≪1-14≫
フェリクス視点③
~フェリクス視点~
僕の『学友候補』から『学友』が正式に決まってからあの3人と話す機会を伺っていた
僕が彼らとオトモダチになりたいと自覚した日から如何すればいいのかと思いを巡らせるようになっていた
今まであの3人は僕に自発的に近づくことはなく、用があったときのみ話をするが、会話らしい会話をしたことは無い
それでは友達ではない
明日、彼らには正式に学友兼側近として通達される
それを期に彼らの態度が変わるか・・・否、そんな人格のものならば最後まで残るわけが無い
そう思うと、友達の定義とは何ぞやとおもう
辞書を引いたところで友達のなりかたなどない
さて、どうしたらいいか・・・
今まで僕は自ら動かずとも令息令嬢は勝手に寄ってきた。僕の目に留まりたくて歓心を引こうとやっきになるのだ
だから僕から友達になりたいなど思ったこともない。
僕は、自らが動くその一歩はとてもとても重たく上げることも儘ならないことだと初めて知った
◇
「君たちが正式に僕の友人として国に認められたよ」
僕は彼らが侍従長より候補から正式な学友兼側近として侍ることになったのを告げたというその日の授業のあと、私室に呼び出し彼らが座ったのを確認して僕は腰をかけるのを忘れてしまうくらい急いていた気持ちのまま口から言葉が出てしまった
僕は今、とても緊張していた
それを気取られないために表情筋を総動員して彼らを見下ろしながら顔は優雅に微笑を浮かべていた
感情を読み取られていない・・・はずだ
僕はチラッとアレックスに目をやるがその表情はいつもと変わらず読み取れない
もしかして僕より感情を隠すのは上手いんじゃないのか?
ほんと!なに考えてるか分からない!
僕はその事をつい、アレックスに突きつけてしまった
君は何を考えてるのか分からない・・・違う、そうじゃない
言いたいのは、そうじゃない
もっと違うことが言いたいのに・・・
僕はやっと自分が立ったままなのに気がつき彼らの正面に腰をかけた
ぼくは、彼らと友達になりたいのだ
彼らが3人で談笑している中に僕も入れて欲しい
そう一言言えばいいんだ
「まあ、僕としては折角国が誂えてくれたオトモダチを無碍にするつもりはないけど僕が友達として接するかどうかは君たちしだいだよね
僕に認められるように此処では、この部屋にいるときこの4人でいるときは少し砕けた物言いも許そう」
なぜだ、僕と仲良くしようといえないのだこの口は!
僕の思いとは裏腹に随分と高圧的な言葉が出た
確かに砕けた物言いで話がしたいが、もっと友好的な関係を築きたいんだ!命令でそうして欲しいわけじゃない
お互いを信頼している、そうだ父上とレーヌ侯爵のようなお互いの意見を言い合える仲になりたいのだ!
僕は気持ちを入れ替えて信頼し支え合う友達になろうというはずだった
少し、気持ちをほぐすため、ぐっと両腕をのばして伸びをしてそう言う筈だった
「僕と友達になりたければそうしたまえ」
ちーがーう!!!
何故だ?何故、僕は思う言葉がそのまま出ないんだ?
心では頭を抱えたくなったが、それを微塵も出さずに頑張って笑顔を作った
ちょっとにまりとする悪ぶった笑顔になっている気がするが仕方ない、そうしなければひきつりそうで、醜態を曝さないだけましだ
目の前の3人の反応はそれぞれ違っていた
「・・・・・・・・・・つまり、俺らと殿下も友達になりたいって事でいいんですか?」
オスカーが恐る恐るではあるが聞いてくるが・・・
そうだとも!端的に言えばそういうことだ!そういっているだろう!君らも気がついてくれ!!
もう、うまく言いたいこともいえない自分のことは棚に上げて気がつかない彼らが悪いとまで思ってしまう
いや、側近ならば主の気持ちを察するべきなんだ、だから、僕は間違ってないんだ
「・・・・・・いやなら、・・・別にいいが・・・・・・」
しかし、素直にいえない僕はぷいっと顔を背けてしまった
いや、そうだといえばいいだけじゃないか。どうしてそれが言えないんだ
「嫌ではないですが、我々が友達面したと後で気が変わられて罰せられては困りますから。不敬だと言われでもすれば年端のいかない僕らは家に迷惑をかけることになります。きちんと言質をいただきたいです」
ブライアンが真面目な顔で至極まともなことを言ってくる
僕が遠まわしなことばかりを言うからなのはわかっているのだが・・・、そんなことで罰するつもりは無い!何よりもそんな気まぐれで言っているわけではなんだ!
「それはない!・・・・・・ないが、だが友達になれるかどうかは分からないじゃないか、いや、違う、そうじゃなく・・・」
つい本音がもれてしまった。だが、言った後でこれでは僕は君たちと友達になる選別をしてるみたいだ。
違う僕が言いたいのは、僕のことを友達と彼らが思ってくれるかどうかが心配なんだ!
ああ、どう言えば伝わるんだ
「殿下、僕らは殿下とこれから信頼関係を築いていき友達になりたいと思っています。
それは、命令されたからではないです」
僕はこれ以上何をいったらいいのか分からなくなっていたとき、アレックスが僕が欲しい言葉を紡いだことで落ち込みそうになった気持ちが浮上した。
「殿下がこれから僕らと友達になる一歩として砕け言葉や態度よりも名前で呼ぶ許可をいただけないでしょうか?」
それだ!
アレックスの言った言葉は僕が言いたかったことそのものだった
だから、つい素で嬉しくってアレックスに笑顔を向けたが、これでは王太子としてだらしない顔とおもってぐっと目と口に力を入れた
力を入れたままだったので許すというだけが精一杯だった
その僕を見るアレックスとブライアンはやれやれと笑い合っていた
・・・・・・なんだか、その目は主見る目ではないぞ
なんだ、その手のかかる子供を見る目は
僕はそんな事無いぞ!
「本当か!じゃあ、フェリクスって呼んでいいのか!」
許すと言った僕の言葉にすぐに反応してオスカーが遠慮なく言葉使いを変えてきた
僕の名前を父上と母上以外が呼ぶことはないに等しい。だから、年の近いオスカーの口から僕の名前が出て新鮮に思った
そして、胸の奥に温かさが込み上げてきた
えっ、これって感動してるのか?・・・名前を呼ばれただけで?
なにも言えないでいる僕の前で、あまりも失礼だとせめて敬称をつけろとアレックスとブライアンがオスカーを窘めてるがオスカー本人はわからないという顔をしていた
いや、まて、それでいいんだ
その関係が僕の願いなんだ
そう言おうと思うのに、思考と声帯の間には何か寸断されている障壁があるのか、うまく言葉が出てこない
また元に戻ってほしくなくって、早く言いたくて焦って顔が赤くなる。
しかもやっと、僕の様子に気が付いたオスカーがこちらを凝視している
3人は顔を見合わせて、あわあわしている僕のことを見つめて待ってくれていた
「いい!そのままで。この部屋の中なら誰もいないときなら様もいらない!
トモダチとはそういうものなのだろ!」
やっと、やっと、本当にやっと、言いたいことが言えた
ただただ勢いで言いはしたが・・・
そして、僕を見る3人の目が・・・・・・・・・うん、僕は手のかかる子供じゃないぞ
でもやっぱり素直になれなくて本で読んだだけだけど・・・って小さく呟いてしまったけど
「ではフェリクス、仲良くしようね。」
アレックスの言葉に僕は、涙が出そうなほど嬉しかった
さっきのオスカーに呼ばれた時の感動よりもこみ上げてくるものがある
僕がほしかったアレックスの社交的でない笑みに僕も仮面のない笑顔をかえした・・・目の端が湿っていたのはきっと気づかれていないはず・・・と思いたい
一応、将来の王様なんだから、たのむ、気付くな!
・・・・・・たぶんアレックスは気がついてるな
僕は彼に心からの友となって、忠誠を誓ってもらえる王になれるだろうか・・・
◇
僕の素直でないこの性格を早くに見破ってくれたアレックスはこれからいろんな場面でフォローしてもらうことになるだろう
しかし、妹君のシルヴィア嬢に関しては違うらしい
シルヴィア嬢のあの強張った顔を思い出すにアレックスの助けを借りても彼女に許してもらえるか・・・
オスカーのあの発言ももとを返せば、僕の苛立ちが原因だ。罪悪感が重くのし掛かる。早く謝罪しなければ・・・
なんとか、会話する機会が欲しくて、お茶会が始まる前に私室に呼び出せばアレックスだけが来るし・・・忘れていただけだ、奥宮は許可されたものだけしか入れないことを
アレックスと一緒に来るだろうと、侍女にはアレックスの名前しか伝えてなかった
しかも、後で何故昨日のうちに話してくれなかったのかとアレックスに呆れられた
だって、朝、思い付いたんだ
私室なら誰にも邪魔されないから、謝罪できるじゃないかって・・・
改めて見たシルヴィア嬢は他の誰より可憐で美しい。
ジルベルトもダリアもあの光が煌めく美しい笑顔が向けられるのに、僕は・・・・・僕が彼女を貶める言葉をはなったばかりに僕だけに微笑んでもらえない。
そう思うと胸が苦しくなる
早く謝ってあの言葉を取り消したい
社交に現れないシルヴィア嬢に会うにはどうしたらいいんだ!!!
だが、神は見放していなかった
母上が個人的なお茶会にシルヴィア嬢を王宮に招くという
もう、これ以上延ばすつもりはない。
僕は母上の許を訪ねた
「母上、お願いがあるのですが」
お茶会前夜、ギリギリでやっと母上と時間が合って話す時間を得た
「あら、めずらしい。フェリクスがお願いなんて一体なあに?」
公務が終わって寛いでいた母上は、不思議そうにしながらも何かワクワクした顔をこちらに向けて聞いてきた
よく考えれば恥ずかしいが仕方ない
「明日、レーヌ侯爵令嬢が来られると聞きました。それで、彼女と話す時間をいただけないでしょうか?」
母上は話の内容にあらまあ、と楽しそうにニコニコしだした
よく考えれば、令嬢と個人的に話したいなど、母上に期待するなという方がムリだろう
だが、僕にはそんな余裕はなかったんだ
「貴方が令嬢に興味を示すのも珍しいわね。いいわ、お茶会の途中で迎えをやりましょう。明日の午後の予定はどうなっているの?」
「明日は、・・・あぁ、オズボーン侯爵令嬢の面会が入っています・・・」
オズボーン侯爵令嬢カトリーヌ嬢。今のところ家格での釣り合いの良い令嬢だからと何度か会っている。
しかし・・・・・・あの令嬢は、好きになれない。
だが、そうは言ってもオズボーン侯爵は重臣だ。その令嬢を無下には出来ない
「そう、オズボーン侯爵令嬢、カトリーヌ嬢ね・・・。わかりました、では頃合を見てわたくしの侍女を遣わします。急用で呼び出しますのでカトリーヌ嬢は帰っていただきましょう。お見送りはきちんとするのですよ。そのあと、庭を回ってガラス張りのテラスのある部屋の近くを通りなさい。お膳立てはしてあげましょう。・・・・・・・・・・・・あなたも、陛下に似て困ったこと・・・。」
困っていると母上がいい笑顔で段取りを設えてくれるらしい
最後のは聞こえにくかったが?なんだ?
僕はお礼を言うと母上から決してシルヴィア嬢に失礼の無い様にと念を押されてしまった
・・・・・・尽力いたします
そして当日、僕が自慢話と噂話が尽きないカトリーヌ嬢の相手をしていると母上付きの侍女が予定通り呼びに来た
「まあ、王妃様のお呼び出しですか?では、わたくしも一言ご挨拶を致しましょう。」
カトリーヌ嬢は、僕と一緒に行くことを当たり前のように言い出しついて来ようとしていた
それは困る!
このままではシルヴィア嬢とカトリーヌ嬢が顔を合わせることになるじゃないか!
「申し訳ございませんお嬢様。王妃様は奥宮の私室にお呼びですので指定された御方以外をお連れすることは致しかねます」
さすがは母上の侍女。よく見ると母上の嫁入りしたときから仕えているベテランだ
助かった
僕では、これをどう切り抜けていいか分からなかっただろう
僕は、カトリーヌ嬢の機嫌を損なわぬように見送りも手を取り笑顔でエスコートしたことで、急遽帰すことになった予定変更にも、不機嫌になる事も無く、寧ろご機嫌に去って行った
さあ、ここから僕の本番だ!
今日こそ!今日こそ、絶対にシルヴィア嬢に謝罪をするぞ!
そう意気込んで母上のお茶会に参加した
僕を見て大いに慌てたらしいシルヴィア嬢だったが、前回と同じく美しい礼で僕を迎え入れてくれた
・・・顔はこわばっているけど
それでも今回は、私的なお茶会だから前回よりも同じテーブルについても酷く緊張している様子は無かった
穏やかに、話を進めていると再びあの侍女がやってきて今度は母上に何か耳打ちしていた
そして母上の目が僕と合い、にっと僅かに微笑まれ、侍女に返事を返した
母上はシルヴィア嬢に父上が母上と双子を呼んでいる、席を外すと謝っている
そこで、僕はこれが母上がくれたチャンスであると気がついた
これは・・・
「そうだわ、待ってるだけではつまらないでしょうからフェリクスに王宮を案内してもらって頂戴。」
にっこりと母上は笑顔をシルヴィア嬢に向けていった
アリガトウ!母上!
これなら案内がてら僕の私室に招くことができる
そうすれば、きっと、向かい合ってきちんと謝罪をして話が出来る
なんて、母上は素晴らしいんだ!
シルヴィア嬢は忙しいならと退出の意を表したが、ジルとダリアにしがみつかれて言い切れないでいる
僕は、なんて素晴らしい弟妹まで持ったんだ
それでもまだ、でもとか言っているシルヴィア嬢に僕は、とてもとても可愛らしいきれいな猫を被り、乙女が求める王子様スマイルなるものを浮かべて
「母上、大丈夫です。僕が責任を持ってシルヴィア嬢のお相手をしておきますよ」
ねっとシルヴィア嬢に向けて優しく微笑んだ。僕に今できる最大限の柔らかな微笑だ
僕の微笑みにシルヴィア嬢は驚いて、初めてしっかり瞳を合わせてくれた
しかし、それは一瞬ですぐに逸らされたが、その顔は耳まで赤く染まっていた
垣間見たその瞳は、困惑に彩られていたけど、僕はあの池の畔で見ていた様な明るくキラキラと美しく煌く明るい瞳色が見たいと思った
どうすればあの美しい瞳色は見られるだろうか?
僕は、目の前でじりじり逃げたそうな顔をしている女の子に微笑んでもらえる可能性を探っていた
どうしてかな?
僕は、どうしても
あの微笑を僕に向けて欲しいんだ
お読み下さってありがとうございます
ブクマ・評価・感想・誤字脱字報告ありがとうございます
皆様に支えられています。頑張ります
ありがとうございます
不器用王子は、恋の入口で迷子になります
迷路にすら入れない、入ったことに気がつかないタイプです
いっぱい拗らせてほしいです