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さよならだけが人生だ、って認めないのだ!

また、いずみちゃんが暴れます。

理性的に暴れます。

それが彼女の限界です。

「ところでさ、綱紀はあほな子は出さないの?」

下校時刻を過ぎた校舎の廊下を並んで歩きながら、いずみが問いかけてくる。

「出さないとか出すとか、どういうことだよ?」

「いや、そのままなんだけど。まだ生徒会メンバー全員の性格づけとか記述されてないじゃない?」

「確かに俺はこの小説の作者だが、この世界に存在している人間の既にある設定をいじる能力なんてないぞ!」

やっぱり、いずみと話しているとなんか頭の整理が追い付かない。そういうものだ、と思ってしまえばいいのはわかっている。そうなんだ、俺が作者とかそういうのに関係なく、この世界そのものが世界五分前仮説でできているのだ、とか納得すれば。よし、納得、納得…、

「って、できるかー!」

「そうかなー。隆哉なら、その問題解決しそうだけどなー。」

「あいつ、どんだけ信頼厚いの?」

「いや、綱紀が薄いだけ。」

読者の皆様、こいつに告白するなんて絶対やめた方がいいと思います。うん。絶対に。

「その文言に対する復讐なのに~。私、いい子だよ!」

「復讐ってのは、過去の因縁を清算する手段だ。未来のことを断罪するんじゃない。」

「その考えは古いね。何かをやらかすってことは、その因子を心に持ってるってことだよ?」

「時空警察かなんかか、お前は? 『サイコパス』のようなディストピアをお望みなのか?」

と、剣呑な話題になってはいるが、真実の可能性として面白いかもしれないと思う。それに真実と実益の奇妙な関係って結構深遠なテーマだと思うしな。

昇降口でおのおのの下履きに履き替えながら、誰もいないのをいいことに会話を続ける。

「真実ねぇ。そんなのあるの?」

と確かに真実を根本から捻じ曲げてるような異能の持ち主がそれをのたまう。

「いずみは真実なんてなくて、あるのは事実だけなんだから、それをとことん味わってればいい、って思うのか?」

「答えになるかどうかわかならないけど…。私が発狂しない理由ね。たぶん真実について思うところにあると思うわ。」

「因果関係には関与してないってことか?」

そう、いずみが完全に整合性を保とうと思ったら、自分の言動が原因となってもたらす結果を意識しなければいい。それは俺の考える可能性にあった。ただ、いずみがそもそも原因と結果というとらえ方自体をしていないのだったら、

「怖いと思う?」

「いや、復讐なんて言葉が出る時点で、お前は因果関係の虜だ。」

「あははは、意外と鋭いよね。知ってるけど。」

「こりゃ、柊にも話せない事実だよなー。」

「隆哉には話さないの?」

絶句する。こいつの質問は質問じゃない。だけど、俺がどんな選択をするか知っているけど知らない? それは…。

「重ね合わせの世界とか…。」

「そうね、私は綱紀が何かを選択するたびに、その都度、私の知っている選択をしなかった綱紀とお別れしてるのかもね。」

これが核心? いずみは俺の近くにいつもいるけど、常にいなくなってる存在?

「って、安易に結論出そうとするから、綱紀は薄いって言っちゃうんだよ。隆哉なら納得しても、気に入らなければさらに考えるよ。」

「俺の考えも、十分非常識なのに、それ以上を求めるのか?」

「綱紀が世界を大切にしてるのはわかるよ。うん、大切にしてほしい。私もここにいるんだから。」

「いずみがここで隆哉のことを話題にしたのって、意図的なことなのか?」

「んー、ごめん。私のことはあまり決めない方がいいと思う。だから私の心に質問しない方がいいよ。隆哉なら言うよ。整合性を持つ解釈はいくつもあるって。ただ、さっきみたいな悲しい解釈だって含まれる。それも認めたら(信じたら)真実。」

なんか、世界の深淵を覗いた気がする。そして、深淵からも覗かれているのもわかる。じわり…と汗がにじむ、程ではないが、

「そういう真実のとらえ方なのか?」

「読者さんにしてみたら、フィクションの世界でその設定の真実について真剣に悩む主人公とか、もう噴飯ものだと思うよ。あははは。」

本当に楽しそうに笑う声に、夜の漆黒はともかく、深淵は消え去った。そうフィクションだ。夢だ。ある意味、最強の解釈がそこにあった。

いや、だからと言っていい加減にこの世界を扱うわけではない。そういう認識ができるとしても、ここは俺が確かにここだけに存在すると感じている現実(生きる舞台)なのだ。夢オチ? それはいつかは死ぬ、ということと変わらないだろう。

「ほら、そうやって綱紀は読者さんを置いてけぼりにしてるんだよ?」

「小説家という種族が、とんでもない異才の持ち主たちであることはよく理解できた。」

「書きたいように書く、というのと、作品を創る、というのは全然違うことだね。私の彼氏さんになるかもしれないんだから、読者さんは大切にしてよね。」

「いや、作品を創るというほど、高邁な意志はないんだけどな。って、お前、誰でもいいの?」

作品を創る意志。ないかどうかで言えばあるし、ただ、あるを自覚できるほど自分を信じちゃいない。

「まあ、この小説が選択した読者さんなら、素敵だと思っちゃうんだよね。で、綱紀はあほな子はださないの?」

「この小説が書いてて楽しくなるような、あほな子がいることを祈ります。」

「まあ、今の綱紀なら模範解答に近いね。」



気がつくと俺たちは駅に着いていた。改札でそれぞれ向かう方角を違えながら、この小説のあほの権化(女神様)のような女の子が微笑みながら言う。

「じゃあ、また明日ね。」

「明日は開校記念日で休みだ。」

何でも知っているはずの女の子はなぜか驚いた表情をする。よかったな、お前にもそういう表情ができる余地のある世界(設定)なんだな、と無責任に感じた。

いつになったらコメディになるのでしょう?

とはいえ、仕掛けて笑わせるとか、私の趣味でも才能でもないです。



参考人物

#ニーチェ #エヴァレット #シュレーディンガー

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