≪1-10≫
~アレックス視点~
そして、季節は巡り春のお茶会があったのだが、シルヴィアがどうしても嫌だといって本来は断るという選択肢はないはずなのに、恐ろしいことに不敵な笑いで許可を王様からもらってきたと父上は笑顔でいった
うん、この顔絶対にシルヴィアには見せないでください
ぜったいに泣く
魔王の具現かと思うよ、きっと
これで穏やかにシルヴィアもすごせると思いきや
普段はない秋のお茶会の招待をもらった
今度は父上も母上も断れないとの事で仕方なくシルヴィアも頑張るといった
そのときのチベットスナギツネのような顔はもう見たくないほど衝撃的だったよ
僕は、本来なら殿下の傍に侍っていないといけない立場だが、今回はシルヴィアの傍にいられるように辞退した
勿論殿下の許可をもらったのだが・・・
王宮に入って暫らくしたところで王宮侍女に呼び止められ殿下の私室に来るようにいわれた
こんなところにシルヴィアを一人置いていきたくない僕は抵抗を試みたが侍女からの折衷案とシルヴィアから促されたことで仕方なく殿下の私室に急いだ
「フェリクス!僕は今日は一緒にいられないと言っただろ!」
僕は苛立ちを隠すことなく私室の扉がしまったのを確認したから呼び出した主に叫んだ
「・・・・・・なんで、アレックスだけが来た?シルヴィア嬢も連れてくれば良かっただろ」
怒り心頭の僕をみて不思議そうに返答を返した
「僕は、シルヴィア嬢だけを呼ぶのは良くないと思ってアレックスと一緒に来てもらうように思って呼んだんだが?」
焦ったように言う殿下に僕は脱力した
僕ら3人がシルヴィアに謝罪して仲直りしたと聞いたとき殿下もシルヴィアに謝罪をしたいといったがそれは如何なのかと、あまり良いとはいえなかった
殿下は、王太子なのだから王族がそうそう謝罪を口にするのは良くない
謝罪された側の身にもなって欲しいものである
もしもその状況を誰かに見られでもすれば謝罪された此方は、王族に頭を下げさせたといわれて糾弾される側になるのだから
だから、何れ時期をみてシルヴィアと引き合わすといっていたのだが・・・父上からの罰により殿下側から接触は出来なくなった
ならば、手紙を書くと言われたがそれこそ形に残る謝罪文など以ての外だ
なので放置気味にしていたのだが・・・
そうか、私室にシルヴィアを呼びたかったらしい
・・・・・・ならば、そう呼びに来た侍女に言っとけよ!
「シルヴィアは呼ばれていないと侍女はいっていた・・・もっと、言うべきことは言いましょうね殿下」
僕は、あきれてしまった
確かにこの私室ならば許可なく誰も入らないし、扉の外には騎士が立っているが室内には呼ぶか有事のときにしか入らない。
「ふう、なら早くシルヴィアを呼んで来よう。
こんなにお菓子を用意してくれたんだしね・・・」
室内のソファーの前に置かれたローテーブルには女の子が喜びそうなカラフルで可愛らしいお菓子が沢山の器に乗せて置かれていた
せめて、昨日のうちに話しておいてくれていたらよかったものを・・・
そう思いながら室内を出てシルヴィアの待つ東屋に向かっていると後ろから殿下が走って追いかけてきた
「待っているのは性に合わない。一緒に行く」
そう言った殿下の顔は少し強張っていた
「・・・・・・・・・いいですが。シルヴィアの前でそんな怖い顔しないでくださいよ」
シルヴィアは以前、フェリクス殿下のことを理想の王子様だと憧れていたのだから
わかったと返事をして殿下を先に歩かせ主従の形で歩いて待っているであろう東屋には誰もいなかった
先に会場に行ったとは思えない実際に傍の廊下に立っていた近衛騎士に誰か通ったか聞いたが誰も通っていないと返答が来た
ならば・・・植物を見ているのか?
そう思って小道をすこし進めば、こどもたちの楽しそうな笑い声が聞こえた
見てみるとシルヴィアとフェリクス殿下の双子の弟王子と妹王女がシルヴィアと楽しそうにしていた
僕らの前でキラキラと陽光に照らされたような光の中シルヴィアがいた
その光は、よくうちの庭師のボブ爺の周りにも見える光だった。
光の中微笑むシルヴィアは明るい水色の瞳から時折黄色が見え隠れするように楽しそうだった
見目麗しい双子の王子王女と3人でいる姿は、美しい絵画のように切り取っておきたくなるくらいの光景だった
僕は横を見るとフェリクス殿下もその光景を美しいと思っているのか、今まで見たことがないような柔らかい微笑とその瞳に浮かんだ熱を見てしまう。
僕のもしや・・・は、割と的中するんだよね。
いまだ、シルヴィアに謝罪が出来ずにくすぶっている殿下だ。僕のもしやが的中して暴走して欲しくないなぁ
そう、思いながら本性不器用男の主を見ていた
そのうちシルヴィアの髪に結ばれていたリボンが解け、僕らがいる反対の池の畔まで風にあおられてきた
僕が拾おうと屈む前にフェリクス殿下が拾い上げた
そのとき初めて僕らの存在に気がついたシルヴィアからは、ついさっきまでの笑顔は消え、顔色をなくして強張ったものになっていた
僕はシルヴィアが東屋にいなくて心配したと言ったのだが
その間にフェリクス殿下は拾い上げたリボンを手にシルヴィアに近づいて傍に行った
シルヴィアは固まったまま俯いてしまっていた
さっきまでの笑顔は完全に失っていた
そのシルヴィアを見ているフェリクス殿下の顔には寂しさが滲んでいたが直ぐに取り繕い僕を窘めてからシルヴィアの顔を覗き込んで、挨拶を促してるよ・・・
殿下、声と顔は理想の王子様だけど・・・
シルヴィアはすごくすごくすごく、驚いて慌てていたと思うのにそんな素振りは出さず、でも声がちょっと震えていたのはご愛嬌かな?
とても綺麗な所作の淑女の礼は、家庭教師たちが余所で褒め称えるのも仕方なしと思えるほどだった
だから、シルヴィアに見惚れて殿下の返事が遅れたのは仕方ない・・・
・・・仕方ないのか?
濡れてしまったリボンを殿下がきれいにして返すって言って、たぶんまた会う口実だよね
でもさぁ、シルヴィアはフェリクス殿下のその邪な思いにびくついているみたいだ
一生懸命、隠そうとして眼に力を入れすぎです
だらしない顔も困るけど、それじゃますますシルヴィアが怖がるんじゃないのかなぁ
うん、どうやら僕のもしや、はまた的中したかな?
僕からは何も言わないよ
だから、お茶会にシルヴィアをエスコートしようとしているけど
シルヴィアは戸惑ってるからね
フェリクス殿下は、頭から抜けてしまったかな?
あのときに言ってしまった言葉をまだ取り消していないこと
シルヴィアはたぶん、貴方に好かれていないと思っていますよ
ゼロどころかマイナスからの始まりなんだけどなぁ
殿下の手を青くなった顔で見ている妹よ
頑張れ、此処は頑張って乗り切れ
そしてフェリクス殿下
貴方が不器用なことは知っていますが、シルヴィアの気持ちを読もうね
読んでくださりありがとうございます
ブクマ・評価・感想・誤字脱字報告ありがとうございます
別視点まだありますが、またの機会に挟みます
次は話を進めます