《2-03》
マラカイト国王太子フェリクス殿下とレーヌ侯爵家令嬢シルヴィア嬢は王命により婚約が成立した。
フェリクス殿下の婚約者にと、あの庭園で求婚され承諾をしてしまってからすぐシルヴィアはキャパオーバーで記憶も曖昧に屋敷に帰り着いて、熱を出して寝込んでしまった。
その間に両親と王様たちの間でどんな話し合いがされたのかは不明だが、本人を前に跪き婚約を請いそれに承諾を返したというのに『王命』という命令によって婚約が成立した。その日のうちに国内外の王侯貴族たちに通達が行ったこの知らせ。
それに対して目を覚ましたシルヴィアが思ったのは、この婚約にフェリクスの意思には添われていない。
やっぱり、悪役令嬢は嫌われる運命なのね・・・
目が覚めて夢であったならどれほどよかったか、前世を思い出し目が覚めた時と同じ思いがまた胸を占める。しかしあの時とは違い、目を開けた視界に飛び込んでくるたくさんの彩り。かわいらしい花々が飾られた部屋、それらは倒れたシルヴィアを見舞ってフェリクスから毎日届けられたものだと聞いて夢ではないと暗澹とした気分になった。カードも何もない花だけの見舞いにその心情が分かるようだ。今回はあの時と違って婚約者なのだから形式上でも、心配をするふりをしないといけなかったのだろう。
僅かでも好きでいてほしい、いや、せめて厭われることのない関係でいたいと思うのに花束の中の大半を占めていた花にラベンダーがあったことでシルヴィアの希望はかなえられるのが難しいと悟ってしまった。
ラベンダーが好きでたくさん書物を調べていた経験からいくつかある花言葉の殆どは良くないものばかりだから。シルヴィアがラベンダーについて庭園で饒舌に語った中には実はそのことにもちょっと触れていた。詳しくは言わなかったが心安らぐはずのラベンダーにあるような花言葉とは思えないほどの良くない言葉なのだと言った。結局あの時の話を聞き流されていたのか、聞いて敢て送ったのかどちらにしろフェリクスの気持ちはシルヴィアにないことがうかがえる。
綺麗に飾られ、安らぐようなラベンダーの香りが他の花たちの香りと混ざり合い、室内を噎せ返るような息苦しい空間にしていた。
ゲームの展開通りに悪役令嬢になってしまったわが身を嘆きそうになる。
ジワリと滲む涙。現れたヒロインがフェリクスやアレックスのルートを選んだら?まだ見ぬ未来。そうならない未来もあるかもしれないが、今回のように妙な力が働いて、シナリオに沿った強制力によってまた修正されてしまったら?
逃げ道はあるだろうか?
まだ、何かできることはあるだろうか?
もう一度、ゲームの展開をまじめに思いださないといけないかもしれない
そう思うと泣いている暇はないとぎゅっと唇をかみしめて流しそうになる涙をこらえた。
そうよ!
折角、ここまで仲良くなったお兄様とゲームのように冷たい目で見られるなんて耐えられないわ!
絶対に!回避してやる!!!!!
◇
ゲーム展開の『君が為花束』は、ごくごく普通の恋愛シミュレーションゲーム。
母親と2人で暮らしていたヒロイン、マーガレットは11歳の時に母親と死に別れて孤児院で暮らしていたが、魔法の才能を見出され教会に移り住むことになった。特徴ある見た目を聞いた生き別れの父親と名乗る男爵が訪ねて運命は動き出す。そして、貴族と魔力を持つ平民が集うこのクオーツ学園での生活が始まるのだ。
メインヒーローはもちろんフェリクス第一王子。
攻略はとても簡単。出会いのイベントから好感度上げイベントもたくさんあって、スチルも豊富。攻略の鍵も王太子という立場に在りがちな悩み。賢王と言われる父の後国を背負うことに重圧を感じていた、その気持ちを抱えつつも、日々みんなが求める理想の王子様という姿で過ごしているうちに疲れていった。その重圧を明るく優しいヒロインに癒されて絆されて攻略されてしまうというもの。
嫌がらせをするシルヴィアから守るというのも、好感度上げのイベントとなっていた。
シルヴィアが足を引っかけて転ばせる、突き飛ばす→フェリクスが抱き留め助ける。
シルヴィアが物を隠す→一緒に探して、同時に見つけて手が触れ合う。
シルヴィアがお茶会で紅茶をかける→颯爽とそこから連れ出して、手当てをして薔薇の庭園を二人で散策する。
シルヴィアが池に突き落とす→濡れてしまい寒さに震えていたヒロインに自らのジャケットをかけて抱きしめる。
シルヴィアが魔法で密室に閉じ込める→シルヴィアよりも強い魔力で打ち破り助け出す。
確かお茶会の時に意地悪をしたと同時に、その紅茶には毒を仕込まれていたのよね。
そのお茶を飲むこともなく、シルヴィアがぶっかけて退場されるっていうことになっている。毒を仕込んだ意味って・・・
これらの意地悪イベントに、プラスで好感度爆上げイベントなるものもある。
フェリクスについては、好感度は下がることはないと言っても過言ではない!
がっ!
それは、1周目に限り。
実は回数を重ねるごとに、攻略が難しくなっていく。詳しくは覚えていないのだけど、何かトラウマ?性格を構成する上での重大な悩み?のようなものがあったはず・・・しかもそれは他国も巻き込むミステリーっぽい展開だったような・・・それが回数重ねるごとに徐々に追加されて行って最後は難攻不落のような難しい展開になっていたと記憶する。それがあっての、隠しキャラが解放されるだったはず。
でももちろんここは現実なので、何周もリピートプレイできない。だから、フェリクス攻略はシルヴィアの虐めが鍵になる。
ということで、まずフェリクスルート対策
!ヒロイン、マーガレットに意地悪をしない!
そのためには、マーガレットのことを知るべし!!!
ゲーム内のマーガレットは、元気で物怖じをせずに言いたいことを言う。貴族令嬢としては欠点だけど他者への労りを持つ優しい女の子。孤児院や教会では小さな子供たちの面倒を見ていて慈愛のこもった眼差しで癒されると見つめていたスチルがあった。
ゲーム通りのマーガレットならば仲良くできる。
でももしも前世でよく見たようなヒロインが転生者だった場合、ゲーム通りの展開に持っていこうとするかもしれない。それこそよく転生もの小説なんかで見る様な冤罪をかけてまで・・・
その時は逃げるが勝ちだ!近づかない、関わらない!逃げるべし逃げるべし!
そしてそのためには常に第三者の目が必要だ。冤罪に巻き込まれない様に証人となる第三者を常に傍に置き一人で行動をしない・・・
その人は常に公正でみんなから信用されているような人でないといけない・・・
学園入学まで、そんな誰かを探しておかないと・・・
次に人気ナンバー2、お兄様ことアレックス・レーヌ
最初は冷たく、何をしてもけんもほろろで取り付く島もないとはこのことという反応しかしない。しかし平民から貴族になったばかりだというのに、マナーや学習をとにかく頑張って入学当時は平均点出発だった成績が徐々に上がっていく。4週に一度のテストの順位が上がっていくとともにアレックスは興味を覚える。
成績が学年50位以内に入ったら図書館に行きましょう、そこでわからない問題に四苦八苦しているところにアレックスが通りかかり教えてくれます。そのお礼にクッキーを持っていくとそこからは、成績さえ落とさなければ順調に好感度が上がります。そしてここがポイント、フェリクスルートにはなかった好感度爆上げゲームがある。それは4択のクイズになっていて正解ポイント90パーセント以上で好感度が上がる。パチンコでいうところの確変状態でその後にご褒美デートに移行する。
このミニゲームは、フェリクスルート以外はみんな存在する。その理由は、シルヴィアの虐めポイントが2つしかないからだ。
①権力を使って取り巻きと呼ばれるほかの令嬢と一緒にネチネチ嫌がらせ、人気のないところへの呼びだし、か~ら~の暴言というちっちゃな嫌がらせ。
②断罪されるような決定的なもの
②については好感度が上がりきった最終段階にある断罪の材料になるものだ。アレックスルートは、ヒロインが図書館での逢瀬に行く途中階段ですれ違ったシルヴィアに突き落とされるというもの。それは偶々、同じように図書館に行こうとしていたアレックスによって助けられた。突き落としたシルヴィアはすぐに逃げたが、突きとばすときに「平民ごときがお兄様に近づくな!」と叫んでる。このことが決定的な証拠となって断罪される。
以上を踏まえて、アレックスルート対策
努力する姿勢に好感度を持ちやすいアレックスだから、まずはシルヴィアも今以上に努力をする姿勢を見せる。あとは今のまま、わがままも言わずに目下のものにも心優しく感謝を忘れずに、そしてお兄様好き好き攻撃も今まで通り!
当たり前すぎるかもしれないけど、お兄様との仲だけはシルヴィアには譲れないものがある。
生のアレックスと過ごす日々はシルヴィアの至福の時、ご褒美なんだから!
あと数年で年上のアレックスは学園の寮に入ってしまうのだから、今以上に強い絆を作っておかないと断罪の時にシナリオ通りになってしまう。
一番大好きなキャラの推しのアレックスにゲームのように冷たく断罪されるのはど~~~しても避けたかった。それこそ他の死亡エンドのフェリクスやジルベルトよりも・・・
推しとの愛をつらぬくためなら、苦手な教科の勉強も今以上に頑張ってみせる!!!
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ・評価・誤字脱字報告ありがとうございます。
誤字、見直してるのに大量にあるんですね。
頑張らねば。
ちなみにラベンダーの花言葉は、たくさんあります「沈黙」「私に答えてください」「期待」「不信感」「疑惑」実は気にするほどひどいものじゃないです。その時のシルヴィアちゃんの心情的には合ってますけどね。