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≪1-12≫

フェリクス視点①です


~フェリクス視点~



話ができなかった・・・


僕は私室の重厚な机の上で頭を抱えて唸ってしまった。

今、室内には気心知れたオスカーとブライアンがいるだけだったから幾らでも醜態をさらけせる

・・・いや、本当は良くないが


アレックスは妹のシルヴィア嬢と一緒に退出しているので今はいない。


重たく長い息が室内に響く

オスカーもブライアンも何か言いたげな目で見ている、いや、あれは憐れみの目だ

わかっている、自分の立場も責任も

だからこそ、昔の失態を放置しておきたくはないのだ

だのに、自らの立場が邪魔をしてまともに話す機会さえ作ることができないのだ

こんなにも自発的に動くということが難しいとは生まれて此の方初めての経験だった


今回のお茶会に折角来てもらえたというのに・・・

あれから、社交にはめったに表れない妖精のような存在と言われるようになったシルヴィア嬢

その原因が僕のせいでもあると思うと責任を強く感じてしまう


今日は時間をもらって前回の謝罪を誠心誠意するつもりだった

アレックスたちが謝罪を受け入れてもらって僕もその機会をとアレックスに頼みはしたが王族だから簡単に頭を下げられても困ると言われた。

何が困るのかこちらには理解できなかったが、アレックスから協力がないと僕が貴族令嬢を個人的に呼べばどうなるかはわかっていたので我慢をしていた

でも、待つというのは時間だけが過ぎ去り忘れるどころか後悔が大きくなっていくばかりだった


もう、1年以上も放置したままの自らの、あれは、もう暴言の域まで成長していないだろうか


僕の人生で初めてで最大の失言だった


1年以上前の春のお茶会で僕は、婚約者候補を選ぶように王妃である母上から言われていた

つまりはそのお茶会は、僕の合同お見合いだったというわけだ

とても不愉快なその趣旨に僕は、途轍もなく図太い神経の猫を借りて参加しなくてはいけなくなったのだ

ただでさえ、通常のお茶会などの社交もすでに嫌気が差しているというのに・・・

僕は母上にお茶会の真の趣旨を聞いてからその日が近づくにつれて気分は沈んで行った


尤も、そんなことは表面上は微塵にも出してはいないが、この私室で気心が知れた友人たちの前だけは重たい猫は脱いでいる

そのため、僕の不機嫌な状態の無言の八つ当たりを受けたりしている友人たちには申し訳ないがあの時は取り繕うことも億劫なほど、本当に嫌だったのだ

普段はしない女性の外見を嘲笑うなど・・・苛立っていたとはいえ口にしてはいけないことだ

いま、もしもここであの日あの直前に時を戻してくれるというのなら・・・あのときの自分を止めてくれるというのならこの命を差し出してここで人生を終わらせてもいいくらいだ

もちろん、そんなことは無理だし、なかったことには出来ないことだとわかった上で願ってしまう


僕は、今日初めてまともにシルヴィア嬢の姿を見て話をした・・・ほんの僅かだったが

池の畔でシルヴィア嬢とジルとダリアの微笑ましく美しい光景を見てそのままの笑顔を此方に向けて欲しいと期待してしまった

優しく双子に微笑みキラキラと輝き変化していく美しい瞳

しかし、その期待は打ち砕かれ、僕の姿を見たとたんシルヴィア嬢の顔は強張り青ざめていた。

話す声も硬くさっきまでの明るい笑い声と同じとは思えないほど重苦しい声だった

僕はあのときの落胆と胸の痛みをこれほど辛いと思ったことはなかった


どうして、あの時もっと素直にお茶会に行っていなかったのだろう

そうしていたら、違った出会いになっていたかもしれないのに・・・

幾ら後悔をしても仕方がない


あのとき、僕は本当に嫌で嫌で仕方がなかったのだから


僕にとって女性は・・・というより将来を誓い共に生きる家族をというものが憧れであり、掴めない雲のような存在で・・・そして、一番嫌いなものなのだから



僕の家族は、この国の王である父上と正妃である母上、異母弟妹がいる

このマラカイト国は、土壌も豊かで森林資源もしっかりしている、ここ最近何十年もの間災厄に見舞われることなく近隣諸国とも友好関係を保ち穏やかに統治された国だ

そして僕はこの国の王太子として幼少期より、それこそ僕が人の手を離れて歩きだした頃より甘えは許されず王太子として次期国王となるべく教育をうけてきた

そして僕はその期待に常に応えてきた

それが当たり前だったから

僕の回りをかこむ環境がそれを当たり前にした

だから、僕は、僕が本の中でしか知らない家族の温もりを、僕以外が甘受する存在というものに

僕の中にある感情が家族を拒否してしまったのだ


僕の弟妹の産みの母親は、父上が国境近くで知り合いその身が亡国の姫君だといい連れ帰った女性だった

その女性は、白髪に赤い眼をした儚げな姿をした美しい女性だった

僕が3歳のときに王城にやってきてその姿を何度か見たが、その容姿は今でも鮮明に覚えているほどこの国では珍しかった

亡国の姫君だといわれる由縁は、古い書物に今はフォルトゥーナ国に取り込まれた、王が神を崇め巫女のほうが力を持っていた滅びた国の王族から神に捧げられる巫女姫がそのような姿だったとあったから

その側妃は暫らくして双子の弟妹を出産した

しかし、もとより細く弱々しかったその人は出産3日後、儚くなられた

生まれた双子は、母親が命にかえて産み落としたのだからと、王妃である母上自身が責任を持って育てると言い出した

本来、王族の子育ては乳母や侍女、侍従など何人もの手を使い育てるもの

王妃本人は抱き上げることもしないことが多い

しかし、王妃は生家の公爵家で母親が育てたのと同じように乳はやれないが、面倒を見るといって聞かなかった

母上は、僕を生んだ時も同じことを言ったらしいが王太子となることが生まれた時より決められている僕のことは、慣例に則り泣く泣く乳母の手に預けられたらしい

そのうえ、その後()()()()により出産できなくなったことで赤子をその手に抱くのは諦めていたらしい

本来、王妃が子育てをしないのには理由があったからだ

王妃には王妃の国の政務があるから、1人の子育てよりも何千何万の国民のために動く必要があったから乳母制度があるのだ。王妃は国母なのだから

だが、王妃のその願いを王は聞き入れて双子は、王妃が育てることになった

母上にとって念願かなってやっとその手に抱いて育てることができる子供たちを手に入れたのだ

双子の弟妹を乳母や侍女と一緒に育て、抱きしめ笑い合い一緒に食事をして、一緒に眠った

僕は、そのときまだ幼く僕のことも弟妹と同じ様にしてもらえると思っていた

しかし、僕には甘えてはいけません王太子としてきちんと行動しなさいと扉の前で拒絶されたのだ

僕は諦めきれず何度か母上に僕も一緒がいいとお願いをしたが、そのたびに僕の乳母や侍従が呼び出されて叱責される様をみて辛くなり求めることを諦めた

いつしか僕は顔に仮面をつけたような感覚のない笑顔という作り物の表情をして過ごすようになった

求めることを諦めた時だった


それが王太子として当たり前だったから


双子の弟妹が、大きくなり母上の手から離れていろいろ興味を引くようになってきた

そして、僕という兄の存在に気づき近寄ってきた

僕がほしかった家族の温もりを知っている弟妹

それの存在を僕は黙殺することで湧きあがってくる感情を押さえ込んでいた

無関心という蓋で締め付けて、やさしい兄でいられるように・・・



或る日僕は、授業の合間の休憩に一人で奥宮の東屋で休んでいた

ベンチで横になり暫し眼を瞑っていた

その日は、朝から騎士団長の剣の稽古をつけてもらいその後に諸外国の情勢の講義があった

体を動かした後に座学など眠ってくれといわんばかりの拷問のような授業を我慢して休憩が終わればまた次がまっている

次は父上が教えてくれる現在行っている公共事業の進捗状況の確認と今後の課題についての議論だ

頭を使うのだから、少しはすっきりさせておかないと・・・

そう、考え事をやめて風が揺らす木々の葉が擦れる囁きと、時折聞こえる鳥の囀りだけが聞こえる静かな空間にいつの間にかうとうと微睡んでいた

遠くで働く人の喧騒もここまでは届かない落ち着いた空間だった


ぺたっ、ぺたっ


ふいに小さな何かが頬を触った

葉が落ちてきたかと思い、手で眼も開けずに払ってみたが何も触れなかった


ぺたっ、ぺたっ


再び何かが触れてきた

手で払おうと持ち上げた手にも何か小さな温かいものが触れた

僕は、薄目を開けてみると目の前には赤い大きな瞳の二対の幼子がいた


っ!!!!!


僕は吃驚して声も出さずに飛び起きて周りを見渡した


この国に赤い瞳の子供は僕の弟妹、ジルベルトとダリアしかいない

そのとき2人はまだ2歳だ

いや、もう直ぐ3歳になるところだが、この子らの周りにはほかに誰もいなかった


「・・・えっと、お前たち以外誰も・・・」


「いないしゅうの」


「おにしゃんしゅる」


僕が戸惑い言葉を選んでいると双子は好きにしゃべって来た


「あにょね、こっちきたらおにしゃんこないにょ」


「おにしゃんね、ここ、こないの。かくれるにょ。いーち、にーいしたにょの」


「あっち、いーこなの、にいちゃま」


「にーちゃまねんね、じゆはいりゅのね」


舌足らずな口から沢山の言葉がでてきたが要領が掴めない


なんだ?なんでこの子達だけがいる?


そう思っていると遠くからこの双子を呼ぶ声が聞こえてきた

その中には母上の声も聞こえた

この東屋は、周りの草木に同化していて蔦が絡んでいたりしていてこの中に誰かいても分かりにくい

この子たちを探しているは明白なのだ

何よりも、僕と一緒にいると良からぬ噂がまたついて回る



僕はすでに5歳で正式に立太子して儀式もおえている

だが、どれだけ平和で安定した情勢でも第二王子を担ぎあげようとする者がいる


双子の産みの母は亡国の姫君の末裔といわれる。

それは定かではないのだがそれでも、そんなのはいくらでも後付けで証拠を作れるという

その動きを牽制するため、ジルベルトとダリアのことを貶めるような噂が一定期ごとに広がっている

あの、紅い瞳を禍々しいものだというものがほとんどだった


ジルとダリアの母親の姿は、古い書物に書かれているすでに滅んだ国の遠い昔、王族から神に生涯を奉げた巫女姫の姿そのものだった

しかし、その国で崇められていた神を信仰する習慣はこの国にはない

あったとすれば、その国が存在していただろう今はフォルトゥーナの領土となったその一角だろうと思う

どちらにしても書物にはその神の名前も信仰の由縁も残されていない

それを論えてその神を邪神といい、それに仕えた巫女を邪な魔女だという噂が最初に出た

噂は巧妙で、そのあとに赤い瞳は魔力を秘めているといい

それは魅了の魔法だという

だから、王妃を取り入っているという


全く以て聞いて呆れる噂だった


しかし、人は噂に飛びつく

それが真実かどうかは関係ない


なにせ、王妃と双子を実際に見る機会などないに等しいものがほとんどなのだから


どれほど王妃が双子を慈しみ愛情を持っているか、その目で一度見れば魅了の魔法によって無理やり熱に侵されて惹きつけられているか違いは一目瞭然だというのに・・・

このような言われ方では王も王妃も表立っては噂を消すことはできず、地道に真実をばら撒き火消しに回るしか手がない

なにせ、双子はまだ幼くお披露目にはまだ早いのだから


僕の周りにもそんな噂をするものと、それを打ち消そうとするものとが牽制し合っている

僕からすれば関心のないことだと、相手にしないことが大切だと乳母に言い含められていた

そして、僕自身も関心を持たないようにしている


父上からも幼い弟妹に二心などあるわけもなく、これからも持たせない関係を築くべきといわれている

その通りではあるのだが・・・


おそらく、僕が双子と一緒にいればまた良からぬ噂が出てしまうだろう

幼い弟妹に僕が不用意に近づけば今度は、何を言われるか・・・


交流はもっと大きくなってからでもいいだろう

いまでも、時々は家族で食事を一緒にとり顔を合わせはして、この子たちも僕を兄とは認識しているのだから

そう思っていたからこそどう対応していいかわからない


母上と一緒でしかあったことのない双子が、この子たちだけでいる状況を僕は本気で困惑した


どの言葉をえらび、どう行動すれば正解かわからない


だから、早く誰かの手にこの子たちを委ねて僕は離れた場所から見ていなければいけないのだ

この見つけにくい東屋から出てほかの人に・・・


「おいで、ここだと分からないよ」


僕は立ち上がり双子の手を片方ずつ取った

このとき僕は初めて自分よりも小さな子供の手というものに触れた

僕も子供だがそれよりも小さく柔らかくて温かい手

顔を見れば、丸いぷくぷくして柔らかそうなほっぺたに可愛らしい形の良い唇、顔の造形は僕に少し似ているだろうか?髪は父上に似て少し癖のある金色の髪、そして真っ赤な瞳。その瞳はとても大きくきれいだなぁと不思議な感覚がした

きらきらとして自分に害を為すものなど存在しないと思っているんだろうその輝く紅い瞳

なんだか分からないけどその小さな手のこの子供たちは僕の弟と妹で、僕はその兄なのだと当たり前のことなのに、改めて思い出した

この感覚はなんなのか僕には判らなかった


「あらぁ、ここにいたのね」


僕がジルベルトとダリアの手を握って神妙な顔で動けずにいるといつの間にやら母上が東屋の入口から顔を覗かせた

そのときの母上の顔は、僕が見たことのない美しく眩しい笑顔だった

お互いに忙しくはあるが、時間が合えば朝の食事と公務の時に顔を合わせる

そのときも僕の顔を見て微笑むがその笑顔とは違う・・・はじめて見たこれが母が子に向ける笑顔なのか


ジルベルトとダリアは母上に向かってみつかったぁっと駆け寄っていった

僕の手をスルリと小さな手は離れていって温もりも一緒になくなった

そのとき僕は思わず淋しいと思ってしまった・・・そんな感情忘れていたのに

母上は、僕の目の前で優しい笑顔でジルベルトとダリアを抱きしめて捕まえたと声を出して笑った

王妃として美しい所作と微笑みの母上が口を開けて声を出して笑っていた


「うふふ、フェリクス貴方も一緒にどうかしら?」


母上は侍女と双子とかくれんぼをしていたという、それに僕も一緒にどうかと誘ってきた

僕はかくれんぼは知っているけどやったことはない

それよりもやることが一杯なのだから


「・・・すみません母上、この後父上に勉強を見てもらうようになっていますので・・・」


「あらそうなの、がんばってね。」


僕がよく分からない苦い感情が湧きあがってくる中、返事を返せばあっさり去って行った

ああ、母上はそこに偶々僕がいたから声をかけただけなんだよね

なんだか胸の奥に仄暗い感情がちりちりと燻っていくのを押さえ込みながら僕は、感情のない笑顔の仮面をつけた


「母上、もうすぐ休憩も終わりなので僕はこれで失礼します」


僕は母上に礼をしてその場を立ち去った。

母上にしがみついて笑顔でいる双子の弟妹は、その笑顔で僕にキラキラとした赤い瞳を向けていた

僕には向けてもらったことのない愛情を受けてあの双子の瞳は輝いているのだろう

ならば、僕のこの平凡な水色の瞳は泥のような底なし沼のくすんだ色をしているのかもしれない


僕は知らなければ欲しいとも思わなかった母の微笑を、素直に羨ましいと言えればもっと生きやすかったのではないかと随分大きくなってから思った


離れた温もりが恋しければ抱きしめてほしいといえばいいのか、抱きしめればいいのか・・・どちらも僕には遠い出来事で絵空事にしか思えなかった


手に入らないものなど、最初から欲しいと思わない

いらないと思う


そんな手に入らないものなど、僕は嫌いだから要らないんだ


僕の素直になれないひねくれた性格は、この時から始まったようだった







読んでくださりありがとうございます




毎回、ブクマ・評価・誤字脱字報告・感想いただきありがとうございます

励みになっています

いくつか視点違いも入れるのですがラスト前に短編を入れる予定です。

予告として言いますと、ある人のオトモダチエピソードです

楽しんで読んでもらえたらいいなと思います


フェリクス視点まだ続きます


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