なんだか落ち込んできたよ
つまらない。なんにもないんだ。
あるのは、わたしの前世の記憶だけか。
なんか、落ち込んできた。
わたし、死んだんだよね。きっと。
親の顔とか、友達の名前や顔、いろんなことがおぼろげで、思い出せていない。
いや。思い出したくないかも。
父親は、ひどい人だった気がする。母も泣いてばかりいたイメージが残っている。私は、そんな現実から逃げるためにネット小説とか読んでたんだよね。
年齢は。
女子高生......よりも大人だったような気がする。
会社名、思い出せない。勤務してないなこれ。
女子大生ってところかな。
彼氏、いたよーナイナイヨーナどうでもいいような。
命を燃やすような恋は、してなかったよ。きっと。覚えてないから。
うつむいてブツブツいっている私を訝しげに見るイケメン兄。
「おしりじゃなくて、頭うったか?」
「うん。そーかも。眠いから、また寝る。ごちそうさま。おやすみなさい」
ごはんをほとんど残したまま、立ち上がる私をやや心配そうな顔で見つめる母と兄を視界にいれつつ、とぼとぼと部屋に戻っていく私。
あーでも、前世の家庭よりずっと良い家庭に生まれたんだ私。
感謝しなきゃ。
って、
「部屋どこだっけ?」
ダイニングの扉を締めて、若干寒い廊下に出て突き当りのところでハタと思った。
戻ろうと思ったが、ドアが多くて、どれだかイマイチわからない。
家の中で道にも迷ったが、いきなり人生にも迷ったような気がする。
わたしは、死んだんだよね。
それも、気持ちのいい死に方じゃなかった気がする。
すごくダメダメだったような。
廊下に座り込んで、壁に持たれて、
両手で顔を覆いつつ考える。
手の平の体温が気持ちいい。
なんか眠い。
「メイ、何てことしてくれたんだ!?」
父が血走った目でわたしを蔑むように睨み、大声で怒鳴りながらデスクの上の物を全てなぎ落とす。
「商品代金の入力を1桁間違えたって? なぜすぐに気が付かないんだ。1日で損害が、いくらになったと思ってる!
お前が死んでも払える金額じゃないだろう。
いや、死んだらいい。死ねば、払えるか?
お前など、生きてる価値がない。害悪だ。存在しないでくれ」
「あなた、メイは、疲れている私を手伝ってくれただけ。わざとやったのではないわ」
「こんな馬鹿に頼めと俺がいつ言った?」
反論する母の顔を憎々しげに見て、手で勢いよく頭を掴み母の顔面を壁におしつける。鈍い嫌な音がして、母の口から血がでていた。
「お前の子だからこんな頭が悪いんだ。」
「まって、ママのせいじゃない。私が悪いの。」
暗いドロドロした視線が、私に向く。
「そのとおりだ。お前が悪いんだ。お前なんぞ、生きている価値がない。屑以下だ」
「あなた、やめて」
母の叫び声が響く。
父がわたしに向かってくる。
怒りに任せて、そこら中のものを蹴り倒し、事務用品が全て落ちて、コンピューターが床に勢いよく落ちてモニターが割れる音がする。
狂気が迫ってくる。
私は、父に背を向け、足をもつれさせながらドアに逃げる。
父が近づいてくる気配を背中に感じる。
ドアをあけて、階段を降りようとする瞬間、背中を強く蹴られた。
手すりにつかまる暇がなく、
眼の前に階段の角が近づくのをスローモーションで見たような気がする。
ああ、これで終われる。
こんな私、本当に価値がない。
死んだほうがいい。
もう見たくない。聞きたくない
存在したくない。
自分の声にならない叫びの中、目が覚めた。
明るい。
場所が違う。
あの父はいない。母もいない。
「メイ、大丈夫か?」
兄が心配そうに、覗き込んでくる。見慣れない
兄の顔を見る。
あぁ。あれは、違うんだ。
今じゃない。
もう終わったんだ。
現実を認識すると返事をした。
「はい。大丈夫です。
すみません。お兄様。」




