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《2-11》

マーガレット「信頼」

フリージア「親愛の情」

ライラック「友情」

オオイヌノフグリ「信頼」

青いというのはただの珍しいからです。

どの花とは言明しません。

想像して読んでください



魔女の言う通り、左側の角を曲がると少し先に青い花が咲いたプランターがいくつか並んであった。

白い壁に爽やかな青い花。

冬に近づくと花は街角から減っていくが、この小道に咲く青い花は花弁が変わっている。今の季節に咲く花なのかよくわからない。何の花かしら?


「お兄様!あの花みたいですよ!!!」


この先で出会いがある


そう言われたこともあって、青い花がいい出会いを運んでくれそうで早く見たいと気持ちも急いていた。

シルヴィアに引っ張られるようにアレックスも続く。

その手は痛いくらいに握られていて、絶対に離すもんかと意思が窺える。


「この花は何の花かしら?」


小さくて青い花。青でも優しい青の花弁。

前世で図鑑で見た気がするけど、名前が出てこない?


「この花は・・・」


「返して!!!!!」


プランターのところで2人で花を見ていると、すぐそばを2人の男の人が駆け抜け、それを追って1人の少女が必死に追いかけていった。


「待って!!それがないと、キャッ!!!」


少女はシルヴィアたちの近くを通り過ぎようとしたときに石畳に引っ掛かり躓き倒れこんだ。


「あなた、大丈、夫・・・?」


思わず少女を助け起こそうと近づき気が付く。

倒れこんだ少女はシルヴィアたちと変わらない年頃、涙でぐちゃぐちゃの顔は転んだ時についた土で頬を汚していたがかわいらしく、瞳もピンクで涙で潤んでいる。よく見るとピンクの中に金色が一筋入ったようにも見える。それに・・・


「ピンクゴールドの髪、・・・えっ、ヒロイン?」


思わず声に出た呟き。

身なりは汚く、輝きはないがたしかに彼女の髪はヒロインの髪色、ピンクゴールド。

ということは、彼女は、ヒロイン、マーガレット?

まさか、ここでヒロインを見つけるとは。


「お願いします!あの人たちを捕まえてください!!!お母さんの薬を買いに行けない、お願いします」


起こすために手を貸し固まったシルヴィアに縋り懇願する姿はあまりにも哀れで庇護欲をそそる。

しかし、シルヴィアの頭は別のことに囚われていた。

シルヴィアの血の気が引いた。


なんでここにヒロインが・・・


瞬間に思い当たったのはアレックス。

すぐ横のアレックスを見るがその様子は変わりがないように思える。

ゲームでもアレックスはなかなか心を開かないキャラだったから?

大丈夫?

本当に?

変わらない?

怖い、お兄様に嫌われる未来は嫌!


「助けてください・・・お母さんが死にそうなの・・・、お願い、し、ます・・・」


泣きながらにしては息が絶え絶えのヒロイン。

様子がおかしい。

そういえば、この時期にヒロインはお母さんを亡くすんだ。

じゃあ、ここでヒロインを助けたらどうなる?


シナリオを変える?


ナミルさんが言っていた出会いとはこのこと?


では、いまここでヒロインのお母さんが死ななければ?


ヒロインが孤児院に行かなければ、男爵家に引き取られない?


そうすれば・・・


打算的なことばかりがシルヴィアの頭を回る。そんな中、シルヴィアに縋りついていた少女の体が傾げた。


「あっ!」


その体をささえようと腕をつかむ。その体はとても細く健康的な状態には思えなかった。


「おい!君・・・」


「お兄様、わたくしこの子を助けたいです。

貴方のお母様のところに案内してください。

悪いけど、だれか、お医者様を呼んできて!」


彼女の体はとても細く、頼りなく小さな子供におもえた。

その体を確認したとき、甦った記憶。それは図書館に通っていた、虐待された子供。暴力は無いけど育児放置されて痩せ細った子供の顔が浮かぶ。あのとき、わたしはどうしたんだっけ?

何かしてあげた?

思い出せない。

でも、助けてあげたいとおもった。

思ったけど・・・


今の私に何ができる?


本当に彼女がヒロインならば、たった一人の母親を亡くすことになる。


私は、それを知っている。

知っているのに無視はできない。


断罪回避?

ストーリー変更のため?


わからないけど、今私の心にあるのは家族をなくし悲しむ子供の気持ち。


偽善でもいい


痩せ細った貧しい少女が、たったひとつの依る術の母親を亡くす悲しみを救いたい。

我が身さえも弱々しいのに助けを求めるのは親のこと。なんと健げなことか・・・

助けたい。


前世で助けたいと思った子はどうしたか覚えていないけど、でも


でも


魔女はこの先で私の心のままに行動しろって言った。

だからいま、私にできることをしたい。


「ヴィー!?」


「ありがと、う、ごさいます。」


シルヴィアの腕の中で泣きながら感謝する少女。


助けよう。


この子がヒロインだろうと何だろうと、ただの弱い少女ではないか。

いくらこの悲しみの後に、貴族令嬢として華々しく攻略対象者たちとの出会い、幸せになることが約束されたヒロインだとしても、母親を亡くすという悲しみは心に大きな傷を作る。


こんな女の子にそんな心の傷をつけてほしくない。



「お兄様お願いします。この子を助けてあげたいんです。」


少女を腕に抱えながら、勝手に助けるといったシルヴィアに思わず批難の声を上げたがそれは思いもよらないことをシルヴィアが言い出したからで、助けることに反対ではない。

目の前にいる弱った少女を捨て置けるほど、アレックスも冷たい人ではなかった。ましてや現在はシルヴィアをかわいがっている、最近は我儘というものを言わなくなったシルヴィアが久しぶりにお願いしたのが人助けだ。叶えないという選択はない。


「・・・ヴィー、わかったよ。さて、君の家を教えてくれ。」


ヤレヤレといった風ではあるが、そんな優しいアレックスはシルヴィアの腕の中の少女を立たせ、声をかけた。


「ぐすっ、あり、がとう、っご、ございます。こっちです」


まだ、涙を流す少女は立ってからもシルヴィアの手を握って離さない。


「大丈夫よ。あなたのお母様をきちんとお医者様に見せてあげます」


柔らかく微笑み優しい声をかけて握られた手とは反対の手でその手を優しくなでた。

安心してほしくてしたことだが、少女はますます涙を流してありがとうございますを繰り返した。


その後、ふらふらしながらだがその母親のいる家に向かったのだが、

道は細く、家の壁は相変わらず白いが、塗りなおされていないひび割れた管理の行き届いていないエリアに入っていった。


「お待ちください、もしかしてこの先ですか?」


ヒロインと思わしき少女と手をつなぎ、路地を進む中ついてきていた護衛の一人が声をかけて、その足が止まる。

振り向いてみればどうしたのか、少し青ざめた顔をしている護衛その2、その3。すぐ後ろのコーディもよくみれば強張った顔をしている。

どうしたのか、急ぎたいのに?


「この先は、人の住むところではありません。引きかえしましょう。医者もこの辺りは来ません。」


青あざめている護衛たちはもうすでに引き腰になっている。

この先に何があるのか?


「はあ、確かにこの子の住まいがこの先でしたら行くだけ無駄です。

この先は穢れの溜り場で、人が住むようにされていません。

住んでいる人がいるとすれば、それは犯罪者か人目を避けて暮らすような事情のなる後ろ暗いものたちです。どちらにしてもお二人にはかかわることのない者たちであるのは確かです。」


どういうことだろう?

穢れの溜り場とは何のこと?

ヒロインにそんな言葉は一切出てきた覚えはない。

私が忘れているだけかもしれないけど、それに王都にそんな場所があるなんて授業でも習っていない。


「早くここから戻るべきです。旦那様が知れば叱責されます。」


コーディーは青ざめている護衛たちほどではないがやはりいい顔はしない。

でも行くだけ無駄とか、医者が来ないとは?


「そんな!私たちは最近ここに来たばかりなんです。

お母さんが病気になって・・・、いままで住んでいたところを追い出されて、それで、それで、もう、雨を凌ぐだけでいいやって、でも誰もお母さんの病気がひどくなって・・・誰も、誰も助けてくれないの、教会も追い出されて・・・お願いします!私、何でもしますから!!お願いします!!!」


一生懸命懇願し涙する少女。

お兄様は何も言わなけど、困った顔をしている。穢れの溜り場と聞いてシルヴィアのように戸惑わなということはそれが何なのか知っているということよね。

でも、病人の母親がいる。

なのにここで躊躇していられない。

どうにかできないか?


医者がここには来てくれない。

教会も手を貸してくれない。

誰もこの先の人たちのことは放っておきたいようだ。


この先にいるからダメなんだよね。


なら、ここから出ればいいじゃない!


「わかったわ」


シルヴィアに縋りつく少女を腕から外してコーディーに向き返事をする。

その瞬間少女の顔が絶望したように見えた。

大丈夫よ、ぜったいに見捨てないから。


腕から外した少女の手をぎゅっと握り返した。


「お兄様と貴方たちはここにいてください。

わたくしがこの子と一緒に行って母親を連れてきます。侯爵家に医者を呼んでおいてください。

あと、馬車も近くに「ダメだ(です)」」


シルヴィアの声は全員にさえぎられた。


「ヴィーは穢れが何なのか知らないから言えるんだ。

そんなところに一度でも足を踏み入れて、穢れに侵されてしまったものは死ぬだけでなく、周りに更なる瘴気を生むんだ。そんなところから病人を連れ出せばどうなるか!

ダメだ!絶対に行かせない!!!」


そう言って、シルヴィアから少女の手をはがそうとする。

シルヴィアはそれを逃れようと、少女と身を後ろに引く。


「大丈夫です。

私は、絶対に大丈夫!!!」


穢れが瘴気だというのなら、それを持ち込まないようにするなら。

そう考えて頭に浮かんだのは妖精へのお願い。


─────お願い、妖精さん。この先に行きたいの助けて!!!


目を閉じて、心の中で強く念じた。

さっき魔女の店にいて妖精が来てくれることを願って。


そして目を開けたそこには無数の光に輝く妖精がいた。









読んで下さりありがとうございます。

評価をいただけると、やる気が出て喜びます。

誤字脱字いつもいつも助けていただいています。ありがとうございます。

ブクマも新たに頂いて、読んで下る方が増えて励みになります。


明日も頑張って続きを書きます。


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