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《2-10》

誤字脱字報告感謝です。



にやりと口の端が持ち上がったナミルさんは何かを企むような楽しそうな顔をしていた。

シルヴィアの口の端もそれにつられて持ち上がるが、それはピクピクとしてとても楽しそうとは言えない顔だった。


「一体どうやってですか?」


箱の中から残りの魔石を掌に出してみる。

どちらも今、シルヴィアの耳についている乳白色の中、銀の粉をキラキラさせながら色を変えて優しく輝いている石と同じような魔石だ。

さて、どのようなことを考えているのか分からないが、一応聞いてみよう

聞いた後で考えればいい・・・変なことでなければね。


「そんなのか~んた~んよぉ。あなたが上目遣いでお願いって甘えた声で言えばイ・チ・コ・ロ」


シルヴィアは静かに音も立てず出した魔石を箱に戻して、退出しようとした。

うん、やっぱりくだらなかったわ。


「ちょっとちょっと、まってよぉ~、冗談だから冗談!や~ねぇ、本気にしないでよぉ。

本当は、貴女が着けたいっておもって人に渡せば、その人は何の疑問も持たずに耳に着けてくれるのよ」


ナミルさんは慌てて、だけどヘラヘラ笑いながらシルヴィアの腕をつかんで引き留めた。

ナミルさんの説明では、この魔道具、魔石は妖精魔法によって耳にくっついたという。

そして、今此処にいる妖精たちはシルヴィアが相手を選べば着けてくれるらしい。


と、ナミルさんが言う耳元には代わる代わる強い光、妖精さんたちがそう囁いている。


なんだか、囁きなんとかみたいだなぁ。


「わかりました。試してみます。

ところでこのお代なのですが?」


「代金は、あなたが持っているだけでいいのよ。

この引き出しは、その人に必要な魔道具を選ぶだけじゃなくって、懐具合もちゃ~んと考慮してるのよ。

だから貴女のお財布にあるだけでいいの」


私が持っているだけのお金というと、お父様に出がけにいただいたお小遣い。

中身を確認していないんだけどなぁ。

そう考えどもこの魔石とやらがお値打ち価格って言う訳なさそうだし足りるのかしら。

足りない分は侯爵家から出してもらおうかなぁと、思っていたんですよ。ちゃ~んと。

だって、前世でも子供が万札を手にするなんて、お年玉ぐらいだったじゃない?

だから、現在の手持ちなんて精々、前世で言うところの数千円くらいだと思っていたんですもの。

うん、私の常識って間違いじゃないよね。


「わたくしの持っているお金はこれだけなのですが・・・」


取り出したのは、かわいらしい白いファーのふわふわもこもこなお財布。よく見ると刺繍糸でちょこちょこ黒いビーズが縫い付けてある・・・これってよく見ると猫ちゃんに見えなくもないけど・・・

うん、多分、違うよね。だってこれは出るときにお父様の懐から出てきたんたもの、あの時よく見る間もなくポシェットに押し込まれたからなぁ。

違う、お父様の趣味じゃない。

これはふわふわ猫ちゃんじゃない。

鋭い目をした宰相様と言われたお父様の威厳のために断固否定をしておこう。


タブン



円卓に白い(ふわふわ猫ちゃん疑惑の)財布から中身を出してみる。

チャリンチャリンと出てきたの少し大きめの硬貨6枚。

出てきたのは銀貨3枚と金貨3枚。


お父様!!!

子供へのお小遣いの金額、桁が違うから!!!


一桁二桁どころじゃなく違うからね!!!!!


お父様のお金の説明を聞いたときに認識した感じでは、銅貨1枚が100円くらいの価値みたい。それ以下の金額は庶民の間で出回っている小さな硬貨があるらしいが貴族は持つことがない。

そして、銅貨1枚100円の金銭感覚で言うと銀貨は1万円。つまり、金貨は100万円の価値があるということになるわけです。


ちょっと!ちょっと!!ちょっと!!!

子供にそんな大金持たすのおかしいから!!!!!


「あらまぁ、かわいらしいお財布ねぇ。私もそんなの欲しいわぁ」


出したお金の金額よりも、お財布のほうに興味を示すナミルさんってどうかしていると思う。

思ったよりも多くのお金が入っていて、目をパチパチしているシルヴィアの前から金貨だけをとって残りの銀貨をお財布に戻した。


「これで十分よ。後は町遊びを楽しんでね。あんまり遅くなると時間が無くなるわよ。

えっと、マチデートっていうの?行ってらっしゃい。」


お財布をシルヴィアの前に戻してニコニコしながら立ち上がるナミルさん。


そうよね、お店だもの。

品物選んで受け取って、支払えばおしまいよね。

おしまいなんだけど、なんだかこのままお店を出るのは名残惜しい気がしてきた。


見た目から言動、すべてにおいて癖が強すぎる店主に、狭い店内を其処彼処、浮遊している妖精さん。しかもいつもよりも強く発光していて細かい姿を見ることができない。

このお店のこともそうだし、何よりもさっきからチョイチョイ出るオトメゲーム系の言葉。

キョウセイリョクにマチデート、なんだか気になって仕方がない。

ゲームにも小説にもこのお店については何も出てこない。

それに近い街にいるキャラは、好感度確認スポットでアドヴァイザーの占い師がいたはず。確かセーブスポットにもなっていた。

今はそこについてはいいとして、でも魔女ではないと思うんだよなぁ。

画面越しに見ても、如何にも占い師ですと言った顔を半分隠すベールを付けた女性。見えた髪も黒かったし・・・。

こんなヒョウ柄バリバリの大阪おばちゃんDXっていう服じゃない。

それだけは断言できる。


何よりもあのボブ爺の知り合いのようだと言う。


「あっ、あの!また、またこのお店に入ることはできますか!?」


扉に向かっているナミルさんにそう言っていた。


「いつでも来ていいわよぉ。」


振り向いたナミルさんはなんてこともないように笑顔でいう。

今日見た中で何も企んでいなそうな、嬉しそうな笑顔だ。

なんでそんな嬉しそうな顔をするのか知らないけど、来てもいいと言ってもらえて嬉しくてこっちも思わず笑顔になる。


「さあ、早く出ないとそろそろ貴方の大好きなお兄様の我慢が限界に近いわよ。

また街に出たときにでも寄りなさいね。」


「はい、ありがとうございます!」


小箱を手に持ってナミルさんに続いて扉に向かう。

また来ていいと言われた。

もっと話したい。

ゲームに出てこない魔女さんがなんだかシルヴィアの味方になってくれそうな気がした。

いや、味方じゃなくてもいいから、聞いてほしい。

ゲームの、物語のシルヴィアとは違う、断罪ルートを行かなくてもいい方法を一緒に聞いて考えてほしい。


私が欲しい、ゲームに関係ない第三者の味方。

それにナミルさんになってほしい。


今日は時間がないからまた来よう。

ナミルさんの言う通りこれ以上お兄様を待たせては次の機会がなくなる。


「また来ます。

その時は私の話を聞いてください!!!」


扉の前でナミルさんに向き合ってお願いをする。


「いいわよ。

ふふっ、できたらそこは上目遣いでお願いっていってほしかったわぁ。本物の美少女のおねだりって破壊力すごいだろうなぁ」


短い時間だったけど相変わらずな人だわ。

でもこのわずかな時間にも何故か慣れてしまった。


苦笑いを向けながらも希望の光のような気がするナミルさんにまた来ますとだけ言って取っ手に手をかけた。


「あっ、そうだわ。一つ、魔女としてアドバイス。

このお店を出て、すぐ左に折れて青い花のプランターのある小道に入って見て。そうね、珍しい花があると聞いたと言ったらあなたのお兄様も反対しないと思うわ。

そこで、貴女の運命を確実に変える人に出会える。

そこからどう動くか、それによってこれからが変わる。今の貴方の心の赴くままに行動することを勧めるわ。

普段はこんなアドバイスしないのよ。

ボブから聞いていた妖精の愛し子ちゃんに出会えたからね。会えて嬉しかったわ。

また来てね、じゃあね。」


扉のほうを向いたシルヴィアに背中からナミルさんの声がかかる。

えっと思って振り向こうとしたけど、扉はガラガラと横に開き、入った時と同じようにすっと扉より外に押されるように出てしまった。

振り向いたときには、扉は半分閉じかけて室内が暗いのかナミルさんの陰影しか見えない。

何を言っていいのかわからずいると、扉は静かにしまってしまった。


「ヴィー!」


閉まった扉を呆然と見ていると、肩をつかまれて声をかけられた。


「心配したんだぞ!

どうやっても扉は開かないし!魔女は心配するなというけど、いくら中を覗いても覗うこともできなかった。もう、心配で心配で・・・父上に報告しようかと思ったくらいで・・・」


相当心配させたのだろう、いまだに血の気の引いたような白い顔で、それこそ泣きそうな顔でシルヴィアの肩を抱く手はちょっと震えていた。


「心配をおかけして申し訳ございません」


そっとお兄様の頬に触れれば冷たい。

よく考えれば普段屋敷から出ることのない、本当に深窓の令嬢だったシルヴィアが一人で見知らぬお店に入っては心配するだろう。しかも、今日は良く晴れているがもうすぐ冬なんだし、こんな外で待たせて申し訳なかった。


「いや、いいよ。ヴィーの身に何もなかったのなら・・・って、それは?」


つかんでいた肩を引き寄せてぎゅっと一度抱きしめた後、離れたアレックスは改めてシルヴィアの顔を見て片耳に付けている石に気が付いた。

アレックスの手が耳に触れる。

少しくすぐったく身をよじるが、抱きしめた後とあって距離が近く、美しい顔が近くにあった。


「あっ!お嬢様、ご無事で!」


近くによっていたお兄様の顔をぼぉ~っと堪能していたら、魔女の店の角から護衛さんのその2さん、その3さんがやってきた。名前・・・何だっけ?


「っ!・・・これですか?これが魔道具なんですが・・・後で説明しますぅ・・・。

魔女さんに聞いたのですが、あっちの小道に珍しい青い花の咲いているプランターがあるらしいです。そっちを通ってパティスリーに行きませんか?」


もう、こんな往来で何をしているのやら。

子供だけど見るからに綺麗な2人が顔を近づけているなんて!

もう、恥ずかしい

お兄様の後ろにいる護衛その1コーディは、何も言わないけど生暖かいその目が居た堪れない。


「うん、そうだね!さあ、行こうか」


「はい・・・」


シルヴィアが無事だったことで嬉しそうに再び手をつなぎシルヴィアが伝えた魔女の店から左の角に向かう。

その顔はシルヴィアを確認して、安心したのか普段通りの穏やかな顔だった。

でも握る手の力は強いけど・・・


ちょっと、痛いかな?

でも、まあ、大好きなお兄様と手をつないでのおデート♪


魔女のアドバイスでこの先に出会うのはどんな人なのかな?


曲がった先にかすかに見える青い花。


いい出会いであってほしいなぁ








そして、私の視線の先、青い花のプランターのある向こうを2人の男が駆け抜けそれを必死に追いかける女の子。

これが、本当にこの先のシナリオから外れる大きな出会いになった。












読んでくださりありがとうございます。

予定なしの今のうちに書き進めておきたいです。

頑張ります。

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