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《2-13》

みじかいです。


最初はマギーの母親目線です


最後を加筆しました。


壁代わりの布切れの間から漏れる光。

普段、この辺りは常に空気が汚れていて日の光が薄っすらしか届かない。


それが気がつくと、もう開くことすら辛く閉じた瞼の向こうで、久しぶりに浴びた清々しい朝日の様な光を感じた。

それこそ幼いころ、まだ両親が健在で経済的にさほどの余裕もなかったが、困窮していないころ。父の知り合いに借りた山間部のリゾート地のコテージで早朝に散歩したときに浴びた朝日の様な気がした。

そう思ってからなんて馬鹿なことを思ってした。

ああ、もうお迎えが近いのかも、先に逝った父と母に会えるだろうか。会ったなら謝りたい、長く続いた子爵家を私の我が儘で潰してしまったことを。あのとき、あの男と素直に結婚していれば・・・

こんな人として扱われない所に逃げ込むこともなかっただろうに。

いや、今のこれは身から出た錆、自業自得だ。あのときこうしていれば何て今更だ。ただ、残していく愛すべきあの子が心配。

長年好きだったあの人と過ごした時間はかけがえのないときだった。だから、それを思い出に一族の道具としてあの男に嫁ぐつもりだった。

けれど現実は私に新たな道をしめした。結婚式10日前にわかったお腹の子。愛する人の子。

もしもあの男に知られれば、恐ろしいことになる。だから、逃げた。

両親の死後、家に入り込み爵位を継いで私を使用人扱いした叔父にどんな迷惑がかかるがわかっていた。わかっていたが、それまでされたことを思えば、躊躇する気持ちはすぐに消えた。

気持ちが固まると早かった。町に食材を買いに出掛ける振りをして大きめの買い物籠一杯の着替えや持ち出せるだけのお金。

苦労はたくさんしたが、愛する人の子供を産んでから、頑張ってはたらいた。

幸せだった。

例え貧しくもかわいい娘のため、何でもできた。あの人と同じ桜色に金の粉を散らしたような珍しい瞳を見るたび、辛いことも忘れられた。

あの事を知るまでは・・・


逃げて逃げて、逃げて、こんなところにまで来てしまった。

私はもうすぐ死んでしまう。


あの子が、あの男に見つからないように願うばかり。

もう、守れない。

どうか幸せをつかんで・・・

小さな幸せで喜ぶ子だもの、私のような間違えは犯さないで、幸せになって・・・


思考が闇に堕ちそうになったとき胸を突く痛みで、意識が浮上する。激しい咳き込みと共に体中に耐え難く例えようない痛みが広がる。


苦しい、苦しい・・・

誰か助けて、まだ生きたい・・・


あぁ、何て浅ましい我が身か

死を覚悟したくせに、まだ生きたいなんて・・・


せめてあの子に会いたい。

私の愛しい子

マギー・・・マーガレット・・・








「・・・お母さん」


混濁する思考の中、聞こえてきた声は一番聞きたかった愛娘の声。

そんなわけない。

あの子はここから逃がした。

教会に保護してもらうための手紙と共に渡した、最後の金目になるもの。

あれを渡せばきっと保護してもらえるはずと思い託した。


「お母さん!」


否定する思考を嘲笑うかのように、今度ははっきり聞こえた娘の声。

何故、戻ってきたの!

いけない、ここは人が暮らせない地。これ以上苦労をさせたくないのに・・・


教会に行くように促す言葉を口にしているはずなのに、乾いた唇もカラカラに渇ききって張り付いた喉もしっかりとした言葉として声を出させない。

無理に出せば胸が痛くなり喉からはヒューヒューと嫌な音がした。



「お母さん、しっかりして!


人を連れてきたの、お医者様に見てもらえるようにしてくれるって、だから、お母さんしっかりして!」


娘の声で聞こえてきた内容は、とても信じられないもの。

きっと、誰かに騙されている。

愛らしい見た目の娘だ。母親を助けてあげようと甘い言葉で、騙されているに決まっている。


「なっ、何を!はぁ、こんあ、はぁはぁ、うっ、こんなところに・・・医者なんて・・・」


苦しい、話をするのも辛い。

でも、騙されそうな娘をどうにかして、その連れてきたという人から助けないと・・・


しかし、続いて聞こえてきたかわいらしい声に何も、何も言えなくなった。


「・・・大丈夫です。わたくしたち助けます・・・だから、貴方はこのままでいいですよ」


優しくってかわいらしい声。

まだ子供のようだとはわかるが、いや、寧ろこのようなところに子供はいない。だから、早くマギーもここから出したかったというのに、関係のない女の子を娘は連れてきてしまったのか・・・

いったいどのような子を連れてきたのか・・・


そう思っていた時、ふっと瞼が軽くなり痞えていた喉が少し楽になった気がする。

今なら瞼を持ち上げられる。

そう思って震えながら開けた目に飛び込んできたのは、愛しい娘の隣で膝をついてこちらを覗き込んでいる、今まで見たことがないほどの綺麗な女の子。

その姿は銀色の髪をゆったりと編んでいたが、光り輝いていて、ああ、天使が迎えに来たのだと思った。


「・・・天使、様?」


喉の痞えはやはりなくなっており、今までより格段に声を出しやすかった。しかし、もう指1本動かすこともできない。

今までのような痛みでなくフワフワ浮くような宙に浮いた感じがする。


キラキラ目に映るものに光の粉が瞬く。

このまま、天使様と逝けるのか。

最後に娘に会えて、幸せだった。


・・・娘が、天使様を連れてきてくれた

天使様、マギーを、マーガレットを頼みます


そう微笑んで再び、瞼を閉じた。








横たわるマギーの母親に妖精たちはキラキラと光の粉を振りまいてとんでいた。

その光に触れた母親は、今まで苦痛に歪ませていた顔をやわらげ微笑を浮かべて再び眠りについた。


「お母さん!」


『ダイジョウブダヨォ』


『イタイノイタイノ、トンデイケシタヨォ』


「あなたのお母様は無事よ。さあ、今のうちにここから連れ出しましょう。」


そう言って後ろを振り向きコーディに目を向ける。

コーディはわかっていたらしく、母親を軽々と持ち上げると元の道のほうを向いた。


「お嬢様たちも早くここから出ましょう。ここらにいる破落戸者達に見つかればたいへんなことになる。早く行きますよ」


「行きましょう!マギー」


マギーの手を取り薄汚れた路地を戻る。








シルヴィア達とマギーが出会った路地の先に集まる人影。

穢れの溜まり場近くに住む、破落戸たち。

穢れの溜まり場に行き着くものたちは、何かしら後ろ暗い事情を抱えていた。そして、ほとんどがすぐ亡くなる。その死人の持ち物をハイエナよろしく奪う。

死人が持っているものを根こそぎ奪う。厭らしい破落戸たち。

彼らは今日はツイていた。


数日前から死にそうな母親と見目のよい娘。

つぎのターゲットは、あの母娘にしようと目星をつけた。

そして見張ること、今日何かをもって娘が出てきた。よく見れば何やら光るものを持っていた。


「なあ、あの娘をどこかに売ればかなりの大金を手にできるんじゃないか?」


誰かが娘を見て呟いた。

確かにこんな裏路地では見かけない綺麗に整った顔をしている。

それこそ、そこらの金持ちの娘とは格がちがう。目を引くかわいらしい娘だ。

だが、ダメだ。

人身売買はリスクが大きい。

実入りもいいが、もし足がついてしまったら一貫の終わり。死刑になるのは緩いほう。法的に処理され、奴隷として他国に送られる。何のために、何をするために、何をされるのか全くわからない。だが、送られるときに掛けられる言葉が、『早く楽に死ねるといいな』らしい。

バレなければいい?

いや、何故か必ず発覚する。そして売っぱらったヤツラは皆つかまった。それを目の前で見ていたから、恐ろしい。

だめだ。

娘の持ち物を奪うだけにする。

ハイエナと呼ばれようが、窃盗は罪だがどうせあんな人が住むところじゃない場所にいる母娘。何を盗まれても誰も相手にしない。


力なく歩いている娘に後ろから近づき、態とぶつかり転がす。持っているものが手から離れて、仲間が素早く拾う。


「いったぁ、あっ!

待って、返して!!!」


転んだ娘の横を通りすぎにげる。それに気がついた娘は、緩慢的な動きでおいかけてきた。

足元が覚束ない、ふらついた走り。これならすぐ撒ける。

その通りでしばらくすると、足元を引っ掻けたか、縺れたかで転んだ娘はすぐに見えなくなった。


追って来ないのを確認して、協会の裏まで来てから収穫品を確認する。


ゴールドの台座にピンクの大きな宝石がついて、さらに回りに大小様々な透明な宝石がついた、見るからに高そうな首飾りだった。

あんな場所で死にかけている母娘が何故こんなに高価なものを持っているのか?

疑問も湧いたがすぐに考えるのをやめた。どうするって金にかえるんだ。関係ない。

そう思っていたときだった。


「あらっ?それ綺麗ね。私に頂戴」


その声に怒気を発して振り向くと、ピンクの髪をした、派手な顔をした小娘がいた。

その瞳は、ギラギラと破落戸たちが持つ首飾りを見ている。


「私がもらってあげるから、それ頂戴」


ギラギラした目をして笑みを浮かべる小娘。


「ああっ?」


威嚇を込めて声を出し、娘を見るがますます笑みを歪に深めるだけ。

小娘の燃えるようなオレンジの瞳が、破落戸たちと合わさる。


その瞬間、破落戸たちは何かに囚われたと思った。体も思考も、奪われた。奪われたという感覚は一瞬でさらにすぐに忘れてしまった。


「ねえ、頂戴」


小娘が甘えた声を出す。

怒気を放ち威嚇していた破落戸たちは、まるで操り人形のように首飾りをすんなり小娘にわたした。

滅多にお目にかかれない、高価そうな首飾り。誰も何も言わず、小娘に渡したのだ。


「ありがとう。

もう、用はないわ。バイバイ」 


首飾りを手に入れた小娘は、用は済んだとばかりに体の向きを変えて教会の敷地に入っていく。

破落戸たちは、何もなかったように静かにそこから離れた。その顔は呆けたような表情を皆していた。


うふふっ、なんて綺麗なの。

あぁ、でも教会に無駄なものを見つかると没収されるんだっけ?

そうだ!形見にしよう。それなら手元にあってもとられないわ。

私ってば、なんて頭がいいのかしら


やっぱり、私がヒロインなのよね。


教会敷地に置いていた、小さなトランク。この中に首飾りを入れて教会横の孤児院の扉を叩く。


「はーい、あら?あなたが新しく住む子ね。名前は?」


孤児院扉を開けたのは、若いシスター。ニコニコとして人懐っこい顔をしている。


「マーガレットよ。それ以外の名前は知らないわ。お父さんも知らない、お母さんは死んだみたい。」


そう笑って答える。


本当に知らないんだもの。

でも、多分私はヒロインでマーガレットよね。

だってピンクの髪してるもん。


そう、指でくるくると目立つピンクの髪を巻き付ける。

蛍光色のような派手な髪を・・・

読んでくださりありがとうございます


評価いただけると、うれしくて喜んでがんばって書く活力になります。


新たなブクマありがとうございます。読んで下さる方が増えると本当にうれしです。


誤字脱字報告、本当に感謝感謝です。不治の病です。助かっています。


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― 新着の感想 ―
[一言] マギーママは不幸の星に生まれてきたのか?と思われるほどキツイ人生だなぁ。お嬢様が通りかかって良かった。
2020/08/17 17:50 退会済み
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