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《2-40》

トキメキには理由はないんです。

普段と違う接触でドキドキしたとき、これは恋か?となる。

それに気づくが気づかないかです。


そんなかんじの話です

あれから、ハニーブロンドの派手派手令嬢をよく見かけるようになった。


城の中を移動中、授業の空き時間、調べものに訪れた図書館、その行く先々道すがらに、チリッとするような強い視線を感じ振り返るとそれ(悪意)とはっきりわかる感情を隠すことなく睨まれていた。


今はまだ睨まれるだけ・・・


だから、此方も何事もなかったように放置しておく。


実害もなく、周りには常に城から遣わされた女官が一人と侍女数名、シルヴィアが侯爵家から連れてきた一人、更には護衛騎士が常に一定間隔をあけて付き従っているため直接的に何かを言われたりされたりはない。

何もないので放置しておくほかないのが現状だった。


そしてハニーブロンドの令嬢の事もサラの調べで分かった。


カトリーヌ・オズボーン

以前よりシルヴィアと共に婚約者候補に名があがっていた侯爵令嬢。

オズボーン侯爵家は、外交に携わる家柄と言われていたが当代の侯爵当主様は外交要職についていない。上級文官として、城で王様の事務管理をされているはず。外交には侯爵家の親戚筋の方が担っているはず?

貴族の役職、勢力図というのは数年にさかのぼってみると面白いドラマがあるのでそこらへんが好きで覚えていた。細かいことはしらないが、先代にくらべて権力としては少し落ちている。

それでも、貴族組織の2、3番目の勢力として力は今も健在といわれている。貴族組織の第一勢力は勿論、断トツでレーヌ侯爵率いる派閥だ。


そのオズボーン侯爵家の令嬢カトリーヌさまだが、城に用もないらしいが日参している。


王族の私室が並ぶ区画の入り口周辺でよく見かける。

王族プライベートだけでなく、その周辺は外国要人の客室に割り振られることになっているから警備が厳重で騎士たちが廊下や周辺庭園にいるだけでなく、ひっそりと変装して警戒している隠密のような人もいるらしい。

これも最近、王妃教育で習ったが、誰がどこには婚姻を結ぶまでは秘密だとのこと。


うん、それがいい。


下手に知ってしまうと王家の秘密を知ったがために、婚約解消後にのんびりモブライフができなくなる。

というよりも解消ができなくなる・・・

一生懸命王妃教育をがんばってはいるが、その奥の深さに最近は少々焦りを感じている。

王妃教育でいい評価をもらう、⇒婚約解消後にも縁談に困らない。を想定していたが、これはもう淑女教育とは違ったものになっている。

最近では政治、経済を学びだしてから高校で学ぶ内容ながら数年前の実例で授業が行われる。先生とのディスカッションで行われるためいつしか熱中してしまいニホンでの公共事業の一例をポロっと口にしたことがあった。すると教師にはそれが意外な視点だったようで次回の会議に提案したいとまで言われて草案を作ることになり、さらにそれが会議で通り試しにとある中規模領地で行われることになった。

結果は、五分五分。利益に対して損益は出ていないがそれにかかる説明、整備に手間がかかったとのこと周知されるまでは混乱もあるかもとのことだ。

もともと法整備されたニホンだからできることも多いというのに、いきなりその枠にはめようとしてもうまくはいかない。

物語で綴られているような政治チートは、確たる知識と人を率いていくカリスマ性がないとうまくいかないらしい。それからは、この世界の状況をきちんと理解できるまで不用意なことは口にしないことにした。

そんなわけで王妃になると言うことは、自分の発言でどうなるのか一端を垣間見れた気がして空恐ろしくなった。


できれば王妃になりたくない。


急にその重圧が現実を帯びて、それを背負うにはあまりにも自分は未熟者であると思う。


今は高位貴族の令嬢とはいえ、中身は平均的な一般ピーポーなわけです。

しかもちっちゃい肝の小心者が、国の行方を左右する立場に立つなんて・・・


・・・・・・ムリ


ですね。


そりゃ、誰かが助けてくれたり助言をくれたりして支えられることだろうけど重圧が・・・


『失敗しました、テヘペロッ』で済まされないわけで・・・


辞退を希望します!



ということで、王太子の婚約者という座を奪いたいと言うのなら喜んで差し上げたいのが本音です。

がっ、それでカトリーヌ様をつかまえて言う訳にもいかず、ましてや向こうからは何も言われていない今のこの状態は膠着状態では何もできず、ただ睨まれているだけでもやもやしたした気持ちを抱えたまま過ごしていた。





「ガーデンパーティーですか?」


それは、王妃教育のなかでのことだった。


「そうなのよ」


そうして、正面に座ってゆるりと微笑むのは、王妃様。

何時もの何日かに一度の茶話会でのこと。

いつもならば、授業の進み具合を確認するような会話と王妃自ら教えてくれる事柄で会話が進めれていたこの時間にその話が出た。

「フェリクスの12歳の誕生日、それに貴女の誕生日ももうすぐでしょ?

12歳の誕生日は、とても重要なのよ。

魔力壺の解放はもちろんだけど、12歳から大人に一歩近づくのよ。

男の子ならば将来のために親について自領の運営を習ったり騎士団に見習いに入ったり誰かの師事を受けることができるの。女の子なら保護者を同伴せずにお茶会に参加をしたり自ら主宰をしたりするわ。マナーの勉強が終了したとしてレディの仲間入りをするの。

貴女にはその第一歩として、フェリクスの婚約者として誕生パーティーを開いてほしいのよ。」


王妃様曰く、誕生パーティーの日取りもきまり招待状も送付済みとのことで後は、パーティーの細々とした準備が残っているだけらしい。

それをすべてシルヴィアに任せるとの話だ。


「あの・・・王妃様。」


「今までの勉強の成果を出すいい機会だわ。

頑張ってね。」


無邪気そうなのに妖艶にも見える微笑でそう言われてしまえば不安を口にすることはできない。


「・・・はい、ガンバリマス。」


抑揚なく口から出た声は前向きだけど、細い両肩にのしかかる重圧で潰れそうだった。



・・・王太子殿下のお誕生日パーティーを仕切るなんて



小心者のシルヴィアの胃がキリキリと先を見据えて先走りした痛みを訴える。



・・・・・・失敗したらどうしよ~~~



硬く俯くシルヴィアを心配そうではあるが、それでも黙って見守る母の様に優しく見つめる王妃。

自らも歩んできた道。

これからの困難の第一歩になるであろう、今回のパーティー。


大人がいない、同世代ばかりの招待客になっているその中でシルヴィアが受けるであろう洗礼を思い心苦しくなっていた。


─────どうか、くじけないで・・・


何処までも優しく、不安を顔に出さずに見つめ冷めきった紅茶を口にする。



・・・だれか、だれかぁぁぁぁぁ!!!


口に出すことのできないシルヴィアの心の叫びは王城に集まる妖精たちの耳には確かに届いていた。






ガーデンパーティーと一口で言っても規模は大小ある。

今回のパーティーは、王太子フェリクスの誕生祝の会になるのだから規模は言わずと知れた大きなものとなる。

招待客も伯爵位から上位の10歳以上のデビュタントを迎える15歳前後の令息令嬢となっている。

第一目的は、フェリクス殿下の誕生日の祝いを寿ぐために集うこと、同世代の国の高位貴族として将来一緒に国の主幹となって働くであろう子息たちとのパイプを繋ぐため、まだ婚約者がいないものは出会いを、もうすでに決まっているものはエスコートすることで周知することなど一言で言えないくらいの効果をもたらす。

一応12歳に満たしていない年齢の子供たちは保護者同伴で参加だが、親たちは会場近くのサロンで寛いでもらうことが慣例だ。勿論そこの手配も準備に入る。

大人たちがいない、子供ただけでのパーティー。決まった形式はあるが、多少の自由は利く。その自由の枠でどのように参加者に楽しんでもらうか・・・

さすがに、みんなで輪になってハンカチ落としなどして遊ぶわけにはいかない。

前世の子供のお誕生会ではないのだから・・・

黒ひげ危機一髪なんてのも駄目よね・・・


音楽はBGMとして手配するが、舞踏会と違い踊ることはない。

15歳になって初めてデビュタントで異性のエスコートで踊る・・・

15歳になれば夜会のたびにフェリクス殿下と踊ることが常になる・・・


ペンを持っていないほうの手のひらをじっと見つめる。


細く小さな手のひら。

柔らかく白い肌質。


小さなこの手を軽く握った少し大きな掌。

硬く厚い掌にシルヴィアよりも日に焼けた肌。

手入れもされているから肌理が細かい肌質だが、男女の差は歴然で思いのほかたくましかった。

支えられて踊ったあの時間は、素晴らしかった。

後になって反芻するごとに胸がじんわりと温かくなる。


楽しかったなぁ・・・

また、って言ってくれたよね・・・


気が付くと胸がほっこりとして口元が綻んでいた。


フェリクス殿下の為にもがんばりますか!


温かくなった胸をそっと無意識に触れて思考を戻す。

ペンを持つ手を握りなおして箇条書きした紙に向きなおる。



「会場で出す料理に飲み物、デザート、あっ、ウエルカムドリンクの手配もいるわね・・・あとは、大人たちの会場も・・・、メイン会場の飾りつけに・・・殿下のお祝いに来られるのが第一目的なのだからそこも考慮しないと・・・、近い年齢の、ってことは・・・将来的なことを思えば人材発掘の場にもなるのよね・・・」


自室で紙に『やるべきこと』を書き出していく。

白紙の紙は、箇条書きにいくつもの項目が日々足されて書いた本人しかわからないような様相だった。

しかし書いた本人は、書き足していくうちにビジョンが見えてきだしたのか、小さく口に出していた声がなくなりカリカリと紙をひっかくペンの音しかしなくなっていた。


予算は、かなり潤沢に用意されているって言われているから・・・

イメージは・・・お披露目というと・・・披露宴のような・・・


「・・・たくさんの令嬢も来るわよね。


なら、もしかして・・・」


招待客リストを見ながら思いついたことは、婚約者のいる者が考えることではない。

が、一度たどり着いた思考は戻っては来なかった。


以前にも考えていたではないか・・・

ヒロインのマーガレットはここにいる・・・

母親が生きている変わったシナリオでどのような強制力が今後働くか見当もつかない・・・

最悪、悪役令嬢として働かないシルヴィアに排除なんてことが・・・

ならば・・・

悪役令嬢の・・・


リストには伯爵以上の家格の子供たちの名前。

カトリーヌ程行動的でないが淑女として申し分のない令嬢で、フェリクスと相性の良い子がいるかもしれない。


まだ傷は浅い。

今の段階ならば白紙ということで、婚約者から外れるかもしれない。


頭の中に浮かんだのは、まだ見ぬ麗しき令嬢の手を取り微笑むフェリクスの姿。

剣の稽古で硬くなった手のひらは、他の誰かの手を取る・・・


チクッとした痛みが一瞬どことなくしてはっとした。


思わず痛みを感じたと思われるところに手を当てるが普段と変わりはない。

気のせいだと思いなおして、計画を練る。


「・・・マーガレット(ヒロイン)でもない、シルヴィア(悪役令嬢)でもない、誰かと仲良くなるきっかけになれば・・・」


小さく出した声。

誰かに聞かせるものではない。

一人きりの室内に響かないほどの声。

まるで自分に言い聞かすように・・・


「わたしには、・・・無理だもの。

きっと、誰か殿下と仲良くなる人がいるはず・・・」


物語の様に断罪されるのは怖い。

断罪されなくても、王妃になる覚悟はない、怖い。

レーヌ家に迷惑なことにはなりたくない。

でも、友達ならいいよね・・・


フェリクス殿下に恋をすることはないもの・・・




・・・・・・恋しないほうがいい





たどり着いた考えが浮かんだとき、締め付けるような痛みがはしる。

おもわず其処を手を当てるが普段と変わりない。

気のせいかと手をはずし、机に向かう。



シルヴィアは気がついてなかった。

図らずともじんわり温かく感じた場所と痛みを感じた場所は同じだった。



小さな胸は、膨らみ始めた気持ちにシグナルを出していた。

読んでくださりありがとうございます

シルヴィアの気持ちを見守ってもらえると嬉しいなぁ。


どこかではしょってます箇所の視点違いを入れるつもりです。

シルヴィアとフェリクスがじわじわ仲良くなるのを別視点で生暖かく見守りください。


いつもいつも、感想に☆評価、誤字脱字報告ありがとうございます。

励みにしてがんばります

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダンスでフェリクス殿下とやっと距離が縮まったと思ったけれど、まだまだ道は長いですね。 じわじわ距離が近づいてはまた離れていく二人…。 恋心をうっすら自覚しかけて自ら蓋をしちゃう展開、切ない…
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