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20/63

《1-16》

よろしくおねがいします

~フェリクス視点~



母上からシルヴィア嬢と2人になれる時間をもらった。

予てからの後悔の気持ちを、謝罪することができる。

準備は万端だ。

僕の私室には、2人でお茶が出来るように女の子の好きなお菓子を用意したし、自然な流れで僕の私室に招待をしよう。できるだけ好感を持ってもらえるように、アレックスから聞いた彼女の理想とする『絵本に出てくるような王子様』の様に振る舞っている。

柔らかい声に聞き取りやすいゆったりとした口調。

王宮の案内をするとの名目なのだから、案内がてら会話をしながら誘導すれば意図せずともそうなるであろう。

そう思いながら、庭の案内をしながら僕の私室のほうに歩を進めた。


思えば長かったこの喉に引っかかった小骨のような悔も落ち着くであろう。ずっとあれからシルヴィア嬢のことを思うと落ち着かなかった。僕の前では笑顔は固まり、咎められないくらい自然に顔を俯かせるその姿に心が苛ついた。僕の発言のせいであると分かってはいても瞳を合わせるどころか顔をまともに合わせることもまともにない状態は、自分がやってしまった失態を思い知るのには充分であったし、僕以外に向ける微笑がこちらを向かないことに焦燥感が募った。

しかし、きちんと向き合う時間さえあれば僕だって自らの非を認め伝えることができるはず・・・

そう思うと少し、心が軽くなってきた気がしていた。


すると今まで何も気にしていなかったことが気になりだした。


今の状況

つまりは、家族それぞれの部屋の近くに設えたそれぞれの趣をこらした庭園を説明しながら案内していたのだが、2人になってから()()だったから気づかなかったが、左手に感じる細く小さな手に今更ながら心のざわめきを覚えた。

胸の奥、心臓がバクバクいうようなそれでいて、じわりと湧いてくる擽ったい感情?


なんだこれ?


初めてのことに戸惑いはあるが、この手を離したくないと思ってしまう。


小さな手の主は、僕の説明に笑みを浮かべて特に口をはさむこともなく静々と付いてくる。

う~ん、花園に可憐な女の子と手をつないで歩くなど・・・・・・・・・・・・ん?


これって・・・?


まさか・・・・・・?


所謂デートなのか?


いや、ここは王宮で僕のテリトリーではあるが・・・

でも、女の子と2人でって・・・?


いや、でも・・・見えないところに護衛の騎士たちや侍女たちがいる・・・がっ


うん、僕はこれをデートにする。

いいっ、違ってもいい!


これから、仲良くなるんだ!


定義と違ってもいいさっ!

定義に沿っただけの男など楽しくはない!!

僕は、これをデートとして楽しみたい!!!


後ろにいるシルヴィア嬢から見えていないのをいいことに僕は、緩む顔を隠すことなく勝手な妄想をしてしまっていた。






握る手に力を込めて振り向けば、はにかみながら頬を染めているシルヴィア嬢がいる。

そのはにかんだ笑顔があまりもかわいらしく、柄にもなく言葉に詰まってしまった。


「あっ・・・」


照れ隠しで、ぐいっと繋いだ手を力任せに引き寄せれば、か細い声を上げて自身の胸に飛び込んでくるようになる。そうなるように仕組んでひっぱったのだが、こうもよく飛び込んでくるのに悪戯を成功させた子供のように嬉しくなった。


「もう・・・、殿下・・・」


すぐに身を離して此方に真っ赤な顔で抗議の声を上げてくるのだが、その睨んだ顔さえも可愛らしい。


「ごめんごめん、・・・あまりにも貴方が可愛らしくて・・・」


微笑んでシルヴィアに向かい合って口元を緩め、すまなそうに聞こえない謝罪を口にする。

シルヴィアの瞳は、明るくキラキラ輝いていて怒った顔とは裏腹であると物語っていた。

再びもうと少し頬を膨らますも、その口元も緩んで目を細めてクスクス笑いだした。


「殿下は悪戯っ子ですね」


「かわいい子ほど苛めたくなるのは、男の性です」


「まあ!」


こんなやり取りを女の子としたことないのに、シルヴィアとなら楽しくて仕方なかった。

彼女の笑顔が見れることがこんなに嬉しいとは、思いもしなかった。

微笑むシルヴィアに仮面でない笑顔でかえせる喜びを・・・


そう思っていたとき、不意に手をくっと引かれ、掌にあった温もりが去った・・・どうしたのかと暖かい感情のこもった表情のまま振り向くとそこには、驚きに目を見開きすぐにぱっと目を逸らし俯くシルヴィアがいた。


・・・・・・・・・・・・そうか、これが現実


あれは、僕の妄想。スッとさっきまであった、暖かい感情が風にさらわれたかのように冷えていくのがわかった。

あのとき出会いが、きちんと為されていたのならば、あったかもしれないけど今はこれが現実だ。


僕に()を向けてくれないシルヴィアにチクリと胸の痛みをおぼえたが、それを隠し優しい声で何があったか聞けば、花壇に咲いている紫の花が気になったらしい。

花壇の花は庭師たちに任せているが、花の名前は把握している。

ただ、この僕の庭園に家族以外の女性が来ることはないと思っていたから、華やかさに欠けているが僕は素朴なこの花壇の花たちが好きだ。

ラベンダーと花の名前を告げて、様子をうかがっていると、シルヴィアは徐にラベンダーの傍により座り込んだと思うと花に顔を寄せていった。

香りでも楽しんでいるのだろうか、ほっこりと頬を緩ませ穏やかな表情で優しい紫の花を愛でていた。


花に夢中になっているのだろうか、僕がジッと視線を送ってもこちらに気付くそぶりもない。

そうして、眺めているとシルヴィアの瞳が瞬きの度に色が変わり始めた。


深い青から、緑へ変わりときどき澄んだ紫に・・・


「・・・んっ?」


瞳の色だけじゃない!

気が付けば彼女の周りにはキラキラと輝きが舞っていた。

日の光の加減とかではない、確かに彼女の周りで・・・そう、このラベンダーと彼女の周りだけが光っていた。その光は徐々にはっきりとキラキラ光を放つ。

そして、次の瞬きで変化したその瞳色に僕は、ひどく興味を引かれた。


僕と同じ・・・いや、もっと澄み切った美しい晴れた空の水色の瞳


きらきら美しく輝くシルヴィアの今の水色の瞳がもっと見たい!


僕は気がつくと彼女に無意識に接近していた。

未婚の、子供とはいえ男女が近づいていい距離ではない。

でも、僕は止められなかった。

そのキラキラした彼女の水色の瞳で僕に微笑みかけて欲しかった。

でもきっと、僕が声をかければ彼女は、その瞳を長い睫で伏せ俯き隠してしまう。

そんなのは嫌だ!

だから今だけでもいい。

紳士らしくない行動だけど、後で幾らでも誹りを受けよう


だから・・・

もう暫らくは・・・


僕に気がつかないで・・・・・・・・・・・このまま微笑んでいてほしい。


僕に微笑まない彼女に改めて気がつくと、胸に痛みが走ったが気がつかないようにやり過ごし、シルヴィアを食い入るように見詰めた。

此方を見てほしい

見ていることに気がつかないでくれ

少しでもいい此方に気がついて微笑んでほしい

笑顔が凍るならば気づくな!

相反する気持ちが交差する。

その気持ちでシルヴィアの微笑を浮かべ光る水色の瞳を見ているとある人を思い起こしそうになる。

その人も、僕には心から・・・彼らに向けるような笑顔は向けてくれない人だった。

そのことに気付くと、温かくなっていた心が冷え込みそうになる、だから、僕はそのことには気づかない。今はこの目の前の欲していたシルヴィアの美しい笑顔を眺めていたい。

今、この時だけは・・・


どのくらいそうしていたのか、時間にしてもそうたいしたことのない短い時間だったと思う。


「フェリクス殿下・・・」


戸惑いが滲む柔らかい声が僕の名前を呼んだ。

僕の感覚ではいきなりシルヴィアが此方を振り向いた。

彼女の中では、僕は少し距離をとっているように思っていたのだろう、まさかこんな至近距離にいるとは思って見なかったのか酷く驚いていた。

そして無意識とはいえいつの間にか、シルヴィアに触れそうなほど近くで見詰めていた自らにシルヴィア以上に驚いてしまい、声を上げることもせず瞬時に飛び後ずさった。

その跳躍たるや、いくら鍛錬を積んでいるとはいえその距離は恐らく僕史上最高記録を出したことだろう・・・公式記録しようにも記録に残したくないくらい恥ずかしい出来事だ。


しかも僕はその後のフォローも儘ならない、あたふたとした醜態を晒してしまった。

あぁぁぁ、彼女の理想の王子様とやらには、もう修正不能だろう。

自らの行動に恥ずかしさを隠すことも出来ずにくしゃりと後ろ髪を握り締めた。


「・・・あっ、えっと・・・ああ、何かな?」


それでも多少なりとも平静になってきたが、声は多少上擦っていた。

いや、此の状況に耐え切れなくて急いで声をかけたが正しいかもしれない。


彼女も驚きから感情が戻ってきたのか、何度かぱちくりと瞬きを大きくした後、クスッっと小さな、本当に小さな声がしたと思うとふわりと穏やかな・・・初めて向き合って微笑みを浮かべた顔を向けてくれた。


「ラベンダーの香りの効果をご存知ですか?」


ふわりと微笑んだシルヴィアに見惚れてしまいそうになった。

僕の顔をまっすぐ見てくれている

そのことが本当にうれしかった。

飛び上がって喜びそうになるくらいの気持ち・・・なぜ?

よくわからない、この気持ちのまま無防備に彼女に向き合えば、()()醜態をさらしてしまう。


それでも愛らしい微笑みに顔に熱が篭るが、これ以上の醜態は曝したくなく顔にぐっと力をより一層込めてだらしなく緩みそうになる目元を引き締めた。

うん、誤魔化せたよな・・・

そうであってほしい・・・

だらしなく緩み切った軟弱な男に見られたくなくって虚勢を張っていた。

その顔は、どんな表情になっているのだろうか?

せっかく笑顔になってくれている彼女に嫌な印象を与えたくない。

そのせいか結局僕は、よくしている笑顔の仮面をつけることにした。

うまくできているかはよくわからないけど・・・

幸いにしてシルヴィアは僕の妙な行動にちょっと驚いただけで、おびえた様子もなく柔らかな表情のまま話し続けてくれた。


「殿下、此方の庭の花は殿下の好みなのですか?」


「いや・・・この庭については僕が()()()()()にしてくれとだけ指示をしていたんだ」


そうだ僕が好きにしていいと、好きな花はあるかと聞かれたが花など女の子たちとの会話に必要なだけで特に興味がなかったから、ゴテゴテした令嬢たちが好む花よりも色味の優しい素朴な植物のほうが好ましいと言って後は庭師に全て一任をした。そしてできたのがこのハーブが多く植えられた庭になる。

花の名前は聞いたが、ハーブの効能については興味がなく知らなかった。


「この庭園を作った庭師たちは殿下のことをよく見ているのですね」


僕の返事にますます微笑みを深くして、呟くように教えてくれた。


「殿下、こちらのラベンダーは心を落ち着かせて安眠を促します。あちら小さな花が咲いていますカモミールは心身のリラックス効果があります。あの緑の葉は爽やかな香りが特徴のペパーミントです。頭痛や精神的なイラつきなどを鎮める効果があります。あれもそうですし・・・この庭園には殿下がリラックスできる要素がたくさんありますね。」


ニコッと今までとは違って恥ずかしそうにしながら、ハーブについて話してくれる彼女こそが、去年のあのときから初めて僕の前で落ち着いて話している。


ハーブのリラックス効果・・・


彼女の今の様子に確かにそうなのかもしれないと思った。

いつもの強張った表情でなく、口元にゆるく孤を描き釣り目の瞳をやんわりと下げたいつになく優し気な表情は僕が見たいと思っていた微笑にはまだほど遠いが、こうして顔を背けずにいてくれることが僕には奇跡に近いと思うと勇気が湧いてきた。


今なら・・・


そう、今この穏やかな空間なら・・・


「シルヴィア嬢・・・」


僕はこうしたことはしたことがない

でも、言わなくちゃいけない

僕もあの時のことを反省していることを・・・


名前を呼ばれて、ん?っと改めてこっちを向いてくれた彼女

その瞳色は穏やかに波打つ静かな水色だ。

空の色を思わせると思っていたが澄んだ清水のような透明感のある水色に今は思える。

穏やかな色に導かれるように勇気を出して声を出す。


聞いてほしい、僕の・・・




いつも感想、評価、誤字脱字報告ありがとうございます

リアル社蓄の為、更新が相変わらず亀並みに遅いですが頑張ります


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