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魔女っていうな!  作者: 舳里 鶏
第一章 ハンバーグ
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「僕はそういう顔が見たいんだよ、魔女先輩」

 一瞬訪れる沈黙。

 「間違っていたら謝る」

 その沈黙を作り出した張本人が打ち破った。

 「間違っていると思っている人間のする表情じゃないですね」

 目の前のメイド服に身を包んだゆうきの表情をみる証の頬が吊り上がる。

 ピンと伸びた背筋、足元を隠すスカート、そして黒を基調としたメイド服に身を包んだゆうきから妙な威圧感があった。

 「どうしてそう思ったんですか?」

 証の質問にゆうきは続ける。

 「証がこの料理部を語るとき、人づてに聞いたという風に語らなかった」

 「それの何がおかしいんですか?」

 「一年生の証が、どうして体験したように語るんだ?」

 証からの反論を待つが、返ってこない。なのでゆうきはさらに続ける。

 「あと、証のクラスに行った時、違和感がいくつかあった」

 「違和感?」

 首を傾げる証にゆうきは続ける。

 「クラスメイト、証のことをさん付で呼んでいた」

 「そういう性格な子だったんじゃないですか?」

 「他の子のことは、普通に名前呼びだったんだ」

 「それだけじゃ……」

 「後、証と話すとき敬語だったんだ」

 「いや、だからそういう性格な子だったんじゃないですか?」

 「他の子とは普通に喋っていたぞ」

 証を呼びに行った際、中々声をかけられず、下級生たちの会話を聞く羽目になったゆうきは、その時少し違和感を覚えたのだ。

 「だが、涼音は普通にため口で話していた。だから、私の勘違いかなとも思った」

 「……………思った?」

 「ああ。涼音の言葉を聞くまではな」

 「涼音、なんかいってましたっけ?」

 「涼音は証に『一応、後輩なんだから』と言ったんだ」

 ゆうきの推理を証は、黙って聞いている。

 「一応でも何でもなく、証は、普通に考えれば後輩だ。なのに、そんな言葉が出てくるということは、もう可能性は限られてくる」

 ゆうきは、そこで言葉を切って証を見る。

 「……否定しないのか?この推論は結構穴があると思っているのだが……」

 「当たってること否定したりしませんよ」

 証はにっこりと笑ってそう答えると皿に残ったひき肉を口に放り込んだ。

 「いずれ、自分から話そうかなっと思っていたんですけど、気付かれてしまいましたね」

 「涼音だけ、ため口だったのは?」

 「僕がため口はやめてって言ったらそれ以降あの調子」

 「だけど、他のクラスメイトはさん付けと敬語が抜けないと、そういうことか」

 「そういうことです。それにしても凄いですね、先輩。物語に出てくる探偵みたいです」

 うんうんと証は満足気に頷いていた。普通なら話はここで終わりだ。

 だが、ゆうきには新たな疑問が浮かんだ。いや、これは最早確信と言ってもいい。

 「………ゆうき?」

 褒められているというのに固いゆうきの表情を証が不思議そうに見る。

 「先輩?顔怖いですよ、どうかしましたか?」

 「不思議だと思わないか?どうして、私はこの事実に気が付いたのか」

 「自分で言ってたじゃないですか、僕のクラスに行った時、クラスメイトの言動に違和感があったんでしょ?」

 「ならなんで、私は、証のクラスに行ったんだ?」

 「そりゃあ、僕が調理室の鍵を開けなかったから、先輩が呼びにきたんでしょ?」

 「そう、そこだ」

 ゆうきは証に人差し指を向ける。

 「私がこの事実に辿り着くには、証のクラスに行かなければならない。でも、普通に学校生活を送っていれば、まず、証のクラスに行くことはない。つまり、証が留年しているという手がかりを私は本来掴むことが出来ないんだ」

 「………何が言いたいんですか?」

 「調理室の鍵を開けなかったのは、ワザとだろ」

 ゆうきは、先ほどとは違い、険しい目で証を射抜いている。

 「理由は知らないが、証は、自分が留年していることを見抜けるか試したかった。だが、ピースを隠したパズルを解くことは出来ない。そこで調理室の鍵をかけ、私が証のクラスに行くよう仕向けた。クラスで証が用意したヒント、ピースを見ることが出来るようにな」

 「何を根拠に………」

 「証が職員室に行ってないのに調理室の鍵を持っていたからだ」

 そう、証はゆうきと一緒に調理室までどこにもよらず、一直線に向かった。

 「証としては、何としても私をクラスに行かせたかった。そのためには、万が一でも自力で調理室に入ってもらっては困る。なら、どうするか?簡単だ。私が気付くより前に鍵を職員室からとってきてしまえばいい」

 ひいらぎはゆうきの話を聞きながら、しばらく考え込んだ後、少し体を曲げて答える。

 「つまり、こういうことか。証は、自分が留年していることを見抜けるか試したかった。そのために調理室の鍵を開けず、ゆうきがクラスに行くよう仕向けた。自分たちが出すヒントをゆうきに見せるために」

 「ええ」

 「ということは、職員室に鍵を置いておけば、ゆうきも証が仕込んでいるかわからなかったということか?」

 ひいらぎの指摘にゆうきは首を横に振る。

 「その仮定はありえませんよ。だって、証としては、私に自分のクラスまで来てほしかった。だから、そのためには、私が自力で調理室に辿り着くなんて言う事態は起こしてはいけないんです」

 ゆうきの説明にひいらぎは頷く。

 「ジレンマだなあ。ゆうきを試すには、鍵を持っていなければならない。けれど、鍵を持っているせいで、これが謀であることがバレてしまうというわけか」

 納得しているひいらぎに構わず、ゆうきは証を見据える。

 「何か反論はあるか?」

 「………もしかして、怒っていますか?」

 「こんな風に試されて喜ぶわけないだろ」

 「ああ、試していたことは決定なんですね」

 「だから、さっきから言っているだろ。『何か反論はあるか』、と」

 ゆうきはさらに目を険しくさせ証を睨みつける。

 睨みつけられた証は、少しバツが悪そうに顔を背ける。

 「驚いた。そこまで見抜かれると思いませんでした。推理っていうより魔法みたいですね。探偵通り越して魔女ですよ」

 「魔女じゃない」

 「はいはい、陰陽師ですもんね」

 「陰陽師見習いだ」

 「細けぇ………」

 証は頬を引きつらせる。とはいえ、これ以上ふざけてもいいことはなさそうだ。

 「あたりです。僕はまあ、ちょっとやんごとなき事情で、留年しています。そして、それを先輩が見抜けるか試しました」

「………なんのためにこんな事をしたんだ」

 証がゆうきを試していることは分かったが理由は分からなかったのだ。

 先ほどの口ぶりから察するに証は自分が留年していることを最初から話すつもりだった。

 なら見抜けるかどうかを試さず、自分から留年していると話してしまえばいい。

 だというのに証は今回、こんなに回りくどい方法をとったのだ。

 証は、皿の上にある食材を片付け、食器を流しに置く。

 「料理部ってどんな部活か知ってますか?」

 「………どんな部活って料理をするんだろ?」

 「それだけじゃないんですよ。この料理部、生徒の悩み事相談も請け負っているんです」

 皿に水を張り、元居た場所に座る。

 「昔々、困り事を抱えたとある生徒が料理部の友人に相談したところなんと、快刀乱麻を断つがごとく解決してしまったんですって。しかもそれは一度や二度ではなくですよ」

 何となくその先の想像が付きながらもゆうきは黙って証の説明を聞く。

 「それ以降、この高校では、困り事があれば料理部に持ってくるようになったわけです」

 「いや、それ、たまたまそういうことが得意な人が四年連続とかで部に所属していたら、いつの間にか実績になったとか言うやつだろ」

 高校生活の三年を超えても人材の入れ替えで能力が落ちなければ、確かにそうなる。

 「かー、本当に先輩はロマンがない」

 そう言いつつ証もそれは分かっていたようだ。

 「まあ、今やほとんど七不思議って感じです。神頼みってのが近いですね。本気の相談はそれ相応の場所に行きますから」

 「まさかとは思うが」

 「そう、先輩には伝統ある由緒正しい料理部でどの程度やれるか知りたかったんです。問題解決の糸口を見抜ける目を持っているかどうかを、ね?」

 いたずらっぽく笑う証にゆうきは、じとっとした目を向ける。

 「で、どうだったんだ?」

 「期待以上でした!」

 「……そもそも、証が入ってくれと言ったんだぞ?それなのに勝手に私の実力を測るとか、筋違いもいいところだ。仮に私が証の留年を見抜けなかったら、どうしていたんだ?」

 「別に。僕のサポートをやってもらおうと思ってました」

 何せ、あと一人入れない限り、料理部は廃部なのだ。

 悪びれもせずけろっとした顔でいう証にゆうきは大きくため息を吐いた。

 「………ああそう」

 「もう少し粘ってもいいとおもうぞ」

 諦めたようにため息を吐くゆうきにひいらぎが声をかける。

 「それで、先輩どうしますか?入部届取り下げますか?」

 不満そうなゆうきに構わず、証はそう尋ねた。

 「その前にまずは、その敬語をやめてくれ。同い年なんだろ」

 「違いま………ううん。違うよ。僕の方が年上だよ」

 「「は?」」

 ひいらぎとゆうきの声がはもった。

 「留年しているんだったら、私と同い年のはずだろ?私より年上ってどういうことだ」

 「簡単だよ。僕は二回留年しているんだ」

 証からの回答にゆうきは指を折って数える。

 「公立の高校で留年二回なんて認められているのか?」

 「ふふふん。僕ぐらいちゃんと勉強やっていれば余裕余裕」

 得意そうに鼻を鳴らす証にゆうきは、眉間の皴をもむ。二回留年など一般的に自主退学を進められるレベルだ。だが、それよりもゆうきは、もう一つ重要なことに気づいた。

 「………というか、年上ならもしかして私の方が敬語を使わなくちゃいけないんじゃないか?」

 「あ、いいよ。使わなくて、というか使われるとやなので使わないで」

 しっしっと手を振って拒否をする証にゆうきは、少し悩んだ後、こくりと頷いた。

 「………分かった」

 「物分かりがいいね。先輩」

 「先輩はやめろ。年上に先輩呼びされるとか、どんな顔すればいいんだ」

 「僕はそういう顔が見たいんだよ、魔女先輩」

 「悪趣味を絵に描いたような奴だな、証」

 「ま、冗談はさておき」

 証はいったん言葉を切り続ける。

 「単純に僕は年下の子を先輩って呼んでみたいんだよ」

 「おい、冗談悪化したぞ」

 「世の中には色々な趣味をもった人間がいるということだ」

 頭にいるひいらぎとゆうきが若干引いたように話をする。

 「で、もう一度聞きますよ、入部届取り下げますか?」

 ゆうきは一つにまとめた長髪に触れる。

 (腹は立つが、拓矢の話を信じるなら私は、部活に入らないと今後、辛い高校生活を送ることになる……)

 部活に入ることが目的ではなく、部活で人間関係を築くのが目的なのだが、人付き合いが苦手なゆうきはそこまで考えられていない。

 (手段のために目的を選んでおることに気付いてないんだろうな)

 そんなゆうきの思考をひいらぎは見透かしているがわざわざ伝えたりしない。

 何せ、そうでもしないとゆうきの学校生活は暗闇に閉ざされていくのだ。

 「分かった。証の趣味とやり方は気に入らないが入部届は取り下げない」

 「そうこなくっちゃ」

 ぱちんと指をならして嬉しそうに言う証にゆうきはじとっとした目を向ける。

 そんなゆうきに構わず証は続ける

 「さて、今日は片付けを終えたら帰ろうと思うけど何か質問ある?」

 手を拭きながら訪ねる証にゆうきは首を横に振る。質問はないようだ。

 なら、明日から活動すればいい、そう口にしようとした瞬間、



 「その依頼というのは、吾輩がしてもいいか?」

 


 ひいらぎが尋ねた。



 まさかの展開に証は思わず目を丸くした。

 「えっと、別にいいですけど……でもひいらぎ様って付喪神ですよね?そんな方の相談って、僕たちでどうにかできるか………」

 「いや、吾輩が依頼するが、依頼内容は吾輩のことではない」

 「??」

 首を傾げる証にひいらぎはさらに続ける。

 「ゆうきのことだ」

 「ちょっとひいらぎ様」

 相談内容にゆうきは心当たりがあるようで諌めるようとするが、ひいらぎは続ける。

 「ちょっとも何もない。お前だって、このままは嫌だろ?」

 「そうですけど……でも」

 「お前は自分のことを話したがらない。だから、吾輩が話す」

 ゆうきの不満などお構いなしという調子でひいらぎは言葉を続ける。

 「受けてくれるか?」

 「当然」

 にべもなく証が言い切るとひいらぎは猫の姿になり、机の上にちょこんと座った。

 



 「付喪神ひいらぎが料理部に依頼する。依頼内容は、「『ゆうきの名前の由来を突き止める事』だ」



ここまで出来た。

調子が良ければまた、来週投稿します!が、頑張ります!


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