魂の続き
「まあ、ジェイくん! そんなにゆっくり息ができるようになったのね」
「うん。 息は、すごく楽になった。 天使、じゃなくて、メイ様のおかげだよ」
「それはね。 私じゃなくて、創造主のおかげよ。 私に喘息の知識があるのは、主がそうしてくれたから」
「うーん。意味がわからないけれど、創造主のおかげもあるよね。 でも、創造主なら、最初から、病気にならないようにしてくれていいんじゃないかな。 それに、お母さんも、お父さんも死ななくていいようにしてくれるはずじゃないかな」
「そうね。 その通りね。 でも、主の視点は、私たちの視点とは違うわ。 もし、みんながみんな健康で幸せなら、人の魂が成長しないから、いろんな環境を与えているのかもしれないわ。 そして、人の体や命そのものより大事なもののために、この世界を用意しているのかもしれない」
「命より大事なものなんて」
「うん。 でも生き方とか、その人の魂の成長を見ているのかもしれないわ」
「なんで、そんなこと思うのかな」
「だって、私は、人の体や、命が潰えても、魂は無くならないことを知っているから」
「なんで、知ってるなんて、断言するの?」
「んー。 言っても信じないかもしれないから言わない」
「僕信じるよ」
「そう?」
どうしようかなーと思ったけど、魂がなくならないって断言するのと前世の記憶があることを言うのはあまり変わらないかも?
「じゃあ、言うわ。 私、前世の記憶があるの。 前世の私の体は、ここにないわ。 だけど、思いやある程度の記憶は引き継いでる。 前世の私も私で、今の私も私。 同じ魂だわ。 だから、体がなくなっても魂は、なくならないって断言してるのよ」
「前世の記憶があるのは、天使だからじゃないの?」
「天使? 天使ってどこをどうすると私が天使になるのかな。 私は、ただのボケた女の子よ。 そしてこのボケは、生まれ変わっても治ってないの。 そうね。 きっと主が、前回の人生で、私がボケを悲しむだけで、全く克服しなかったから、また同じ課題が出されているのかしらね。 間違うと何回も正解するまで次に進めないようになってるドリル・・・練習問題みたいにね」
そういえば、何年もやらせてもらっていたっけ。 くもん。
あれ、満点が出ないと何回も同じプリントやらされて、嫌という程やって一回で正解ができるようになるとやっと次に進めるんだよね。
忍耐が必要だったなー。
人生も もしかしてそうなのかな。
嫌なこと、避けてても、クリアするまで、終わらないとか。
えっ、もしかして、ボケでも、できることに挑戦して、やり遂げることが必要とか?
いやいやいや。ないないない。
ボケが仕事したら、ただの迷惑だから。
皇太子妃も迷惑だし。
子供にも迷惑かかるし。
でも、今世で逃げたら、また来世はもっと酷かったりしたらどうしよう。
ブツブツ言ってた私の言葉を聞いてジェイくんが呟く。
「じゃあ、お父さんお母さんは、試練に合格したから、いなくなったかもしれないってこと?」
「わからないけど、素晴らしい方々だったんでしょう? 魂がもし永遠のものだったら、この世での経験で、十分成長して、これ以上の苦しみや試練は、必要ないと主が思って、亡くなるのを許したのかもしれないわ。 それに、この人生は、先生・・・主が手を出さないのが基本ルールの練習場で、魂の実力試験なのかもしれないわ」
「よくわからないよ」
「うーん。 私もよくわからないし、これは、単に想像よ。
でも、主は、とにかく手を出さないように見えるの。
だけど、誠実な思いで、主に心を向けると、助けてくれるようにも思えるわ」
「僕は、主に助けてもらっていない。 冷たい夜も息が苦しい時もお母さんが死んだ時も、今度だって。
神様にだって、祈ったよ。 お母さんを助けてくださいって。 だけど助けてくれなかった。 それに、今助けてくれているのは、主じゃない。 メイだけだ」
うーむ。
確かにそうね。 でも、クラウス様は、何て言ってたかしら。 うーんとうーんと。
考えているうちに、ジェイくんが初めて大きな声を上げた。
「僕、自分が創造主なら、そんなことをしない!」
暗く滲むような怒りのこもった声でそう言って、ジェイくんは、目を瞑って、布団の中に潜り込んで反対側を向いてしまった。 布団の中から、くぐもった嗚咽が聞こえてくる。
ジェイくんの辿ってきた厳しい環境と悲しみを思うと、創造主が、どうしてそんなことを許すのだろうかと思うのも当たり前だ。 呼吸も苦しく飢えて凍えた夜に、母親を求めても母親が病気で死んでいくのを手を差し伸べないのが、主だなんて、と思う。
人は、どのぐらいの試験に耐えうるというのだろうか。 そこまでのひどい経験が必要なのだろうか。
私、クラウス様にそんなの信じないとか言いながら、浮かれて、ジェイくんに工場長にわたすアイデアなんて聞いて、バカみたい。 愚かすぎるわ。
工場は、母親を死なせて、ジェイくんをこんな酷い状況にした元凶なのに。
私って、バカバカバカ。 穴があったら入りたい。 まさに、いない方がマシって、このことだわ。
ジェイくんと私がこの国を良い方に導くなんて言葉、程の良いキャッチコピーかなんかで、特に意味がないのではないだろうか。
最悪。
私って最悪。
「ジェイくん、ごめんね。 よく休んでね。 今言ったことは、忘れていいから。 ごめんなさい」
小さな声で、囁いて、私は、ジェイくんの部屋をでた。




