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《2-15》

今日も間に合いました(^∀^;)



「貴女のお母さんはわたくしが必ず助けてあげます」






あの場所から離れ、明るい通りに出たところに乗ってきた馬車が停まっていた。

馬車の座席にコーディの外套を巻いて横たわらせたマギーのお母さん。狭いがその母の足元に小さく座るマギーはいまにも愛らしい顔が泣きそうだ。

その向かいにアレックスと並んで座ったシルヴィアは、母親を明るいところで改めて見てその姿に驚いた。

外套から覗く腕は枯木の様に痩せ細り、肌も見るからにかさついていた。汚れているのはもちろんだが、顔色の悪さはまるで蝋のようで生気がない。今は表情が和らいだが、それは痛みを妖精が和らげてくれたからこそ。それでも、痩せこけた頬、落ち窪んだ瞼、はっきりと濃い目の下の隈。

いかにも死がそこに近づいている人といったところだ。

馬車の中にも妖精がいくつか飛んでいる。時々、目の前をキラキラと光が散っていることから、母親の痛みを今も和らげているのか、穢れの溜り場の穢れを祓っているのか・・・


「お母さん・・・」


あれから、うめき声一つ出さない母親を心配して出ている手を握って不安そうなマギー。

ピンクに金の粉を掃いたような不思議な瞳は、膜がはって今にも流れ落ちそうになっていた。


「貴女のお母さんはわたくしが必ず助けてあげます」


自然と出た言葉だった。

ただ一人残され、母を亡くす、そんな辛い経験を得て、ヒロインは人の痛みや悲しみを我が身のように感じて回りにそんな思いをしてほしくないとみんなの傷を癒し、誰にでも優しく誰にも好かれる人になる。それがヒロインマーガレットの基本。


でも、考えてみた。

まだ僅か10歳前後で天涯孤独になって、今から先がわからない一人取り残される恐怖。悲しみや孤独を知るからこそ人の優しさがわかるとはいえ、そんな経験は物語だからこそ胸を打つ布石なんだよね。


はっきり言おう。


誰がリアルにそれを体験したい?


ゲーム?

物語?

いや、ここに生きている私たちは現実だ!

強制力?

そんなものくそ食らえよ!


目の前に助けられる命がある?

なら助けるまで!


でもここで、マギーのお母さんが元気になったとして、何故あんな“人が住めないところ”にいたのか?

それを解決しないと、意味がない気がする。


「ねぇ、マギー?貴女のお母さんは何故あんなところにいたの?

いくら病気になったとしても、いきなりあんなところに行くなんて?一体何があったの?」


犯罪者や後ろ暗い人が行くところって言ってたっけ?

ヒロインの母親にそんな過去があったとは思えない。なにしろ、フェリックスルートならハッピーエンドで、結婚。つまりは将来の王妃だ。

ヒロインの過去が不幸であればあるほどハッピーエンドでの読み手に報われ感が強くなるとはいえ身内に犯罪者がいれば、現実はハッピーエンドとはいかない。いくらヒロインとはいえ、王家と縁を繋ぐ結婚となれば事前に身辺調査が入るはず。そこでもし、強制力が働いたりしたらわからないけど・・・


「あっ、えっと、あの・・・、私、よく分からないけど・・・。けど、・・・お母さんはいつも逃げていました。」


とても言いづらそうに、言葉を選ぶように経緯を話してくれた。


マーガレットは、物心つくころから母親と2人だけの暮らしをしていたらしい。

古い記憶は、王都から離れた海辺の港町で食堂にいたらしい。食堂の上の部屋に住んでいて、きちんとしたところで眠り、食事に困ることがない最低限の暮らしをしていた。贅沢はできないが、近所の子供達とも一緒に走り回って遊んで楽しい幼少期だったそうだ。

しかしそれがある日突然、夜逃げ同然でその町をあとにした。それから暫く、徒歩でどこに向かっているのか分からない暮らしをしていた。大きな街に宿泊することはなく、小さな村で納屋を借りて泊まったがそれはいいほう。ほとんどが野宿で移動した。

最初に隣国と境の小さな村。そこでは母親は、髪を短く切りターバンなどで髪を隠して、男のように隣国からの商人の荷渡しの力仕事をしていたらしい。

いままでよりも明らかに違った暮らし。

まず、村で母親がいないときは外に出ることを禁じられた。常に出入りする人を気にして、なぜだかずっと人目に怯えていたらしい。

なにがあったか聞いても、「なんでもない、大丈夫」の繰り返しで、1年もしないうちにまた、その村から闇夜に紛れて逃げ出した。

それから、ずっとそんな暮らしをしていて、小さな村や町で落ち着いて暮らす期間は、1年から半年、数ヶ月、数週間、数日と短くなり、それに伴い暮らしも苦しくなっていった。

母親はマーガレットに優先的に食べ物を与えていたが、自分は食べずに日雇いの危険な仕事をしていたらしい。

そして流れ流れて、この王都に入ってから暫くして起き上がることもできなくなってしまった。それでも、何かから逃げるようにあの場所に入り込んでしまったということらしい。

そして、起き上がれない母親から、最後まで手放せなかった綺麗な首飾りと手紙を渡されて教会に助けを求めにいくように言われたという。


「手紙?」


「これです。」


マギーはスカートのツギハギでできたポケットから、ちぎったような小さな紙切れを渡された。

それを開いて見ると、赤黒い掠れた文字で、『母親の自分はもう助からない。娘をお願いします』とあった。

この文字の赤黒いインク・・・いや、恐らくはこれは・・・


「血を使って・・・」


横から覗き込んで一緒に手紙に目を通したアレックスの悲痛げな小さな声が聞こえた。

それはとても小さく隣で寄せ合って手紙を見ていたシルヴィアにしか聞こえなかった。


やっぱり・・・


たぶん、インクが手に入らなかったのだろう。そして火急にマーガレットを教会で保護して欲しかった。母親の覚悟と愛情がこの手紙にはある。

最後の力を振り絞って、指先かどこかを傷つけ出た血をインクに教会の助けを求める何て・・・

あんなところで、一人死に逝くつもりだったんだ。教会の優しいシスターがこの手紙を見ればマーガレットは、保護されただろう。たぶん、母の死についてはしばらく臥せられるだろうが・・・


「首飾りは、教会に行く途中で後ろからきた人たちに取られて・・・無いんです」


母から預かった大切なものを無くしてしまって落ち込むマギー。

あれ?

ヒロインと首飾り?

どこかで聞いたことがあるような?

いやいや、今はそれよりはこれから先のことよね。


なにから逃げ回ってるのかは、知らないけどせっかくここで2人を助けても外に出たら同じことになりそう。


どうすれば?


逃げ回ってるってことは、誰かに追われているってこと?

誰に?

マギーは知らないみたいだし、それは意識が戻った母親から聞くとして・・・

とにかく、この母娘が安全に住めてさらには働く事ができるところを探さないことには意味がない。

でも、そんなところ・・・


「ヴィー、どうした?

もうすぐ着くよ。

兎に角、屋敷に帰ったらまずはお風呂に入りなよ。いくら妖精が守ってくれていても、穢れの溜り場に入ったんだからね。今の汚れた様子を見たら父上も母上もびっくりするね。あぁ、せっかくサラが可愛く編んだ髪もボサボサだよ。ん?ヴィー・・・」


考え込むシルヴィアに、屋敷に帰ってからのことをシルヴィアに提案していたアレックスだが、途中からシルヴィアは目を見開きゆっくりと嬉しそうに微笑み、訝しげにたずねた。


あったじゃない。

匿えて、安全な棲み家、働く事ができる場所。


「お兄様、ありがとうございます!

やっぱり、お兄様が一番大好きです♥️

わたくし、お父様とお母様に一生懸命お願いします。」


そうよ、これも人助けですもの。

きっと、お父様もお母様もこのお願いを聞いてくださるはずです!









「お父様、お母様、お願いです。

マーガレットとマーガレットのお母さんをわたくしのメイドとして、レーヌ侯爵家に置いてあげてください。」



果たして、知らせを受けて急ぎ帰宅したレーヌ侯爵夫妻は、身綺麗にしたマーガレットの腕をつかんで離さない愛しい娘の願いに驚き、困惑し、どうやって説得するか頭を抱えることになる。









サラと一緒にわたくしのメイドとして働いてもらえばいいじゃない!!!







読んでくださりありがとうございます。

嬉しい感想いただき本当にうれしいです。頑張って続きを書いていきます。

評価、ブクマも日々新たにいただきありがとうございます。

本当に励みになっています。

誤字脱字報告感謝です。


明日も暑い日になりますが、コロナに負けずに対策を忘れず頑張っていきます!!!


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