≪1-11≫
王宮の新しい庭園は春のような花とは違い、香りが強く芳しい秋薔薇がメインの庭園だった
その庭園のメインテーブルにわたくしの両隣に座って仲良く優雅にお菓子を抓み紅茶を楽しみ、ジルベルト王子とダリア王女のお披露目挨拶も恙無く終わりました
「ジル様もダリア様もご挨拶がとても素晴らしかったですわ」
「本当に!シルヴィアお姉様に褒めてもらえてうれしいや」
「シルヴィアお姉様のお辞儀は誰よりも素敵ですもの。そのお姉様に褒められると嬉しいわ」
わたくしの手を握り両隣に座り嬉しそうに笑うジル様とダリア様
あのあと、フェリクス殿下にジル様ダリア様が先にわたくしと約束してるのだと抗議して下さいましてわたくしはフェリクス殿下のエスコートを免れました
お二人はフェリクス殿下が現れてとても緊張していたようですが、それでも会ったばかりのわたくしのために頑張って下さいました
わたくしが一緒にいないならお茶会に出ないとまで言い出されてフェリクス殿下が譲る形になりました
助かりましたわ
感謝します
お兄様やオスカー様ブライアン様と一緒にいるフェリクス殿下が何か言いたげな顔をしてこちらを見ていますが、まあ、見なかったことにしましょう
それにしても、殿下は何故わたくしをエスコートしようとしたのでしょう?
やはり王子様としての嗜みでしょうか?
そうだとしたら、成長したのでしょう
1年前の殿下についてはあの会話の時しか知りませんが、ゲームで語られる殿下の幼少時代の話よりも落ち着いていますよね
ゲームでは攻略対象者は12歳前後で悩み事やトラウマの出来事が起こるんですよね
そういえば殿下のトラウマなんだったかしら?
おかしいわね、あれだけゲームをやり込んで文庫本も熟読したのに憶えていないなんて・・・
殿下は今は、何人かのご令嬢方に囲まれていますがにこやかに微笑まれてお相手しています
うん、すごく分かりやすい社交的な笑顔ですけどね
まあ、わたくしはやはり殿下にはあまり関わらないほうがいいかな?
ゲームでも本の物語でも初対面からフェリクス殿下はシルヴィアに嫌悪感を抱いていたとあったし、何よりも現実でもそのようだ
このまま殿下との接触は避けたほうがいい
それはもう、死にたくない!
死亡フラグ回避だ
関係改善とかも必要ない
このまま婚約者にならなければ悪役令嬢になる事もないだろうし、モブへジョブチェンジしたわたくしには誰も興味を持たないでしょう
寧ろ興味を持たないで欲しいです
今日という日を乗り切って、後は学園に入学まで前世と同じく、地味っ子で過ごしましょう
表立って顔には笑顔を張りつけにこやかにジルベルト王子とダリア王女の話に相槌をうちながら、そのままお茶会は終わり
わたくしの試練は終わった・・・はずでした
どうしてこう、わたくしは試練が次から次にやって来るのかしら。
あれから、2週間後わたくしは再び王宮に来ております
しかも、今度は1人です
わたくしは王妃様から『シルヴィアちゃんお城に遊びに来てね♪』と名指しで招待状をいただきました
ええ、王妃様からのお誘いです
一貴族の令嬢如きが断れるはずもありません
とっても憂鬱ではありますが行くしかないので
お父様もお母様も王妃様からお茶会のときのわたくしがとても素晴らしかったので個人的にお話をしたいのだと言われたそうです
ううっ、あれかな?
目立ちすぎたのかな?
お茶会でお披露目されたばかりの殿下たちにわたくしが付きまとったからそりゃ目立ちますよね
何を言われるのかな・・・嫌だなぁ
せめてもの救いは、お兄様たちは今日、騎士団での訓練に参加するとかでお城にはいるので訓練が終わればわたくしと一緒に帰ってくださるとの事です
しかも、帰りに町で流行っているお菓子を買ってくださるそうです
うふふ、お菓子・・・じゃない!愛するお兄様と街デート
楽しみです
だから、我慢できます
王妃様とのお茶会は奥宮の開閉可能な一面ガラスばりの明るい半テラスで行われた
王妃様のほかにジルベルト殿下ダリア王女も一緒だ
「お茶会の後からずーっと、二人がシルヴィアちゃんのことを話してて、とても良くして貰ったのね。
わたくしも、この子達の初めてのお披露目で心配していたのだけど貴方のようなお友達が出来てよかったわ」
挨拶を交わして席に着くと開口一番に王妃様がそれはそれはとても嬉しそうに微笑んで話してくださった
その顔は、一国の王妃というより母の顔で本当にお茶会の時お二人のことを心配されていたんだなぁと思った
でも、なぜに王妃様がわたくしを『シルヴィアちゃん』なんて呼ぶのかしら?
「うふふ、嬉しいわ。あなたのお母様のレーヌ侯爵夫人は学園でのわたくしたち下級生の憧れでしたのよ。王家に嫁ぐことが決まっていましたわたくしの正妃教育を支えて下さった恩人でもあるのよ。
今は一貴族の夫人でしかないからって距離を置かれていますけど昔はとてもよくしてもらったのよ」
その頃を思い出しているのか王妃様は頬に両手をあてて顔を赤らめていた
う~ん、お母様、貴方はいったいどんな学生時代を過ごされたのですか?
気になります・・・すごく
「シルヴィアお姉様がいたからお茶会もたのしかった。」
「そうよ。これからもお姉様はわたくしたちのお友達でいてね」
ジル王子もダリア王女も今日はとても明るく、出されたお菓子のこれがおいしいよといって薦めてくれたりしてたのしくおしゃべりに花が咲いた
「シルヴィアちゃん、わたくしからもこれからもこの子達と仲良くしてあげてね」
王妃様は念を押すように『お願いね♪』ってわたくしの両手をぎゅっと握ってくださいました
・・・・・・・・・嫌だなんて言えません
ああ、こんなに穏やかに楽しくいられるのならたまには・・・本当にたまには、お城に来てもいいかも・・・
そんなことを思えるくらい今日は穏やかで愉しく過ごしていた
そう、過ごしていました・・・・・・のに
「フェリクス。ちょうどよかったわ、レーヌ侯爵のシルヴィアちゃんが来てるのよ貴方もいらっしゃい」
テラスから見える生垣の向こうを横切る人物―――フェリクス王太子殿下を王妃様は、目ざとく見つけ侍女を呼びに行かせ声をかけた
フェリクス殿下は今日もやはりキラキラ王子様で優雅な微笑を浮かべて此方にやってきた
わたくしは慌てて立ち上がり、でもそれを気取られないように優々とした動きで礼をした
しかし実際心情は・・・
なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!
同じ言葉がぐるぐる回りつづけた
「こんにちは、シルヴィア嬢。」
「ごきげんよう王太子殿下。ご機嫌麗しゅう」
柔らかくにこやかに挨拶を交わしてフェリクス殿下は侍女が直ぐに用意した席に座り、同じく直ぐに出された紅茶に口をつけた
フェリクス殿下はジルベルト殿下に何を話していたのか聞いて、ジルベルト殿下はとても丁寧に先日のお茶会のときの話をしていたとお伝えしていました
「お兄様は今日はいかがお過しだったのですか?」
「ん?今日はカトリーヌ嬢が王宮に来ていたのでその相手をしていたよ。
その見送りの帰りだったんだよ」
ダリア様がフェリクス殿下に話をふって下さりフェリクス殿下からカトリーヌ様の話題が出ました
あら、良かったです
婚約者候補のカトリーヌ様は、順調にフェリクス殿下と関係を築いていらしているのですね
うふふ、これなら早くカトリーヌ様が婚約者に決まりそうですし
カトリーヌ様なら悪役令嬢のような行動を取らない方かも知れませんね
なにせ、わたくしの交友関係は少ないのです
嗜みの一環とし同世代の貴族の令息令嬢は随分と把握して名前だけは存じ上げていますが、実際にお会いしたことはない人のほうが多いのです
ううっ、トモダチが欲しいです
「・・・・・・わたくし、カトリーヌ様は嫌いです」
ダリア王女が口を前に尖らせ拗ねたように言い出しました。
わたくしがダリア様のほうを見るとダリア様も此方をみて顔を顰めて言い出しました
「だって、あの人お兄様の王太子妃に相応しいのは自分だって彼方此方の集まりで言ってあるいてるって言うのよ。
噂ではとても傲慢だって言うし・・・」
ねえ、と此方に同意を求めます
しかし、わたくしに話をふられましても・・・
気がつけばみんながわたくしのほうを見ていました
「ダリア様、・・・・・・わたくしはカトリーヌ様にはお会いしたことがないのでわかりませんわ。
それより、此方のパイはおいしいですよ。
アップルもおいしいですが、これはアプリコットでしょうか?とても美味ですよ」
そういってわたくしは小さくカットされたパイを一つダリア王女のお皿にサーブしてあげました
「僕もカトリーヌ嬢の友達にこの間会ったんだけど、その子たちもあまり好感持てないし・・・オズボーン侯爵も僕に会うといつも厭味ったらしく言ってくるし・・・僕も嫌いだなぁ・・・」
せっかく話題をすり替えたかったのにジルベルト様は余程カトリーヌ様のことを好ましく思っていないのか眉をぎゅっと寄せた顔で悲しそうに私を見て言います。言葉尻がとても小さくつぶやかれたのは隣にいるフェリクス殿下を気遣ってのことでしょう
「・・・・・・ジル様、ダリア様、僭越ながらわたくしは、噂や周辺の言葉で惑わされほしくないです。
実際にお会いしてみたらとても好ましい方かも知れないのに噂の印象が先行してしまえばその方といい関係を築く妨げになります。
お話しする機会があればわたくしもお話をして仲良くして頂きたいと思っておりますの
だから、わたくしは噂話は・・・」
わたくしも噂にはあまりいい印象はありません。わたくしだって、この瞳を他家の集まりで面白可笑しく話題にされていることは知っています
人は、周りと違うものを認めたくないものですもの、貶めたり排除したりその手段の筆頭が噂話です
わたくしの瞳も噂では、呪いだとか魔女だとか悪し様に言われているようです
それに慣れたかと言われれば耳にすれば辛いし傷つきます。
ですが、それにいちいち気にしていては何もできないですし、何よりも私が大切に思う人達に迷惑が掛からないのであれば黙殺しても大丈夫と思えるようになってきました。
前世の記憶を思い出してから、前世25年+現世13年生きてきたしなによりも前世での私の親友の言葉『欲張って全員に認めてもらうより、大切な数人がわかってくれてたら良い』を思い出せたことで黙認することができるようになりました。
うん、黙認してるだけよ
傷はつくけどね
だからこそ噂に惑わされてほしくないんです
王族のジル様とダリア様に偉そうに言いましたが咎められるでしょうか?
それとも口煩いと嫌われてしまうでしょうか?
でも、噂は嫌いです
噂話も嫌いなんです
わたくしがされたくないからしてほしくないんですもの
「そうね、シルヴィアちゃんの言う通りですよ
王族である貴方たちが噂を信じて真実を見逃すような愚か者になってほしくはないわ。
ありがとう、シルヴィアちゃん。これからもこの子たちのことは遠慮なく叱って頂戴。」
王妃様はわたくしの話を聞いてわたくしにやさしく微笑まれ、感心したようにうなずいてくださいました。
わたくしは、誰からも咎められることなくほっとしました
ジル様もダリア様も真面目なお顔でうなずかれています
噂は誰にでもついて回ります、みんな一つぐらいは思いあたることがあるのでしょう
フェリクス殿下もとても神妙な顔つきで頷いていらっしゃいました。
「失礼いたします、王妃様」
不意にそう侍女、他の侍女とは違う制服だったのでおそらく、王妃様専従の侍女だと思いますが声をかけてきた
顔を上げた王妃様に何か耳打ちしています
「そう、わかりました。
ごめんなさい、シルヴィアちゃん。陛下の時間が少し取れたみたいでこの子達にお茶会の話が聞きたいみたいなのよ
少しの時間みたいだから待っていて欲しいの
そうだわ、待っているだけではつまらないでしょうからフェリクスに王宮を案内してもらって頂戴。」
一度、侍女に返事を返してからわたくしのほうへ王妃様は向き直りいきなり予期していなかった爆弾をぶっこんできやがった
・・・・・・スイマセン、言葉が乱れました
しかし、そのくらい動転したのです
「王妃様、お忙しいようですのでわたくしはもう退出いたしますが?」
「だめよ!まだお話ししたいもの!」
「そうだよ!もっと話がしたいから待っていてよ」
わたくしが退出の意をつげれば ジル様もダリア様もわたくしの腕にしがみついてきます
しかもうるうるした上目遣いつきです
ええ、かわいいお二人のおねだりなら聞いてあげたいですが・・・
なんで、フェリクス殿下と二人で待てと仰いますのかしら?
しかも王宮見学会のエスコートつきですか?
いやいや、無理です
わたくしのHPが著しく削られます
「母上、大丈夫です。僕が責任を持ってシルヴィア嬢のお相手をしておきますよ」
そう言ってにっこり微笑んで、ねってさらに目を細めて下さって
その美しい微笑みたるややっぱり素敵ですね
やっぱりメインヒーローの微笑みは眼福です
でも、やっぱり二人っきりはいや~!
わたくしの心の叫びを誰か聞いて!!!
お読み下さりありがとうございます
ブクマ・評価・感想・誤字脱字報告ありがとうございます
みなさんに支えられております
本当にありがとうございます
フェリクス君は本編だとやっぱり書きにくいです
次回はフェリクスの視点を入れたいです
※加筆しました。




