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《2-27》

久しぶりの登場、フェリクス君です。



硝子の窓から見える景色に、鮮やかだった花たちは姿を消していた。

その代わり、寒さに強い緑の豊かな背の低い樹木が綺麗に切り揃えられていた。本来、寒々しい冬の庭園だが、流石王様の住まう城の庭園だけあり、緑だけでも目を楽しませる趣向を凝らした美しいだけじゃないものになっている。

聞けば樹木の間に光る魔石が置かれていて、夜になるとライトアップされるらしい。

ここは王族のプライベート空間の中にある貴賓室だからまだ地味な方らしい。

大広間に面した、宮廷庭園は大掛かりなものもあって目をたのしませてくれるという。

しかし、今は昼間なのでその楽しみは又になるだろう。


あれから2ヶ月たったんだと、季節の移り変わりが目に見えて時間の流れを意識させる。


外の景色だけじゃない。

他国の貴賓も招かれる王室は季節に合わせて調度品を設える。絨毯やカーテン、ソファーのクッションなどファブリックは、季節を鑑み暖かみのある色合いと重厚感ある手触りだ。

温かいサロンで存在感があるソファーも臙脂色でベルベットの布地で素晴らしい光沢と手触り。

まるで手入れの良い高貴な猫の毛並みの様にずっと触っていたくなるくらい上質なものだ。


さすが王室で使われるだけあるわ。


侯爵家の調度品も最高級を使ってあるがそれよりもさらに上を行くラグジュアリーな室内。

火こそ入れていないが、目にも温かい室内。

なのに今、絶対零度のような寒波が吹き荒れているように思うのは何故なのだろう。


この人の、この一言であることは間違いないはず・・・







()()()()、悪かったっ!」









だまし討ちの様に突然告げられた登城勧告だったが、よくできた侯爵家の使用人たちはギルと違いきちんと準備をしていてくれた。城に上がるための衣装や飾りもそのために用意されて準備万端だった。

後は、私の心構えだけといったところだろうか?

それが一番準備に時間を要するのだけどね。

次に殿下にお会いする時には、やらなければいけないミッションがあるんだもの。・・・がんばれ私!


それにしても、まったくギルには困ったものだ。

伝言という執事として一番できないといけないたった一つができていないギルは、見習いとしても未熟者として執事長にきつ~~~~く叱ってもらった。

主のスケジュール管理なんて、基本中の基本。

ましてや放置されて忘れかけていたけど、王太子殿下の婚約者に選ばれたからには避けて通れない道がある。


そう、王妃教育。


王妃教育といっても多岐にわたる。

マナーは勿論のこと、政治経済は国内の事だけでなく世界情勢を見据えたものとして学び、現在このあたりでは、共通用語が使われているが、小国など未だに現国の言語を用いる国もある。外交の為には、簡単な会話ができるようにならないといけないらしい。そして国内の貴族の勢力図も然り。

それに伴い、お茶会などの招待もたくさん届いている。その中から選別されスケジュールに合ったものに参加するなど忙しくなる。

その他にも細々としたものがまだあるために、これからのスケジュール管理は重要となる。そのため、ギルは王城に行くまでの時間、それこそ寝る間もなくスケジュール管理の極意と執事としての心構えを執事長自ら、ボブ爺の監視付きで学びなおしたという。


所謂、一夜漬けというやつである。


その王城へは、これから付き添いとしてサラとギルが就くことになるため、両名共に城に来ている。一夜漬けのおかげか、サラの先輩としての威圧のせいか、外面だけは落ち着いた立派な執事()である。


城にはもちろんお父様もお母様も一緒である。


そして通された貴賓室には、フェリクス殿下と王妃様がすでに待っていた。


まずは王妃様から、婚約者になったことを喜ぶ言葉と共にこれからの王妃教育の流れなどの話があった。そして城での過ごし方の注意点などいくつも言われた。


注意点とはつまり、城では必ず侯爵家から連れてきた従者か王妃様が付けた女官を連れていること。絶対に一人で行動しないこと。

たぶん、これはあれだな。迷子防止の為かな?

広いもんね、お城の中。


あと城にはたくさんの人がいるけど、侯爵令嬢で王太子の婚約者つまりは未来の王太子妃(仮)のシルヴィアは、王族扱いになるため、誰かに声をかけられても直接、話をしなくてもよい。外交で他国の使者から声をかけられることもあるかもしれないが、その対応はつけた女官がするから気にしなくてもいいと言われた。

これも、あれだわ。未熟者の王太子妃が他国に知られない為ね。

他国の使者の中に勉強不足の国の人がいたら、マラカイト国の恥になるものね。


他にも言われたけど、とにかく一人になるな、知り合い以外に声をかけられても無視していい。廊下や庭園での立ち話も気を付けること。だからと言ってどこかの室内で話をすることは避けるように。どうしてものときは、従者2名以上をつれて扉を大きく開けて会話をするようにと言われた。理由はよくわからないが、王妃様がそれが城でのマナーというので従う。


そして王妃様のお話が終わったかと思うと、フェリクス殿下が勢いよく立ち上がると何が始まるのだろうと思う間もなく頭を下げて件のセリフである。

そして上げた顔には、とても不本意とわかるほど仏頂面をしていたのだ。


「フェリクスっ!何ですか、その言い方は、きちんと謝ると約束したでしょ。なんですか、色々とは!」


「・・・・・・()()は、()()()()なんです。」


謝罪らしい謝罪じゃない態度に、3人掛けのソファーにお父様とお母様と座っていたのだが、隣から漂う冷たい空気に実際に凍らせているのではないかと思うほどだった。

えっと、確か魔法属性に氷はなかったはずよね?

お父様もお母様も魔法属性“氷”なんて隠し持っていないよね??


「・・・あの、殿下の謝罪をうけいれますので・・・大丈夫です・・・」


王妃様の剣幕にフェリクス殿下の顔は強張るばかりで、あとは無言を貫くしお父様もお母様も笑顔で冷気をまき散らすし、それに呼応して壁際に控えているはずのサラまで冷笑をうかべているし、ギルは・・・、関係ないって顔してる。ある意味、今はそれが救いだわ。

とにかくこの空気感に居た堪れずすぐに根を上げたのは私です。

事なかれ主義です。

平穏ダイジデス。


「シルヴィアちゃん・・・ごめんなさい、先日の事きちんと謝るって話していたのに、こんな・・・」


「王妃様、大丈夫です。ですので、このことはもう・・・」


王妃は眉を吊り上げてフェリクスに叱咤していたが、シルヴィアが見かねて止めると今度は反対に眉を下げすまなそうな、悲しそうな顔で謝りだす。

いやいや、王族の人たちにそんなに頭を下げさせるわけにはいかないです。

家庭教師の先生は、最近シルヴィアが王太子の婚約者になったということもあって張り切って、王族とはというところから説いてくれるけど、王族が頭を下げるということが個人のことに留まらないこともあるくらい重大なことと教えられた。王族の謝罪=国を挙げての謝罪にとられかねないとまで言われては、王妃様とフェリクス殿下のダブル謝罪にこっちが恐縮しきりです。やめてください、小心の元一般人には辛すぎます。

ましてや既に、こっちが怒っていない内容で謝られるのってなんだか居心地が悪いんだよねぇ。


いくら、謝られる内容が、前回、この婚約が結ばれる原因となった()()()とはいえ、あまり引っ張りたくはない。

ええ、初でしたけどね。ファーストキスというやつでした。今世も前世も合せて初です。

沢山、たくさん、一杯、乙女チックな夢も憧れもありましたけど過ぎたことです。

初とは一度きりの事ですけど、仕方がないですものね。


二度目はファーストキスとは言わないもの・・・、憧れが・・・うっうっっ・・・


思いだすと涙が出そうになるから、もうこれ以上は引き摺りたくないです。


「もういいでしょ、話が終わったならシルヴィア嬢と話がしたいのですが」


その中で傍に来ていた殿下が、いきなり腕をつかんできた。


へっ?


今日は顔見せだけじゃないの?

最初にそう話さなかった?

顔を合わせて、予定を話して、おまけの様に殿下の謝罪があって終わりじゃないの?

明日から王妃教育が始まるし、今日はいいんじゃない?


「フェリクスっ!あなたはもうっ!・・・・・・はあ、今度は絶対に失礼のないようにするのですよ。」


間抜けな顔をしていたと思うが、王妃様のため息交じりの許可が出た途端、グイっと掴まれた腕をさらにひかれて仕方なくソファーから立ち上がった。


「えっと、あの、では、失礼します」


少し助けを求めるように両親に目を向けるのだが、顰めた顔を隠そうともしないお父様とさっきまでの冷気はどこへいったのか、フェリクス殿下の行動に乙女の様に目を輝かせているお母様。助けてくれそうもないですね。

その間にも、グイグイ腕を引かれてまともな挨拶ができずに不恰好なお辞儀になってしまった。

もしも、ここから王妃教育が始まっているのであったなら殿下のせいにしてしまいたい。・・・そんなこと言う勇気ないけど。


「シルヴィアちゃん、少し侯爵たちと話があるからそれが終わったら迎えに行かせます。」


王妃様の言葉を背中に聞きながら、貴賓室を後にした。





腕を掴まれて廊下にでたが、そのままずんずんと進んでいくフェリクス殿下。背の高さは少し上なくらいだけど、歩く速度がとっても早い。ゆったり歩くのが淑女の嗜みなのに少し小走りでないとついていけない。

しかも掴まれた腕はそのままだし、ちょっと、歩きづらいんですけどね。


貴賓室でも本当に、王族の私室のちかくだったらしく、ある扉の前でやっと足が止まった。


その時には、少し息が上がって辛かった。何せシルヴィアとして暮らしだして走るなんてはしたない、運動なんてしないもの。たまにダンスの授業が体を動かす時なのよね。

令嬢の体力、無さすぎです。


「・・・ここが、ぼっ、私の部屋だ。」


そう言って開けられた扉の向こうには落ち着いた調度品で配置された室内。

離してくれない腕をそのままひかれて一歩室内に入る。


深緑と明るいベージュの壁紙で、落ち着いた男性的な室内。

飾りの少ない機能性を重視された、それでも名工だと一目でわかる品のいい調度品。

革張りのソファーセット、文机、書棚、たぶん扉の向こうは寝室かな?あっちの扉は?


そんなシックにまとめられた室内で異彩を放つものが・・・






革張りのソファーの前のテーブルに積まれたカラフルでかわいらしいケーキの数々。

3段のケーキスタンドには小さな花を模したケーキとアイシングでデコレーションされたクッキー。あれはマカロンかな?

フルーツの砂糖漬けもまぶされた砂糖がきらきらしている。


パステルカラーにキラキラ、テーブルの上だけが乙女チックです。



「そこっ、其処に座って食べろ。」


引っ張られてソファーに座るや否や、城の侍女さんが素早くお茶を出してきましたよ。

素直に座ると、やっと手を離し向いに座る、と思いきや何やら考えている御様子。



殿下が立ったままなのが気になって、目の前のキラキラデザートも手に取ることができない。

しかもそれを立ったまま、上から睨まれるように凝視されてます。


「早く、食べろ。」


更に言葉でも威圧的に催促されて仕方なく、目の前のクッキーを一枚とって口に運ぶ。


サクッとして口の中でほろほろとほどける触感のバター香るクッキー。絶対においしいはずのクッキーなのに、味がしない。咀嚼して無理やり飲み込んで引きつった笑顔でおいしいですと言うのがやっと。


さあ、食べましたからもういいですよね。


なんの話か知らないけど、座るなりしてほしいな。



そう思って見上げたけど、どうやら意思疎通はできそうにない。



「君の為にたくさん用意したんだ。もっと、えっと・・・食べろ」



まさしく仁王立ちで、この山積みのデザート類を完食せよと命令が下されました。





私、何かしましたか?





泣きそうになりながら、積まれた花のケーキを取る。






「女はケーキが好きなんだろ」





好きですけど、限度ってものがあります。


でもそれを口に出せない小心者です。









ああ、隠しポケットの中のものをいつ渡そうかなぁ・・・






そっとポケットの中に忍ばせた布に包まれた、硬いものに触れる。




どうやって、この魔石を付けてもらおうかなぁ・・・


読んで下さりありがとうございます。

誤字脱字報告いつも感謝しています。

ブクマ、評価もたくさんありがとうございます。


フェリクス君が用意したケーキたち、3度目にしてやっと食べてもらいました。

前の2度は、スタッフ(アレックス、オスカー達他、護衛騎士の数人)でおいしくいただきました。

限度を知らない男、それがフェリクスです。


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[気になる点] う~ん、正直に感想を言うと、ちょっとイラっと来ましたね。 いや、今までのフェリクス視点の節で、彼が決して悪い人間ではない&シルヴィアに対する恋心はホンモノ、というのは無論よく理解でき…
[気になる点] 2-27を読んで「将来ざまぁされる馬鹿殿下&約束されたDVモラハラ王子」以外の印象を受けません。 ここまで読んでフェリクス殿下だけ作者より過剰にフォローされているのにシルヴィア視点では…
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