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しあわせバトン

Une carte du bonheur

作者: 三稜 諒

 桜が咲いたら、春。

 愛子は川沿いの桜並木を歩きながらくしゃみを連発する。

 どうやら花粉症デビューを果たしてしまったらしい。

 認めたくはなかったのだが、潔く認めて早めに病院にかかったほうが楽になれるとのアドバイスを受け、早速検査してみたら杉の花粉でアレルギー反応が出ていた。

 とはいえ、マスクなしでも外を歩ける程度なので重症な人から見たらそんなものデビューのうちにも入らない、と言われてしまうだろう。

 まぁそんな程度なので、花見がてら散歩中なのである。


 今日は土曜日。

 ピンク色の陽だまりの中、色々な人がいる。

 ギター片手に歌を歌う人。

 犬の散歩をする人。

 かくれんぼをしている小学生。

 ベンチで本を読む人。

 占いを──て、え?

「か、香川、くん?」

「へ?」

 顔を上げた彼はまぎれもなく。

 ──愛子の所属する部署の後輩、香川壱冶くんだった。

「な、何やってるの。こんなとこで」

「何って占いですよ。小遣い程度にしか見料もらいませんけど。──あ、愛ちゃん先輩はタダで占ってあげますよ?」

 ちなみに、なぜ「愛ちゃん先輩」などというふざけた呼ばれ方なのかと言えば、うちの会社に同じ苗字の人が三名いるからである。

 長谷二号と呼ばれた時期もあったが、大体は「愛ちゃん」に落ち着いている。一号は部長、三号は営業部の後輩である。

「へー、占いとかできるんだ?」

「素人占いですけどね。何か占います?」

「ん、そりゃあたしが占ってもらうって言ったら、恋愛運でしょ?出会いよ、出会い!」

「あー……。まだ彼氏出来てなかったんすか……」

 一昨年の冬、彼氏と別れて沈んでた時期に香川くんをやけ酒につき合わせていたので、その辺の事情はご存知のはずですが。

「じゃ、カード切りますね。この中からすきなの一枚えらんでください」

 んーじゃあこれでいいかな?右から四枚目のカードをひく。

「カード見ますね。って……」

「え、なに?何か良くないこと?」

 めちゃくちゃ顔、顰めてますけど。

「大変お伝えしづらい結果ですが……芳しくないですね」

「えぇー?」

 カードを見ると塔から人が逆さに……ダメ、自殺、絶対!

「えーと、直接的な解釈だと出会いは……ないですね。それどころか、付き合ってる人いるなら別れの暗示です。今すきな人がいるならすっぱり諦めてください」

「うそっ」

 まさかの結果に呆然とする。

 いや、確かに今年はついてない。

 厄年に入ったかというようにおみくじはすべて凶。

 それに今週に入ってからは通帳まで落としてしまった。いや、それは恋愛じゃないか。

 でもまぁ、実際出会いはないなぁ。

「ほんとです。なんでよりにもよってこのカードひくかな……」

「も、もう一回やってみたり、しない?」

「はー……あんまりおすすめはしませんが、いいですよ。どうせ素人の占いですしね」

 シャッフルされたカードから今度は真ん中へんのカードをひく。

「いいですか?めくりますよ?」

「う、はい」

 今度こそ、いいカードでありますように!

「──は?」

「え?」

「……愛ちゃん先輩。だめだー。出会いは諦めましょう」

「な、なによ?」

 そう言ってこちらに見せたカードは死神。

「つまり、さっきの塔のカードと大差ないってことですよ。いやー、すごいですね!おれ、こんな立て続けに悪いカード見たの初めてです」

「結局どういうことよ?」

 もう!意味が分からないから気持ち悪いじゃない。

「恋愛的なところで解釈するとですね、別れのカードです」

「えー?さっきの塔も同じようなこと言ってなかった?」

「同じような意味合いのカードなんですよ。崩壊とか破局とか」

「なんなのよ、崩壊って……」

 うっかり意識が遠のきそうだ。

「えーと仕事運的にも、いままで積み上げてきたものがなかった事になっちゃうかもって言う解釈かなぁ」

 まて。

 恋愛運よりそっちのほうが重大じゃないか!

「いっそもう一回やっときます?」

「やる!」

 さらにシャッフルしたものをまた一枚。

「…………」

「なに。今度は何なのよ!」

 また?!またなの?

「戦車の逆位置。もう、愛ちゃん先輩なんなんですか……」

 香川くんは最早半泣きである。

「今度はなによ……?」

「現状を打開できずに前に進めない、ていうカードですよ。つまり、今日の愛ちゃん先輩のひいたカードからすると、」

 ごくり。

「出会いを求めてコンパ行きまくっても無駄です。とっとと諦めましょうっていう」

 も、もういい。

 うぅ。占いなんてしなければ良かった。

「愛ちゃん先輩。気を取り直して、お茶しに行きません?近くにケーキ屋できたんですよ。なんか、余計なことしたみたいで申し訳ないので奢ります……」

「いく、いくよ……やけ食いしてやるわー!」

 もーほんとに、何なのよ!

 さっきまでお花見気分でテンション上がってたのに!



 カランとドアベルを鳴らして店内に入り、案内された席で一息つく。

 やけに可愛いお店だけど、いかんせん先ほどの占いの結果が気になって気になって。

「愛ちゃん先輩何にします?」

「ガトーショコラ、と、コーヒーがいいな」

「はーい」

 すみませーん、と香川くんがオーダーしてくれた。

「いやー、しかし愛ちゃん先輩すっごいですねぇ。おれ、あんなに悪いカードたてつづけにひいた人見るのとか初めてっすよ」

「──うれしくない」

「まぁまぁ。一番最悪なカードひいちゃったんだから、もう底は見えてるってことでしょ?あとは上がるだけじゃないですか!」

 さんざん諦めろとか言っといて、フォロー遅いっての!

 店員さんが運んでくれたガトーショコラを一口食べ、先ほどまでのどん底の気分がちょっと浮上する。我ながらお手軽である。

「先輩それ、うまそーですね」

「ん?美味しいよ。一口食べる?」

「え、いいんですか?じゃ、遠慮なく」

 一口サイズにカットしたケーキを香川くんに差し出すと、なぜかそのまま手首を掴まれ香川くんの口に持って行かれた。あわわわわ。ヤツは能天気にもあたしのガトーショコラを心底美味しそうな顔で食べている。まてまて、後輩と言えどもキミは男の子なわけですよ。うっかりドキドキしちゃうでしょ!

「わー、これ美味いですね!次はこれにしよう」

 もぐもぐもぐ、と口を動かしながら、彼はまた例のタロットカードを出してきた。

「も、もうやんないからね?!」

「いやー、今度はおれの占うから。愛ちゃん先輩じゃないですよ。てか、先輩はもう当分占いやんなくていいですよ……」

 うん、あたしもそう思う。

 香川くんは無言でカードをきり、一枚えらんでカードをめくった。

「お」

「え?なんなの?」

 心なしか嬉しそう?

 なによ、自分だけいいカードひいたの?

「そっか。ね、愛ちゃん先輩」

 ん?なに?

「前の彼氏も新しい出会いも全部無駄です。だって、先輩の相手はそんなとこにはいないですし」

「は?」

 そういって、ひらひらと『世界の正位置』のカードを見せた。



「もう出会っちゃってるもん。先輩にはおれがいるじゃない?」



『世界の正位置』

 すべての成功を意味する最強のカード、だそうだ。

「ふたりでしあわせになりましょ?」っていい笑顔で言われたら、そりゃ落ちるでしょ。

 ──策士か!


占い実はよくわからないので、違っていても生ぬるく見守っていただけると幸いです。

そしてこっそり教えてください…。

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