≪1-03≫
目が覚めた朝、さっさと面倒臭いフェリクス殿下へお見舞いのお礼の手紙を書いた
私は昔っから面倒なことは先に済ませてその後に待ち受けるご褒美をじっくり堪能したい派だった
だから、夏休みの宿題も絵日記以外は前半戦で終了していてたもんだ
うん、嫌なことは先に済ませる
その後、遅れて朝食を食べに食堂に行くとお父様とお母様は着席していて待っていてくれた
「おはようございます、遅くなって申し訳ございません。
お父様、王太子殿下にお礼の手紙を書きましたのでお渡しくださいますか?」
朝の挨拶の後、暗に手紙を書いていて遅れたのだと匂わし、お父様に封がされていないアイボリーの封筒に入れた手紙を渡した
「失礼があってはいけませんので、中も確認してください」
万が一に何か失礼な、勘違いするような、勘ぐられるような、邪推されるような、とにかく書いた内容以上のことを、読み取られることがないようにお父様に確認していただいた
ちなみに内容は『お見舞いの花お礼+お見舞いに来訪なんて気遣いはいらないよぉ』的なことを至極丁寧な言葉を駆使して率直に書きました
便箋も封筒も侯爵家の紋章入りのものでプライベート感のないきっちりしたものを選んだ
「うむ、これは本当にヴィーが書いたのか?とてもよく書けているよ。
失礼なところもないし、きちんとお茶会のときの詫びも感謝も書けている
これだけできるなら家庭教師の追加は必要ないんじゃないのかい」
あらまぁ、べた褒めですね
でも、駄目ですよ。これまであまりお勉強でしていなかったのですから、前世の記憶を思い出したからには甘やかしは程々にしていただきます
ええ、程々です。
時々は今までどおり甘やかして下さい
「ありがとうございます。
返礼の書き方を前に習ったからそのときの例文を参考にしましたの。
わたくしが考えたわけではありませんわ」
「あらまあ、ヴィーちゃん文章もだけど文字もとても綺麗よ。
いつもの解読困難な汚・・・げふんげふん、独創的な文字じゃなくてとても読みやすい字も書けるのね。
とても素敵だわ」
お母様・・・独創的って
まぁ、そうね。今までのシルヴィアはお勉強嫌いだったから文字書くのも嫌いなのよね
でも、決して下手だったのでないのよ
落ち着きがないだけでサッサッと書くから汚くなるだけで、落ち着いて丁寧に書けば綺麗な文字書けるのよ
要は、シルヴィアのやる気しだいなのよね・・・何事も
「じゃあ、これは封をして私から渡しておくよ。シルヴィアも早く席について朝食を頂こう」
お父様に手紙を託して執事が椅子を引いて待っている席に座った
「・・・・・・あの、お兄様はいらっしゃらないようですが?」
お母様の隣がわたくしの席なのですが・・・私たちとは反対側に向い合せでお兄様の席があります
でも、お兄様の姿はありません
お兄様は朝はいつも早くいらっしゃいますから寝坊などはないでしょうに・・・
「ああ、アレックスは最近いそがしくしていてな。
騎士団長のところに朝稽古をつけてもらいにいっているんだよ。」
騎士団長の朝稽古って子供が受けるには厳しいのでは?
新人騎士が1日で音を上げると聞いていますが・・・
「王太子殿下の側近として鍛錬を積むとか言って毎日痣だらけになってかえってきている。
ここ1週間は、鬼気迫るものがあって、なんだか自らを追い込んでいるようだ。立場を自覚して頑張るのはいいことだが頑張り過ぎないか心配でもあるんだ」
「本当に昨日なんて顔に擦り傷をつけて帰ってきましたもの。
綺麗な顔ですのに・・・もう、直ぐに治療魔法をして跡形もなく治しましたけどね
あの絹のような肌に痣でも残ったら・・・くぅ、わたくしの鑑賞美が・・・」
お父様もお母様も心配しています
お母様はなんだか違う気がする・・・怪我の心配してたんですよね
確かにお兄様のお美しい顔に傷が残るのはわたくしもいやですが・・・
わたくしは食事を済ませ、病み上がりなので今日1日はゆっくりと過ごさせていただくことになり
明日からお勉強とマナーの家庭教師の時間を増やしてもらいました
自室にもどりサラが退出した後、お行儀悪くお気に入りの猫足ソファーにごろんと転がった
お兄様・・・1週間前ってわたくしが倒れてからよね
お食事中に聞いた話によれば、王宮に王太子殿下のご学友として参城するとき以外は朝稽古以外にも騎士団の鍛錬に参加したり魔法師団に入り浸り、朝早く出て帰りも遅いそうです
食事はきちんと取っているそうですが・・・
まさかとは思いますが・・・
お兄様、わたくしに会わないために避けていらっしゃるのかしら
サラの話ではわたくしが目を覚ましたこと昨晩、帰宅して聞いたはずと言っていた
やはり、このままでは良くないわ
ここはきちんとお兄様に一度会っておかないと
お兄様たちもわたくしがあの場所で倒れたと言うことは、あの話を聞いたと思っていることでしょう
話されていたことに気にしていませんとは言えませんが、せめて話が出来る仲に戻っておきたいです
お兄様がどのように思っているのか怖いですが・・・
◇
そう思っていて既に1ヶ月です
まだ過ごしやすさがあった春の終わりだった季節は雨が降る日の多い梅雨を過ぎて夏に突入しようとしていました
あれからわたくしも家庭教師が増えて朝から夜まで食事以外の休憩なしに過ごし、夜は疲れて早々に就寝していたのでお兄様にお会いすることが出来ませんでした
くそぉ、貴族令嬢の体力の無さを侮っていたわ・・・
夜は、食事を終えたらお風呂もうつらうつら船をこいで何度溺れかけたか・・・
そんなこんなで日々の課題をこなすのがやっとです
しかし、頑張ったことでシルヴィアの評価は急上昇です
もう、V字回復も吃驚です
まず、真面目に授業を受けていることで教師たちから天変地異が起こったかのごとく驚愕されました。だって、大好きなゲームの世界を学ぶことは愉しくて仕方がなく夢中になって熱心に聞いていたら自然と憶えてしまったんですもの。
教師の中にはわたくしが直ぐに飽きてまた前のような不真面目な態度をとると思われていたようですが1ヶ月も過密スケジュールの授業を嬉々として受け、さらに私の一言に驚きと共に感動で滂沱の涙をながした先生もいました
だって、前のめりになって質問するわたくしの前との違いに不審そうにしていましたので
「先生の授業がこんなに面白いと思いませんでしたわ。真面目に受けていなかったことが悔やまれます」
って恥ずかしそうに言ってみましたの
あと、やる気が出たのも王宮に行って沢山の同世代の子を見たことによって刺激を受けたと言っておきました
うん、怪しくない
実際に授業は愉しい
特に歴史とか、地理はゲームの裏設定を学んでいるようで愉しかったなぁ
算術はニホンの小学校の算数程度だから余裕だし、後は文字だけどこれは転生チートな能力か余裕で書けるし読める
マナーについても25歳の大人だった私のおかげで淑女教育は恙無く合格点もらえそう
後は、ダンスだけど・・・
うん、前世も運動の才能の無さに何度悔しがったことか・・・
つまり、今のシルヴィアはダンス以外は随分完璧令嬢に近い状態になっています
・・・・・・
その弊害が今、正にお母様の口から出ましたよ・・・
「もうね、家庭教師たちが余所でヴィーちゃんを褒めちぎるものだからこんなに招待状いただいちゃったわ♪」
頂いちゃったわ♪じゃないですよ。
教師も余所で侯爵家のこと喋ってんじゃないわよ!
褒めてるんだからいいでしょじゃないわよ!!
個人情報保護法はないのか、ここは!!!
どうしてそんなことになったのよ
王宮での失敗を忘れたわけじゃないでしょうに
あれから、まだ1ヶ月ですよ
わたくしの醜態をさらしてから・・・
せめてもう少し時間が経ってからが良いです
人の噂も○○日って言うでしょ!あれ?何日だっけ?100日?まあ、1年くらいあれば忘れてくれるかな?
・・・・・・だって、まだ人の目線にこの瞳を曝されたくないですもの
「オルグレン伯爵のご長男が最近ご結婚されたのよね。
それで初めてのお茶会なのよ。新婚さんのラブラブなお茶会ですし、子供たちは少ないから気負わなくてもいいのよ」
オルグレン伯爵の嫡男は確か今年で20歳だったはず
そうか、ならそのくらいの招待客のはずだから子供のわたくしの行動は甘い目で見てもらえると言うわけね
「それにオルグレン伯爵夫人はお母さまのお友達ですのよ。だからね、ヴィーちゃん行きましょうね
もう、可愛いヴィーちゃんを自慢したいのよ」
・・・・・・・・・はい
お母様の笑顔を見るにわたくしに断ると言う選択肢は無いですね
それに、心配を掛けてるしここで前回のお茶会の名誉挽回とがんばりますか!
「はい、お母様。できるだけ今回は大人しく目立たな「可愛くしていきましょうね」」
・・・・・・・・・・・・被せて来ましたね
できたら、隅っこで目立たないように大人しく地味ぃ~にしておきたいのに・・・。前世の読書好き地味っ子ちゃんな私が目立ちたくないって言ってるよ!
「1週間しか時間がないから準備に早速取り掛からないとね。さあ、忙しいわよ」
そう言って立ち上がった
お母様わたくしの意思はまるっと無視ですかいっ!
「ああ、そういえばオルグレン伯爵の三男はヴィーちゃんと同じ年だったわね。
最近はアレックスと王太子殿下のお傍に一緒にいて仲がいいし、ヴィーちゃんも仲良くなると良いわね」
お母様は、ぽんっと掌を合わせてにっこり思い出したわって言うけど・・・
そうだったわ、わたくしも忘れていました
オルグレン伯爵って攻略対象オスカーの家!
ってか、そんなとこ行きたくない!!!
「お母様・・・」
「アレックスも一緒に行くのよ。楽しみだわぁ」
「・・・・・・」
恐る恐るお母様にだめもとで行きたくないって言おうと思ったけど満面に笑みで愉しそうにしているお母様に何もいえなかった
お兄様も行くのか・・・
久しぶりに会うなぁ
どんな顔をしていればいいのかなぁ
愉しそうなお母様の顔を見ながらそっと溜息をこぼした
読んで下さりありがとうございます