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《2-18》

30オーバーのイチャつき夫婦の回

いくつになってもいちゃつく夫婦です。


最初のお母さんはちょっと怖い感じに・・・


「お久しぶりね。まさか貴女とまたこんな形で会うなんてね。運命の悪戯って言うのかしら?」





その女性は、痩せ細り上体を寝台の上で起こすのもやっとという、見れば顔色も悪く、憐れげなそんな姿。


なのにわたくしはというと、その姿を見てしまい昔の悋気を思い起こし、思ったよりも低く冷たい声が出た。


全くなんの因果か。


思いがけずこんな再会をしてしまった。


あの頃と変わらない、ピンクゴールドの珍しい髪色。痩せ細り苦労が忍ばれる窶れた面立ち。それでも昔の庇護欲そそる大きく少し垂れがちな紫の瞳。そしてかわいらしい顔に不釣り合いな色気を出している目尻のホクロ。


その特徴的なホクロを見て、カァッと熱くなる感情をあの頃と同じように抑え込む。


年月経っても忘れられない、あの頃の焦燥感。

宰相一家であるレーヌ侯爵家の跡取りであったブラッドリーと婚約して磨かれた淑女としての教育の賜物で、決して他所に気取られことなく、感情を押し殺して耐えた日々。

周りを諫め、大きな問題にならないように立ち回ったつもりだったが、起きてしまった事件。それまで築き上げてきた信頼関係も愛情も脆く、それは砂上の城であったような悲しみに暮れたあの日々。

その収束に追い回されて、気が付けばあの方の心は脆く、それでも崩れないように固く、頑なに心を隠してしまった。

幸いにして、時間が解決したように表面上は取り繕うことができたようだが、それも細い糸を渡した綱渡りの様な状態。


そのようになった要因なのだ・・・この女は






「旦那様、あの母親についてはわたくしに全ておまかせいただけませんか?」


アレックスが執務室から出たあと、わたくしは疲労困憊でだらしなく椅子にもたれかかる夫に近寄り声をかけた。


「おつかれでしょう?

シルヴィアからもあの母娘のことをたのまれましたし・・・」


そう言ってそっと、ひじ掛けに乗せられた腕に手を置く。するとその手を反対の手でつかまれて引き寄せられ、気が付くと旦那様の膝の上に抱きかかえられるように座らされていた。


「旦那様っ!」


「ちがうだろ?ちゃんと呼んでくれないと・・・、私は今、ここ数年で一番の疲労で癒しが必要なんだよ」


そう言うと、わたくしの肩口に顔を埋めてくる。

お城から急ぎ帰ってきてから、怒涛の驚きの連続でお風呂どころか、夕飯も頂いていない。もしかしたら、アレックスが退出したのを見計らって、気の利く執事長あたりが軽食を持ってくるかもしれないが、この状態を見られるのは恥ずかしい。若い夫婦でないのだから・・・

それとも反対に気の利かせた執事長なら、もう少し時間をずらして持ってくるかもしれない。


「もう、ブラッドってば・・・」


朝はビシッと撫でつけていた髪が、もうすでに乱れて額に垂れている状態。その様子が一瞬懐かしいあの頃のように思えて思わずその髪に触れる。

シルヴィアのような柔らかさはないが張りのあるあの頃と変わらない男らしい硬い髪質。そういえば、先代侯爵のお義父様は晩年少し髪がお寂しかったわよね。・・・大丈夫よね。

夫の髪を触りながら思わずフフッと声が漏れた。


「なんだ?・・・ね、リーリ。君ちょっとひどくないか?」


撫でる髪の間から恨めしそうに視線を送られたが、ん?わたくし何かしたかしら?

覚えのない恨み言に、きょとんとして首をコテンと倒すとブラッドは、短い溜息と共に顔を上げて抱きかかえなおされて、顔を近づけてきた。


「ヴィーのおねだり。普通なら身元の分からないあんなところに入り込むような親子だ。いくらかわいいヴィーの頼みでもきけないだろ?私は、心を鬼にして反対したというのに・・・、君は簡単に許してしまって・・・。ヴィーにキスまでされて・・・私は嫌いって言われたんだぞ・・・・・・ズルいだろ?なのに、さぁ・・・」


だれが、思うだろうか?

お城で宰相のレーヌ侯爵といえば、恐怖の言葉が羅列されるほどの人物だというのに、家族、特に女性陣にはめっぽう弱くて、こんなに情けない顔をするなんて。

シルヴィアに「嫌い!」っと言われたことは相当、堪えたらしくかなり落ち込んでいる。

情けない、とは思わないがちょっとめんどくさい人である。そういえば、昔もわたくしが学生の時に演劇同好会のクラスメイトに頼まれて王子様の役をした後、女生徒たちの注目を集めた時に、「男だけでなく女性まで虜にするなんて人誑しにもほどがある!」と拗ねまくっていたわね。今となっては懐かしい思い出だけど、あの頃は自分よりもモテるのが気に食わないのかと思って面倒だなぁって・・・・・・・・放置したのよね。


全くもう・・・

流石に今日は放置はいけないわよね。

頑張っていましたものね。


「ごめんなさいね。だって、ねっ?あんなに泣かれてしまったら・・・。昔は寝転んで泣き叫んで思い通りにしようとしていたのにね、大きくなりましたわ。」


たくさん考えて旦那様を説得しようと一生懸命になって・・・

いつまでも我儘を言うだけの子供じゃなくなっていくのよね。

それでも母の胸を恋しがってくれるかわいい娘。


「まあ、そうだが・・・。そうだな・・・はぁ、もう昔のように大好きとは言ってくれなのか・・・。成長とは寂しいものだなぁ。リーリは、その・・・」


うふふっ、紡がれる言葉は尻すぼみになり、いきなり寂しそうにうなだれる旦那様にぎゅっと抱きしめられた。

全く、子供のようだわ。


「わたくしは、いつまでも旦那様のことを愛していますわ。」


かわいらしい旦那様。

旦那様の背中に腕を回して、抱き返す。



優しい手が頬に触れ、顔を向ければ端整な男らしく歳を重ね渋味を増した、ブラッドリーの顔が迫る。


吐息が重なり触れるだけの口づけ。何度か重ねた後、満足したのかまた嬉しそうにぎゅうぎゅう抱きしめてくる。


この人も昔から変わらない。かわいらしい男。





そういえば、昔と言えば・・・






「ところで、旦那様はあの女の子に見覚えはないですか?」













「このような姿を晒して・・・、本当に、申し訳ございません」


翌日、昼過ぎになり母親の目が覚め、恐縮してここから出ていこうとしていると世話を頼んでいたメイドから聞き休ませていた部屋へと急いだ。

室内へ入ったわたくしを見て、大きく目を見開き、掠れた声で「リーリエ様?」とかすれた声をだした母親、それは予想した因縁のある女だった。




「フリージア・カヴァナー・・・貴女、だったのね・・・」







読んでくださりありがとうございます。


誤字脱字報告感謝です。もう病気です。見直してもあるので困ってます。ありがとうございます。

新たなブクマや評価をいただきありがとうございます。

本当に活力になります。


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