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19/63

《1-15》

長らく間が開いてしまいました

すいません

よろしくお願いいたします

奥宮の庭園は、一般客行き交う表の王宮庭園に比べて、小さいが住まう貴人の趣味趣向が反映されたものだ。

例えば、王妃様の場合は季節をきっちり区切って芸術的な幾何学模様に植えた庭園になっていて、季節ごとにさまざまな様相を楽しめるようになっている。

王様は、国内各地から新たに改良された植物を植えている温室があるとかそういうことらしい。

ダリア様は、頭が覗くかどうかの高さで切り揃えられた様々な薔薇の生垣で、迷路のようにしてあり、中心には花畑があると言う。ジル様は緑鮮やかに鳥やウサギの動物に刈られたトピアリーが多く占めて風が爽やかに吹き込むガセボが建っているらしい。

なるほどと、シルヴィアは庭園に目をはしらせる。

いま、ここは王太子殿下の庭園。

背の低い緑の立木、レンガで区分けされた花壇はハーブが植えられていて慎ましやかな花が咲いていた。


秋の肌寒さも昼間にはなりを潜め、柔らかな日差しと、時折吹く涼やかな風が頬を撫でていく。その風には花咲く王宮庭園の甘やかな花の香りとは違う緑の瑞々しいさわやかさがあった。


フェリクス殿下にエスコートされながらタイルで歩きやすく舗装された小道を歩いていく。

先を歩くフェリクス殿下の後ろ姿しか見えないシルヴィアは、少ない言葉ながら内容は分かりやすい説明で、フェリクスの真意を計りかねていた。

フェリクスは、案内すると言って手を引いて先を歩いていたが、その足は庭に咲く花を愛でながらの散策らしくなく、説明が終わると顔を向ける間もなく移動で手を引っ張られ歩く速度も淑女を伴って歩くにはやや早足に感じる。

その素っ気なくも取れる行動は、フェリクス殿下が王妃に言われて嫌々、案内しているだけと思うには十分で、居心地の悪さをかんじていた。

なのに話しかける声だけはとても柔らかい。

いったいこの人は、今、どういう気持ちでいるのか?

声の優しさと義務的な行動が合わなすぎてシルヴィアは、軽く困惑しながら繋がれている手を見ながら歩を進めてついて行っていた。


ふいに風に運ばれてハーブの香りが鼻をくすぐる。

ん?これは何のハーブの香りだったかしら?

目の端に紫の一群が写った。

ラベンダーかな?

シルヴィアは、前世で一時期ハーブにはまっていた。それも勿論、ゲームのキーワードにハーブティーやポプリなどか出てきたことに淵源なのは、少し残念だろうか?

そちらを見ようと歩みを止めて手が離れたことで、フェリクス殿下がこちらを振り返った。


「ん?なにか、・・・?」


義務で案内していると思っていたから・・・だから、足をとめて振り返ったフェリクス殿下の笑顔が、一瞬今までに見たことがないような嬉しさが溢れているような瞳の柔和な笑顔で、あまりに美しい微笑みに見惚れて言葉を失ってしまった。

その柔らかな笑顔は、幻だったのか一瞬した後、いつもの貼り付けた微笑に明らかに笑っていない瞳になっていた。


「・・・・・・あっ・・・あの、あの紫の花が・・・」


「あぁ、あの辺りの花は5日前にいきなり一斉に咲きだしまして。確かラベンダーといっていたかな?」


・・・・・・いきなり咲き出した?


さっきの柔らかな笑顔は、なんだったのか?

それにシルヴィアにはもう一つ気になることが・・・


ハーブについては、前世で専門書を買って沢山のプランターで栽培するほど好きだった。夢中になるととことんやり込まないと納得しない性質で調べ事にも納得行くまで調べ尽くすのだが・・・特にラベンダーはハーブの初心者でも取り扱いが易い花だから調べたことはしっかり憶えている。

今の季節は、秋だ!

今日はよく晴れて暖かいとはいえ、朝晩は冷え込みが厳しくなってきたし、しっかり秋らしく紅葉も見える。

種別にも因るが大概のラベンダーは春から長くても初夏にかけて咲く。

それに近くにはカモミールも小さくかわいらしい花が咲いている。これも同様の開花の季節のはず・・・・・・今は咲く季節ではないはずなのに・・・


不思議に思いながら自然と足はラベンダーの咲いている花壇へと向かいじっと視線を寄せた。


『シルヴィア!』

『ワーイ、ココニモキテクレタノ!!』

キラキラと淡い輝きと共にラベンダーをはじめとするハーブの影から緑の妖精がわらわらと顔をだした。


「っ!」


思わず声を上げそうになったが、咄嗟にラベンダーの前にしゃがみ込んで花を眺めている体に見えるようにすることで誤魔化した。


そうよねこの間も、王宮には沢山の妖精がいたもの、いるわよね。

心の中はまだ驚いていたけど、一呼吸することでラベンダーの優しいかおりを吸い込んで思わず顔を綻ばせてしまった。


『コノハナ、キレイデショ!』

『オウジサマガゲンキナイカラ、サカセタノォ~』

『ネムレナインダッテ』

『カオリガイインダヨォ』


えっ?

王子様って・・・フェリクス殿下のこと?

元気がない?眠れない?

・・・・・・何か悩みでもあるのかしら?


『ソウダヨ』


緑の妖精の返事にシルヴィアは、再度驚いた。

なぜなら、シルヴィアは声に出していない、ただ思っただけのことに緑の妖精が答えを返してきたのだから。

えぇー!わたくし声に出していないですよね!

思っただけですよね!?

いつの間にか声に出していたのだろうか。だとしたら横にいるフェリクス殿下にも聞こえていたかも・・・。


『シルヴィアノオモッテルコト、ノゾイチャッタ』

『キコエテキタカラ・・・ツイ』


驚いているシルヴィアの目の前で緑の妖精たちが、しょんぼりと項垂れてフワフワ漂っている。

小さな緑の妖精たちが項垂れている姿は、なんとも哀愁漂って可哀想になってくる。


怒ってなんかないですよ!

ちょっと吃驚しただけです!!


くすっと口元が綻ばせ、そう心の中でシルヴィアが慌てて呟けば、本当に聞こえているらしくションボリとしていた妖精たちがパァ~と笑顔になり光り輝いて嬉しそうに元気に飛び出した。

妖精たちの話では、波長さえ合えば声に出さずに会話ができるらしい


ほっとしたものの、先ほど妖精たちが言っていたフェリクス殿下のことが気になった。

フェリクス殿下が元気がないって・・・何かあったのかしら?

今日の様子では分からないけど・・・


『オウジサマハマイニチ、ハナニムカッテハナシテルヨ』

『マイニチオハナシシテクレルヨ~』

『ナカヨクナリタインダッテ』

『アノネ、─────』

『─────ダヨ』


妖精たちの話は、聞いていいのか思ったけど次々にフェリクス殿下のことを教えてくれる。

楽しそうに次々と、もはや個人情報の漏洩です。重要な秘密事項などその気になれば聞けるのでは?・・・・・・内容を妖精が理解しているかは不明ですが。

しかし、妖精たちにかかれば内緒もできないのか・・・独り言には気を付けよう。

でも・・・・・・聞いちゃったものは仕方ないですよね?


「フェリクス殿下・・・」


少し、勝手に妖精たちからの話を聞いてしまった罪悪感を胸に抱きながら横にいるはずのフェリクス殿下に顔を向けた。


「っ!!!」


そこには間近に見つめる澄み切った秋の優しい空の水色の瞳があった。


振り向いたシルヴィアに驚いたフェリクスは、真っ赤な顔をしてパッとすぐに飛びのき後ずさった。2人の間には2頭立ての大型の馬車が入りそうなほどの距離ができるほど・・・


間近に見つめていたフェリクスにも吃驚したが、瞬時にそれだけ後ずさることにそんなに飛びのかなくても・・・と少しシュンとしてしまった。


「・・・あっ、えっと・・・ああ、何かな?」


フェリクス殿下は両手を上げたり下ろしたりを忙しなく繰り返し、しばらくして落ち着いたのか左手で後ろ髪をくしゃりと握り、手を下ろすと、赤味の残る顔にかろうじて取り繕う平静な顔でやっと上擦った声をかけてくれた。


すぐ近くにいたフェリクス殿下にも吃驚したが、今の人間臭い動作にはもっと驚いた。


シルヴィアの知る限りでは、物語のフェリクス殿下は、王子様の顔を崩すことがない。

幼少期より口許は弧を描き嫌味なく見たもの殆どが優しく微笑んでいるように見えて、それでいて眼光は抜け目なく相手を備に観察して次の一手処か、さらに先まで見据える叡智に満ちた、凡そ成人前の子供に似つかわしくない見るものを惚れ惚れさせ惹き付ける計算しつくされた表情と行動、動作をとる人。

シルヴィアを婚約者に選んでいたのも、将来の国王となったとき国内の貴族を纏めるのに有効且つ最良な手段であったため。そこに愛など存在しない、感情論抜きにして役に立つか立たないかで判断されていたからに過ぎない。

だから、いままでフェリクス殿下の笑顔なのに笑っていない瞳は、ゲーム通りにフェリクス殿下がシルヴィアに何の情も持たないということなのだろう。


そう思っていたのに・・・


普通に考えれば、子供の時分に己の感情を押し殺して大人と大差ないよう感情と行動のコントロールを幾らしていても子供なんだよね・・・


私たちはまだ、子供だもの・・・


先ほどの妖精たちからの秘密の囁きに、フェリクス殿下の本質があるような気がした。


悪役令嬢になるつもりはないから、出来たらフェリクス殿下は避けていたい存在ではあるけど・・・


知ってしまったら仕方がない。

悩み事を一人庭の隅で花に呟くようなかわいらしい人を放って置けるほど冷たい人になれないしね。

避けているだけでは、危機回避にならないし・・・

どうせなら、ちょっと、本当にほんのちょっとならお友達ぐらいには・・・

なってもいいのかな?


嫌われていないなら?


・・・こんなにかわいらしい王子様ならお友達になりたいな


私の脳裏には優しい香りのハーブの中でしゃがみこんで悩んでいるフェリクス殿下の姿が想像できた。


その普段の王子様然とした姿とのギャップにクスッとおもわず小さく声が出た。


想像だけでこんなにほっこりするなんて・・・

私は、ちょっとおかしいのかしら?

この時には忘れていたかもしれない

ゲームの中のシルヴィアを断罪する美しくも恐ろしいフェリクス殿下を・・・


「ラベンダーの香りの効果をご存知ですか?」


初めてだと思う・・・


フェリクス殿下の顔をきちんと見てお話をするのは・・・


少しの恐れを心に持ちながら、俯きがちだった顔を持ち上げてフェリクス殿下の顔を見た。

等身大のフェリクス殿下を見たと思う。


だから私は恐れを忘れ、まだ赤みが残る顔で澄ました笑顔をしている殿下に、複雑な気持ちを押し殺しにっこり微笑みを向けて私も等身大で話すことができた。




いつもいつも、更新がストップしていてもきてくださり、応援、待ってるよって言って頂き感謝感激、ありがとうございます

もう1話更新します

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