだって仲がいいから飯を食っていたわけじゃない。むしろ、ぬらりひょんのこの妖術が効かなかったこいつらの方がいい」
清志の質問に?はそう返す。
「しかし、そのこいつらを調べてどうするんですか?」
黒服の男の一人が尋ねると清志は手を組んで真っすぐ見据える。
「さらってこい」
淡々と指示を出した。
「え?一般人ですよ」
「だからだよ。こいつは、ぬらりひょんの妖術が効かない程度にはぬらりひょんに何らかの思いを抱いている。そして、そんな相手を無視できるような奴じゃない」
交渉の材料として使うつもりだ。
兜太はそう言うと歩を清志の陣に裏返して打つ。
「さあ、ここからだぞ。しくるなよてめーら」
ついに始まる大勝負。
突き付けられた現状に先ほどまで尻込みしていた気持ちが嘘のように消えた。
本当だったら雄たけびを上げたいぐらいだ。
だが、居場所が割れては元も子もない。
ぐっとこらえ今まで一番の返事で答え、建物から出ると真っすぐ鈴蝶高校の近辺に向かった。
「…………いた」
そこには写真の通りの姿をした鈴蝶生が歩いてた。男は後を付けた。
◇◇◇◇
部活が終わった涼音は、帰りのファーストフード店でコーヒーだけ注文し、席まで持っていく。
家に帰ると集中が切れてしまうので帰りにこういう店によって勉強している。
いつもなら、ハンバーガーを注文しているのだが、今日はゆうきの作ったおにぎりを食べていたのでそこまでおなかが空いていない。そのためコーヒーだけで粘る予定だ。
(まあ、居れて一時間かな………)
証なら平気で二時間ぐらいいるだろうが、幸いなことに涼音はそこまで人の目を無視できない。まあ、この後はカラオケボックスでトランペットの練習をする予定のため、一時間が限度でもある。
問題集を広げ今日の宿題を始めた時、涼音の前に男が座った。その突然現れた男に涼音は戸惑いながら眉を顰める。
「えっと………」
声を上げるか迷う場面だ。
「まあ、待って。君は赤穂涼音さんだね?」
男は涼音が次の行動を起こす前に先に尋ねる。フルネームを言われ更に涼音は硬直する。
いいえと答えたいが、その前に起こした反応が、相手の男の質問が正しいと言っていた。今更否定しても無駄だ。
涼音は渋々頷いて答える。
「ぬらりひょんは知ってる?」
「ええ。まあ」
「そのぬらりひょんが今危ない」
男の口から思わぬ言葉が飛び出した。涼音は目の前に広げた問題集を閉じてカバンにしまう。
「どういうことですか?」
「ぬらりひょんは今、能力持ちに狙われている。このままでは命も危ない」
初夏だというのに嫌な汗が涼音の背中を伝う。
「あ、あなたはどこで、それを聞いたんですか?」
「あの護衛の子、証君から聞いた」
(なるほど、あいつ最近ぬらりひょんと距離が近いのはそういう事か)
今までの証とぬらりひょんの距離感の謎がようやく解けた。
「えーっと………ちょっとトイレに行ってきてもいいですか」
涼音はそう尋ねながら時計をみる。
「ああ構わないぞ」
「ありがとうございます」
そう断ってから涼音は少し迷った後、カバンを抱え、ケースに入ったトランペットを持って備え付けの女子トイレに向かっていく。
「そんなデカイ荷物置いて行きなよ」
「大事な相棒なんです。目を離すわけにはいかないんです」
男の言葉にそう返答をすると女子トイレの個室にこもった。
(やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい)
個室のトイレの中で涼音は頭を抱えていた。
(あいつ、何で証がぬらりひょんの護衛をやっていること知っているの?だって……)
ゆうきの名前の由来を調べた日々が脳裏をよぎる。
(あのいたずら坊主は依頼内容を絶対に自分から喋らない!)
だったら何故、あの男が知っているのか?
(ぬらりひょんを狙ってる一味ってことだ)
なら何故涼音を狙うのか?
答えは簡単。ぬらりひょんに対しての人質だ。
(でも、あたしのことを覚えてないんだから、人質としての価値は少ないと思うんだけど………いや、違う)
涼音は、ぎゅっとスカートを握る。
(妖怪の総大将が、人質の人間を見捨てたなんて面子が立たない)
更にタチの悪いことに涼音は、小学校がぬらりひょんと一緒だ。そんな奴を見捨てたなんてことは流石に不味い。
(クソ!スマホで助けを呼ぶしか………)
そう思ってスマホを取り出すが、圏外のマークがついている。
(こんな時にタイミングの悪い………なあんて、思えればもう少し気楽だったんだけど……)
十中八九さっきの奴の小細工だろう。
(こうなったら、近くの交番に逃げ込むしかない)
涼音は大きく息を吐きだす。トイレの窓から逃げれれば一番良かったが、残念ながら人が通れる大きさではない。
だが、万が一逃げ切れなかった場合はどうする?
(幸い、カバンを持ってこれたから書くものはあるけど……なんて書こう……下手に警察に電話してなんて書いたっていたずらだと思われるのが関の山だし……)
そこまで考えた結果涼音はとりあえず、思いついた策を実行することにした。
一応流す音でカモフラージュして、涼音はトイレの扉を開ける。そこに男の姿はなかった。
性別が違うことが幸いした。もし、接触してきたのが女だったら間違いなくここで立ちふさがっていた。
(よし!)
カバンを抱えて涼音は出来るだけ普通の客のフリをしてファーストフード店を出る。
後は走って近くの交番に向かってそのまま走り出した。
「へぇ、思ったより賢いんだな」
走り出して曲がり角を曲がった先にはさっきの男とはまた別の男が立っていた。
「もう一人………」
「出来る社会人は常に次の手を打っているんだよ」
ここに見たことがない男がいるということは、もうすでにあの店にいないことには気づかれている。涼音に話しかけてきた男が、ここまで来るのも時間の問題だ。
それでもここにいるよりはマシだと判断した涼音は来た道を引き返そうとする。だが、そこには先ほどの店にいた男がすでにいた。涼音は声をだそうとするが、それより先に背を向けた涼音の背中にナイフを当てる。
「あまり手荒な真似はしたくないんだ。大人しく俺たちとデートしてもらおうか」
もうこれは完全に詰みだ。涼音は唇をぎゅっと嚙みしめて男たちを睨み返す。
「花の女子高生としては、かわいい喫茶店がいいんですけど………」
「そういうな。たまには野郎おすすめの店もいいもんだぜ」
涼音はそのまま、促されるまま車に乗せられた。
続きます。




