《2-36》
随分と久しぶりでございます。
お助けキャラとは
ゲームに於いて、ミッションクリアや攻略の為の知恵や助太刀をする読んで字の如くそのまま、主人公を助けるキャラクター。
“君が為の花束を”の中で、
アレックスルートでは、ボブ爺などと各攻略者に一人づついる。
ジルベルトルートでは、ダリヤ王女様。
オスカールートでは、次兄クライブ様。
ブライアンルートでは、父親、魔術師長。
ニコラスでは、尊敬する先輩、宮廷画家見習い。
と、それぞれにいる。
お助けキャラに遭遇する場所はそれぞれの職場なのだが、このゲームでは会いに行って助言をもらうことでわずかだが攻略対象の好感度が上がる仕組みになっている。だからなのか、空振りをすることも多いのがこのゲームの意地悪なところ。
さらには、簡単に攻略できると定番のメインヒーローフェリクスは、お助けキャラは存在しない。
特に必要もないから要らないのだろうというのが、ユーザーのほとんどの意見だったが、如何せん周回を重ねるごとに攻略難度が上がるものだから、その頃になってなんでいないんだぁ~っと多くが嘆いていた。ちなみに私もその一人だ。
勿論、サイラス様はお助けキャラではない。
トラウマ作りのサブキャラ、モブキャラといったところだ。
もっと言えば、悪役令嬢にお助けキャラなど存在しない。
どこの世界に作中の嫌われ者、悪役の為にお助けするキャラを作る物好きな人がいる?そんなクリエイターがいたらかなりの変わり者だ。
まぁそれは置いて、悪役令嬢シルヴィアのお助けキャラとは如何に?
「そうねぇ、なにからしようかなぁ」
目の前のサイラス様こと中身、陽菜は指を顎に付けて考えるかわいらしいポーズをするがやめてほしい。
がっつり筋肉の塊のような男性がするポーズじゃない。
キャサリン様の冷めた視線が気にならないのかカラカラ笑ってる。
「まずはこの世界で、とっても素敵な恋をしてもらおうかな?」
パチンっと大きくおどけてウインクするがその仕草よりも言動がきになるわぁ。
「だ、か、ら、そのためにも特訓しなきゃね。」
恋をしようという言葉にどうすればつながるのか知れないが、特訓とは如何に?
恋に特訓なんて聞いたことない。
何をするつもりなのか・・・
「んじゃ早速、走り込み開始しようか。」
そう切り出して恋愛への道という名の護身術の、特訓が開始されたのだ。
陽菜曰く、私はゲームからはずれることに熱心でせっかく美少女令嬢としての容姿をほったらかししすぎだと言われた。素材のいいシルヴィアという美少女を活かさないわけにはいかないと拳を突き上げられた。
中身がいくら地味っ子だとしても、それはすでに前世での話。今は今だと熱弁を振るわれた。昔のスポコン漫画に見る目に炎が描かれている如く。
そんな状態で、頷く以外のことができる人がいたら会ってみたい。
引きつる口元を隠すことができずに、曖昧な笑顔で頷くしかできなかった。
◇
「あらっ?おかえりなさい。シルヴィアさん随分と逃げ足が早くなりましたね。」
「キャサリン様ぁ~、今日も階段手前で捕まっちゃいましたぁ」
サイラスの小脇に荷物のように抱えられ、スタートであった室内にはいると甘い香りと柔らかな声に出迎えられた。
スタート地点の温かく日が注ぐサロンには、甘いミルクの香りと眠くなりそうなほんわかした空気に包まれていた。実際に付き添いで来ているギルは立ったままうつらうつらしている。職務怠慢と後で爺に報告をしておこう。
そんなポカポカ陽気の室内のロッキングチェアーに座っているキャサリン様の腕の中には小さな赤ん坊がいた。
1か月前に生まれたばかりのサイラス様とキャサリン様の子供。
ふくふくとふっくらした頬の愛らしいお嬢様、デイジーちゃん。
オルグレン家は、ここ何代か男児しか生まれてこなかったらしく、久しぶりの女児に強面騎士団長様もとても人には見せられないようなスライムのごとく蕩け切った顔をして抱いているところを見たことがある。
あれは外では見せてはいけないと思う。国の防衛を担う騎士団長のあの顔は、警備が危機的状況になりかねないほどだと思う。
強いていうなら、魔除けの般若面が夜店で売られているキュアキュアなお面に変えられていたくらいに腰砕けに防衛力がおちる。
しかし、そのくらい可愛らしいのだデイジーちゃんは♪
オルグレン家の特徴の真っ赤な髪をしている。やっと1か月でほとんど寝ているのであまりお目にかかれないが起きているときのつぶらな瞳はキャサリン様のような青緑色でキラキラと輝いていてもう、天使のよう。
「キャサリン様、あっ、デイジーちゃん起きてるんですね。」
室内にはいるとすぐにおろされるのもいつもの事。
小脇で運ばれる今日はましな方、ひどいときは俵担ぎで運ばれる。
誰かに見られでもすれば、眉をひそめられるようなことだが幸い特訓は、サイラス様とキャサリン様たちの私室が近い3階のフロアなので心配はない。
たまに伯爵夫人とすれ違うが、「まあ、元気ねぇ」とほほえましい目で道を譲られている。淑女としてどうなのかと眉を顰められるどころか、侯爵家には秘密にしてくれている。お母様と仲が良いからバレたらとビクビクしていたが楽しそうに秘密にしてくれているから助かっている。
実際にこの訓練はどうかと思うけど、この世界に生まれてから思いっきり体を動かすことなんてなかったから慣れてくると本当に楽しい。
頭を使うばかりの座学の授業や精神的に緊張を強いられる社交の授業の中にたまに入る、この時間がいい気分転換になっていた。
それもこれも、体を存分に動かすこともさることながら癒しの殆どはかわいいデイジーちゃんに会えるからだ。
強面筋肉大男が笑顔で美少女と鬼ごっこをすると言う、端からみれは可笑しな訓練も喜んでしまう。
そして、この訓練が何故に護身術なのかとサイラス様に問えば、
「そんなさぁ、前世でも今世でも武器なんて持ったことのない人がいきなり剣を持って戦えるわけないでしょ?
前世でも刃物といえばカッターか包丁しか握ったことないでしょ?
今世なんてどうよ?深窓のお嬢様なんて言われて、握力なんてないでしょ?そんな状態で戦えるはずない。まずは体力つくりと、逃げ足の訓練ね。とにかく貴女は無理に戦わない。むしろ“逃げる・隠れる・待つ”をする。敵から逃げる・逃げたら隠れる・助けが来るまで待つ、これが大切。
護身術は、戦うだけじゃないからね。護身というだけあってその身を護る方法だから、逃げることも卑怯じゃないんだから、堂々と逃げなさい。大体、丸腰が当たり前の令嬢に何かしら仕掛けること自体が卑怯な行為なんだから命がかかってるときにそんなの気にしないで身を守ることを最優先に考えること!」
と力説された。
ソーデスネーとしか返事ができなかった頃が懐かしい。・・・そんなに経っていないはずだけどね。
「はい、それじゃあ今度は腕力強化の訓練ね。」
キャサリン様はそう言うと、立ち上がりスッと差し出してきた─────それに両腕を向けた中におろされた柔らかく大切な存在。
「は~い」
「あう~」
愛らしい笑顔で腕に負荷をかけられてのはお餅のようにふっくらとしたほっぺたを持ったデイジーちゃん。
まだ首は据わっていないが体格の良いオルグレンの家系故なのか、女児で柔らかいのにどこかしっかりとしている赤子のデイジーちゃんは、シルヴィアの腕力強化の訓練と称して抱っこでゆらゆら運動を眠るまでするということを最近追加された。
本来ならば、大切な愛娘を訓練の一環に使うなどと、恐縮と共にもしも落としでもしたらという恐怖で辞退をしたり変更を申し出たりしたのだが2人が頑として譲らなかった。
落としてはいけないからこそ真面目にするし、腕だけでなく全身を使うからと言われた。
危ないときはきちんとフォローするから大丈夫だといわれればなにも言えず今に至る。
最初こそ、カチコチに固まって全身に力が入ってからくり人形のような不自然な動きしか出来ずにデイジーちゃんが直ぐにぐずって泣かせてしまっていたけど、今では徐々にコツをつかみ無駄な力を入れずに腕だけでなく全身で長くデイジーちゃんを抱っこできるようになっていった。
といはいえ、デイジーちゃんは砂袋とかでなく日々成長していっているのでその重みも増していっている。なかなかの重量級の赤子だ。きっと筋力もついているだろうな。
「デイジーちゃん、今日はご機嫌ですねぇ。可愛いお目目がキラキラしてるいいことありましたかぁ?」
今日はご機嫌で起きているともあって、ニコニコと目を合わせておしゃべりができるほどにもなった。
それに「あ~」とか「だぁ~」とかいう喃語にもならない声で答えてくれる。
体重が重くなったデイジーちゃんの成長と共に私の寝かしつけスキルも成長したのか暫らくしたらその会話も無くなる。
さらに暫らくゆらゆらゆれていると思いのほか、今日は早く寝てくれた。
すやすやと寝息をたてだした、デイジーちゃんの様子を部屋の隅で様子を見ていた乳母が頃合を見てシルヴィアから受け取り子供部屋に連れて行った。
「いや~、足は相変わらず遅いし走ってんだか歩いてんだか分からないほどで全然成長しないのに、デイジーの抱っこは直ぐにプロ並みに成長したよねぇ。」
「そうですね。腕力というより体幹でしょうか?全身の芯がきちんと通るようになったとおもいます。デイジーが動いても状況に合わせて安定した腕の使い方をしていますし、すごくいいですね。これで体力が付けば言うことも無いでしょう。」
デイジーちゃんの退出後は、お茶をいただいくのだがサイラス様の言い方っ!
キャサリン様はいつも褒めてくれてから、課題を指摘してくれる。デイジーちゃんのあやしかただけで無く、キャサリン様からは逃げ方のコツも教わっている。
実践できているかはともかく、分かりやすい指導にここ最近では前よりも動けるようになったと自負している。サイラス様には、認めてもらえていないけど・・・
「キャサリン様の指導のおかげです。」
だから、嫌味もこめてキャサリン様だけに感謝を述べる。
それに呆れながらもにやにやしながら何も言い返してこないのがいつものこと。
「まあ、キャサリンのほうが教え方が上手いのは同意するけどね。」
そして結局、のろけられるのだ。
まるで二人だけの世界のように、キャサリン様の肩を引寄せて密着してデレッデレなサイラス様。
恥ずかしがるキャサリン様なんて素知らぬ顔で隙あらばイチャイチャしようとするので目のやり場に困ってしまう。
しかし、どうやらこれも特訓というらしい。
仲睦まじいカップルを手本にせよ!
「でっ、どうだ?
あれから殿下と進展はあったの?」
サイラス様曰く恋愛は見たり読んだりするものじゃない!
体現してこそ、そのときめきを味わえる。
だから前世のことは、一旦忘れて貴族令嬢として憧れである王子様の婚約者としてがんばれといわれた。
それと同時に、お互い会ってもなるべく前世のことには触れないようにしようということになった。
まずは、名前から今のお互いの名前と立場で話すことを心がけている。
私はそれよりサイラス様の時々混ざる女言葉をやめてほしいけど・・・
それはいいらしい。
解せぬ。
まあ、前世でのことはいいとして、フェリクス殿下のことだよ・・・ね。
「あぁ、うん、まぁ、前よりは、会話ができるかな?たぶん・・・・・・悪くはなってないと思うよ・・・、多分」
私の曖昧な返事に2人は、サイラス様はため息キャサリン様は苦笑いで察してくれた。
「私、わたくしだって努力していますけど、なかなかうまくいかなくて・・・」
サイラス様に言われてからあれこれがんばってはいる。頑張ってるはずなんだけど、全く成果がない。
何がいけないのかわからない状態で辛いよぅ。
「まぁ、頑張ってとしか言えないかな?
そういえば、もうすぐ殿下もシルヴィアも12歳の誕生日よね。」
そうなのだ、フェリクス殿下の誕生日の後、今度はシルヴィアが誕生日を迎える。
これは公式プロフィールにもあって、
フェリクス殿下はゲーム開始の前日、4月7日。
シルヴィアは、それから数日遅れ20日なのだ。
だからゲーム開始直後は、シルヴィアはフェリクスに誕生日プレゼントをねだり付きまといヒロインとの衝突も多かった。
まさしくスタートダッシュと言っていいほど最初のイベントのすべてがシルヴィアからの嫌がらせによってゲームの好感度が上がっていた。
それはさて置き。
「12歳の誕生日というと、魔力解放の儀式がありますわね。」
キャサリン様が微笑んで言われる通り、12歳をむかえると魔力解放の儀式がある。
解放と一緒に属性鑑定もされる。
魔力壺=魔力量になるからそれも確認される。
一足先にひとつ年上のアレックスは、昨年、すでにすんでいる。
詳しくは分からなかったが、教会か神殿の儀式用の小部屋に入り出れば終るとザックリ教えてもらった。
本当にザックリすぎて、ある意味不安しかない。
「魔力量よりも属性がわからないのがねぇ。」
お兄様の属性は教えてもらった。
個人的に魔力属性を教え合うのは、家族など親しい仲だけ。
一応父と母の属性から考えると風か緑だが・・・
アレックスは、風と水だ。
公式と一緒だけど、水は両親にないから、祖父母あたりからの隔世遺伝かな?
そうなると属性は無限に広がる。
何せ王家の血筋の曾祖母のことがある。なにが出ても不思議ではない。
「開いてみるまで分からない、宝箱みたいなものね。
まあ、案ずるより産むが易しというでしょ。
魔力についても、殿下のことも案外気楽にいたらな~んてことなかったぁってなるかもよ。」
他人事だと思って、サイラス様のお気軽発言に半ば呆れながらもそうならいいなぁと思った。
本当にこのまま、穏やかに過ごせるように切実に・・・
読んでくださりありがとうございます。
繁忙期の落ち着かない中、コロナ対応で心身ともに余裕がなくこんなに間が空いてしまいました。
すいません。
できるだけ週一更新を頑張れたらなぁと思います(希望)
次回からやっと恋愛らしい話が書けそうです。
ジャンルが恋愛なのだ、ときめきが欲しい。
頑張れ!頑張るんだ!