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《2-08》



「「魔女の魔道具屋?」」


小さく漏れた呟きは、きれいに揃った。

護衛の男、コーディは綺麗にハモった小さな主人たちにこっそり苦笑いを浮かべた後、キリッと顔を引き締め戻して分かりやすく説明してくれた。



魔道具屋は、珠に気まぐれな魔女が紛れている。

普通は正体を明かさずひっそりと紛れてしているのだが、この店は堂々と魔女の魔道具屋と謳ってる。

但しこの店は誰でも入れる訳ではなく、必要な人だけが入れる魔道具屋でその人が今、必要な品物がそのタイミングで存在していれば扉が開くお店になっている。


「ですので、用の無い客にはその扉は開かないのです。」


そう言われて先程までアレックスが開けようとしていたオーク材の扉を再度見る。

見た目はちょっと古びた扉。取っ手部分が長年使い込まれ触れられてることが感じ、そこはまわりよりもさらに黒くなっていた。どのくらい前から存在する店なのか、その店構えで想像し難い。


「・・・そうか、興味本意で覗くことは、できないのか」


「お兄様はこのお店には入ったことなかったのですか?」


名残惜しそうに扉を見つめるアレックスに違和感を覚えた。

このお店を魔道具屋だと知ってはいたが『魔女』のとは知らないようだった。一見して何処にも魔道具屋とは読めない看板。だというのに魔道具屋であることには自信をもって答えていたようにおもう。


あれ?


「っ・・・なんだい?」


思わず見つめたアレックスと一瞬目が合ったが、アレックスはバツが悪そうに目をそらされた。


あらぁ。お兄様の背けられた顔は見るまに無言のまま赤くなってしまった。

しばらくして唸るようにつぶやかれたのは、結果として行ったことがないとの返答だった。

しかし、ブライアンの姉ブリアナはこのお店を懇意にしているようで、街に出るたびに話を聞かされていたらしい。いつか機会があればその店に入ってみたいと思っていたのだが、何故だか街に出てその店を見ることはあっても入ろうとすると急遽ほかの所用が入ったりしていつの間にか帰路についていた。しかしそれが魔女の魔道具屋であるとは知らなかったとのことだ。いま思えばそういう店ならばそれも頷ける。行きたくても拒まれていた、ただそれだけのことだったということ。


「・・・だから今まで店に行きたくとも何かの邪魔が入ってたんだな・・・。今日、この店の前に行けたのも何かの偶然なのか・・・」


「魔女はきまぐれですから・・・」


アレックスは名残惜しそうに、オーク材の扉を撫でて呟いた。

そんなアレックスにコーディは、慰めにもならない声をかける。

そうか・・・確かに魔術師として国の最高峰に居るブリアナ様の行きつけの魔道具屋と聞いていたのならとても興味深くなる。

しかも行こうとすれば何かしらの邪魔が入って本懐を遂げることができないとなれば余計にその思いは募るというもの。


ふ~ん


その時のシルヴィアの行動は何気なく、なにも考えない動きだった。

アレックスとコーディは、カフェの場所の確認で顔を向こうに向けた時だった。


シルヴィアがとった行動は好奇心旺盛な子供なら普通のことだったから不自然はない。

兄の行動を真似て、最後にその取っ手に触れた。

本当に吸い寄せられるように、体が勝手に動いた。


そして、何故だかその扉を〝押す〟ではなく〝引いて〟みた。しかも、横に・・・

日本家屋の襖の要領で横に扉をスライドさせたのだ。


ガラララッ


はっ?


扉の見た目通りの重たい車輪の音を鳴らしてその扉は横に開いた。



ええ~~~~~っ?



驚きで体は固まったはずなのに、すーーーっと何故かシルヴィアの体が扉のうち側に進んでいた。


「あっ!」


「えっ、ヴィー?!」


まるで魔法にかかったように足がお店の中へと進んでいく。

驚きの声を上げたことでアレックスと護衛たちはやっとこちらに気が付いたけどすでに遅し。声を上げた時には開いた時とは対照的に静かに扉は横滑りして閉じていった。



「えっ、お兄様!」


扉が閉じると同時に後ろを振り向いたけど、古びたオークの扉はびくとも動かなかった。


「うふふ、久しぶりのお客さんだこと」


内側の取っ手をもって押したり引いたり引っ張ったりを繰り返すがびくともしない。

そうしているときに後ろから楽し気な声をかけられた。


「っ!・・・魔女、さん?」


恐る恐る振り向いた先には一人の女性。それも、40代から50代くらいの恰幅のいい笑顔の女性。

しかも魔女のお店と聞いていたのだからこのお店にいるのは魔女のはず、多分・・・。


「そうよ、私がこのお店の主の魔女よ。」


そう言ってウインクをする目じりに皺が寄る。

自己紹介の通りこの人は魔女なのだろう。

そうはわかってもぽか~んと口をだらしなく開けて見入ってしまうのはゆるしてほしい。


だってそうでしょ?

目の前の女性は、魔女と名乗った。

年齢は40歳から50歳くらいかな?ふっくらした顔と一重の目、目じりには年齢を推測させる皺がある、頬も少し重力に逆らえず少したるんで見える。けど老齢という感じはないことからその年齢を推測した。紺色の髪は、一つに束ねて、頭にヒョウ柄のターバンが巻かれていた。一重の瞳は色づいた銀杏の葉のように鮮やかな黄色。メイク方法のせいだろうか、なんだか西洋的な顔立ちが多いこの国でいい言葉を使うならばエキゾチックな雰囲気を漂わせていた。

そして、魔女ならば、裾の長いローブのような服装を思い浮かぶであろうがこの方、ふくよかな見た目を覆い隠すその服装が奇抜。


だって、どう見ても・・・











大阪のおばちゃんにしか見えないもん。







ヒョウ柄のチュニックにヒョウ柄のワイドパンツ。腰にはベルト替わりだろうか?キンキラなゴールドチェーンを何重にも巻いてジャラジャラ言わせていた。

手首にも太さがバラバラな金の腕輪に、数珠ブレスレットがいくつもついていた。首からは大きな輪っかのネックレスがぶら下がっていた。


・・・あれって、某プロレスラーの人が首に巻いてそうなやつよね?ネックレス?鎖?どちらにしても重そう・・・


見た目は、まごうことなき一昔前に流行った大阪のおばちゃんスタイルに似たコーディネート。いや、それ以上に奇抜だった。どうしたらこんな格好ができるのか不思議だ。でも不快感を感じさせない。



メイクはしっかりしていて、一重瞼に塗られたテッカテカの紫アイシャドウがまたいい味を出していた。アイメイクはしっかりされていて濃い化粧でも下品さはなかった。

奇抜な服装、濃い味を出しているメイク・・・纏まりなさそうで何故かこの魔女にはしっくりくるその姿。


「あらぁ、驚いて声も出ないのかしら?妖精の愛し子ちゃん」


そう言って立ち尽くすシルヴィアのすぐそばまで、扉の前に来るとその扉に手を当てた。


『私は魔女なり。中に招かれし客人の身柄の安全は保障されている。暫く待たれよ』


さっきまでの柔らかな声とは違った中性的な硬質な声を出した。

すると扉の向こうで何かが変化があったのか、フッと息を吐くと目じりを優しく下げてシルヴィアに向き合った。

そして改めてシルヴィアの頭からつま先まで見まわしてクスッと笑った。


「まったくいやんなっちゃうわぁ。魔女のお店の扉を壊すつもりだったのかしらねぇ」


そう言われてシルヴィアも、やっと呆けから戻ってきた。

いきなり扉の向こうに消えた妹をアレックスたちが心配しないはずはない。

いくら魔女のお店とはいえだ。シルヴィアは侯爵令嬢で、まだなったばかりとはいえ王太子殿下の婚約者なのだから。その身は、一介の貴族令嬢よりも重い。外のお兄様や護衛の行動は想像しがたく、どうなるのか


「すっ、すみません!」


「いいのよぉ。こっちも招き方が強引だものね。うふふ、でも今日はこんなにかわいい子に会えてうれしいわぁ」


そう言って悪戯を仕掛けた子供のように怪しげな目で笑う魔女さん。

えっと、やっぱり警戒したほうがいいのかしら?

魔女さんの表情で少し不安になったシルヴィアは今すぐ後ろに後退したかったけどさすがにそれは・・・と躊躇した。


「ああ、大丈夫よ。何もしないわ。とりあえずまずはあなたが欲しがっている商品を見ることをお勧めするわ」


そう言ってシルヴィアの背にそっと手を添えてお店の奥に誘導された。と言ってもお店はさほどの広さはなく、お店というのに見た感じ商品は何も陳列されていない。

壁一面に大小様々な大きさの引き出しが天井から床まで並んでいるだけ。

まるで薬箪笥みたい。

その引き出しの前に円卓と椅子が2つあるだけ。


「さてと改めて初めまして、私は魔道具屋の魔女よ。名前は魔女の規定で名乗れないけど通り名としてナミルと呼ばれているわ。あなたの名前を教えてもらえるかしら?」


2つある椅子の1つに座ると、変わらず朗らかな声で話しかけてきた。

さっきまでに悪戯な目はどこ行った?

そう思いながら、相手が名乗ったのだからと椅子に座ったまま自己紹介をした。


「わたくしはシルヴィア・レーヌと申します。」


座ったままのお辞儀は不作法だろうが、何故かこのままでいい様な気がしたので座ったままでもきれいに見えるようにだけは気を付けてお辞儀をした。


「まぁ、やっぱりボブんとこのお嬢様ね。すご~い、その瞳。素敵ねぇ」


ふっくらとした両手を胸の前で合わせた、魔女さん改めナミルさん。

その口から飛び出した名前はボブ。ボブんとこのって、つまりはあのボブ?

方言きつくって、腰が低そうに見えながら主よりも権力を持っている?あのボブ爺の事?


「えっと、ボブ、ってあのボブ爺ですか?」


「私の言うボブは、じいさんでどこだか知らない方言しゃべって、一帯どのくらい生きてんだってくらいの年齢に物言わせてお偉いさんたちにも物が言えるあのボブよん」


きゃっぴっと副音が聞こえてくるように、合わせた掌を今度は拳にしてあのぶりっ子ポーズをとるナミルさん。

う~ん、ちょいちょい見た目としぐさとしゃべり方のギャップがある人だなぁ。

魔女さんってみんなこうなのかしら?


それにしても、やっぱりあのボブなのね。


「ということはボブとお知り合い?」


「そうねぇ、知り合いっちゃ知り合い?ず~っと前から?前にあったのは10年くらい前?その時に王女様と同じ瞳のお嬢様のこと聞いたのよね。うふふっ、会いたかったわぁ」


そう言ってさっきまでの笑みとは違って、どこか懐かしむような優しい微笑みを浮かべた。


「?・・・そうですか?」


「不思議よねぇ、瞳の色も変色するときに混ざり合うことなくキラキラしてそれぞれの色を放って・・・本当にきれい・・・」


真正面に向き合って座ったナミルさんは、魅入るようにシルヴィアの顔を、瞳を見つめてくる。その見方が嫌に熱っぽく居心地が悪い。

思わず顔を背けてしまった。

顔を背けてもまだ見つめてきてるけどね。

何なんだろ?


「あの!それで私はなんでこちらに入れたのですか?」


「ああ、忘れていたわ。そうそう、この魔道具屋はあなたの欲しいものが必ずあるお店なのよ。

この壁一面の引き出し、これね、この中に入っているわ。

さあ、貴女の好きな引き出しを開けてみて♪」








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