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07 1冊目 p.7

 しようもない俺はホームルームが終わると教室を飛び出した。そして、そのまま昇降口へと向かい、目当ての傘を確保した。岡田との闇取引が成立した後、下調べをしたので迷わず傘を確保することができた。この姿を見られるわけにはいかないので、あまり使われない端にある階段を急いで上り、解放されていない屋上の扉前で待機することにした。


 待つこと20分。岡田からもう戻っていいよと連絡を受け、俺はそろりそろりと階段を下りた。幸いなことに昇降口に人気はなく、ゆっくり立花さんの傘を戻すことができた。


 一仕事終えた達成感と罪悪感に襲われながら、俺は自分の傘を探したんだが……。


 そう、なかったのだ。


 俺は絶望した。きっと天気予報を見ていない人間に、俺の傘は奪われてしまったのだ。午後からの雨で、傘を忘れた人も少なくなかったから、なくはない話だ。


 ただのビニール傘だったけど、間違えられないようにスーパーのテープを巻いたまま使っていたのに。


 唖然、茫然している俺は、この後どうしようかと勢いが増していく雨を眺めながら考えていた。


 そんな時だった。女神が声をかけてくれたのは。


「あれ? 田中くん?」


「加藤さん……」


「どうしたの? そんなところで立ち止まって」


「実は、傘が無くなっていて……」


「ええっ、そうなの? それは酷いね……」


「本当に。泣きたい気分だよ」


 同情してくれた加藤さんは、自分の鞄から傘を取り出しながら俺に優しい提案をしてくれた。


「折り畳み傘でサイズが小さいけど、よかったら一緒に入る?」


「…………! 是非! お願いします!」


 こうして奇跡的な加藤さんの登場により、俺は途中のコンビニで傘を買うことができ、びしょ濡れを免れたってわけだ。


 学校からコンビニまでの距離はおよそ5分。俗に言う相合傘状態で、道中色々な話を加藤さんとすることができた。もちろん、俺が傘を持ったし、俺の肩を犠牲にして加藤さんが濡れないようにした。


 加藤さんは英語のテスト直しをクラスの代表でまとめて職員室に出していたらしい。その後、英語の先生と盛り上がって、それで遅くなったと言っていた。


 当然の流れで俺が遅くなった理由を聞かれる。野暮用で、と濁したところ、深堀されることはなかった。助かった。


 このことを追及されたくなかった俺は、すぐに話題を変え、英語の先生とは何を話したか加藤さんに聞くことにした。どうやら詩の話で盛り上がったらしい。加藤さんは、ロバート・ブラウニング? のライフ イン なんちゃらっていう詩が最近特にお気に入りだとか。英語の詩は全く分からないし、意識低い俺が調べたところで眠くなるだけだろう。


 逆に加藤さんに俺のお気に入りはないのかと聞かれたので、最近読んだ小説をいくつか紹介した。すると、1冊、加藤さんも既読の本があった。図書室で借りたことを告げると、加藤さんも図書室で借りたようで、奇遇だねと盛り上がった。


 コンビニに到着すると、すぐに俺は傘を購入した。相合傘は想像した通り緊張するね。それに、女子っていい香りするって、本当なんだな……。視覚的にも、臭覚的にもドキドキして落ち着かなかった。触れずに近い距離で傘を持つって難易度高かったし。


 加藤さんにお礼として新作のグミを渡したら喜んでくれた。よかった。


 その後も途中まで一緒に帰った。やっぱり、傘は一人がいいね。落ち着くね。落ち着いたあまり、俺が趣味で文章の練習を兼ねた日記を書いてるってこと言っちゃったけど、加藤さんは引かずに良いねと言ってくれた。優しい……。


 と、まあ濃厚な一日だったわけだ。長すぎて2ページも使ってしまった。


 盗んだ奴は許せないが、俺も盗人みたいなものだし、被害者だと声高らかに主張できないのが何とも言えない。明日、戻ってたりしないかな……。


 とりあえず、明日、岡田に俺の悲劇的な話を聞いてもらおう。そうしよう。

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