《2-12》
私のお話は妖精がよくでます。
ご都合主義の伝家の宝刀です。困ったときの妖精頼みです。
色とりどりに輝く光。
それは妖精の放つ光。
少し澱んだ空気になっていた路地が、今は清涼な空気と優しい光に照らされていた。
その光は、この狭い路地に似つかわしくない美しい容貌をした、シルヴィアを中心に集まってきていた。
妖精が放つ光は、麗しいシルヴィアに降り注ぎ、それはまるで女神が降臨したかのごとく、神々しかった。
『ボクラガイッショ』
『キタナイノイヤ、キレイキレイ』
『マモルヨ!マモルヨ!』
『シルヴィア、スキスキ』
シャラシャラと妖精がかわいらしい鈴の音の声をあげる。
その数、魔女の店にいた数以上なのだが、先程のように頭に響くような煩さはなかった。
寧ろ、空気が浄化されているように感じられる。
妖精たちのその様子を見回して着いてきてくれると確信したシルヴィアはアレックスに向き合った。
アレックスたちは、突然現れた光の大群に驚き固まってしまっていた。
「妖精さん、ありがとうございます。
お兄様、これで大丈夫ですわ。わたくしが妖精さんたちと行ってきます。こちらでまっていてください。」
アレックスは、シルヴィアにかけられた声に反応ができない。
初めて見た妖精の姿に目も思考も囚われてしまっていた。
「いけません、お嬢様!
いくら、この、不思議な光に助けられたとしても・・・」
唯一シルヴィアに答えることができたのはコーディだが、それでもやはり妖精は初めて目にしたのかやはりとまどいが言葉の端にあった。
「あなた、妖精の力を信じられないの?今は、時間がもったいないわ。
医者がここに来ないといったのは貴方よ。なら、来てくれるところに病人を連れていくしかないでしょ。」
そう言ったシルヴィアにコーディは、何も言えない。妖精とは何か知られていないが、遥か昔から此の国、いや世界的に不思議な力があるとだけは伝わっている。それこそ伝承や物語の中だけの話と思われているほどに出会うことのないものだと思われていたのだ。実際にその姿を目の当たりにして、不思議な存在であり未知の力に黙り込んでしまった。尤も、シルヴィア自身妖精の力を分かっているわけではない。
口を閉ざしたことを了承と受け取り、シルヴィアは先に行こうと思ったとき、ふと思い出した。
そうだ、今、渡しておこう。
「お兄様」
まだ、どこか茫然とした焦点の合わない目をしたままシルヴィアの声に顔を向けた。
いつも隙のない、次期侯爵として幼いときから教育されているはずのアレックス。
それが今は、夢うつつのような隙だらけな、どこかかわいらしい姿を晒している。
魔女の説明では、頼めば簡単に着けてくれるというが、いまの隙だらけならなお疑問を持たずにつけてくれそうだ。
それに穢れにおかされたら死ぬとは、もしかしたら呪いの類いに入るかも知れない。着けておいて無駄はないだろう。
素早く小箱から魔石を取り出し、此方を向いたアレックスの片耳にそっとあてた。
パチンッ!
シャボン玉が弾けるような音がしてアレックスの耳に難なく着けることができた。
「あれ?ヴィー?あれ?」
弾けた音に我に帰ったように目をパチパチさせシルヴィアを見る。
その耳にはシルヴィアとお揃いの魔石がなんの違和感もなく優しく光っていた。
「わたくしからのお守りです。
魔女の店で購入しましたのよ。」
「魔女の店?
そう、そうか。ありがとう。
うん、なんだか大丈夫な気がしてきた。
君たち二人は、馬車を近くまで持ってきてくれ。コーディ、君はここで待っていていいから」
「いえ、一緒に行きます!
いくら妖精の守りがあってもその先に何があるかわかりません。
私は護衛です。その護衛が、安全な場所で待っているなどありえません。」
焦点の合った目、妖精を見た衝撃から回復したアレックスは、コーディに指示を出すが即座に却下されてしまった。かなり強く同行の意思を表したのでおいてはいけないだろう。
アレックスからの返事を聞くことなく、護衛その2その3に指示を出して、それにしたがい彼らはここから足早に去っていった。
それはもう、そそくさと行ってしまった。
知らなかったとはいえ危険なところへつれてきて悪かったと密かに思ってしまった。
その後ろ姿を見送ってから、こちらに向き合ったコーディ。
「この先については私が先に行かせていただきます。
申し訳ございませんが、坊ちゃんは後ろを歩いていただけますか?」
前をコーディが、ヒロインと思わしき少女、シルヴィア、アレックスの順で行くことになった。
警戒することが正しいのはわかる。
高位貴族の侯爵家の嫡男令嬢連れだもの。
でも、急がないと病人がいると言うのに、コーディは数歩すすんで前後左右の安全を確認してをして、まるでおばけ屋敷を進むように何かが出てくる前提での歩き方だ。
これじゃあ、いつまでたってもつかないよ。
実際にヒロインらしき少女の顔には焦りが見えてきた。
でも、前を進むコーディも護衛としての仕事を全うしようとしているだけだし・・・
分かってる、分かってるけどね・・・
つないだ手から伝わる女の子の焦り、握られた手が震えている。
そうよね、こうしている間にお母さんが亡くなってしまったらって思うよね。
どちらの気持ちも分かる。
分かるけど・・・
今の私の優先は・・・
「・・・もう!コーディなんてノロマなの!
もういいわ!わたくしはそんなのんびりと付き合っていられないわ。妖精さんたち、彼女のお母さんのところまで道を示してくださいな。」
ゲームの悪役令嬢を参考に何の落ち度もないコーディを叱る。
ごめんなさい
分かっているのよ、護衛の仕事を全うしているだけですものね。
でも今は、我儘お嬢様の暴走ということにしてほしい。
シルヴィアの呼びかけに反応するように、路地の先を妖精がきらきらと粒子を撒きながら先へ飛んでいく。
粒子の中シルヴィアは、不安そうにしている少女の手を引っ張って走り出す。
「あっ、お嬢様!」
いきなり大きな声で叱られたコーディはシルヴィアの行動に対応するのが遅れた。
パタパタと走っていく2人の女の子
「まって、ヴィー!」
その後を素早く付いて走り出すアレックス。
その子供たちの周りは妖精が守るかのように光でおおわれていた。
「ったく!箱入りのくせに!」
さっきまでの丁寧な口調と違い苛立ちながら舌打ちをして追いかける。もっとも、それでも口元はあがっており、本気で苛立っているわけではないようだ。
どっちかというと予想外のことばかりについていけないが、それをおもしろがっているようにも見えた。
◇
少女の家というのは、穢れの溜り場といわれるところと路地の境目あたりにあった。
しかしそれは実際には家ではなかった。
崩れかけた小屋のかろうじて立っている柱に、布切れを張ってテントの様にしている家。
壁代わりに同じようにぼろ布を垂らして外から目隠しをしているが、隙間から中が覗える。
その隙間から人が横たわっているのが見える。
隙間から見るだけでも、胸が大きく上下して苦しそうな息遣いも聞こえる。ときどき漏れるうめき声がどれほどの重篤なのか、少し怖いくらいだった。
「お母さん!」
住処が見えた途端、もどかしいのか手を振りほどきさらにかけだす少女。
「・・・はあ、はぁ、マギー・・・、ダメ、戻って・・・教会で、もう、ダメ」
途切れ途切れに聞こえる母親と思しき声。それは苦しそうな呼吸の合間に辛うじてうめくように出した声。
どうやら、母親は少女、マギーをこの場から離れさせたかったようだ。
母親本人はここで死ぬつもりだったのだろう。でもまだ生きている娘にここに留まってほしくなく、何を言ったのか追い出したかしたのだろうか?
「お母さん、しっかりして!
人を連れてきたの、お医者様に見てもらえるようにしてくれるって、だから、お母さんしっかりして!」
壁代わりの布をめくり中をのぞけば、そこは2人が横になるだけのスペースしかなく。そこにマギーと同じようなピンクゴールドの髪をした女性が横たわっていた。
間違いなくここまで案内してきたマギーの母親と分かる。
しかし垣間見ただけでも分かる、母親の様子はあまりよろしいとは言えない。
本当に一刻を争うほど重篤だと、素人目でも分かる。
「なっ、何を!はぁ、こんあ、はぁはぁ、うっ、こんなところに・・・医者なんて・・・」
苦しそうに出される声は、マギーの言葉を本気にしていない。
「・・・大丈夫です。わたくしたちがたすけます・・・だから、貴方はこのままでいいですよ」
母親に縋る、マギーの横に同じように膝をついて座って声をかける。
声をきいた母親は、突然聞こえた第三者の声にゆっくりと目を開けてこちらを、声をかけたシルヴィアの方を見た。
読んで下さりありがとうございました。
今回切るのが中途半端になってしまいました。
次もあした頑張って更新するぞ!!!待っててください。
評価いただけると、うれしくて喜んでがんばって書く活力になります。
新たなブクマありがとうございます。読んで下さる方が増えると本当にうれしです。
誤字脱字報告、本当に感謝感謝です。持病なので治療不可です。助かっています。
お盆休み終わりですね。
私のほうはもう仕事が始まってましたが忙しくないのもあって何とか書く時間が取れました。
忙しくても続けていきますので、更新が止まってもあたたかくまってくださるとうれしいです。