表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王に恋した乙女の、誇りと意地の物語  作者: 八刀皿 日音
第3章 魔王と乙女は、闇を払い輝く星
29/40

第28話 深き闇にこそ、星は強く輝く −3−


「これは、ハイリア様、ちょうど良いところへ……!

 ――今まさに、脱獄した裏切り者のシュナーリア殿を確保するところでありました……!」



 ……ハイリアがここまでやって来たことは、わたしだけでなく、グーラントとしても想定外だったらしい。

 ヤツはすぐさま、魔剣の(そば)(ひざまず)き――『クーザ』としての擬態に戻る。



 しまった、ハイリアは――!

 まだ、グーラントのことを知らない……!



 グーラントに食らった一撃もあって、とっさに上手く声が出せない中――それでも何とかしようとハイリアを見つめるも……。


「裏切り者――そうだったな」


 わたしから視線を外し、グーラントの方を見やるハイリアの口からこぼれ出たのは――底冷えのするような鬼気を伴った、そんな一言だった。



「この余に――そして我ら魔族に反逆のキバを剥く、裏切り者……。

 ――キサマこそが、そうよな?」



 そして、そんなハイリアの鬼気は――。

 わたしではなく、前方、跪くグーラントへと真っ直ぐに向けられていて……。


「な、何を(おっしゃ)いますか、私は――!」


「……そもそもが、始めからおかしかったのだ」


 弁解しようとするグーラントを圧するように――ハイリアはわたしを抱き上げたまま、一歩一歩、ヤツへと近付いていく。



「オーデングルムは確かに強硬派だが、己にも他者にも厳しく、忠義に厚い男。

 いくら不満があろうと、あのような蛮行を許すはずもなければ……家人が関わるのを見逃すほど甘くもない。

 無論、人の心とは計り知れぬものだ――万が一、というのはあった。

 ……だが、それよりもはるかに納得出来る可能性がある。

 何者かが背後で糸を引き……有力者たるオーデングルムを陥れるというものだ」



「まさか……それが私だと……!?

 バカな、その蛮行を事前に食い止めたのは私でありますのに……!」



「余が、襲撃を計画したという者たちに、直接会ったのはどうしてだと思う?

 確かめたかったからだ――その言い分ではなく……。


 彼らが『操られて』いなかったかを、な。


 結果……他者ならいざ知らず、魔王たる余には微かながら感じられたぞ?

 ――その〈魔剣〉が備えているものに近しい……〈闇のチカラ〉の気配をな」



 そう告げて……足を止めたハイリアは、自分とグーラントの間に突き立つ、魔剣グライエンを顎で指し示す。



「無論、それだけではキサマの仕業とも言えん。

 だが先刻、余の優秀な密偵が調べ上げてきてくれたのだ。


 キサマが――本来なら接点などないはずの、襲撃者たち、そして彼らが捕らえたというガガルフの部下とも……事前に接触していたことを。


 さしずめ、ガガルフもオーデングルムと同じように反逆罪を背負わせようとしたところ、そのガガルフの部下が、たまたまこの跳ねっ返り娘の(いわ)く付きの書簡を携えていたゆえに……これ幸いとばかり、こやつも巻き込む形に計画を変更した――といったところか。

 そう……邪魔な存在を、一気に失脚させられると――甘く見積もって、な」



「ハイリア様! このクーザを、信用しては下さらぬのですか……!」



「無論、信じるとも――キサマが、余の知るクーザであるならばな。


 だが……その魔剣には、初めからチカラだけでなく、妙な『気配』を感じていた。

 どうにも気に入らぬ気配をな。


 ゆえに――その気配がキサマに影響を与えていると考えれば……いや。

 キサマこそが、まさにクーザに取って代わっていると考えれば――これ以上、辻褄(つじつま)の合う話もない。


 ……それで合っているか? シュナーリア」



 腕の中のわたしに、目を落としてそう確認を取るハイリアに――。

 何とか息を整えたわたしは――しかしそんなことは悟らせないよう、いつものようにイタズラっぽく笑いながら……うなずいてやる。


 そして――。


「さすがだよ……ハイリア。

 わたしとしたことが、キミを少々見くびってしまっていたかもな。

 ――そう、キミの察した通り。

 そして今、あの身体を乗っ取っているのは……魔剣グライエンを作ったクーザの先祖、グーラントその人だ――」


 わたしは簡潔に、グーラントが魔剣に魂を宿し、子孫の身体を乗っ取るように数百年を生きながらえてきたこと……。

 そして、最終的にはその魔剣で魔王のチカラを奪い取り、アルタメアを支配するのが目的であることを告げる。



「――そういうこと、か。

 なるほど、道理であの剣を初めて間近に見たとき、余の中の〈魔胎珠(マタイジュ)〉のチカラが妙なざわつきをしたはずだな。

 しかし、シュナーリア……この緊急事態をいち早く察したからこそ、お前も動いたのだろうが……。

 形式的な投獄だったとはいえ、その日のうちに脱獄されるとは思わなかったぞ」


「なに、あまりに居心地の良い部屋をあてがわれたからね。

 貧乏性のわたしは、(かえ)って落ち着かなくなったのさ」


 わたしは、そう軽口を叩いて……もう大丈夫と言う代わりに、自分から、ハイリアの腕の中より飛び降りた。

 名残惜しくはあるけど、ハイリアに、わたしの身体のことを悟られるわけにはいかないから……な。


「さて――グーラントよ」


 事情を知らぬはずのハイリアを油断させ、スキを突く――。

 結局は、そんな手立てもあっさりと封じられたグーラントに……ハイリアは堂々とした声を掛ける。



「かつてキサマが、錬成術士(れんせいじゅつし)として、我ら魔族に多大な貢献をしたことは認める。

 今を生きる我らも、その恩恵を受けてきたのは間違いなかろう。


 だが――。

 すでに、キサマの生きる時代は過ぎ去った。

 もはやキサマ自身が、過去のくだらぬ妄執そのものなのだ。


 それを受け入れ、クーザの身体を返し、大人しくこの世を去るならば良し。

 ――功績ある先人への敬意を表し、こちらも黙って見送ろう。

 しかし、そうでないならば――」



「……思い上がるなよ――小僧がっ!」



 いきなり顔を上げると同時に、雷撃を放つグーラント。

 常人なら直撃すれば黒焦げになりかねないそれを、ハイリアは難なく片手で打ち払うが――。


 そのスキを突き、グーラントは……2人の間にあった魔剣を手に、ハイリアに斬りかかって――!


「! ダメだ、かわせハイリア!」


 とっさには動けないわたしが声を上げるも、間に合わず。

 ハイリアは、余裕を持って……グーラントの振り下ろす刃を、その手で受け止めてしまっていて――!



「よかろう。これがキサマの答えならば……グーラントよ。

 我らに(あだ)為す敵として……。

 当代の魔王たる責により、余が消滅させてくれる――!」


「ふ、はは――! 触れおったな、愚か者が――ッ!」


 静かな怒気を見せるハイリアとは対照的に、歪んだ笑みを浮かべるグーラント。

 そして、その意味を知るわたしの危惧した通り――。


「奪い取れ、グライエン――ッ!!」


 魔剣グライエンが、禍々しい黒い輝きを放ち――それが、受け止めた手を通じて、ハイリアの全身を一瞬のうちに包み込む……!



「――ハイリアッ!!」


 すぐさま引き離すべく、間に割って入ろうとしたわたしだが――すでに遅く。



 グーラントは、まるで、力の入らなくなったハイリアの手を逃れるように……あっさりと、剣を引き戻すのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ