≪1-06≫
再び季節はめぐりわたくしは11歳になりました
あれから相も変わらず家庭教師たちがわたくしの個人情報を余所様で駄々漏れしてくださるおかげでお茶会だのガーデンパーティだのの招待をいただいていたのですが、なんやかんやと理由をつけて逃げ回ったおかげで社交の場に出ることなく過ごしてきました
王宮のお誘いも以前のことがトラウマで・・・と涙ながらに訴えたおかげで春のお茶会は回避できました
ええ、春はね
ところがいつもは無いはずの秋のお茶会が開催されることになったのです
それというのも、秋薔薇の綺麗な新しい庭園と双子の第二王子と第一王女のお披露目をすることになったそうなのよね
春のときは2人が代わる代わる病気で寝込んで秋にまでずれ込んだらしい
そして、今回はお父様とお母様それぞれに王様と王妃様直々にお兄様とわたくしの招待状を渡されてしまったのです
もう普通なら前回の春のお茶会も断れないのに断ってもらっちゃったから今回は難しいみたい
直に渡されたときの王様と王妃様からの笑顔の圧力がすごかったらしい
「大丈夫だよ。今度は僕がずっとヴィーの傍にいてあげるから。」
逃げられないと悟ったわたくしの全ての感情をなくしたチベットスナギツネのような顔を見たお兄様が宣言して下さった
うん、ありがとう
今度は他の令嬢たちに絡まれないようにしないと・・・っていうか、本当は違うことで行きたくないんだなぁ
お兄様に守られたとしてもやはり憂鬱です
王城に行きたくない理由の一番は、王太子殿下フェリクス様の婚約者がまだ決まっていないからでもあります。
婚約者有力候補は、カトリーヌ様なのは変わらずで、王宮に何度か呼ばれている噂は耳にしますが未だに正式な発表がないのです。
罷り間違ってもわたくしは、フェリクス殿下の婚約者になりたくないのですからまだ決まっていない間はお城に近寄りたくないのに・・・
死亡フラグ回避したいですわ
「おや、お嬢ちゃん。暗い顔してどうしたかのぅ」
陰鬱な顔をして我が家の庭でしゃがみ込んでいたら、しゃがれた声をかけられた
「ボブ爺!」
振り向けば、腰が曲がった深い皺が顔一杯に刻まれよく日に焼けた肌の庭師のボブ爺がこちらを覗き込んでいた
レーヌ公爵家の最年長で降嫁した王女の曾祖母のころから働いているボブ爺
一体、何歳になるのか不明だが、彼の曾孫がもう20歳を超えているのよね
う~ん、腰は曲がっていても若いころはその四肢に筋肉がついていたであろうことが伺えるほどさほど萎れていない体つきの矍鑠とした爺だ
「お城に行きたくないってまた駄々捏ねたんか?」
ひゃっひゃっと楽しそうにシワだらけの顔で目を糸にして笑う
ボブ爺は、長生きしているだけあって何でも知っている
我が家のことは勿論、国の歴史でしかない出来事も経験者としての記憶がすごいのだ
だから、お父様も赤ちゃんの頃から知られていて、わたくし達に知られたくない事柄のひとつやふたつどころでなく知っているから、言葉使いも態度も失礼でなければ良いと許されてる人なのよね
あの、冷徹宰相のお父様が敵わないってボブ爺っどんな秘密知ってるのかしら
お父様の秘密、気になるわぁ。
「駄々なんて・・・あんまり気が乗らないだけですわ。王族の方に会いたくないですもの、はあ」
ボブ爺は、なぜか昔からシルヴィアも繕うことなく話ができる唯一の存在
だから、ついざっくばらんに話してしまう。
お父様やお母様に聞かれでもしたら悲鳴をあげそうだ。
「お嬢ちゃん、あんまり困ったことゆうちゃあいけんで。
ほうじゃのう、お嬢ちゃんがお城に頑張って行けるように応援しとるこの子らを見れるようにしちゃろう」
爺、方言がきつい。クセが強いんじゃあ!
まあ、爺はいつもこのしゃべり方だから馴れたものだけどね
っていうか、なになに?
「なあに?なにを見せてくれるの?」
さっきまでの陰鬱な悩みは何所へやらボブ爺が言った応援しているこの子らって誰のこと?
わたくし、もっとお友達がほしいですわ
「そうじゃのお~。こっち見てみい、ここにおる思うて耳もようすましてみい。ほれ」
そう言われて、真っ赤に咲いている綺麗なダリアに顔を寄せていく
すると、クスクスと鈴の音のような可愛らしい声が聞こえてきだした
そしてそれは耳元で聞こえダリアの周りがキラキラとしてきだした
よく見ると光の粒子のようなものが徐々に形をはっきりとしてきた
暫らくしてそれは掌サイズの小さなお人形のようで、光り輝くのは背中についている蝶のような羽
少し緑がかった色の光を放っている
「えええええ!!!なにこれぇ!!!!!」
侯爵家の広い庭園にわたくしの声が響き渡った
はしたないけどそのくらい驚いたのだから仕方ない
しかもダリアの花の周りをパタパタと羽を揺らして飛ぶ・・・これは、
「緑の妖精じゃ」
ボブ爺の自慢げな声
そういえばボブ爺の一族は平民ながら緑の妖精の加護をもらっていて侯爵家に代々庭師として働いているのよね
だから、ボブ爺が手入れをしている花々は綺麗に色鮮やかに咲いて樹木は立派で果物の木は芳醇で瑞々しい果実がなる
そうか、これが妖精かぁ
『ワーイ、オジョウサマダァ』
『アサヤケノオヒメサマトオナジメノオジョウサマダァ』
『キョウモキレイダネェ』
『カワイイ、カワイイ』
涼やかな音色のような妖精の声が聞こえる
「お嬢ちゃん、名前を妖精に教えたらもっと沢山の妖精が見えるぞ」
「そうなの!はじめましてわたくしシルヴィア・レーヌですわ」
ボブ爺にいわれて元気よく名乗ればクスクスと笑う声が其処此処でする
『ハジメマシテジャナイヨ~』
『ズーットミテイタヨ』
『ウマレタトキカラ、ハイハイモアンヨモミテタヨ~』
そう言って、空には鳥の羽をつけた妖精が近くの噴水から人魚のような姿の妖精が、庭にあるランプには硬質な赤い羽根の妖精が、太陽の光の中からトンボの羽をつけた妖精がたくさん見えた
その全てが掌サイズで可愛い
ボブ爺に教えてもらって妖精には種類があって、風の妖精は薄い水色の姿で鳥の羽を持っており、水の妖精が青色の姿に人魚のような尾ひれを持っている。火の妖精はオレンジの姿に蝙蝠のような羽があり、光の妖精は乳白色の姿にトンボのような羽を持っている
ある程度の魔力持ちなら姿は見えるようになるらしいけど、妖精の加護は魔力の有無に関係なく妖精との相性でもらえるものらしい
わたくしにも加護をもらえるのかしら?
そう思って見ていたら妖精たちがわたくしの頭のまわりを飛び出して光の粒子を散らして行った
なにこれ!わぁ、綺麗!!
キラキラした光の粒子はそれぞれの妖精が愉しそうに撒き散らしていた
まるでダンスを踊っているようにクルクル回って
『ミドリノカゴヲアゲルヨォ』
『カゼノヨウセイカラノカゴダヨォ』
『ミズノカゴモラッテェ』
『ヤケドシナイデネヒノカゴダヨ』
『ヒカリノカゴモモラッテモラッテ』
ええ!全ての加護をわたくしもらっちゃたの!
いいの、いいの?そんな大盤振る舞いで!
そんなに妖精って簡単にポンポン加護をあげちゃうものなの!
「ほぉ、全てからもらったかぁ。流石王女様と同じ瞳の持ち主じゃのう。お嬢ちゃんはこれから妖精にお願い事をできるようになったんじゃよ。だけどの、気をつけぇよ。いいこともわるいことも妖精は分からん。言われたことが面白そうならするんじゃ。悪いことにはつこうちゃだめでぇ。」
あら、そうなの?
そういえば物語では妖精っていたずらっ子みたいな書き方されるのよね。つまりはまだ善悪が分からないちいさな子供みたいなものかしら?
「精霊クラスになれば人間とは違うが秩序をもったものもおるがの」
ほんとう、ボブ爺って詳しいわぁ
もう爺って言うより仙人が近いかもしれないわね
っていうより、そういえば気になることが・・・
「ねえ、さっきから王女さまと同じ瞳って言ってるけどそれって曾祖母様のことなの?」
「そうじゃ、王女様の瞳はお嬢ちゃんと一緒で色がようかわってのう。夜明けの空のような色彩豊かな瞳をしとったんじゃ。ほいで全ての妖精といくつかの精霊から加護をもらっとった。お嬢ちゃんもそうじゃとおもっとったんよのう」
ふぉふぉって懐かしそうに笑って空を見た
わたくしもつられて見上げた
「空はのう色んな表情をしとる。夜明け時はとくにそうじゃ。いつか見てみぃ、濃紺から群青色、徐々に白々として緑とも黄緑のような不思議な色、日がみえればオレンジ、黄、光るような白と色が変わる
それも毎日同じじゃない
色合いも時間も季節によって違う
面白いじゃろ、お嬢ちゃんの瞳も王女様の瞳と同じじゃけえのう。
さあ、ワシは仕事にもどるかのぅ。お嬢ちゃんは頑張ってお城に行きんさいよ」
そう言って庭園の奥に仕事に戻っていくボブ爺の回りにも緑色の妖精がふわふわ漂うようについていった
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