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魔王に恋した乙女の、誇りと意地の物語  作者: 八刀皿 日音
第2章 魔王と乙女は、道が交わらない
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第17話 〈魔剣〉受け継ぐ家の少女 −3−


 ――そうして、クーザと言葉を交わしながら案内されたのは……屋敷の地下の一室だった。


 わたしの研究室に比べ、はるかに古いタイプの様々な器具や、多くの文献・資料が並べられたそこは……なるほど、いかにもかつての大錬成術士の居室に相応しい雰囲気を保っている。

 意外なほどに小綺麗なのは……まあ、偉大な先祖に敬意を払い、使ってはいなくても定期的に掃除ぐらいはしているということなのだろう。


「では、私は執務が残っているので、これで失礼させてもらうよ。

 貴女にとって有益なものが見つかればいいのだが……」


 そう言い置き、後はご自由に、とばかり――帰るときの連絡用に小さな呼び鈴だけを置いて、クーザは立ち去っていった。


 ちなみに、この呼び鈴は一種の魔導具(まどうぐ)で……。

 鳴らせば、対となる部屋の鈴も同じように鳴って、普通なら音が届かないような場所でも呼び出しが出来るという、こうした大きな屋敷には必需品とも言えるシロモノだ。


 そう言えば、これの基礎となるものを開発したのもグーラントだったか……。


 まあ、それを小型軽量化、さらには効果範囲を大幅に広げ、コストダウンにすら成功したのはこのわたし――しかも子供の頃のことだけどな!

 ふふん、さすがわたし!


「……なんて、鼻息荒くしてても仕方ないな……」


 グーラントのかつての研究に閃きを求めている――という訪問理由は、もちろん本来の目的である『クーザの言動に覚えた違和感を確かめる』ことを隠すためなのが第一だが……。

 まあ、せっかくの機会だ――まったく何にも手を付けないのもそれはそれで変に思われるだろうし、実際に珍しい文献でも見つかるかも知れない……。


 そんな風に考えて、しばらく部屋を見回り、文献や資料に手を伸ばしてみるも――。

 特別目新しいものは見つからなかった。


 ……まあ、それはそうか。

 秘蔵や秘伝の物ともなれば、それこそ厳重に管理して、おいそれと他者には見せないだろうしな……。


 そう結論付けながら、足音を殺して部屋のドアの前へと戻ったわたしは――。

 いきなりそれを、勢いよく引き開けてやる。


 すると――。



「ひゃああっ」



 先ほどからドアの向こうで様子を窺っていた者が、支えを無くして部屋に転がり込んできた。


 やはりクーザには何か後ろ暗いところがあり、部下にわたしの行動を見張らせていたのか――と、思いきや。


 情けない声を上げてへたり込んだのは……。

 人形を抱いた、愛らしいドレス姿の――10にも満たないだろう小さな女の子だった。


「……なんだ……クーザ殿のご息女じゃないか。

 確か――クローネ?」


 わたしの、手を差し伸べながらの問いかけに、手を取った少女は目を丸くしつつ……立ち上がりながら、何度もうなずく。


「ん? ああ、なんで知ってるのかって?

 それはまあ、前に会ったことがあるからね。

 ――もっとも、キミはもっと小さかったから、覚えていないだろうが……。

 ちなみに、わたしのことは知ってるのかい?」


「……じいや、いってた。

 いろんなの、つくったりする……かしこくて、すごいひと。

 それで……まおーさまの、およめさん」


「んん? ほほう、そーかそーか。およめさん、か。

 よーしよし、賢い子は好きだぞ〜」


 わたしは、余計なコトは吹き込んでいなかったらしい、あの老家令を心の中で褒めてやりつつ……。

 本人にその気はなくとも、わたしをうまーくおだてる形になったクローネの、ふわふわの頭をなでてやる。


「……それで?

 クローネは、どうしてコソコソとわたしを観察してたんだ?」


 で、改めてさっきの行動の理由を尋ねると。

 クローネは、サッと一転して緊張した面持ちになり――。


 一瞬、何かを警戒するようにドアの方を振り返った後……わたしのドレスの裾を引っ張りながら、部屋の奥へと移動する。


「お、おお? どうした、いきなり……」


 引っ張られるまま、わたしも一緒にやって来たのは――居並ぶ書棚のうち、1つの前。

 そこで、ポケットをゴソゴソと探ったクローネが、この子には(いささ)か大きい紅玉の指輪を取り出すと――。



 その紅玉が淡く輝くのに合わせ……。

 静かに書棚が90度回転し――その奥の小部屋を露わにした。



「ほう――? これはこれは……」


 思わず口元に笑みを浮かべながら、クローネを見やれば……。

 特に何を言うでもないが、「見て欲しい」とばかりに隠し部屋の方へ視線を向ける。


「――ふむ、では……。

 家人が良いというんだ、堂々とお邪魔しようか」


 クローネがわたしの様子を窺っていた理由も、きっとここにあるのだろう――。

 そう察して、わたしは回った本棚の脇を抜けて奥へ。



 ――果たして、そこは……小部屋という表現でさえ大ゲサなぐらいの、本当に小さな空間だった。

 むしろ、人が入れるぐらいの大きな金庫――とでも言った方が良いかも知れない。


 そして、そんな場所に存在したのは――。



 魔術的な封印を施すためのものらしい小さな祭壇と、そこに『剣』が安置されていたことが分かるくぼみと……。


 その傍らに無造作に置かれた、年代物の――恐らくは手記のようなものだろう、小さな書物だった。






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