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≪閑話Ⅲ≫私は騎士団長の子息です~痛いのは嫌なので運命を変えさせていただきます~後編

閑話最後です。

連続投稿です。中編もあげています。



翌朝、強めな陽光が練習場に注がれる中若い騎士たちは各々訓練を開始していた。

夏も近いから日中は汗が止め処なく流れ、しなやかについた筋肉の合間を光る雫を、男たちは休憩中に無造作に拭き取っていた。

その視線は、練習場隅で椅子に座るサイラスとその前に正座で畏まって固まっているオスカーに好奇の目を向けていた。


サイラスの顔はいつもの通り無表情で、2日前の事故の怪我による辛そうな様子は見受けられない。

傍から見れば事故などなかったのではないかという様は、サイラスほどの鍛えぬかれた肉体と幼少から精神を鍛錬してきた賜物であって、いくら魔法で傷を塞いだところで痛みがないわけではないのだ。

剣が突き刺さり筋と神経を痛めている。だから、今も痛みはジクジクズキズキどころか、右足を動かせば激痛に近い痛みがある。それでも顔を歪ませず、汗一つかかないのは流石としか言いようがない。


練習場が見えるサイラスたちから近い日陰を作られた中庭にあるベンチに腰をかけて冷たい飲み物を用意されて、キャサリンもその様子を眺めていた。

昨日からの前世の記憶を思い出してからの()()()()()()では不安しかなく同席するといったのだが、練習場の中に入れば何が飛んでくるか分からない、それこそ先日のサイラスのようなことにでもなってはいけないと言われこの場所にいるようにと昨日から変わってしまった甘い微笑で言われてしまった。

1日経過した今朝、サイラスは昨日のような女性の言葉はその口から出ないが、キャサリンに対しての溺愛夫の言動は続いており、屋敷の使用人は勿論だがたった1日で騎士たちにまでその噂は届いていたようだ。だから、練習場から見えるこの場所にキャサリンをエスコートして腰を掛けるまで優しく微笑みときどき耳元で何かを囁き頬を染める新妻に蕩ける笑みを深くしているサイラスを見たときの若手騎士たちの驚きの顔は仕方がない。仕方がないが、とても恥ずかしいとキャサリンは思っていた。

昨日からの甘い囁きは最初に会ってから15年間されたことのないからどう対応していいのか分からない。

友人たちからたまに聞く政略結婚であっても愛し合っている高位貴族もいることは知っている。

サイラスと学園に通っていたときもそんな恋人たちを見ると羨ましいと思っていたが、貞淑な淑女がそんな事を言えるはずもなく、またサイラスもそんな行動が起せるはずもない。それにサイラスはけしてキャサリンを疎ましく扱ったことはない。恋情は知らないがお互いに愛情はあった。

辺境の地の父母は、仲の良い夫婦ではあるがそれはどちらかというとお互いの背を預けられる信頼できる仲であって、甘い愛妻家のような夫婦仲ではない。だから、キャサリンもサイラスとはそんな仲の夫婦になるだろうと思っていた。

思っていたし、実際にそうなるはずだったのに・・・

サイラスに微笑まれ耳元で甘く囁かれる愛の言葉に恥ずかしくもあるが嬉しい

嬉しいが・・・

思い出すと耳まで真っ赤になり横に控えるオットーの視線が痛い。

恥ずかしさを誤魔化すように視線を練習場に移すと座っていたサイラスが立ち上がっていた。

昨晩、大まかだが()()()()内容を聞いているがいまいちよく分からない。

オスカーの肉体にも精神的にも堪えるといいな♪っと嬉しそうに言っていたが・・・心配。

キャサリンは、その心配はサイラスに対してなのか、オスカーに対してなのか自分でも分からないがジッと見詰める先の行方を案じた。




私の前には正座をしているオスカーがいる。

短く刈った赤髪はオルグレン一族男子によく見られる色で大勢の中にいても目立つことこの上ない色だ。

顔は勿論、攻略対象らしくきりっとした眉に父譲りに鋭い目尻の切れ長な目、すっと通った鼻筋も前世の軍神マルスのような凛々しい男になるだろう。そのくせ性格はいつまでもヤンチャ系だったよね?

ヤンチャ系ってゲームとか物語とかなら面白いけど、現実にいると振り回されてただのトラブルメーカーだと思う。

そのオスカーは日の出前よりここに呼び出し、日が昇り若い騎士たちの朝の稽古が終わるまで地べたに正座をさせている。

じりじりと日の照るこの中でかなりきついとおもう。


「・・・オスカーもういい、立て。」


私は、一連の呼び出しからずっとオットーに代理で見張りを頼んでいた。

キャサリンが一緒に行くというので、時間ギリギリまで一緒にいて先ほどオットーと交代した。

万が一、キャサリンに何かがあってはいけないのでオットーにはキャサリンについてもらっている。

だから、オスカーは説明もなしに連れてこられて座らされ続けていたわけだ。

まあ、これがお仕置きの一環であることは想像がついているだろうけど・・・


オスカーは私の声にヨロヨロと立ち上がりおぼつかない足でまっすぐ立とうとするができないでいた。

私はそれをみてにやりとわらって思いつきが成功しそうで嬉しかった。


「そのまま、グラウンドを10周走って来い!今すぐ!!」


言葉少なく、無表情で言えばえっと驚愕するが罰であると理解しているためか何も言わずにヨロヨロと足を持ち上げ着く、その度に変な格好でぎこちない動きを曝していた。顔もなんともいえない苦悶に歪み辛そうにしながらも一歩二歩と足を上げていた。三歩目で足がおかしな着き方をしてあっといって地面に倒れこんだ。そのまま足をのばそうと手を掛けたのを見て冷たく言い放った


「おい!誰が休んでいいと言った!!早く起きて走れ!!!」


そう言った私を見たオスカーの顔は、惨めにも絶望した顔をしていたが私はそんな事どうでもいい

だって、これが狙いだから。

昔、前世で一時面白そうで茶道を習ったことがあったのだが、そのときの正座がもう厳しくて厳しくて3回で音を上げた。

その時に知り合った人から聞いた話で女性はまだいいほうだ、筋肉質の男の人は正座がきついだけでなくその痺れも中々治まらないという。

しかも、それですぐに動けって言うのは鬼だとその人はその様子を思い出したのか可笑しかったとわらっていた。

ならば、それを衆人環視、若い騎士たちが見ている中よたよた不恰好な走りを曝してもらおう。

覚束無い走りのオスカーに若い騎士たちはクスクス笑っていた。中には野次をとばすものもいた。それは事前にオスカーにはサイラスから罰が与えられ、肉体的にも精神的にも堪えさせるために団長子息でいろいろ遠慮するであろう若い騎士たちには、咎めはないので遠慮なく格下に行うような態度を取る様に触れまわっていたからだ。実際に罰で地獄のしごきが入る際は、周りから野次をとばしたりして羞恥に曝されるようにしているのだ。

オスカーは起きては走り、起きては走りを繰り返して1周2周と走り3周目に入る頃には痺れは落ち着いたのは普通の走りになっていた。

10周走り、戻ってきたオスカーは普段鍛えているだけあって息一つ乱れてなかった。


「では、再び座れ。」


そういうと素直に再び地べたに正座をするオスカー。

オスカーは同じことが繰り返されると思っているのかな?うふふっ、バリエーション用意していますよ。

手を上げて合図を送ると私の傍に控えていた若手騎士2人が棒と水の入った桶を持ってオスカーを取り囲んだ。

オスカーの肩に棒を置きオスカーに持たせその両端に桶を掛ける。所謂、天秤棒だ。


「おうっ!っ!!」


正座のときのこの重量は堪えるよね。膝が地面に食い込んで痛いよね。オスカーの思わずあげた呻き声がその苦痛を物語っている。

しかも、運動あとだもんね。


意地の悪いにやついた笑いをしている自覚はある。

これは罰なのだから、しかも騎士に所属していない身内の不始末ぐりぐりとわき腹をこぶしで捻りねじ込むようなじわじわとした苦痛を与えて見せよう。ふふふっ。


「さて、オスカー。おまえは何がいけなかったかわかっているのか?」


ここからが、本題だ。

周りには訓練が終わり予定のない騎士たちに集まってもらった。

反省を促すのが本来の目的だから他の騎士たちにも聞いてもらう必要がある。


「剣の管理を怠り、禁止されている真剣による自主訓練によって怪我人を出したことです。申し訳ございませんでした」


ぐっと顔を此方にあげて真剣な眼差しで謝罪するオスカー。


「違う!水の追加!!!」


端的にいえばそうかもしれないが言いたいのはそれとは違う。

そうして、両端に桶が追加される。

重みでオスカーの背中が曲がるが、近くにいた騎士たちがこのくらいで情けないなど野次をとばす。悔しそうに顔を歪ませてぐっと力を入れて背をまっすぐに起す。まだ成長途中の子供の体に酷だとは分かっているが構わない。次も間違えればまた追加するつもりだ。


「も一度聞く、何が悪かった。」


「・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・」


戸惑っていて答えられないでいるオスカー。

外部から見ればそれは結果的にそうなっただけでその根本的な原因が分からないと再び同じ事を繰り返す。それこそ今度は身内でないものに被害が及ぶ。

それに将来騎士団に入り王太子殿下の傍に侍ることになろうオスカーには厳しいくらいがちょうどいいのだ。

暫らく待っても考え込むだけで答えの出ないオスカー。闇雲に答えないだけきちんと考えているということだろう。


「オスカー、立って再び10周走って来い。」


あきれたように再び促した。

座っていた時間が短くとも疲労している筋肉で正座してしかも重量の負荷が懸かり最初の比ではない痺れがある。同じ様によたよたと進み倒れるを繰り返し、野次を飛ばされ走って戻ってきた。

その後3度ほど同じことが繰り返され、桶は増やされ苦痛の中走ってもらった。

いいかげん、気がついて欲しいものだが・・・


再び正座をして両方に桶をつけた天秤棒を持たせる。流石にちょっときつそうだ。


「何が悪かったかのヒントをやろう。この頃のお前の態度は正しいのか?」


もっと苛めたいが、キャサリンが見ているからね。あまり酷い仕打ちをしていて鬼畜に思われるのはよくない。ただし、これだけのヒントでまた違うことをいうのならば幾らでも追加するけどね。


「・・・・・・それは・・・、良くはなかったです。」


言いにくそうに自らの最近の行動を振り返って思い出しているのだろう。苦々しい顔をして搾り出すように言った。


「それで、何が原因でそうなった。」


「・・・・・・・・・・・・っ、・・・こに・・って・・・。」


こんなに近くにいるのに聞こえないほど小さな声だった。普段が無駄に大きな声をしているだけに小さな声も出せたのかと変なところに感心してしまうほど

って、今はそれじゃない


「聞こえん。」


尊大に冷たく視線を送り聞き返した。

今度は聞き漏らさないように此方も耳を澄まして待ち構える。


「・・・女の子に、酷いことを言って・・それで、えっと・・・」


それでもぼそぼそと言っているが、今聞き捨てならん言葉が聞こえた。


「おい!今、女の子にと言ったな。誰に何を言ったんだ!?」


無意識に怒気が込められていたのだろう、傍にいた騎士たちがヒッと身を固くしていた。関係のない若い騎士たちにはすまないが今は構っていられない。

女の子を苛めただと!騎士の誓いに反する行為だ!弱きものを助けることこそ騎士の基本だ。女の子をいじめるなど騎士以前に男として最低な行為だ


「えっと、レーヌ侯爵の・・・」


「はあ!?レーヌ侯爵令嬢か!!!おい、お前らすぐにここから立ち去れ、誰か父上を呼んで来い!!!」


おい!レーヌ侯爵といえば格上の侯爵である上に宰相であり、夫人は母上の友人でもある。


「兄上っ!まって父上にはまだっ、まって、アレックスが!」


「アレックス?レーヌ侯爵の息子じゃないか?それが如何したんだ?」


周りの騎士たちには一旦、距離をとってもらって聞こえないところまで下がってもらった。巻き込みたくないからな・・・


「アッアレックスも居たんだ。それで、一緒になって見た目を・・・で、謝ろうと思っているんだけど、アレックスも、まだ会えないらしくて・・・」


「ほう、それで自棄になっていたのか?それであんな事故を?」


私の怒気は益々強くなり、いつの間にか威圧さえもしていた、未成年のオスカーにはきついかもしれないがそんなのは知らない!レーヌ侯爵令嬢と言えばオスカーと同じ年の令嬢だ。しかも、自家のお茶会に少し顔を出すだけの幻の妖精令嬢と社交界で有名になっていると聞いたことがある。女クセの悪い社交界だけの友人情報は年齢関係なく美しい令嬢について教えてくれる。そして、侯爵が目に入れても痛くないほど可愛がり、昔令嬢を苛めたものたちはいつの間にか社交界から姿を消していたらしい。それだけでなく、中には犯罪歴が暴露され爵位と領地を取り上げられて一家散り散り離散していて生きているのかも分からないものもいると言う。

その令嬢にどんな酷いことを言ったと言うのか?事としだいによっては除籍した上で耳を引っつかんでレーヌ侯爵令嬢に謝罪に行かないといけない。そうでないと伯爵家の危機だ!


「うん、アレックスの話だと侯爵はこのことを知らされていないらしくて、俺たちも如何すればいいのか・・・もう、毎日もやもやして、いつ突然侯爵が乗り込んでくるか怖かったし・・・父上たちにも言えなくって、俺が発端の事でもあって・・・眠れないことが多くて・・・兄上ぇ・・・」


情けない程に縮こまり泣きそうな声を上げる愚か者め!ならば、そんなことは最初から口にしなければいいものを!オスカーは昔から思慮に掛ける言動が目立っていた。

幼い頃オスカーが見習い騎士と剣を交えて、相手が負ければ年上のクセに弱いだのと言ったことがある。確かにそうだがオスカーは天賦の才があった。だから、剣術の成長は目覚ましくその為か、剣に対して些か傲慢な言動をとることがよくあった。今のままでは幾ら剣術が強くても人望乏しい人間になる可能性がある。だが、それでも王太子の側近になってからは少しは改善されたと思っていたのに・・・変わらないのか?

如何したものか思案していると小さな声で名前を呼ばれ振り返るとキャサリンが近くまで来ていた。その後ろにはすまなそうな顔をしているオットーを引き連れて・・・


「すいませんサイラス様、お話の声が聞こえまして・・・オスカー?貴方はそれでどうしたいの?」


近くまで来たキャサリンは私に謝罪したあとオスカーに向き合って優しくきいてきた。いや、キャサリンこんなヤツの優しくしなくていいぞ、こいつは我が家の平和のために除籍予定なのだから。


「義姉上ぇ、俺は謝りたいんです。本当にそんなつもりもないちょっとした笑い話のネタにとおもっていただけなんです・・・」


阿呆か!女の子の見た目を笑いのネタにするなんて!!

年齢的に多感な年頃なのに・・・はあ、前世でもおしゃれに目覚める年頃だ。

謝って、すむのか?


「・・・本当に悪かったと思っているのですね。サイラス様?もうすぐわたくしたち主催のお茶会があります。そこにご招待をしてみてはいかがでしょう?」


キャサリンは情けないオスカーに呆れたような仕方ないと言った笑いを浮かべて私に提案をしてきた。

確かに私たちの結婚後始めてのお茶会を開く予定だ。


「いいが、キャサリンが主に準備をしているのだから招待客はまかせているし・・・。だが、来てもらえるだろうか?」


肝心の令嬢が来てくれないのでは意味が無い


「あら、そこはお義母さまにお願いしましょう?ご夫人とも仲が良いとききます。お義母様なら何とかできると思いますわ。それにレーヌ侯爵令嬢は最近何かと話題になっています。

まるで人が変わったように勉学に励んで淑女教育にもどんなに厳しくても音を上げずに笑顔を絶やさない謙虚な姿勢で取り組んでいるとか?令嬢を指導している家庭教師が褒めちぎっているらしいのですよ。それでどうしても会いたいですと言えばお義母様も頑張ってくださりますよ。」


にっこりと微笑むキャサリン


「キャサリン・・・君は天使なのか?こんな愚弟のために・・・こんなの除籍して簀巻きにして侯爵家に奴隷として差し出せばいいものなのに。」


「いえ、わたくしにとってもかわいい弟です。除籍はやめてあげて下さい」


優しすぎるだろう。うん、じゃあ除籍の話は保留でもいいよ。


「オスカー、キャサリンに感謝しろよ。呼ぶまではしてやるが来るかどうかは知らん。

しかし、来るこない関係なくこの茶会終了時までに謝罪を受け入れてもらえないときは父上にこのことを話しお前の除籍の進言をする。その上でお前をぼこって簀巻きにして侯爵家に奴隷として転がしてくる。いいな!

お茶会に来てもらえたら謝り倒して土下座でもして来い!それで、奴隷にしてくださいお嬢様と言ってでも許してもらえ。言っておくが、以前に令嬢を苛めた家は潰されたんだぞ。お前の浅慮な言動で伯爵家を危機に曝すわけには行かない。いいか!他はどうでもいいがキャサリンに害が及べばお前を義父上の領地の魔物退治の奴隷として引き渡すぞ!絶対に!」


キャサリンに被害が及ぶのは嫌だ。

だから、手をかしてやる。それだけだ!

オスカーは私の荒い鼻息に気圧されるように頷き、「どっちにしても奴隷かよ・・・」と呟いていた。

いいじゃないか、妖精のような美しいお嬢様なのだろう?オスカーの新たな扉が開花するかもしれない・・・面白そう。

そうして、その日はさらにしごきをあと5回繰り返した。


キャサリンからレーヌ侯爵令嬢がお茶会に参加すると聞いたのは茶会の5日前になってからだった。




お茶会当日、キャサリンは赤いドレスを着て準備を終え私の前に来た。

お昼のお茶会は通常は落ち着いた可愛らしい色のドレスが主流だが絶対ではない。今回のように私たちは結婚披露だから私の色を纏うのはむしろ仲のよさを演出するのに一役買っている。


「よく似合っている。可愛らしく美しいよキャサリン!」


私はそういって私の賛辞に恥ずかしそうに頬を染める新妻をその腕に閉じ込めて額や瞼、頬と唇を落とした。

ますます赤くなるキャサリンが可愛い。唇にもしちゃおうか?


「サイラス・・・そういうのは部屋でやってくれ」


「あら、いいじゃないですか?新婚なんですもの。キャサリンも幸せそうですし、あまり無粋なことは言わないであげましょう?」


わすれていました。ここは家族が集うサロンでしたね。

何度か既に目にしているのに慣れないオスカーはポカーンといつぞやのオットーのように間抜けな面をしている。すぐ下の弟のクライヴは学園の寮に入っているのでお茶会には参加しないからここには居ない。

まあ、長期休暇であえばあいつはすぐ慣れるだろう?


お茶会の会場の庭園には日よけの幕やパラソルが張られ、初夏の暑さを和らげていた。涼しさの演出で小さな小川も作ってその中を小さな魚を放し涼やかなせせらぎが聞こえるようになっている。

お茶菓子もクッキーやケーキ、パイの定番は勿論、見た目にも涼しいフルーツゼリーも用意されていた。飲み物も定番の紅茶の他にも冷たく冷やした飲み物も多種多様揃えていた。

それらすべてキャサリンが手配したのだから、すごいとしかいえない。大変だったろうに楽しそうにメイドや執事、料理長と打ち合わせをしていて、本当に、私の嫁はすごい!!!

私とキャサリンは、会場の入口で招待客を出迎えていた。

随分と招待客も集まり、あと何組かと言うところで件のレーヌ侯爵夫人とお子様方がいらっしゃった。もともと、アレックスとは顔見知りのため挨拶のあとオスカーを探しに屋敷に入っていった。そして、婦人の隣で少し恥ずかしそうに指で親指の爪を擦ってふわりと柔らかく微笑んでいる少女、この子がレーヌ侯爵令嬢シルヴィア嬢ね。ふむ、本当に妖精のように儚そうで美しいご令嬢ね。でも、この子の雰囲気、どこかで?

きれいな淑女の礼で挨拶をするシルヴィア嬢の何所に揶揄うようなところがあるのかな?文句のつけようのない美しい完璧な姿なのよね・・・って、そういえばこの子って悪役令嬢だっけ?えっ?なんかゲームと雰囲気違いすぎない?

ゲームのシルヴィアに気がついたときには既に母上と同じ席に着き談笑をしていた。それをよく見ていると瞳の色が・・・かわった?一瞬だけど青色から緑に変化した?あれ、これってアースカラー?珍しい!これか!さすが、ゲームの世界だな!キャサリンも気になるのかときどきシルヴィア嬢のところに行って話をしていた。

さて、オスカーはまだ現れないけど・・・どうするつもりかな?

これ以上は手を貸すつもりはないけど・・・


私の視界の端でシルヴィア嬢は、席を立ってどこかに行っている。方向からしてお手洗いかな?

上手くオスカーが会えるといいけど・・・


私の隣のキャサリンも気がついたようで私を見上げて心配そうに


「シルヴィア嬢に許してもらえたらいいですね。」


そう言いながらほうっと息を吐いた。

今日のお茶会はただでさえ新妻の力量を測られたものなのに余計なこと(オスカーの面倒)で随分気をもませてしまった。本当に申し訳がない。

優しいキャサリン。


・・・・・・・・・・・・あっ、思い出した。


シルヴィア嬢のやっていた親指を擦るくせ・・・瞳だ。

もじもじするときのクセだ。

誰も気がつかないたぶん本人も知らないはず!


私はキャサリンに心配だからといって席を外した。本当は主催者としてはいけないけどね。


そして、結果・・・・・・

招待客の子供たちに絡まれていたシルヴィア嬢は、絡んできた子供たちをオスカーたちに見られていたと動揺した隙に追っ払ってオスカーとアレックス、それにあれはブライアンかな?に謝罪されて吃驚していた。

うん、奴隷にしてやってくださいな。ゲームのシルヴィア嬢なら嬉々としてやりそうよね。

でもそのときのシルヴィア嬢はもじもじするようにやっぱり親指の爪を反対の指で3回擦った。

あれってやっぱり・・・瞳なのかな?

えっ?瞳もこっちに転生してるの?

だから、悪役令嬢の性格が違うのかな?

えぇ~、たしか瞳ってアレックス推しだったよね。

禁断の愛?や~~~だ~~~、応援しちゃう♪


・・・・・・・・・いけない、いけない。

それは良くない。駄目なヤツだ。


そして、土下座していた面々を立たせて仲良くしましょうと言う声が聞こえた。


うわ~、優しい子。


オスカーは奴隷じゃなくていいのかって聞いてる。

あはっ、シルヴィア嬢どん引きしてる。普通の人はそうなるよね。いまのシルヴィア嬢が本当に瞳ならそんなことしない優しい子だもんね。


うふふっ、声をかけてもいいんだけど・・・


今の私は、前世と違うし。

あまり他の女の子に興味を持ってキャサリンに誤解されるのもいやだし・・・


困ったときには助けてあげたらいいかな?

私よりもこの世界のことは熟知している瞳なら、逞しく切り抜けられるよね。

あれ?

そういえば、ゲームのオスカーのトラウマ悩みってなんだっけ?


まあ、いいか!


どうせ私は所謂、攻略対象の兄って言うだけだし。年齢も離れているからゲーム内容には絡まないでしょう。


うふふ、キャサリンとイチャイチャ仲良く好きに生きてもいいよね。


私は、物陰からシルヴィア嬢が嬉しそうに瞳を明るく瞬かせて色を変えているのを見ていた。


今は攻略対象3人と仲良くなっているし、大丈夫よね。

推しの頭ナデナデに昇天しそうなほど喜んでいるのをみるとやっぱりシルヴィア嬢は瞳で間違いないよね。





がんばれ!!!親友!!!!!









お読み下さりありがとうございます。

更新しない中、ブクマ・評価下さりありがとうございます。

誤字脱字報告ありがとうございます。本当に助けてもらっています。感謝しかないです。

感想ありがとうございます。

頑張って続きを書きます。原動力になっています。ありがとうございます。


短編で書いていたので前世の名前がでてきます。

簀巻き+奴隷発言、ドSのお兄様(オネエ様?)大好きです。一工夫したお仕置き考えるの大好きです。

まだ、オネエ言葉が混在する辺りが書いていて楽しかったです。キャサリンは苦労しますね。


*ゲームのオスカーのトラウマ悩み*

練習中に長兄サイラスに怪我を負わせ、騎士団を辞めざるを得ない状況を作り兄弟仲がギクシャクしてしまう。学園では、そんなことは微塵も感じさせないヤンチャで元気に振舞っていたが仲の良い兄弟を見ては練習に付き合って貰っていた過去を懐かしみ兄から冷たくされるのが怖くて近づけずにいた。それに気がついたヒロインの応援でサイラスに謝罪、話をして仲直りをする。


サイラスのフラグ折りでした

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