《2-32》
本当にいつもいつもすいません。
誤字脱字報告、ありがとうございます。
王妃教育が終われば、お待ちかね、って待っていないけどやってきましたフェリクス殿下とのお茶会です。
昨日とは違い、きちんとしたサロンでお城の侍女5人と侯爵家から連れてきたサラ、それに城についてから案内役を務めていた女官が1人と護衛に騎士3人総勢10人のその他大勢を配置した中、微妙な空気感でスタートしました。
室内は、目に優しいクリーム色の壁紙でファブリックが渋い抹茶色。
家具もクリーム色だから、落ち着いた温かみのある空間になっていた。クリーム色が温かく明るい色だからか、抹茶色という渋く暗い色が合わさっても、落ち着きのある部屋となる。
そういえば、昔の図書館で司書していた時にカラーコーディネートの本がやたらと人気だった時期があったな?
何故かはしらないけど、若い子たちが借りていたよなぁ。どっかの学校で局地的に流行ったっていうのだったかな?学生の時期ってそういうのってよくあるよね。あるクラスで流行ってそれが学校中に波及したっていうのよね。
若い子の情報に疎かったからそのへんわからないけど、私も返却された本をかたづけるときにチラ読みしたんだっけ?
私の知識は広く浅くだからそれがもたらすなんちゃらが~ていうのはよくわからない。
「お疲れ様ですお嬢様。本日は甘いマロンケーキを用意しました。」
目に見えるもので、思考を他所に寄せていたが目の前に出されたマロンのケーキと香り高い紅茶に意識を持っていかれた。
マロンケーキは、前世で見ていたうねうねとしたクリームで山を作ったモンブランのようだ。山頂には艶やかな黄色栗の甘煮が乗っている。
香り高い紅茶は、今日はミルクが入ったミルクティー。
「初めての授業は、お疲れだったでしょう。ミルクたっぷり入れましたから、どうぞ」
出してくれたお茶はロイヤルミルクティーみたい。まろやかで甘いミルクに香りが強くてしっかりとした茶葉の味わい。
茶話会のような授業だったが、先生の話を聞き逃すまいと体に力が入っていたらしく、飲み込むと余分な力が抜けていくのがわかった。
「は、初めての授業はどうだった?」
カップの中身を半分飲み込んだ頃、硬い声をかけられた。
顔を上げると、ぎゅっと目元を引き締めているフェリクス殿下と目が合った。きりっとした顔立ちで観賞しがいのある顔面している。
しかしその目はゆらゆら、定まらない。揺れてはいるがいつものようにフイっと逸らされなかった。
「今日は授業の【誤用】しかしてはいませんが、覚えることが多く、王族の方々は本当にすごいと思いました。
わたくしに勤まるか不安で・・・」
実際に勉強云々よりも、マナーやしきたりを学ぶことが多そうである内容だった。勉学ならば筆をとり書物を読み、知識を足していけばよいだろう。それも大切だし、授業に組まれているがそれよりも大切なのは、
国内の貴族の名前と顔は勿論の事、当主、夫人、家族、さらにはその系譜につながる親族、派閥の把握。それが終われば、近隣国の王族、伯爵位までの貴族譜も覚えなくてはいけない。近隣国の情勢まで踏まえて、どこそこの国の王妃はなんちゃら国の王女様という様に、つながりも確認し、さらにはその婚姻は、同盟によるものか、それともパワーバランスが偏った、どちらかの人質扱いのものかと判断しないといけない。
さらにさらに覚えると言えば、国内貴族の領地の運営確認も必要。
各領地に広がっている、修道院と孤児院の運営の基礎は王家の女性が担っている。それをみて、各地の領地の状況の判断もするとか・・・
其処には人の生活があるから、これから覚えるだけでなく知識を活かして各領地の貴族たちに良好な領地経営をしてもらわないといけない、っと、重責が・・・
本当に、今世でまだ子供で貴族としての矜持も希薄な私にできるだろうか?
「そうか、まあ、はじめは戸惑うことも多いだろうが、その、母上も通ってきたことだろう。・・・・・・相談するといい。」
気弱なシルヴィアの発言だったが、最初ということもあって思いのほか優しい声をかけてもらったと思った。
確かにフェリクス殿下の言う通り、王妃教育を乗り越えて現在の地位を築いた先駆者たる王妃様は会えばいつも優しい声をかけてくれる。
悩みができたらきっと乗ってくださることだろう。
けど、
果たしてそれがいいことなのか?
現に、優しい声でそう言いながら相談すればと言って、顔を背けられてどこか苦虫を噛んだような顔になっているのはなぜだろう。
きっと王妃様に相談することは、いいこととは言えないのでは?と思ってしまう。
「いえ、まだ一日目です、から、それに・・・、頑張って、みます。」
自信はないけど・・・
もっとはっきり頑張りますとい言えたらよかったんだと思うけど、そんな自信はないのでこんなあいまいな言い方になってしまった。
ちらっと横を向いた顔を見れば、ますます眉間にしわが深くなっている。
やっぱり思った通り、今の返事はよくなかったのだろう、な。
かといって、謝るのもおかしいし。さて、どうしたものか。
思案しながらも、手はモンブランもどきのマロンケーキに手を伸ばす。
疲れ切った頭で、何を考えてもいい案なんて浮かばないと思うのだ。
なので、せっかく侍女が用意してくれた甘味で疲れを癒したい。
フォークでマロンクリームの山を掬って、口に運ぶ。
うぅ~~~ん、濃厚ぉ~
昨日も思ったけど、やっぱりお城の用意されたケーキは絶品。
マロンクリームのねっとりとした濃厚な味わい。栗の砕いたものも入っているものだから、食感も楽しめていいわぁ。
もう、毎度毎度こんなおいしいケーキばかり口にしていたら、太りそう。
あれ?
昨日の山盛りスイーツもそうだけど、どういう考えであんなに用意されたのかしら?
普通、女の子が一人来るくらいなら、一皿のケーキでいいものね?
あんなにたくさん食べろってすっごく強要されて、なんでかなって思っていたけど・・・
あの時ももしかしてとは思ったけど・・・
殿下は・・・
もしかして、私を太らせようとしているの、かな?
ん?
親切そうに見えて、実は太らせて自己管理もできない婚約者失格のレッテルをはろうとしていたとか?
いやいや、それは考えすぎかな?
でも、昨日のペースでデザートを毎回用意されていたらそうなっていたのかも?
そうしたら、いつの間にか子豚ちゃんになっていて・・・
うわぁ~、本当に子豚ちゃんになったらきっと婚約は破棄されるよね。
先生からきっと自己管理ができないそんな人はふさわしくないって言われるわね、きっと。
そうなったら言わずもがな、不本意で婚約したんだもの速攻婚約解消される?
・・・・・・・・・願ったり?叶ったり?
でも、いやだなぁ。
解消の理由が子豚ちゃんになったからなんて・・・
ケーキを一口食べて、う~んう~ん唸っているシルヴィアに奇妙なものを見る目で目を瞬くフェリクス殿下が目の端に移った。
あら、いやだ。百面相する変な人になってる。
とにかく、子豚ちゃんになって婚約破棄されるは、避けたい。恥ずかしすぎるし、なによりも、その後の婚約に支障を来たす。
もちろん、百面相をする変な奴というのも、淑女らしくない。
それも却下のため、気を付けましょう。
慌てて居住まいを直して、手をスカートの上にパタッと置いた瞬間ふわっと香って思いだした。
あっ、いけないいけない。
スカートのフリルに隠されたポケットに小さな包みを入れていた。
授業中は付き添いのサラに預けていたが、この部屋に入る前にもらって入れておいたのだ。
「殿下、あの、こちらなのですが。拙いものですが、プレゼントです。」
そう言って、手に持ち換えて片手に収まるくらい小さなソレを差し出す。
水色の袋に入れてラッピングしたソレ。
「えっ?ああ・・・」
掌に載せて差し出したソレを見た殿下の口元が綻んで見えたのは、喜んでほしいなぁという願望が見せた幻でなかったはず。
目元を和らげ、口元も緩やかな微笑を讃えている。
優しい眼差しで、シルヴィアの手のひらのそれをみて、前かがみになってこちらに身を乗り出し手を伸ばしていた。
手のひらから殿下の手に渡るとき、少し触れた指先が思いのほか体温をしっかり感じた。
指先が触れたくらいで熱を感じるなんて?
よっぽどお疲れなのかな?
顔を見る限りでは熱っぽくは見えず、疲れているようにも感じないけど?
「これは?」
丁寧ではあるが、小さなラッピング。するりとリボンをほどくと中からはさらに小さな透けた素材でできた小袋が出てくる。
シルヴィアの小さな手に収まるくらいの小ささなのだ。成長期真っ只中のフェリクス殿下の手の中ではもっと小さく見える。
「香りのよいハーブを詰めた香り袋のサシェです。ボタンに付けてもらえればと思ってサシェに紐を付けています。」
そう言うと手のサシェを顔に近づけ香りをかいでいる。
ゲームのフェリクスのイメージは、爽やかで甘い、強い意思を持っている感じだったが、実際の殿下のイメージはいまだに掴み切れていない。ただ、微笑まれたときの甘い秀麗な顔もスマートな身のこなしで王子様らしい姿もゲームの通りだけど、なにかが違う。
でも、私の思う今のフェリクス・マラカイト王子の勝手なイメージで作った香り。気に入ってもらえるかな・・・
スンっと嗅ぐそのしぐさも計算されつくしたように綺麗な所作に、ドキドキしてその反応を待つ。
仕事中でもくつろぎの時でも、香ってきても邪魔にならずにむしろ心がリフレッシュして落ち着く内容でチョイスした・・・です。
執務の一部を任されていると聞いたし・・・。
最初は軽く嗅いでいるように見えるのに、長い。
軽くだったのに、今では鼻にサシュがくっついて、いや、違う鼻に押し付けてる?
ん?
擦り付けてる?
鼻にスリスリしてる?
「・・・殿下?」
思わず声をかけてしまったけど、なんだかその行動が謎過ぎて怖い。
「っ、失礼。とても良い香りだ。いつまでも、ずっと、嗅いでいたくなる好きな香りだ。
ありがとう、突然だね。まさか君が僕にこんなに素敵なものをプレゼントしてくれるなんて思わなかったよ。」
「あの、そっ、それは、お兄様が。お兄様から殿下にもさし上げるように言われて、だから、・・・殿下・・・・・・どうされました?」
顔からサシェを離してこちらを向いた殿下の顔がとってもリラックスしたようないい顔をしていた。
いつも見る様な強張った感じもない表情で、ポプリ効果があったと喜んだのも束の間で話すうちにフェリクス殿下の表情が落ちていった。
「そうか、アレックスがね。ふーん、そう、それでか・・・」
えっ?なんでこんな急に機嫌悪そうなの?
柔らかかった顔が、徐々に厳めしくなっていく。しまいには眉間の皺がくっきりとついたのを確認できたと思うとプイっと顔を窓の方へ向けてしまった。
「殿下?」
いきなり?
なんで?
何が原因でそうなったのか分からない。
このお茶会が始まって時間がそう経っていないはずなのに、早々と雲ゆきが怪しくなってきた。
すらりとした足を組んで顔は窓を向いていて、サシェは手の中に閉じ込められているようだ。シルヴィアよりも大きな手だから、すっぽり収まって握られているからこちらからは見えないけど、多分、まだあの手の中にあるはずよね。
でも、握りこんだら乾燥させたハーブが粉々になっちゃうんじゃ・・・
ああ、でもそう忠告もできないし。
その後の時間は、お互いに無言でケーキとお茶を飲み込む音がするだけの静かな時間が流れた。
冬の午後、薄暗くグレーの雲行きは、そのまま殿下とのティータイムの雰囲気そのままとなった。
寒風吹く季節。
今からの二人の様な天気だとこの後どうなるのか?
吹雪くときには二人の関係はどうなっているのか!?
冬を超えて、待ち望む春の季節には二人の仲は花が綻ぶように回復するのか!!
今後を乞うご期待!?
って、なるわけないじゃない!!!
婚約者として仲良くしたいのに、こうも機嫌が乱高下されたんじゃ、こっちもたまったものじゃない!
って言えない小市民。
今はこの苦しい重い空気を、我慢するしかない。
でも、仲良く・・・
今すぐにでもどうにか・・・
何がいけなかったのか聞ければ、きっと・・・
「殿下?あの・・・」
勇気を出して声をかけるも、そっぽを向かれたまま反応はない。
自分のゲージがヒューって下がっていく感覚がする。
もう一声かける勇気は、全くない。
また無視されたら、もう城に上がることもできなくなりそうだもの。
見つめるその顔に変化は見られないし・・・
仕方ない・・・・
そうよ、今日は、きっと疲れていたのよね。
きっとそうだわ。
つ、次に期待しよう!
頑張れ、私。
そっと膝に下した手に触れた感触。
スカートのポケットにいつまでも残る硬い感触。
毎度、忍ばせていくコレ。
コレを殿下の耳に付けられるのか、できる気が全くしない。
そして、時間が来るまで温かい室内で冬の様相の二人が向き合うお茶会は続いたのだった。
読んでくださりありがとうございます。
いつも読んでくださるだけでなく、☆評価を入れたり、ブクマをしてもらってありがたいです。
やっと進めそうな感じで書けそうです。
目標としては週1~2回はかけるように頑張ります。
目標です。低い目標ですね。
情けないけど、よろしくお願いします。