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《2-35》

毎度毎度のことながら、誤字脱字チェックありがとうございます。

「また会えて嬉しいわ。


瞳」





・・・瞳?



・・・・・・・・・あっ、私の名前だ


なんで忘れてたんだろ?


なんだか、色々大切なこと忘れてるような・・・



ああ、なんだか体の中を清涼な風が吹いてくる感じ・・・





その言葉を聞いた瞬間に頭の中を覆っていた何かが、強い風に霧が晴れるかのようにサーっと引いて行った。

引いた後にやってくるのは、膨大な記憶。


9歳の王城でフェリクス殿下たちの話を立ち聞きして蘇った前世の取り零した記憶だけじゃない。

幼いころの朧気な記憶も一緒にやって来た。


そこには、無邪気に初めての他家のお茶会で浮かれて、年が上の令嬢令息が遊んでくれていた。実際には、筆頭侯爵家宰相の愛娘のシルヴィアと仲良くなって、あわよくば何かの利を得ようと子供ながらに打算的に近いて機嫌を取っていただけなのだが。今ならば、それとわかるが、まだ3歳と幼く世間の悪意に触れたことのない無垢なシルヴィアは純粋にみんなシルヴィアが好きで好意を持って接してくれていると思っていたのだ。

そのうちメイン会場から少し離れた、大人たちがいるエリアから死角になる場所にいた時に事件は起こったのだ。

それまで優しかった周りの子供たちが、一人の発言を封切に口々にひどく罵りだしたのだ。


『変な目』


『やだ、また色が変わった!』


『呪われた子供じゃないか』


『魔女だろう?』


『怖~い』


『気持ち悪い』・・・・・


悲しいが前世を思い出した今ならば、受け流しやり過ごすことができる悪意だが、まだ3歳だったシルヴィアが受けた衝撃は相当だった。


いままで蝶よ花よと屋敷の中で家族、使用人に愛されて否定されたこともなく、ましてや悪意などシルヴィアに向けるだけでなくそんなもの存在しないと言うような優しい、幼く狭い世界しか知らないシルヴィア。


『シルヴィアの瞳は、王女であったおばあ様の稀有で貴重な瞳と一緒なのよ。もって生まれたことを誇りに思ってそれに相応しい淑女になりなさい』


そうと言われて育ってきた。

だから、その瞳が否定されるとは思わなかった。


『貴女がいるとレーヌ侯爵家が呪われるんじゃない?』


その言葉は、シルヴィアの小さく柔らかな心に大きな、大きな傷を与えた。


───わたくしがいると大好きなお父様とお母様、お兄様の迷惑になる。


悪意からの言葉をそう解釈した、幼い頭は悪意と侮蔑に言い返すこともできず大きな声で泣き叫んだ。

そのあとは、駆けつけた大人たちによって全て恙無くその場は納められたが、今思えばその時の令嬢令息たちの家名をその後耳にすることがなくなった。恐らくだが、シルヴィアを溺愛する両親によって本当に綺麗さっぱり納めてしまったんだと思う。何をどこにとは考えたくないけど・・・

それよりも、その夜のことだ。

幼い頃のシルヴィアは、余程怖い思いをしたんだとおもう。

お茶会でのことを夢に見た。それも繰り返し繰り返し、瞳のことを貶められ、レーヌ家を不幸にする疫病神と罵られ我を忘れて泣き叫んだ。

深夜にあけた目に見えたペンを握りしめて握りしめて・・・

叫び声に集まった両親大人達が押さえたことで大事に至らなかったが、痙攣をするほどの発作を起こした。

そのときに負った、心の傷を優しい闇の魔法で、風呂敷に包むように苦しい記憶と共に包まれた。

忘れていた記憶。

思い出した。

父であるレーヌ侯爵は、闇属性の持ち主だったのだ。


闇属性の魔法は使える本人しかその内容を知らない。

謎が多い魔法。

精神に干渉できるのは、光と闇の属性だけ。

それだけは知られているが、それ以上は知らない。

だけどこれだけはわかる。

シルヴィアにかけられていた闇魔法は温かく優しい。精神に干渉するといっても悪意とは程遠い、かける相手を労る魔法。

辛くて悲しい苦痛な、小さな3歳の幼い傷ついた心を温かい毛布で優しく包んで隠してくれていた。

今のシルヴィアならば、受け流すことができることだが当時はそのままだと精神に相当なダメージを残していただろう。

それを、ふわりと幾重にも柔らかい父の優しい闇の魔法で包んで少しずつ少しずつ癒してくれていたんだ。

涙が出そうなくらいの温かい愛。





──────もう、瞳は困った子ね。


同時に同じくらいの昔に触れた愛情。


前世の両親。

いつも影が薄くて無口なお父さんだけど、お休みの日にはお母さんと私の買い物に文句も言わずに付き合ってくれる。しかも普段はそんな素振りもないくせにお母さんと私の誕生日と記念日には小さな花のブーケを買ってくるような人。影が薄いくせに休みの日にいないとなんか物足りない、いるのが当たり前のお父さん。お母さんはいつも小言ばかり言うけど、同性の悩みにいつも耳を静かに聞いてくれて、落ち込んでるときとか、いきなりお菓子やパンを作ろうって誘ってくれる。それで出来上がりを一緒に食べて笑っていつの間にか楽しくなってる。きつそうな見た目で、なのにいつもほわほわしたどこか的外れな行動、結局それが確信をつく結果に結びつくそんなお母さん。

ジャンルを問わずに本を読めって教えてくれたのもお母さんなんだよね。

今のいろんな知識、学校で教えてくれる以外のこととかも知ってるのもそうだもんなぁ。

お母さんに本当に感謝しかない。


引きこもりした時って本当に心配させたんだよなぁ・・・


周りの悪意に晒されて否定されて、周りを信用できなくなって家から一歩も出ようとしなかったときに責めることなく、少しずつ頑なになった心をほぐしてくれた両親。

眉を寄せて弱った顔をしながら、それでも否定しなかった。

ただ寄り添ってくれた両親。

あの時そうして見えない愛情を感じた。

引きこもりは、能天気な親友のせいで1週間も続かなかったけど、いつも間にか原因を忙しい合間に父も一緒になって私の知らないうちに解決してくれていた。

それで悩みをすべてを話すことができたのだ。

共働きで忙しい両親に心配をかけたくないと思っていたけど、話さないことが余計に心配をかけていたことをしってその時の気持ちと共に話ができた。



ある意味能天気な親友に感謝なのかな?


──────え~、瞳が学校来ないなら私も行かない。その代わり、毎日ここに来るね。あっ、おばさ~ん、私明日からここに通いますね。一緒に勉強するから知らないふりしてねぇ。


その宣言通り、本当に学校行かずに家に来だした。

親友・・・いや、悪友か?いや、でもやっぱり親友か?

どっちにしてもそんなのほっとけないし、仕方なくすぐに挫折して一緒に学校に行きだした。


モデルのように美人でスタイルのいい、大抵のことはできてしまう。性格もマイペース、自由人。クラスのリア充グループから誘われても居心地が悪いからってスッパリ断る。

・・・まあ、それが学校に行かなくなった原因の一つになったんだけどね。


はっきり言って、なんでオタク気質な私とこんなに仲良くしてるのかわからない。

自慢で困った親友。

一緒にいると居心地が良くて、特に何か分かち合うわけじゃないけど一緒にいた。

本当に最後まで一緒だった・・・


そうよ、一緒に事故で死んだ陽菜。


その親友の美人顔と、美丈夫だが厳つい顔のサイラス様の顔が重なる?

重なる?って、ことは・・・




「はっ、陽菜?えっ?なんで・・・一緒に事故で死んだ?

えっ?

まさか?

なんで?」


ニコニコ顔でこちらを静かにみるサイラスに、軽い混乱がおきる。


一緒に死んだのに、なんで?


なんで?


「なんでそんなに年上なの!!!」


まだ11歳のシルヴィアに対してサイラスは20歳。

一緒のタイミングで死んだはずなのに!

何があってこんなに年の差が出たのだ!!!


「あんたって・・・気になるとこがそこなのね。

やっぱあんたって、面白い」


呆れ、にやけ顔のサイラスと、その後ろで気配を消すように居たキャサリンの哀れむ顔がシルヴィアの視界に入るが沢山の情報に頭がパンク寸前のシルヴィアにはどうでもいいことだった。












前回の前世の記憶を思い出したのは突然だったが、今回は既に一度体験したことに追加情報が加わったようなもの。

しかもキャサリンが同郷という期待もあって、準備万端だった。

倒れることもなく、場所を室内に移して話をした。


「ってことは、サイラス様は本当に怪我もしたのね。なのに、陽菜の持ち前のどうにかなるさ的な性格のおかげでリハビリも問題なく、しかも知識にあったヨガやら体操で呼吸法と筋肉の使い方を極めた、ということなのね。

チートかっ!」


室内には陽菜こと、サイラス様とキャサリン様と3人だけ。

サイラス様の従者とギルは、外で待ってもらっている。

さっきまでのテラスでは、あれだけ大きな声で泣き叫んだにもかかわらず、ギルがなにもかも反応しなかったのは、遮音と周りから見えにくくする魔法がされていたからだそうだ。


準備万端だなぁ。


キャサリン様は、サイラス様から印象に残る再会を演出したいなどと言われ、とても貴族婦人として許容されないもてなしをしたことを深々と頭を下げられた。いや、寧ろサイラス様が陽菜ならば、何をしても不思議でなく、巻き込まれたキャサリン様がかわいそうだ。

はっきりいって被害者のカテゴリーに入るくらい。

それにしても、この世界に小豆や米があったとは驚きである。

小豆を使った汁粉・おはぎは、外部には出せない見た目からオルグレン家だけで食していたという。

見た目に反して、サイラス様パパの騎士団長は、甘いもの好きでこの汁粉とおはぎをこよなく好いているらしい。

長期遠征の際には、サイラス様とある研究機関でつくった、粉末状にした汁粉を携帯するほどだとか。

あとやはりと言うか、騎士見習いたちの訓練に野球を取り入れたのもサイラス発案。

チーム一丸となって戦うのが、役立つというが、それならサッカーでもラグビーでもいいんじゃない?

そういえば陽菜の家は、かなり熱心なとある野球チームの応援してたな。ファンなんてもの生易しい、陽菜の両親は、地方へも応援をしに遠征するほどだって聞いた。陽菜も野球が大好きだって言ってたな。

将来は、子供を産んだら野球やらせて、プロにするって息巻いてたわ。

あぁ~、色々思い出した。


「まあ、脅かしたことは悪かったけど、一応こっちも確認したかったし。私が知ってる“シルヴィア・レーヌ”とは違いすぎるから転生者、しかも瞳だってことは早くからわかっていたんだけどね。

瞳が何を考えているのか知りたかったのよ。」


サイラス様こと陽菜曰く、マーガレット親子を助けたことは、フラグ折りの一環でヒロインと仲良くしている様子から良しとしたらしい。

がっ、シナリオに沿ったように王太子の婚約者になって、あまり仲が良くないとの噂が一部で出ているらしい。

王妃教育の教師たちからは、好印象であるのに、そこに関わらない場所では我が儘なシルヴィアは、覚えが悪くすぐに癇癪を起して回りに当たり散らす、とても未来の王妃にふさわしくない、フェリクス殿下も話もしたくないほど嫌っていると口々に広まっているらしい。

なるほど、驚くほどゲーム設定と同じ状況の噂だわ。


噂が出るほどの逢瀬はしていないのだけど、実際に毎回の王城での授業後のお茶会は静かなもの。その日の授業内容を話して、出されたお茶とお菓子を黙々と静かに本当に静かに無言で食して終了。

短い時間の親睦となってるし、女官、侍女、護衛騎士といった複数の目に曝されて、会話など弾むはずなど無い。なによりもフェリクス殿下本人があまり話に乗ってこない。

小説で見ていた「ああ」「そうか」「いや」といった短い相槌をうつくらい。返事が必要な会話も必要なことを言ったら口を閉ざしてどこかを見ているし。

周りから見てもとても仲が良いようには見えないだろう。

それは間違いない。

嘘もない。

でも、たった3ヶ月で噂が立つって早いなぁ。

授業だって頑張ってるのに、そんなこと言われるのは悲しいなぁ。


「あと、どこかの貴族から依頼された探偵がピンク色の髪をした女の子を捜しているらしい。

これって、きっとヒロインのことだと思うんだ。今の段階ではまだ魔力の開放儀式もされていない。なのにだ、探している誰かが居る。私の知っている話とは違うことが起こっていて、あんたが意図的に何か起こしている事案なのかどうかも気になっていたんだ。それがあんたが関わってないってことは、な~んか嫌な予感がするんだよなぁ。」


マーガレットはレーヌ家にいる。良くない予感があたるとは限らないが、シルヴィアが瞳ならば接触しておきたいと思ったらしい。


「災いはなるべく早く退けたいじゃない?私はある人から頼まれてね。シルヴィア・レーヌのお助けキャラをしないかって・・・

楽しそうだし、交換条件が良かったから承諾したのよぉ。」


厳ついサイラスなのに時々、陽菜の影響か女言葉がでる。それを聞くたびに頬が引きつる。

ガタイのいいオネェにしか見えないよ。サイラス様のイメージが崩れていくから、即刻止めてもらいたい。


「まあ、それでシルヴィアの王城での護衛騎士をつける会議に出たときに父上に相談したんだ。

守ることも大切だが、護衛対象にも護身術を学ばせてはどうかと?

そのことをちょうど王妃様も聞いて、後押しをしてくれてね。

誰に怪しまれることも無く、貴方に近づくことができたのよ。」


ニコニコ話す顔は、赤毛の立派な体躯のサイラス様で本来ならそんなふにゃけた笑顔などどこにもなった。それを考えると確かにこの世界がゲームの世界かもしれないけど、転生者がいるあたりその通りにならないことも多いかもしれない。ましてや婚約を避けるべく、推しとの関係改善に努めるために引っ掻き回した自覚のあるシルヴィアとしては、人のことを言えないのだから色々出てくる問題にこっちも協力するべきなのかもしれない。


「そ、そうなのね。

でもお助けキャラって、何をするの?」














読んで下さりありがとうございます。

☆評価・ブクマありがとうございます。やる気になります。


明日から師走ですね。

既に年末業務がもう始まっていて体力的にヤバイ。

コロナも広まっています。皆さんも体調には気を付けて過ごしてくださいね。

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