星の瞬き降る城で
「……余は……敗れたのだな……」
大の字に倒れた余の視界には、この戦いによって崩れた我が城の天井――ではなく、澄み渡った星空が広がっていた。
我ら魔族が住まう、この世界の僻地にして極地たる〈魔領〉には珍しい、すっかりと晴れた、数多の星が瞬く空――。
「……いいや、そいつはちょっと違うな」
そんなことを言いながら、余の傍らに、力無く腰を落としたのは……余より少しばかり年下の、一人の青年。
異世界より渡り来て――〈魔王〉たる余を討ち果たす役目を背負いし〈勇者〉だ。
こやつとの、三日三晩に及ぶ戦いの果てに……。
すべてのチカラを出し切り、もはや指一本満足に動かせぬほどになったのが、今の余というわけだ。
つまりは、あとはトドメを刺されるのを待つばかり、のはずだが――。
澄んだ星空を見上げる余の視界に、ひょいと入り込んだ〈勇者〉は……しかし、イタズラを成功させた幼子のような笑顔を浮かべる。
「……確かに、お前は俺との『ケンカ』には負けたかも知れない。
だけどさ……だからこそ、お前は『勝った』んだよ。
――俺と一緒にさ」
そうして、そんなことを言って……こやつもまた、星空を見上げた。
……奇しくも、我らの視線の向かう先は同じ――。
他よりも一際強く輝く星にあった。
そう――〈世を照らす星〉に。
『ハイリア――偉大なる星、わたしの星……。
キミの輝きは必ず、魔と人の断絶に架かる橋となるだろう。
……だからどうか、その輝きを――いつまでも』
余の名、〈王たる星〉と対を為す、星の名を持つ娘の言葉が脳裏を過ぎる。
あやつの望んでいたことが、視ていた未来が――ようやく、本当の意味で理解出来た気がした。
「まったく、本当に……。
お前には敵わぬな、シュナーリア…………」
余が、自らの不明を恥じながら、目を細めれば――。
天に座す〈世を照らす星〉は、そんな余をいつもの調子で笑い飛ばすかのように。
殊更に強く、気高く――輝くのだった。