≪閑話≫私は騎士団長の子息です~痛いのは嫌なので運命を変えさせていただきます~前編
短編のつもりで書きましたがここで入れると面白そうなので入れてみました
「ねえ、君を溺愛するサイラスは好き?嫌い?」
私の腕の中には、背が小さく少しぽっちゃりしたかわいらしい女性が真っ赤な顔でこちらを睨んでいる。
そんな顔をされたところで子猫がじっと見ているとしか思えないかわいらしさだけどね。
かわいいかわいいこの女性は私の、サイラス・オルグレンの新妻なのよね
そう思うとうっそりと微笑をうかべ彼女の頭に口づけてますます赤くなる新妻を抱く腕に力を込めた
「外ではいつも通りの冷淡で怜悧で氷の騎士と言われたサイラスでいるわ。でもね、キャサリンの前では愛妻家の溺愛サイラスになるの。うふふ、どう?」
そして
「そんなサイラスは好き?嫌い?ちゃんと答えてくれないとその口を塞ぐわよ」
意地の悪い質問を投げかけて困っている妻を見るのはとても楽しかった
わたしって、好きな子はいじめたい性癖を持っていたのね
◇
私、サイラス・オルグレンは騎士団長の嫡子で自らも騎士団に所属している筋骨隆々の見た目のとても武骨な男。
私は最近、ガーナドー辺境伯令嬢キャサリンを妻に娶ったばかりで本来ならばでれでれな蜜月を過ごしているはずの時期
彼女とは5歳から婚約をしている同じ年。
オルグレン伯爵家もガーナドー辺境伯家も武で功を立てた一族でもある
背が小さいキャサリンだが、女性ながらに馬に乗り魔物が出る森に討伐に参加したことがあるほどの腕の持ち主で、
おっとりとして見えがちな顔に似合わず、高い矜持を持ち合わせ、男に媚びる其処らの令嬢たちとは違った女性だった
私、サイラスも腕が認められ、早くから騎士団に所属していて今では小隊だが副隊長をしている。
そして、伯爵家の嫡子としていずれは伯爵を継ぐことになるのだから、社交に関しても得意ではないが周りから侮られることがないように、騎士として清廉さをもって凛々しく美しく逞しい紳士的な騎士として名を馳せていた。
とはいっても参加はするが情報収集が主な参加理由なので、あまり女性たちに近づくことはないけど、その代わり女性と浮名を流している自称紳士たちには、その滑りのよい口から様々なことをいつも聞いていた。
もとよりサイラスの性格は一般的に寡黙で口数が少なく不要な声をかければその目線で、人を射殺せるのではないかというほどの鋭い視線を投げかけるくらい声のかけずらい人だった
それは、ついさっきまでのは・な・し。
正確には昨日まではキャサリンに対しても冷たく当たることは無いが優しい言葉よりも事務的なことしか話しておらず、恋人らしいこともしたこと無ければ、新婚であっても蜜月のようなことはなっていなかった
キャサリンも心では如何思っているのかしらないがそれに不満を漏らすことも無く夫に、結婚前は婚約者に付き従う貞淑な妻とまわりから見られていた
そのサイラス、私が変わった理由・・・
それは、私の愚弟のしでかしたことのショックで、いや本来ならばショックなことではないけど、ちょっと痛い思いをした衝撃かな?
それで思い出したのよね
前世で私は、と~~~~~ってもお気楽で楽天的な性格をした女性であったことを
前世の私は、陽菜と呼ばれていて25歳のプログラマーの卵だった
陽菜であった私は幼少から変わり者で、いろんなことに興味を示して、部活は2~3ヶ月で入退部を繰り返して習い事も1年続けるのが限界ですぐにほかに興味を示していた
私のこのふらふらした性格についてこれる友達は中々いなかったけど、中学生のときにたまたま席が近かった大人しそうな女の子、瞳に声をかけたら、その見た目に反して一つのことに熱中できる情熱的な女の子だった
私と相反する性格で面白いなぁと思って気がつけば親友になっていた。
その瞳から、たまに乙女ゲームを借りてやっていた
リア充のクラス女子が見たらからかわれそうだけど・・・実際に瞳はからかわれていて一時期不登校になっていたけど私が無理やりつれだした。だって、私も瞳しか友達がいないもん瞳がこない学校はつまらないから私も不登校になるって言ったら、優しい瞳は一緒に登校してくれるようになった。
高校までは一緒に過ごせたけど大学からは進路が分かれた。けど、お互いに就職してもよく仕事終わりに会って飲みに行っていた
最近は『貴方が為の花束』が面白いといわれて借りてプレイしていた
私もなにせプログラマーという時間が不規則な上に、なかなか休みがない職業柄、彼氏が出来ずにいたのよね
それに、ちょっとあの瞳のゲームをプレゼンする熱量がすごすぎて。これ、会社の企画会議であの熱量でしたら間違いなく社長の目に止まって通るなって言うくらいすごかった。・・・私の企画は全て没だったから瞳のあの好きなことにたいするプレゼン力欲しい・・・・
ゲームは、やってみれば面白い
王道恋愛ゲームのくせに、キャラの作りこみ、それもモブがなかなかいい味出していて恋愛そっちのけで面白がってそっちばかりやっていた。
アレックスルートで出てくるボブ爺って何よ。なんであんなに方言きついわけ?乙女ゲームにきつめの方言のおじいさんが出てくるって面白いじゃん
久しぶりに会った、瞳とドライブしながらその話をしてたのよね
瞳は、そっちなの?って呆れてたわね
しばらく山間部のカーブが多い道を走らせていたときに車線を大きくはみ出したトラックが、気がつくと真正面に来ていた
あっと、思ったときは全身に強い衝撃と右太股に何かが刺さった激痛
さらに体から弾かれた感覚がして、気がつくと私は空中から血まみれになっている私と瞳を見下ろしていた。
私も瞳も、たぶん即死に近い状態の死だったとおもう。額や頬に血はついているけど、顔だけでもスプラッターにならなくて良かった
体は・・・・、死んじゃうほどの事故だもんね。無傷なわけないよね。
事故の前、瞳が昨晩はゲームしてて寝不足なのって助手席でうたた寝してたから瞳は眠っている間にこんなことになったのよね。
瞳にすまないと思っていると、たぶん魂になったはずの私が何かに引っ張られる感覚がして、それを自覚するとあらがたいものになり私の陽菜としての記憶はそこで途絶えた
そして、私はサイラスに生まれ変わった。
私が、私であったことを思い出したきっかけは、3人兄弟の末弟、愚弟オスカーによる事故の巻きぞえだった。
我がオルグレンは父上が騎士団長をしているから、将来有望な見習い騎士や新人騎士の修練をしている。
その日もサイラスは新人をしごいていた。
近くでオスカーは、闇雲に剣の打ち込みをしていた。
最近のオスカーは落ち込んだりしていたかと思うと、自らを追い込むような無茶な訓練を朝から日暮れまでしていた。しかも、時々レーヌ侯爵子息も加わっていた。
何かあったのか、気にはなったけどそんなことを聞くような兄弟仲ではなかったからわからないけど、今の陽菜の記憶をもつサイラスなら吐くまで付きまとって聞くけどね
サイラスは、話しかけてくれば話すけど、悩んでいるからって聞いていくような男じゃなかったのよね。
だから、その日も剣の振り方に些か顔をしかめてもなにも言わなかった。
目の前の新人騎士をしごき、暑さに滲んだ汗をタオルで拭っていたとき、オスカーの危ない!という声と共に右太股に受ける衝撃と何かが刺さった激痛。
見ると、後ろから太股に折れた真剣が刺さっていた。
「くっ!」
痛みに顔を歪ませるも、幼少から叩き込まれた緊急の傷に対する対処をすぐに頭に巡らせ、痛みに堪えながら汗を拭っていたタオルで傷の少し上を強く縛り止血に必要なものをさがす。しかし、その間にもドクドクと真っ赤な血は剣の刺さった傷口から溢れている。
「サイラス様!」
周りにいた騎士たちが集まるなか、オスカーは折れた剣を持ち、目を見開いて呆然としていた。
痛みに苦悶するなか、オスカーと目が合った
・・・・・・・・・あれ?俺、私、あの人知ってる。あれって、ゲームのオスカー?あれ、私、オスカーの兄のサイラスだよね。あれ?ここってゲームの世界なの?
足の痛みも忘れてオスカーを見つめ、止まらない失血によって倒れてしまった
◇
気がついたとき、私は陽菜もサイラスもうまく融合していたらしい。
もともと陽菜があまり細かいことにこだわらない性格なのもあるのかな?いや、これって結構大事か?まあいいや、今はサイラスなんだもん。
生まれ変わったのかな?
瞳に借りて読んだことのあるラノベみたいだなぁって思っていた。
傷ついた足は、手当てがしてあり痛みがないわけでないけど、普段から鍛練を積んできた身としては耐えられないものでもない。
まあ、痛いっちゃ痛いけど。
「サイラス様!目が覚められましたか?」
寝台のふちに腰をかけ今まさに立ち上がろうとしていたところに、妻のキャサリンが部屋に入ってきた。
起き上がろうとしている私の元にあわてて駆け寄ってきたキャサリン。
「あっ、わっ!」
突然、入ってきた妻に驚いた私は思わず怪我をしたほうの足に重心をかけてしまいバランスを崩して倒れかけた。それは、辛うじて駆け寄ったキャサリンによって受け止められ体勢を立て直して無様に床に倒れることは免れた。しかし、私を助けるために手を貸してくれたキャサリンを私は、そのままかかえこんでしまった・・・。
私の中のサイラスは、キャサリンへの愛情を表だってあらわしていなかったけど、深い恋情を持っていた。
しかし、騎士として婚約者といえど愛を囁くことが軟派な気がして真面目なサイラスにはできなかった。
できないだけで、それは実際には蓄積されていて陽菜の記憶があるいまは騎士としての柵がゆるくなり・・・だから、つい抱きしめてしまった。
・・・そっと腕の中のキャサリンを見れば、いきなり抱きしめたことで驚き顔を赤く染めている
まあ、そうよね今迄、抱きしめるなんてしたことないし、結婚式の時の誓いのキスも額だし・・・エスコートとダンス以外で手を握ることもない・・・なんて朴念仁な男なのかしら、サイラスって。こんなに内にキャサリンに強い情熱があるくせに。
「おはよう、キャサリン。心配させたね。」
キャサリンの耳元に少し屈みこんで囁くように言うと固まっていた腕の中の愛しい妻は、びくっと身じろぎをした。
少し腕の力を抜いて隙間をあけ、向かい合うように腰に手をやった
「・・・でも、貴方のようなかわいらしい人が私のような巨漢を支えられると思ったの?へたをしたら、貴方も一緒に倒れていたのよ。今度はそんな無茶しちゃだめよ!」
腕の中のキャサリンは、驚いた顔ををこちらに向けてまじまじと私の顔を凝視して訝しそうな顔にかわった
「あなた・・・サイラス様?本当に?・・・いえ、サイラス様はそんなこと言わないわ。」
そう、サイラスならば支え切れずキャサリンが怪我でもしたら心配はするが、それでも辺境伯の令嬢なのだから無理なことをしたキャサリンの責任として黙して何も言わないと思う。
「・・・・・・・・・・・・あなたは、誰ですか?」
そう言って、腕の中からもがいて逃げ出そうとするキャサリンを私はギュッと強く抱き込んだ
さらに声をあげようと顔を上げ叫ぼうとするその口に、私の唇を重ねて封じ込めた。
「ぎゃあ、ふっ・・・!」
塞ぎきれず声が漏れはしたが問題はない
物音を聞いて外で控えていたであろうメイドが入ってきたが、サイラスがキャサリンを抱きしめて口付けている、それを見たメイドたちは失礼しましたっ!っと大慌てで出て行った。珍しくも若夫婦がイチャついているそれだけですもの。
これでしばらくは誰も来ないだろう。
私は、キャサリンの頬を指先で撫でながら顎に手を置き、そっと唇から離れるとまだ触れそうなほど息のかかる近さでほほえみキャサリンの唇に指で押さえた。
「うふふ、教えてあげてもいいけど、知っちゃったらキャサリンを逃がしてあげれないわよ。」
そう言って、悪戯っぽくすこし声を出して笑った。
おそらくキャサリンには悪魔の微笑みに見えたと思う。
◇
私は、キャサリンに掻い摘んで私が転生者であることを話した。ゲームの世界らしいとは言わないで・・・
だって、ここはゲームの世界で平民から男爵家に養女になったヒロインに弟のオスカーが攻略されるかもしれない、しかも、攻略対象はオスカーだけでなく王太子殿下のほかにも何人かいるんだって言えるわけない。
前世は陽菜という女性として生きて、ここよりも文明が進んでいてここよりも恋愛に大らかな世界での記憶があるんだとだけいった。
「それでは、今はサイラス様とあなたは違う人なのですか?」
それまで静かにおとなしく私の話を聞いていたキャサリン
「いいえ、違うわ。私はサイラスでもあるわ。だって、私の中にはサイラスとして生きた記憶と感情があって、私はこんなにキャサリンのことが愛おしくて仕方がないんですもの。」
私はキャサリンを怪我のしていない膝の上にのせてキャサリンの足の太さほどある筋肉がついている腕は腰に回してしっかりホールドしていた。話を始めるためにソファーに移動して抱えて座るときにひどく抵抗されたがなにせしっかり鍛えたこの筋肉がついた腕は伊達でなく、キャサリンの膝裏に腕を入れて抱え込んで座れば抵抗も抑え込まれてしまえる。
我ながら惚れ惚れするほどの筋力である。というより、まったくキャサリンの抵抗は意に介すものではなかったけど・・・
足掻くところがまたかわいらしい。
「・・・サイラス様は、わたくしのことをそのように思っていないですわ・・・」
腕の中で自信なさげに項垂れる妻。
あらまあ、それもそうね。
仕方のないことかしら、なにせ、いままで一切そんな素振りをキャサリンに見せていないんですもの。
「あら、私はサイラスよ。忘れないで頂戴!私は前世では女だったけど今はれっきとした男よ。今はまだ、ちょっと記憶が混在して言葉が陽菜に引きずられてるけど時間がたてば元に戻るから。ああ、でもキャサリンを前にしたら無理かもね。今までいっぱい我慢していたからキャサリンへの愛があふれて押し込められないのよ。もう、愛している妻にそんなとこと言われたら悲しくなっちゃうわ。」
そう言って、キャサリンの顎に手をやり強制的にこちらを向かせる
キャサリンの困惑した瞳が、わたしの瞳と絡み合った。私の瞳はいま紛れもなく男の激しい恋情の熱を浮かべてキャサリンを見ている。
それに真っ赤に染まるキャサリンは本当にかわいい。
「かわいいキャサリン。」
感情のまま言葉を紡げばますます赤くなる
「・・・っ!でも、でもその慣れるまでこの話し方ですと周りの方はサイラス様はおかしくなったとおもわれます。今までのサイラス様に戻れないのですか?」
それで、冒頭の話に戻るわけだが
「そんなサイラスは好き?嫌い?ちゃんと答えてくれないとその口を塞ぐわよ」
「そんなの、私は・・・サイラス様のことは、その・・・」
「はい、ダメ。私は好きか嫌いかで答えてって言ったのよ。」
そう言ってにやりと笑って何かを言おうと開きかけた唇を強制的に再び塞ぎ。さらに、上唇、下唇とゆっくり優しく食み、舌でそのちいさい唇を舐め時間をかけてじっくりと今迄の15年分の愛情をキャサリンに思い知らせた。
しばらくかわいい妻を味わった後、ぐったりとして胸に凭れるキャサリンに私はひとまずは外ではサイラスとして今まで通りでいる努力する約束をした。
そして私は改めてこの怪我の状態を観察した。
騎士ではあるが、入隊当初は国境周辺の軍部に配属されていて、凶暴な魔物の討伐をしていた。怪我については日常茶飯事ではあるが、今回のようにざっくり深く剣が突き刺さることなど経験したことはない。
重要な筋など切れていないようだが・・・
それにしてもオスカーである。
攻略対象だけあって、まだゲーム開始前ではあるからきれいではあるけどかわいらしい顔つきで女の子が好きそうな、やんちゃ系騎士様に成長するであろうオスカー。
真剣で打ち込みをしていたなんて阿呆かとあきれてしまう。
恐らくは道具の手入れを怠った上、あの無茶苦茶な訓練のせいなのは明白だ
何があったか知らないが最近の少し自暴的な行動は眼に余るものがある。
これまでは回りに迷惑を掛けてこなかったから、放っておいたがこれ以上は看過できない。
さてお仕置きの時間かしら?
大人しくなっているキャサリンを腕に抱いたまま、オスカーへのお仕置きにうきうきと思いを巡らせた。
読んでくださりありがとうございます
いつもいつも誤字脱字報告ありがとうございます
ブクマ・評価・感想ありがとうございます。毎日感謝しまくりです。
これはもともとは短編で構想があって兎に角イチャコラしているお兄ちゃんの話を書きたくって書いた勢い作品です。筋骨隆々の堅物お兄さんがある日突然、おねえ言葉で新妻溺愛系になるって言うだけのものですが、ちょっと本編に絡ませようとしています
その書き直しが出来たら続きを載せます