≪1-09≫
アレックス視点②です
~アレックス視点~
僕ら3人は、よく他愛のない話をしていた。
あの日の会話もいつもの他愛のない、本当になんの他意のない雑談だった。
ただ、いつもと違ったのは殿下がとても不機嫌だったのだ
その日は、王妃様から婚約者候補を選ぶように言われてお茶会に参加する日だった
お茶会の趣旨が王妃様から伝えられた日から殿下はだんだん、不機嫌になっていった
当日も、会場の近くに来ていながら庭園に行くのを嫌がり回廊の先の庭でギリギリまで時間を費やしていた
そんなときに僕が同伴して連れてきたシルヴィアを見たというオスカーが話題を振ってきたのだ
殿下も普通なら令嬢たちの話題は避けて直ぐに別の話に変えるのに、そのときは僕の妹ということで話に乗ってきた
話は案の定、瞳の話題になった
僕からしたら瞳の色が変わることが何だ?と思ったが、オスカーもブライアンもおかしいと言っている
殿下まで奇異な瞳という、そう言われるとそうなのかと、普通だと思っていた僕のほうがおかしかったのかと思うようになった。
オスカーから笑いながら『可哀想に』と言われたとき僕の頭の中は何を言ったらいいのか分からなくなっていた。
気がつくと話に合わせてシルヴィアのことを酷いように言っていた。
一度口について出た言葉は取り消せない
そう思うと途轍もない後悔が押し寄せた
後悔は本当に遅かった。
殿下たちと話していた最中、回廊の向うから誰かの叫ぶ声がして僕たちはそこに急ぐと倒れたシルヴィアに侯爵家のメイドのサラが駆け寄っていた
僕は、倒れる寸前のシルヴィアと目が合った気がした
その瞳の色は暗く沈んだ色をしていた
シルヴィアが倒れたのは日射病だった
日の光の下、殿下を待ち続けたんだろう
普段は屋敷から出ることなくすごして、外へは少し庭を散歩するくらいなのに・・・
眠っているシルヴィアを両親と共に見ていた
僕は、倒れたのは僕らの話とは関係ないと何度も言い聞かせて平静を努めてシルヴィアの青白い顔を見詰めた
翌日、授業で登城すれば殿下たちが心配そうに寄ってきた
3人とも心配そうにしていた
それは、倒れたシルヴィアのことか、それともあの場所で倒れたシルヴィアが僕らの話を聞いたか?なのかどっちだろう
もっとも、どっちであろうと一緒だと思った
シルヴィアの耳に入ったか入ってないかより、僕がシルヴィアのことを悪し様に言ったことが僕の中で重くのしかかっていた
僕は、その重みから逃げるようにオスカーに騎士団の訓練に参加させてもらうように頼んだ
騎士団の訓練は今まで経験したことがないくらい辛いものだったけど僕は、そこに逃げた
シルヴィアと向かい合うことから逃げてしまったのだ
シルヴィアの目が覚めたのは1週間後だった
僕はシルヴィアがあの話を聞いていたなら父上に話すだろうと思っていた。
だから、暗くなって帰宅した際、執事からシルヴィアの目が覚めたことを聞いたとき父上に叱咤されると思っていた
しかし、父から言われたのは全く別のことだった
「シルヴィアが王宮でのことを話さない」
父上が搾り出すように教えてくれた
普段はきちんと瞳を合わせて話をしてくれるのに俯き加減でそらしていたという
たぶん、シルヴィア自身は無意識で気がついてないだろうと父上は言う
その上で母上も元気がなかったという、一生懸命笑顔を向けていたけど無理しているのは分かる
「あのときに掛けた魔法が弱くなったのだろうか・・・」
父上の悩むように紡がれた言葉の意味が分からなかった
不思議そうにしている僕に父上が言うか悩んでいるように見えたので教えて欲しいと懇願した
父上の話はとても衝撃的だった
3歳で瞳を揶揄われた時、熱を出した夜に目覚めたシルヴィアはとても手がつけられないほど泣き叫んでいたという
さらに、手近にあった先の尖ったペンをとりこんな瞳はいらないと抉ろうとしていたと言うのだ
勿論それは直ぐ近くにいた両親やメイドの手によって未遂にすんだがよほどの恐怖を感じていたのだろう、父上は自らが持つ属性魔法で記憶の操作を行ったらしい。
父上は、闇魔法と風魔法の属性の魔力を持っていた
その日あった出来事を消すことは無理だがそのときの事柄は第三者が見ているような感覚に変換して感情をすべて封印したという
これは高度な闇魔法の属性のある父上だからこそ出来ることだ。
それによって、シルヴィアは落ち着いた生活を送れるようになった
鏡で瞳を見ても嫌悪感を抱くこともなくなった、そして、それはこの先もないようにとみんなで一丸となってシルヴィアを守っていった
その結果があの溺愛っぷりになったのだが
その魔法を再度かけるかはシルヴィアの様子を見てから決めると父上は言って、僕も部屋に戻って休んだ
体は訓練でとても疲れていたのに、ベッドに入っても眠れなかった
3歳のシルヴィアの衝動的な行動を聞いて
先日の倒れたシルヴィアの閉じる寸前に垣間見た暗く沈んだ瞳の色を思い出していた
僕もシルヴィアの瞳色が感情によって変わることは知っていた。庭を一緒に散歩をしているときなどは嬉しそうに瞳を明るい色にキラキラと輝かせていた
それはもう可愛らしい、愛おしさが溢れる姿だったが僕もどうやら殿下と同じで素直になれない性格をしていたらしい
人のことをいえない厄介な性格だなぁと僕は、自己嫌悪に陥っていた
それから僕は、シルヴィアと話す機会を伺っていたが、僕も忙しくしていたのは勿論、何故かシルヴィアまでもが忙しく家庭教師の時間を増やしていた
父上からは、昔と違ってシルヴィアは強くなったと感慨深げに言っていたけど・・・
僕が早く帰宅した日でもシルヴィアは既に休んでいて避けられているのだと思っていた
そう思うとますます話す勇気が萎えていく
「アレックス・・・妹君はその・・・まだ?」
いつもの殿下の私室に集まったときに僕は何度も無意識に溜息をついていたらしい
シルヴィアのことを心配していた殿下たちには大まかではあるが話していた
3人ともやはりとても罪悪感に苛まれたようで、特にオスカーは頭を擦りつけんばかりに謝ってきた
「ごめん、俺が不用意にあんな話を振ったばかりに」
あのとき殿下の悪い機嫌を何かで笑い飛ばしたかったとそういったことらしいが、それは悪趣味だったと今は本当に猛省をしている
そしてフェリクス殿下もブライアンもだ
3人ともシルヴィアに謝りたいと言うのだが、一緒に暮らしている僕ですらまだなのだから待って欲しいと留めていた
そして、何も出来ないまま1ヶ月が経ち母上からのシルヴィアを伴って他家のお茶会に行くといわれ僕も同行することになった
オスカーの家で行われることは僕にとっては幸いだった
同じ家なのに顔を合わすことがなくきっかけがつかめなかったがオスカーの家ならばどこかで話が出来るように頼もうと思っていた
そして当日、僕は母上たちと離れてオスカーの部屋に行った
そこで前日には聞いていなかったブライアンがいて許可がもらえるならシルヴィアに謝罪したいと言っていた。
2人には状況しだいだと、僕がまずは先に話をしたいのに余計なのが2人も着いてきては落ち着かない
僕たちはシルヴィアを呼びに行こうと部屋を出て廊下を歩いているところシルヴィアが絡まれているところに遭遇した
シルヴィアの瞳色について揶揄い嘲笑をしてしかもその中に僕の名前まで出ていた
僕は、怒りに震えて強く手を握りこんでいた
父上の言葉は本当で嘘だった
シルヴィアは強くなったようでやはり弱かった
僕たちの姿を見とめた面々からシルヴィアを庇うと我慢をしていただろうシルヴィアは涙をこぼしたのだ
それでも相手に気取られないように強がっていた
僕はシルヴィアの気持ちを汲んで取り囲んでいた輩から隠して見えないようにして厳しく追求しようとした
しかし、シルヴィアはそれを善しとせず、あいつらを逃がした上でこのことは黙っていて欲しいと懇願された
本人がいいのならそれでもいいのだが・・・
優しいというかお人よしというか思わず息をふぅっと吐き出していた
シルヴィアが頭を下げてそんなに言うことはないのに・・・
そう思って、シルヴィアを見て僕こそがシルヴィアに謝ることがあったと思い出した
謝るべきことがあるのは僕なのに!
普段の僕らしくもなく頭を下げるシルヴィアに焦ってしまい此処が往来のある廊下であること忘れて気がつくとシルヴィアに謝り、
此処最近の騎士団の訓練で癖がついてしまっている綺麗な礼で深く頭を下げていた
僕に続いてオスカーもブライアンも並んで謝ってきた
シルヴィアはとても驚いて狼狽えていた
謝ることなんかないと言うシルヴィアに王宮でのことと言えば動きが止まった
僕は、言い訳になるけどと言い、精一杯の気持ちをシルヴィアに伝えた
シルヴィアを傷つけたのは事実なのだから許されないと分かっている
今も此方を見てくれなくなっていた
それは全て自らが招いたことなのだからと思っていた
だから、シルヴィアは許してくれないと思っていた
何度もいつまでも謝罪をするつもりでいたのに・・・
「お兄様・・・あの、本当にもう気にしていません。
気にしていないというより・・・・・・・・・・・・
えっと、その・・・・・・今まで通りしてもらえないのが嫌です
もう、ヴィーとは呼んで下さいませんの?」
一生懸命話そうとしてくれているシルヴィアを見詰めている僕を見詰め返しながら悲しそうに言うシルヴィアを見たら衝動的に抱きしめていた
もう、かわいい!かわいい!かわいい!かわいい!かわいい!
なんだこのかわいいのは!
我が妹ながら驚くほどかわいい生き物に見えた
許してもらえないと思っていたのにこんなにかわいいことを言ってくれるのか!
抱きしめて腕の中に入れたまま確かめると嫌わないでと弱々しく言うじゃないか
もうかわいいかっ!
後ろにいたオスカーとブライアンもこのかわいいシルヴィアに悶絶していた
その後、優しいシルヴィアはオスカーたちにも許しを与えた上にお友達になりましょうという
今日一日でシルヴィアを見る目が大きく変わった
以前から妹として、普通にかわいいと思っていたけど
僕の妹は、とても可愛らしく優しくて可憐で儚げでありながら芯のしっかりとした強い心を持った家族を大切にしてくれる子だった
僕は、シルヴィアが許してくれたからといってこのままなかったことには出来ないと思い
オスカーとブライアンには了承を得た上で、王宮であった出来事を父上と母上に打ち明けた
こんなに時間が経ってから話をしたことで父上は激怒するだろうとは思っていた
思っていたけど・・・
「シルヴィアが許すという以上私たちが何かお前に罰を与えれば、シルヴィアの気持ちを無下にすることになる」
そう言われた
その上で、他家であるオスカーとブライアンは我が家にはシルヴィアが会いたいと言わない限り立ち入ることを禁じられた
そして、とてもとても勘のいい父上は言外に殿下にも同じ条件であるといわれた
その上で僕は、今やっている騎士団の訓練をもう1年続けるようにいわれた
僕はもっと強く叱咤されると思っていたが、父上も母上もシルヴィアの気持ちを尊重するといい、
もしも、この先同じ事があればそのときは親子の縁を切るといわれた
勿論、そんなことそんな愚かなことはもう二度としないと誓った
読んでくださりありがとうございます
アレックス視点続きます
驚くことに昨晩、この話が日間異世界転生/移転ランキング1位をいただきました
僅かな間の1位でしたが、ありがとうございました
こんな稚拙な未熟な文章の話にたくさんの方が読んでくださりありがとうございます
少し完結まで延ばす事にしましたが15~20話で完結したいです
ブクマ、評価・感想・誤字脱字報告本当にありがとうございます
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