≪1-13≫
フェリクス視点②です
~フェリクス視点~
「フェリクスおまえは友達が必要だ。生涯の友を自分の目で見極めてさがせ。」
僕が7歳になる前、父上から一緒に授業を受ける『学友』を選別すると話があった
つまりは、まわりの大人たちが僕に相応しい友達を選んでくれるというわけだ
国王である父上と宰相も、それが出会いのきっかけだった
いずれは15歳になれば王侯貴族が通う学園に入るだろう
その時にも作れるだろうが幼い時からの友達というのも必要なのは分かっているのだが・・・
これから僕に付きまとうであろう環境に嫌気を覚えた
僕とともに学ぶのは伯爵以上の爵位を持つ子息で尚且つ、曾祖父まで遡って王家に叛意の疑いがないか探り、選ばれた20人の候補たち
これから、彼らは教師たちと僕によって選別される
といっても、僕は静観して教師たちが選んでくれるのを待つだけでいい
自分で選べと言われても、どれを選んでも変わりはないと思っていたから・・・
正直、授業はつまらなかった
僕がすでに5歳で終わらせた内容をおさらいで大人しく聞かなければならないのは苦痛でしかない
しかも、休憩時間に更なる苦行が待っていた
「さすが王太子殿下。先ほどの答えはすばらしかったです」
「僕らには思いつきもしない答えでした」
休憩時間になると、候補の子息たちは僕の周りを取り囲み、歓心を買おうと必死になっていた
もう、休憩どころでない、授業よりさらに疲れる状況である
僕の周りを囲み、男のクセによく回る口で令嬢顔負けの自慢やアピール合戦
僕は王太子らしく優雅な微笑みに見えるように猫をかぶって一人一人に丁寧に対応するようにした
なにせ、ここに来ているのは国の重臣の子息が殆どなのだからたとえ候補から外されたとしても、今後何かしらで顔を合わせることになるのだから・・・
そのうち授業についてこれないものが教師たちの手によって選別されて、登城しなくなって人数が減ってきた
授業を受ける部屋は、王城の一室なのだが最初は広い部屋に20人分の机を置かれ窮屈な気がしていたが、徐々に人数も減り、机が少なくなって気が付くと12人まで減っていた
そのくらいになると、僕でも個人個人の行動が自然と目につくようになった
授業の席順は、僕の席以外は成績順で決まっている
月に一度教師がテストを行い、次の日に人数が減ったり席を入れ替えたりしていた
僕の隣は、成績が一番のものが座ることになっているのだが初日からそこに座るのは一貫として変わることがなかった
レーヌ侯爵の子息アレックス
僕よりも1歳上で宰相をしているレーヌ侯爵の嫡子だ
授業中、教師の話は常に聞いてはいるが、つまらなそうにしているのは知っている
教師が突然、答えを求めて指名しても常にパーフェクトな解答を返していた
こっそり教師にテストの答案を見せてもらえば、僕の間違えた答えも正解していて、聞けば此処までのテストすべて満点解答だという
しかも、中には問題の出題ミスまで指摘されていたという
それに、学問だけでなく剣術の授業でも彼は同年代の中でも上位に入る実力を持っていた
レーヌ侯爵も父上に聞いた話では文武両道の秀才だったという
なんでもこなすアレックスは隣の席だが、挨拶と必要がある時以外にはこちらに話しかけはしない
僕に休憩中、媚び諂う子息が集まりだすとスッと音もなく席を立ち窓際で壁にもたれて室内を静観していることが多かった
「レーヌ侯爵子息、さっきの授業で分からないところがあるんだが、教えてもらえないだろうか?」
今日も人数が減りはしても僕の周りを子息が囲む中、ふいに後ろのほうでアレックスを呼ぶ声がした
この授業を受けている子息たちは僕の友人になるべく今は選定されている状態
つまりは、ここにいる子息たちはライバル同士で争っている状態なのだ
だから、この中で分からないからと教えを乞うのは吃驚した
僕は、囲まれている子息たちに分からないように注意してそちらに目をやって観察した
「・・・君は、オルグレン伯爵のオスカー君でよかったかな?」
「っ!そうです、オスカーと呼んでください!ぜひ!
俺、じゃない僕、今日の授業が分からないところがあって、えーっと、申し訳ございませんが、教えてください」
「・・・・・・・・・」
耳をそばだてて聞いていたが、噴き出すのを堪えて顔に出さなかったのをほめてもらいたい
いきなり話しかけられたアレックスは驚いたことだろう、現在年齢の近い公爵家のものはいないのだから、この候補の中では侯爵家のしかも宰相の息子であるアレックスは僕に次いで身分が高い
普通ならば低い爵位のものから高位のものに話しかけることは無礼だと叱咤されてもおかしくないのだ
それなのに構わず話しかけてきた
いくら子供でまだ成人前とはいえ、ここは城内で身分制度はある。初めの自己紹介では爵位もお互い把握できるようにしていた
しかも、言葉の最後は完全なる棒読みだった。丁寧な言葉が苦手なのか?
たしかオルグレン伯爵は騎士団長をしている、騎士団には身分の低いものも多くいるだろう
だがしかし、彼の兄であるサイラスは騎士団に所属していて体格は大きくしっかりしているのにその所作は優雅で美しく騎士たちにも社交界に出る手本とされてるはずだ
貴族のマナーは心得ているはずだが?
周りを囲むものたちに微笑みで相手をして、アレックスとオスカーに耳を傾け、よくまあ、我ながら器用なことをするものだと思いながら、アレックスは人当たりが良さそうな顔で少しならばと教えてやることにしたらしい
その後は然したることもなく数日ごとに減って行った候補たちが、数週間、数ヶ月ごとになって減っていく頻度が減り室内はさらに広く見渡しが良くなって行った
「アレックス、さっきのこれどういう意味だ?」
授業が終わり教師が室内から去った途端後ろからアレックスに飛びついてくる
「・・・・・・殿下、騒がしくいたしまして申し訳ございません、僕らは余所に行きますので今回はお許し下さい。オスカー、君も謝るんだ」
アレックスとオスカーはいつの間にやら名前で呼び合う仲になっていたらしい
そして、オスカーも申し訳ございませんと謝罪を口にした後、後ろの席に戻っていった
この室内では殆どのものが単独でいることが多いが、この二人はあれから一緒にいるところを見かけるようになった
まあ、僕の学友に選ばれなくとも貴族同士の繋がりもあるのだろう
僕は特に気にしていなかった
このときは・・・
候補たちとの授業は、座学は勿論だが週に数度騎士団で剣の訓練も行う
僕は、普段は騎士団長に教えを乞うているが授業では近衛の副隊長が行っている
騎士団長のしごきについてこられる子供は中々いない。
僕も最初に騎士団長と剣を交えた日は、疲労困憊でへとへとになってしまった。それも手加減をしていると言われているのだ
慣れて体力がつくまで数年を要したほどだ
騎士団長に任せれば他の授業に支障をきたしてしまうため基礎の動作だけを学んで後は互いに剣を交える訓練だけをすることになった
その日僕は、また面倒なおべっかばかりを言う子息たち方から逃げて訓練場に着替えを終えて早めに木陰で一人休んでいた。
始まるまでまだ時間が随分とあって久しぶりの一人の時間をゆっくり休んでいた
僕も随分と逃げが上手くなってきたのか影に入れば気配を紛れさすことができるようになっていた
だからそこに誰かいると思って見ないと見つかることが無く、一人になりたいときはこうして移動するときに逃げるようにしていた
「ほ~ら、殿下の側仕えが剣術が弱いといけないよなぁ」
「僕たちが特訓してあげますよ~、剣術もできないとねぇ」
「できないなら、早くやめたほうがいいですねぇ。いくら、勉学が優れていても弱いんじゃなぁ」
その日も木の幹に凭れて副隊長が来るのを待っていたがその間誰かが勝手に訓練場に入ってきたらしい
やれやれ、一応副隊長が来るまでは勝手に訓練場に入ることは禁じていた
囲いの影で模擬剣を振って練習をすることは許されていたけど中には入っていけなかったはずだ
何所の阿呆か?
そう思って顔を其方に向ければ、魔導師一族のダルトン侯爵の子息ブライアンだった
黒い髪に不健康な白い肌。勉学については引き離されているがアレックスに次いでの成績だ
だが、魔導師のイメージ通り剣術には劣っていた
それを囲っているのは次の成績で上がらなければ落とされるであろう崖っぷちの子息たちだ
恐らくだが、ブライアンが辞退すれば落とされないとでも思っているのか
そんな浅はかな考えのものが篩にまだ残っていたとは驚きである
僕がみているとも知らないで、そいつ等はブライアン1人に3人で模擬剣でかかっていっていた
ブライアンは習った通りの構えから防御をするだけ、しかも型どおりものは1対1を想定して指導されたものだから3人懸かりでは防御もままならず、ブライアンの肩に一撃を喰らって構えが崩れると防御は取れなくなり気がつくと3人に体の彼方此方を打たれていた
足を打たれたときに地に転びそのまま起き上がる前に次を背中に振り下ろしてきた
刃を潰したとはいえ剣は剣なのだ、あれは痣ができてしまう
訓練前に傷を作って副隊長の前に出れば何があったか一目瞭然だ
お咎めがないとでもおもっているのだろか?
「何やってんの?」
そこに別の声が入ってきた
やつらと同じ様に模擬剣を持ってアレックスとオスカーが低い塀の向うからブライアンたちを見ていた
2人も早めに来て練習でもしようとしていたのか、オスカーはあからさまに眉根を寄せて顔を不愉快そうに歪めていた。
アレックスは表情に乏しい顔をしていた。それは怒っているのか呆れているのか、それとも無関心なのかどれとも取れてどれでもない何を考えているか分からない表情だった
「べっ、別に!練習に付き合ってやってるだけだ!」
「そうだ、頼まれたんだ」
「君たちには関係ないだろ」
まだ随分早い時間だから誰も来ないと思っていたのだろうやつらの顔と声には焦りが滲んでいた
その中で3人に打ち込まれていたブライアンは転んだときに顔を擦り剥いた顔の傷を手で拭いながら起き上がり悔しそうな情けない顔をしている
まあ、そうだよな
側近になるならば護衛もできないといけない
しかしブライアンは魔法が既に使えるときいたことがある、攻撃系魔法が得意だと聞いたことがあるから剣術は別に重要ではない
しかし、それとは別にいくら相手が3人とはいえ一方的にやられてはいたのだから情けない状態といえる
それを恥ずべきだと思っているブライアンはまだ残す価値があると僕は思った
これが、やられても仕方が無いとか言うのだったら、次の審査で落とすように進言していただろう
僕の側近になるには学術剣術よりもその素行、思考も重要なのから
僕が襲われて多勢でやられました、仕方ないですよねっていうような側近はいらない
「そうか、分かった。」
アレックスから意外にさっぱりとした声がした
その顔は、微笑が浮かんでおり相変わらず感情は伺えない
その微笑にアレックスに咎められないと勘違いをした愚かなやつらはほっとしていた
しかし、その安堵は次の彼の発言で驚愕になった
「なら、僕も練習につきあってあげよう」
すっと足を進め練習場の低い塀をひらりと跨いで中に着地した
その上、振り返りアレックスを追って中に入ろうと塀に手を掛けたオスカーに入るなと止めていた
「アレックス一人で大丈夫か?」
「さあ、どうかな?」
心配そうなオスカーにアレックスは惚けたように応えただけだったが、オスカーは中へ入ろうとはしなかった
最初に声を掛けられ戸惑った3人は狼狽えてその様子を見ていたが、入ってきたのがアレックスだけだったからか開き直ったのかアレックスが向かい合うと3人は剣を構えた
結果を言えばアレックスは3人から一太刀も浴びることなく地に沈めた
一人が右横から打ち込んできたのを剣を合わせることもせずに袈裟懸けでそれをいなし勢いで体勢を崩したところを肩に後ろから打ち込んで倒した。次にその間髪いれずに背後から襲ってきた相手には屈みこんでその太刀を交わして屈んだまま振り向き腹に一撃を入れてた。ぐえっという潰れた声がして腹を押さえて前に倒れた
最後も正攻法で攻めてきて一度太刀をあわせたが強く引いたときに相手のほうから勝手に尻餅をついたところ鼻先に剣先を突きつけて勝負はほんの僅かな時間に終わってしまった
3人が追撃してこなければアレックスは倒れたやつらに追い討ちを掛けることはしなかった
おそらくやつらの強さは一般的な年齢相当の強さではあるはず。アレックスが強すぎるだけなんだ
騎士団に所属していなくても父親の宰相も剣の腕には定評があるのだ
アレックスに剣の師が幼少から付いていても不思議ではない
「最後さあ、剣を合わせる必要なくねぇ?あんなに隙だらけで打ってきたんだから避けて一撃のほうが痛みを知ることもできるのになぁ」
塀に頬杖を着いてみていたオスカーが不満を漏らす
まあ、あれだけブライアンに打ち付けていたのだから、もっとやってもいいくらいだと僕も思う
それなのに、アレックスは詰まらなそうに顔を顰めて時間の無駄だと言って佇んでいたブライアンの腕を掴み訓練場を出た
訓練場を出るときにアレックスが此方を見て僕と目が合った
別に悪いことをしているわけでないのに、ただ見ていただけの僕は焦ってしまった
特に咎めるようでも不快そうにしたわけでもない、ただそこに居るのを確認されたような目だった
気がつくともうすぐそこに副隊長の姿があった
禁止されている訓練場にいる3人と顔に傷を作り腕などに痣を作って汚れているブライアンを見た近衛副隊長の表情が変わりとても怖かった
そのことのあと、あの3人は来なくなった
当然だ、被害を受けたであろうブライアンは副隊長が来たときに外に出ていたからお咎めは無かったが何があったのか聞かれた
それにブライアンが応えることはなく、無言を貫いた
自らを恥じているのか、助けてくれたアレックスを庇うためなのか?
それは僕には判らなかったが、暫くしてアレックスたちと話をしているブライアンを見かけるようになった
休憩時間に剣の練習もしているときも見受けられた
アレックスがよく立っている窓際に3人で談笑してるのも見かけた
いつも一緒にいるわけではないがよく話しているのをみてつい目で追ってしまった
その度にアレックスのあの確認するような目と合った
僕の中にもやっとしたよく分からない胸がざわつく様な感じがした
なんだろうこれは?
そのよく分からない胸のざわつきは徐々に大きくなっていったが、知らないふりをしてやり過ごした
そして、気がつくと学友候補は3人が残り、僕が否といわなければこの3人で決定した
この国が認めた僕のオトモダチができたときだった
しかしこのときの妙に嬉しいようなくすぐったいような・・・そして・・・あの3人で談笑している姿を思い出して僕は決められたから友達になる彼らにあのように笑ってもらえるのか一抹の不安をおぼえた
そして、僕はアレックスやオスカー、ブライアンがトモダチに自然になったように僕もあの輪に入りたかったのだと胸を締め付けるような痛みと共に気がついてしまったのだ
もう1話フェリクス視点です
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