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02 1冊目 p.2

5月14日(金)

 今日は大変な日だった。というか、なんで俺が巻き込まれるわけ?


 文化祭実行委員の集まりが今日の放課後にあったものの、俺と岡田は係無しの人間なので無縁、のはずだった。


 うちのクラスの実行委員に何を言ったのか、何をしたのか不明だが、岡田は代わりに出席する権利を得たらしく、俺も道連れで参加する羽目になった。


 岡田は立花さんが到着した後に入りたいらしく、俺と岡田は教室で時間を潰すことになったのだが、開始5分前になっても岡田は動こうとしなかった。


 人の仕事を奪ったにも関わらず遅刻するのは嫌だと主張する俺を「まあまあ」と抑え込む岡田だったが、スマホのランプが点滅するとそっちに視線を移した。メッセージを読み終えた岡田はすぐに立ち上がり、鞄を手にし歩き始める。


「ヒデ行くよ」


 それだけ言って俺を置いて教室を出ていくのだから困ったものだ。俺は慌てて岡田を追いかけた。


 開催場所である視聴覚室へと向かうと、立花さんは友人と一緒に後方の席へと腰かけていた。確認を終えた俺は周辺を見渡す。誰だ、岡田のスパイは。


 岡田は立花さんの背後に席を陣取るのかと思いきや、その前の長椅子に腰かけた。視界にずっと入れなくていいのか? と思った俺はきっと健全な男子高校生だ。


 定刻通り開始した1回目の打ち合わせは、文化祭の参加要項と資料の提出期日についての説明だった。


 岡田は、前から配られたプリントを最高級の笑顔で立花さんに渡す。ただそれだけで何も仕掛けなかった。ここだけなら健全だな。


 そのまま岡田は板書を取るためにルーズリーフを取り出し、シャーペンを手に取った。ほんの僅かな文字を書いただけで、芯が無くなったようで、俺に優しく声をかけてきた。


「ヒデ、シャー芯持ってる?」


 俺は思わず文句を言いそうになった。というのも、「筆記具と荷物は持ってかなくていいから」と待機中に俺に言ってきたのが岡田だったからだ。その言葉通り、鞄など教室に置いたままだ。


 抗議しようとする俺だったが、すぐに口を閉じる羽目になった。優しい声とは真逆のハイライトが消えた目の圧が凄かった。顔が整ってるせいで、怖さ倍増。


 震えに近い動作で首を横に振った俺に、「よくできました」と言ってそうな笑みを浮かべた岡田は、そのまま後ろに振り向いた。そしてついに立花さんとの初会話が発生した。


「ごめん、シャー芯持ってたりする?」


 岡田の渾身の甘い笑みと優しい声は、免疫のない女子なら秒で堕ちること間違いなしだったが、立花さん自身も顔が良いからか、どうも耐性があったみたいで当の本人は落ち着いていた。


「あるよー。……はい、どうぞ」


 優しい笑みと共に差し出されたケースを岡田はこれまた爽やかな笑みを浮かべながら受けとる。まるで少女マンガの始まりみたいだ。実際は腹黒い物語の始まりなんだが。


 補充を終えた岡田は、お礼を言いつつ簡単な挨拶をした。自分の紹介だけで終わればいいのに、ご丁寧に俺まで紹介した。おかげで俺まで立花さんとその友人である加藤(かとう)(あおい)さんとも顔見知りになってしまった。本格的に俺を巻き込む気だな、岡田。


 1回目の集まりはすぐに終わった。部屋を去るやつらが多い中、岡田は振り向いてナチュラルに立花さんに声をかけて話を始めた。「文化祭の出し物何を考えている?」という王道な質問に、立花さんはにこやかに答えていった。


 そのまま暫く会話を楽しみ、平和的に解散。連絡先は交換しなくていいのかと岡田に尋ねたところ、まだ早いとのことだった。巻き込まれる側からすると、長期戦より短期戦が良いんだが。

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