≪閑話Ⅱ≫私は騎士団長の子息です~痛いのは嫌なので運命を変えさせていただきます~中編
サイラスが起きたことは、イチャつく現場を見たメイドによって父上に知らされており、衣服をキャサリンに手伝ってもらって整え一緒に外に出たところでオットーが姿勢を正した状態で待っていた。
彼は、サイラスの幼いときから付き従っている専属執事だ
「サイラス様、お目覚めでよかったです。旦那様がお待ちです。」
そう言われて、私はいつものサイラスらしく無表情で頷いた。
「オットー、サイラス様は目を覚まされたばかりです。わたくしも同行します」
キャサリンはオットーへの対応でサイラスがいつも通りの態度を貫けるようだと思ったが、もしもの時には自分がフォローしないとと思い、普段なら遠慮する親子の対面に同行する旨を伝えた。
それはサイラスを心配してのこと、そう思うと私はうれしくなった。
「ありがとうキャサリン。行こう。」
そう言って、キャサリンの手をとり甘く蕩ける様な微笑をキャサリンにむけた。
キャサリンは頬を染め、オットーは今までそんな主を見たことが無いので驚きに口をポカーンと開けた間抜けな面をしていた。
「どうした、オットー?そのだらしの無い顔は何だ。」
オットーが驚いた理由など分かっているのに意地悪く聞いた
「えっ、いいえ申し訳ございません。・・・・・・・・・メイドが言っていたのは本当なのか?」
恐らくイチャついてるのを見たメイドが言って回っているのだろう。まあ、悪いことではない、寧ろ新婚夫婦ならば当たり前なのだから幾らでも吹聴してくれていいと思う。
そして、それを聞いた昔から仕えているオットーはその目で見ても信じがたいものなのだろう。
私は、それを面白く思った。
あんなガッチガチに堅物なサイラスに戻るのは陽菜としては面倒しかない。
でも、周りから変に見られるのは本意ではないし、あの堅物男で通すしかないのかなぁ。っていうか、騎士って嫌だなぁ。
筋トレぐらいの運動ならいいけど、剣を交えたりして怪我も絶えないのよねぇ。ましてや、魔物討伐とか危険だしなぁ。
痛いのもいやだなぁ。あの騎士の制服はかっこいいから好きなんだけど・・・痛いのはなぁ
そう思いながら、キャサリンの手を引いて父上の執務室の前まで来た。
オットーに声をかけてもらい、中に入る。
中には父上と母上がいた。
父上の執務室は、無駄なものもなく歴代伯爵当主が使用していた執務机は重厚で年月を感じさせるごとく深く光っていた。父上はちょうど机に座り書類に目を通し母上はそれを傍で纏めたり手伝いをしていたようだ
父上は騎士団長という役職通り、体全体にしっかりついた筋肉にサイラスと変わらないくらいの巨体の持ち主。顔も、どちらかというとオスカーよりサイラスに似て人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。
「ご心配おかけしました。」
室内へは、キャサリンの手をとって入り父上の前にたった。キャサリンは入る前に手を離そうとする仕種をしたようだが、その手をわざと握り混んで素知らぬ顔でキャサリンを横においた。
私は、この私たちにいつも無表情な父がどんな反応をしめすか悪戯心で楽しみだった
「・・・起きたか、痛みはどうだ」
「情けないところをお見せしました。大丈夫です」
父上は、ちらっと私たちの繋いだ手を見たが表情にはまったく変わりなく淡々としていた。
それは想定の範囲内だから良いとして、父の近くにいる母上は目を輝かせキャサリンを見ていた。
ごめんキャサリン、母上の対応は任せるわ。
「そうか、だが傷は深い、しばらくは訓練を休むように。・・・あとで傷の詳しい話をする」
ん?父上にしては歯切れが悪い。
母上やキャサリンがいたところで話すことはできるだろうに?
父の顔をじっと見つめ様子を伺うが、表だって変化はない・・・ように見えるが、なにかが違う。もしやと思っていたことが・・・なのか?
「父上、傷はどの筋を痛めましたか?日常には差し支えはなくとも騎士としては致命的な後遺症が残るということですか?」
サイラスとしての知識がそう薄々感じていた。そして父上の表情から確信した。傷のある足を着いたとき感じた傷口だけの痛みではない腰まで力が入れにくくなるような痺れるような痛みが右足全体にあった。
「私も隊を纏める役職にあるものです。様々な怪我人も見てきました。痛めた筋によってはどうなるか予想はつきますのではっきりおっしゃってください。」
私の抑揚の変わらない声に父上は私が冷静であると判断したらしく深く息を吐き出したあと、ソファーに座るように言われた。
私は、キャサリンの手を離さず隣に座るように促した。
「あの、わたくしは・・・」
「私はキャサリンに隣にいてほしいのだが?」
居てくれないの?とキャサリンを覗きこんで小さく囁いた。私のこれからに関わる話だ
キャサリンにもいてほしい。
「正直、痛みはどうだ?」
「傷自体に痛みはまだありますが、傷口は塞がってますしこの程度なら平気です。治療魔法をかけてくれたのですね。これはキャサリンでしょうか?」
父上の問いに隠すことなく私が確認した状態をつたえた。傷口は、おそらく水魔法が得意なキャサリンが治癒をかけて塞いでくれたのだろう。
キャサリンは、剣を振るうこともできるが魔法に関しては支援系の魔法が得意だった。
「ああそうだ。サイラスお前の推測通り、その傷は普段の生活に支障はない。リハビリ次第では騎士にも復帰できるだろう。
だが、お前の理想とする騎士になるには動作が遅れて感じるだろう。私は、お前に騎士団を率いていってほしいと思っているが・・・」
「な~んだ。」
父の沈んだ声に騎士としても儘ならないくらいひどい後遺症が残るのかと思いきや、そうではなかったらしい。
安心してしまったらつい、お気楽な声が出てしまった。
いや~だって、騎士としては力が及ばなくなったとしてもやっぱり強い男でいたいから、キャサリンの前だけでも・・・
男の見栄だねぇ
「最強騎士にはなれないってだけなら問題ないですよぉ。団長ならクライヴに任せたらいいでしょう。あいつなら私よりもうまくやるでしょう。キャサリンを守れるくらいでいられるなら問題ない。」
サイラスらしからぬ、お気楽発言に父上と母上はポッカーンと口を開け目をぱちくりして、あらまあ、いつもは荘厳な父上が、なんだかかわいらしく見えちゃう。
「さっ、サイラス様!お義父様、サイラスはまだ体調が、」
「キャサリンもういいよ。だって私は我慢したくないしね。隠すのって私には無理っぽいから。
父上も母上も私の話を聞いてください。私の頭がおかしくなったわけではないですからね。」
フォローしてくれようとしてくれているキャサリンだけどごめん。私には隠すの無理だわ。せめて、家では素でいたい。我儘なのは承知だけど陽菜の気持ちが今は強すぎて、話して楽になりたかった。
私は、キャサリンに話したまま父母に伝えた。驚いたり訝しそうにしたりしながら真面目に聞いてくれて話し終わったときは父上はいつもと変わらず厳めしい顔で母上は面白そうな顔でいた
「真面目なサイラスが私達を悪戯に驚かそうという考えはないと思う。ならば、今聞いた話は事実だと認めざるを得ない。得ないのだが・・・」
そう言って皺が深く刻まれた眉間に手をやって、いや、だが・・・と、まだぶつぶつ言ってる
仕方がないよね。自慢の息子がいきなりチャラい、しかも今は陽菜の言葉で、まるで顔はいいけど、がたいが厳ついおねぇって感じかな?
や~だぁ、それおもしろそう♪
やらないわよ。
落ち着いたら言葉は直すわよ。
キャサリンに呆れられたらいやだもの!
「すぐには納得なされないでしょうけど私はサイラスです。
キャサリンにも言いましたが今は前世の記憶のせいでこのような言葉ですが直すように努力します。でも、性格はこのままで変わらないです。」
「・・・それは、まあ、怪我で落ち込んだり自棄を起すこともなく安心しましたけど・・・他の心配が・・・。ところでキャサリンはそれを受け入れたの?」
えっ?
母上の質問にキャサリンにみんなの視線が向く
私、そういえばキャサリンに返事聞いていない。
嫌だと言われて離す気は無いけど・・・
実は、こんなチャラっぽいサイラスは生理的に受け付けないとかないよね?
ないよね!?
私は急に心配になってすごく情けない顔でキャサリンを見ていたんだと思う。私の顔を見た父上の顔がなんとも言いがたい苦い顔をしてるのが目の端に映る
けど、今はそんな事どうでもいい!
「キャサリン!こんなになった私は嫌ですか?」
横のキャサリンに向き合ってその小さな肩を掴んで顔をズイッと近づけ口付けでもするかのような近くで切羽詰って言い募った。
それを見た母上は、まあ♪っと乙女のように嬉しそうに頬を染めていた。
「近い!近いです!サイラス様!!お願いです落ち着いてください。」
落ち着けません!
私はキャサリンさえいてくれたら何所でもやっていけるけど、離れていかれたらもう無理。
15年分の恋心の蓄積された濃厚濃密でドロッドロな愛情という名の血液で生きているサイラスは、もうキャサリン無しでは生きていけなくなっていた。
「キャサリン、私は他の誰が受け入れなくてもいいの!愛する貴方さえ私を受け入れてくれるなら其れでいいの!!!私から離れていかないで、他の人なんてどうでもいいのよ一番大切な貴方が居てくれれば!!!おねがい!!!!!」
「あの、私はサイラス様の傍を離れることは、絶対にありませんから!だから、落ち着いて下さい」
「本当に!本当だな!!」
「やめなさい!あなた本当にあのサイラスなのかしら?それは後にしてちょうだい。キャサリン、悪いけどこれの相手を頼むわね。あれといいこれといい、私の息子たちはまったく」
母上、あのとかこれとかちょっと扱いが雑になってませんか?
あまりなやむと皺が増えますよ。
「・・・・・・・・・・・・サイラス話を続けていいか?」
すでに皺がたくさん顔に深く刻まれた父上が酷く疲れた声を出した。
あれ、ちょっとの間にずいぶん老けこみましたね。そんなに心労を与えたのかな?
今の状況が父上の皺の一つになっていると思うと申し訳がない。
私が居住まいを正して頷くと父上は改めて向き直り事故のことのあらましと現状を伝えてきた
騎士団の剣術訓練は事故はつきものだ。だから決められたルールがある。それに違反した場合は例えそれが過失、不慮問わず罰則がある。
今回オスカーは、練習時の剣は木製のものか剣の先を潰したものと決められたルールを破り自前の真剣を使ったこと、さらに手入れを怠ったことにより傷んでいたのを気付かず使用したことが罰則の項目に当てはまる。
ただし、これは騎士に所属しているものの罰則だ。見習いも所属に値するので罰則対象者だが、まだ所属をしていない未成年のオスカーは。罰則の対象ではない。あくまでも団長の子息であって場所を借りて練習していただけなのだから。
現在は、自室にて謹慎をしているがどう罰するのがいいか迷いどころである。
「言い方は悪いが、今回怪我をしたのがお前でよかった。万に一つにも他所から預かった若い騎士たちにこんな怪我を負わせてしまえば責任は伯爵家も巻き込むことになる。何より若者の将来を潰すことになっていたかもしれん。現にお前の将来が変わったわけだ。しかし罰と言っても騎士団の規則に則れば謹慎10日、減給若しくは罰金、奉仕活動を1か月が相当だが・・・」
オスカー相手にその罰は生ぬるいように思えた。
自立した騎士ならば減給はそれなりに痛いが、裕福な実家があればそうでもない。だから、追加で先輩からの地獄のしごきが入る。勿論、ひどい怪我などさせない程度に。
休む間なくランニング、筋トレを繰り返し、合間に上級者から剣の指南が入り、徹底的に叩きのめされる。肉体的にも精神的にも泣きが入っても終わらない。
本人が本気の反省をして、成長したと指南した上級者が納得したら終わる。中には反省の色がなく、反省するか騎士団をやめるかまで半年以上続いたこともある。
さて、起きてから考えている、オスカーへのお仕置きだが・・・
「父上、追加のしごきも含めてオスカーへの罰は私に任せてもらえますか?ちょっとやってみたいことがあるんですよ。肉体的よりも精神的に堪えると思います。」
父上から私の体の状態を聞いてから、思い付いたお仕置きがある。どうせやるならおもしろいほうがいいもんね。
ニマニマ笑うサイラスに何か空寒さをおぼえたのか身震いをしながらも、任せようと言ってくれた。
うふふ、オスカーの名誉はギリギリで守ってあげよう。
普通の罰も勿論考えている。普通のね。
オスカーの場合、奉仕活動は騎士団の備品の手入れと騎士宿舎詰所の清掃、勿論便所含むで。謹慎は要らない、休ませてやるもんですか!コキ使ってやる。罰金はしばらく小遣いなしといったところかな?
至って普通でしょ♪
それに私のしごきを加えるわけで。
ぐふふふふふっ、明日から楽しみ♪
続きます。




