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《2-37》


広間の頭上には灯りがともされていないシャンデリアが埋めつくしている。

これが夜ならば、魔力を通して眩いばかりの光を放ち、幾何学的な模様を描いたタイルに夜空に広がる星屑のような光で更なる複雑で美しい芸術的な空間になっていただろう。

そこに、美しく着飾った紳士淑女が集い心踊るような音楽と見た目にも美味しい料理たちが揃えば、立派な夜会が開ける。


しかし、今は昼間。


大きく切りとられた窓からは陽光が入り、シャンデリアの役目はなく、音楽の代わりに乾いた手拍子、さらに広間中央には、小さな未来の淑女が一人何もない空間に誰かを想像してポーズをしていた。


「はい、そこまでにしましょう。」


一定リズムを刻んでいた手拍子を打っていた、ほっそりとした白髪の男性が中央で踊っている未来の淑女に声を掛ける。


「はいっ!・・・ありがとうございました。」


ポージングを崩してまっすぐ立ち、両手でドレスをつまみ膝を折って綺麗なお辞儀をする。

最初こそ、勢いよく振り向き教師の眉がピクリと動きはしたが、気が付き改めてしたお辞儀の美しさに満足気にうなずいた。


「レーヌ侯爵令嬢。最初に比べると立ち姿といい踊るときも軸がしっかりしてきています。

これならば、もう少し早いステップもできそうですよ。」


「ありがとうございます。先生のご指導のおかげですわ。

まだ不安定なところもありますので、もう少しこのまま続けたいです」


にっこりと微笑を浮かべて教師にこたえる。

シルヴィアとしては、苦手なダンスで褒められることが増えたとはいえそれは最近。

以前はリズム感がなく、端的に言ってドがつく苦手、下手だったと自覚している。

折角ならば、気分がいいままもっと体に覚えこませてから次のステップに進みたいものである。


「そうですか・・・。そうですね、その謙虚に挑まれているところもイイですね。では今のところを完璧にマスターできるようにしましょう。」


教師にもその気持ちが伝わったのか、無理に次に進むことなくシルヴィアの意をくんでくれた。

リズム感が下手で体でステップを憶えても、音楽が流れると途端にへたくそになる。

これを本当にどうにかしたい。

最近では自室では、ダンスに使われる曲を蓄音機のような魔道具で四六時中流すようにしているのだが効果がどれほどなのか。いつか試してみたいが、踊りとなると誰かにペアを頼む必要がある。

今はその誰かの足先を犠牲にする勇気が無い為できないでいる。

愛しのお兄様の足は踏みたくない、お仕事でいつも忙しいお父様も然り、ギルならいくらでも踏んでいいと思うけど村の祭りの時にしか踊ったことがないから貴族様の踊りなんてしらないと逃げた。

サラが相手をしますよと言ってくれたのだが、サラにはいつもお世話になっている、そんな無体なことはできない。


教師からの注意点に耳を傾けながら、そんなことを考えていた時

にわかに外が騒がしく感じた。



「あっ、殿下。」


ざわつく広間の出入り口に目を向けた教師の声に、そちらに顔を向けるとそこにはキラキラとした金髪を煌めかした王子様、フェリクス様が立っていた。


王子様のお越しだぁ。

昼間だから、シャンデリアに明かりは灯されていないというのに、そこから光を放っているかのようにキラキラ輝く王子様。

王族の白に金糸の刺しゅう入りの上着を脱ぎ腕にかけた状態で、扉に手をかけてこちらを見ていた。

グレーのシャツにウェストコートをきたラフな格好をしている。


あわてて教師と共にお辞儀をする。

それに手を挙げてカツンッと靴音をタイルに響かせて中に進み入ってくる。



「畏まらないでくれ、・・・通りかかっただけだ。

シルヴィア申し訳ない。邪魔をしたか?」


「いえ、そんな、気づいたことのおさらいを話していただけです。」


よく見れば、その後ろを護衛騎士と共にオスカー様も一緒についてきていた。

白に青の騎士服は、近衛騎士団の制服。近衛騎士は王族の護衛騎士でもあり若くて背の高い騎士が付いてきていたがその騎士は入り口に控えていた。オスカー様は騎士服とは違うがそれに似た服装でフェリクス様の後をついて室内に入って来た。


「ごきげんようフェリクス殿下。」


当たり前のようにシルヴィアの前に立つ。

週に2度の授業の後のお茶会も短い時間ながら少しずつ会話ができるようになっている、と思う。

名前を呼んでもらえるほどには・・・。

最近は頑張ったもん。

陽菜ことサイラス様とキャサリン様のアドバイスをもらったりして、地道に会話が続くようにがんばったもん。

返事が短くたって、バッサリと切り捨てられた返事を貰っても笑顔を絶やさずがんばったもん。

心が折れそうになったり、胃痛がしたり苦難を越えて仲が良さそうに見えるまでがんばったもん。

はぁ、誰がに誉めてもらいたい。

サイラス様曰く、まだまだってすげないけどこうして目に見えて対応が柔らかくなってきたら頑張った甲斐があったというものね。


「レッスン中だと言うのにすまない。ちょうど通りかかったからね。」


「いいえ、もう終わりでしたので大丈夫です。」


最初の頃にくらべれば、目も合わせてくれるし会話も成立している。

まだ少し緊張はするが、周りに気取らせないくらいには柔らかな微笑みを浮かべることができて、王妃教育がきちんと身についてきだしていると実感する。

幾分か前に噂されていた殿下との不仲もなりを潜めてきた、と思う。

実際に教師も、広間の端に控えている侍女やサラも会話する私たちに優しい目で見ている。

努力は実を結ぶ。

このまま仲がいい友達ぐらいがちょうどいい。

もっと、がんばろう!


「そうか・・・」


殿下の声も優しくなった、と思う。


私はダンスのあと、乗馬のレッスンでおわる。そのあとは恒例のフェリクス殿下とお茶会だ。

今日は、このあとの乗馬のことでもはなそうかしら?




「そうです!」


そうして思って他愛のない会話を殿下としていると、教師の高らかな声が広間に響いた。


「殿下、今お時間がいただけるのでしたら一度侯爵令嬢と踊ってみませんか?」


何事と思って聞いていると、興奮状態で教師がひとりいいこと思い付いたとばかりに満面の笑顔でフェリクス殿下に提案してきている。

それに二人揃って、はっ?となに言ってんの?といった顔で教師を見るが、興奮ぎみな教師は気がつかない。


いやいや、踊ってみないかって?


ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ・・・


やっと最近人並みに踊れるようになったというのに、しかも練習とはいえ誰かと踊るなんて・・・

侯爵家で家庭教師のレッスンのときに、お兄様と踊って何度足を踏んだりしたことか。

もう優しい、お兄様だからこそ笑顔だったけどフェリクス殿下となんて、まだハードルが高すぎる。

どうもしなくてもこのままいけば、15歳の夏の『星逢祭』でデビュタントを迎えるときに踊ることになるのだから無理に今踊らなくてもいいと思う。それまでに醜態をさらすことなく、相手に怪我を負わせることなく不快な思いもさせないようにとにかく練習あるのみ!そう思って頑張っている最中なのに!!!


「侯爵令嬢は、いつも一人でステップの練習をしていますが、ダンスはペアで踊るものです。

教えている方としましてもいくらステップが踏めても2人揃っていないと完成ではありません。ぜひっ!お願いします。」


教師の常にないようなキラキラとした顔で嘆願されるフェリクス殿下。


って、私の意思はガン無視ですかっ!?

殿下の足を踏みつけて、数年後に積もった恨むつらみで断罪されでもしたらどうしてくれるというのですか!!!

これが強制力?

悪役令嬢が攻略対象者と仲良くするなってこと?

ここまでコツコツと数ヶ月地道に築いてきた関係を御破算しろと?

ひどい!!!


私の努力が・・・


こうなったら、殿下が断るのを期待するしかない。

ないんだけど、目があった顔が、戸惑いと諦めとそれとはちがう、頬を染めて・・・なんだか、なんだか、そう良いように言うなら、なんだか嬉しそうにも見える?嬉しそうに見えるのは私の願望かもしれないけど、それにしてもかなり高度な複雑な顔をしている。


「・・・っう、まあ、今は時間があるから・・・、いいだろうか?シルヴィア・・・」


教師の勢いに押されるように、高度な複雑な表情を隠しきれないままこちらに手を差し出してきた。

本当に言う通り、通りかかっただけなのだろう、ダンスを踊るとき手袋をすることが常識だが今はしていない素手だ。

突然言われたにも関わらず、戸惑ってはいるが嫌そうにしていない。寧ろ嫌そうどころか嬉しそうにも見えなくない高度な複雑顔。

ここでシルヴィアが否といえるはずもなく。

私はまごうことなき戸惑った本心を隠して微笑を浮かべる。


「では、よろしくお願いします。」


そっとを掌をのせた。


ちょっと頬が色づいているのは、緊張のためか恥ずかしさのためか。



このダンスの結末や


仲良くなりつつあったボルテージが下がるイベントか?!

はたまた逆転、爆上げイベントか?!



私の胃が神経痛をおこすことがありませんように







読んで下さりありがとうございます。


ブクマ・☆評価ありがとうございます。


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