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魔王に恋した乙女の、誇りと意地の物語  作者: 八刀皿 日音
第3章 魔王と乙女は、闇を払い輝く星
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第27話 深き闇にこそ、星は強く輝く −2−


「ふふん……乙女の矜持きょうじをナメるな、って言っただろう……?

 キサマこそ……そのご自慢の魔剣、思った以上のナマクラなんじゃないか?


 そう――それこそ、手記にあった、『以前の失敗作』。

 そっちだったなら――もうとっくに、わたしも真っ二つだったかもな?


 確か、人の悪意やらの〈邪心じゃしん〉を集めて作られた――意志を持ち自律行動する魔剣、だったか。

 その『意志』が強過ぎて、創造主のキサマですら、まともに制御出来なかったっていう――」



 余裕綽々(しゃくしゃく)なグーラントに、わたしが挑発気味にそんな話を振ってやると……。

 案の定、ヤツは得意気な様子で食いついてきた。


「……確かに、お前のような邪魔者が現れることを思えば――。

 アレを時の〈勇者〉にけしかけたりせず、何らかの手段を講じて、手もとに置いておくのも良かったかも知れんな」


「で、結局はその意志持つ魔剣……壊すのに苦慮した昔の〈勇者〉に、次元の狭間に送り込まれちまったんだっけ?

 ……なら実は、今回のその剣も――同じような『失敗作』なんじゃないか?

 なんせ、グーラント……やっぱり、キサマが作ったモノなんだからな?」


 なおも挑発を重ねてやるが、それで怒り狂うどころか……。



「くく……はははは! 苦し紛れの悪態とは、(かえ)って心地よいものよな!

 確かに、〈魔胎珠マタイジュ〉の本質に近しい、〈邪心〉を集めた器ならば、そのチカラを取り込めるのではないか……という、その試みは失敗だったとも。


 だが、その失敗から得られた情報を活かして生み出されたこのグライエンは……だからこそ、完全なる成功作なのだ!

 お前も、我が手記を読み解いたのなら、それが分からぬはずもあるまい?

 ――ははははっ!」



 いかにも愉快だと言わんばかりに、声を上げて笑うグーラント。


 そして実際、グライエンの理論については、わたしから見ても完成されたものであり――。

 それゆえに、『わたしの研究の参考にもなった』のだが……。


 ――ひとまず今は、そのことは関係ないな。

 そう……コイツが、このムダ話に律儀に付き合ってくれたお陰で――ちょうどいい時間になったのだから……!


「さて――頃合い、だな」


 タイミングを見計らったわたしは、ボロボロになった剣を構える。


「ほう……ようやく覚悟を決めたか」


 それに合わせて、グーラントも正対する形に魔剣を持ち上げた――その、次の瞬間!


 ――――ボンッ!!!


 くぐもった炸裂音とともに、グーラントの足下の地面が弾け――。

 そこから、間欠泉のように激しく噴き出した水流が、グーラントの魔剣を直撃。


 完全に油断していたその手から剣をもぎ取り、高々と宙を舞わせ――噴水の向こうへと吹き飛ばす!


「な――っ!?」


 虚を()かれ、一瞬放心するグーラントを尻目に――わたしは即座に、自らの剣を投げ捨てつつ、吹き飛んだ魔剣の方へと地面を蹴る!


 ……この噴水は、かつてわたしが造成したものだ。

 ゆえに当然、温泉水を供給するための導管(どうかん)が、地面の下をどう走っているかは完全に頭に入っている。

 そして――その水流が、どう制御されているのかも。


 だから……昔、思い付きでついでに造った温室なども含め、様々な方向に枝分かれしている導管の、どこをせき止め、どこの勢いを増せば、狙った一点に水を最大限集中させられるか――計算出来るというわけだ。


 あとは、その効果を引き出すため、ヤツと(せめ)ぎ合いながらそれらしく動き回り……要所要所に、必要な魔法を『置いて』くればいい。

 戦いながらでも、さほど強大でもない魔法なら、バレないように多種同時構築するぐらい、わけないからな……わたしなら!



 そう――これはすべて、計算尽くだったってことだ!

 スキを突いてヤツから、『本体』たる魔剣をもぎ取り――破壊する、そのために!



「おのれぇ、させるか――ッ!!」


 わたしの狙いを悟ったグーラントも、すぐさま動き出すが――もう遅い!


「――(そら)(みや)、星を(しとね)(ねむ)る王、(あまね)(かかずら)う珠の冠、(いとけな)御子(みこ)――」


 走りながら、高速で呪文を詠唱するとともに、魔力を一気に練り上げる。


 その魔法の、強大過ぎる破壊力を閉じ込めるための小結界を、地面に突き立った魔剣に定めつつ――。

 確実に魔力を込め、最大の威力を以て一撃で破壊するため、一歩でもと近付き――!


「……()の名、太陽ッ!

 無慈悲むじひ無辜(むこ)(さけ)び、呱々(ここ)の声――! 〈天宮(てんきゅう)ノ――ッ!」


 これで終わりだ、と詠唱を完成させようとしたその瞬間――。


 わたしの唇から溢れ出たのは、魔力の乗った言葉ではなく――。

 胸を、喉を、口を圧して生まれ出る……真っ赤な血ヘド、だった。


 同時に、一瞬目の前が真っ暗になり、足がもつれ……受け身を取ることもかなわず。

 魔剣まであと少しというところで――ブザマにもんどり打って、地面に転がってしまう……!


「ぅぐ、げふっ、かはっ――! ま、だ……ッ!」


 だが――グーラントが追い付くまでは……まだ、間がある……!

 まだだ、まだいける……! 最後の一撃を――!


 緊張の糸が切れたように、一気に悲鳴を上げる身体を――それでも、呼吸ごと止める勢いで強引に抑え込み、再び魔力を練り上げようとする……が。


「……甘いわァっ!!」


 グーラントは遠間から、魔力を純粋なカタマリとしてぶつけてきて。

 そして、わたしにそれをかわす余裕なんてあるはずもなく――。


「! あが――っ!」


 直撃を受けた身体は、大きく跳ね飛ばされた。

 衝撃に息が止まり――刹那(せつな)、意識すら手放しかける。


 普段なら、宙で一回転して着地するぐらいわけないのに……身体はまるで動かない。

 最低限の受け身すら、取れる気がしない。


 このまま、地面に叩き付けられたら――痛い、だろうな……。


 ……そんな風に、ふと、まるで他人事のように考えてしまったわたしは。

 もはや為す術なく、冷たい地面に――。



 そう、覚悟していたのに――。

 わたしの身体を受け止めたのは……想像だにしなかった、暖かく、優しい感触だった。



 ――信じられなかった。

 わたしにとって、何より安心する、その感触は……。


 今、こんなところで……出会うはずでは、なかったから。



「まったく、お前というやつは……。

 もう、おてんばという歳でもなかろうに」



 そのまま足の下に腕を差し入れられ、抱き上げられたわたしが、視線を上に向けてみれば――そこには、間違いなく。



「……ハイ、リア――!」



 幼い頃より変わらない、涼やかな青い瞳でわたしを見下ろす、流れるような銀髪の美丈夫――。

 魔王、ハイリア=サインの姿があった。






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― 新着の感想 ―
[一言] こういうのでいいんだよこういうので。
[一言] グーラント、言動が俗物ながらもなかなか厄介な敵ですね……!! あと少しで勝てるかも!という状況でヤバいことになりそうだったわけですが、そこに颯爽と現れるハイリア! 次回、無双なるか……!…
[良い点] 成程! 時代が違うから、例の魔剣と、どう関連しているのかと思っていたら、金ピカなヤツにお持ち帰りされたわけですね(笑) そして、プロの配管工でもできなさそうな緻密な水流の制御を、当たり前…
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