39話 待つ人のところへ
青空香澄VS京都のパレードボス(九尾の妖狐)です。
(ここ、どこや……?)
パレードボスである九尾の妖狐――スキル【憑依】によって、青空香澄は精神世界に閉じ込められてしまった。
見渡すも辺りは完全なる闇。
そして、戸惑う青空に何かがぶつかったような衝撃がくる。
「――かはっ!」
衝撃に耐えられず、ゴロゴロと転がったあと、体制を整え……
「くっ……ファイアウォール!」
すぐさま炎を壁を360度自分を中心に展開し、眷属にした筆で魔法陣を描く。
(何かがいるのは間違いない。でも何が?)
まさか自分の中に入っているのがパレードボスだとも、ここが精神世界ということも、【神眼】を持たない青空には把握できるはずもなく。
(――くぅっ! おもっ!)
炎の壁を容易く突破し正面から突っ込んできた何か。
(――このっ……!)
面積の少ない刀の腹で、奇跡的にも攻撃を受け止めそのまま横に薙ぎ払う。
闇で姿が見えない相手に、どうすればいいかと今までにないくらい脳をフル稼動し、対処法を考える。
が……
(あかん、さすがに思いつかん。防御に集中や。アイツがなんとかするやろ)
自分一人だけがここにいるのは、どう考えても異常事態。
そして、この事態を解決しようとする蓮を待つ青空。
しかし、パレードボスは待ってくれない。
炎の壁を突き破って青空目掛けて突進する。
(炎がダメなら……水や――ウォーターウォール)
現れた水の壁に、突進を躊躇し足を止めるパレードボス。
しめた、と思った青空だが、水の壁に穴が空き、炎の球が回避できない速度で飛んでくる。
「――ぐあっ!」
直撃しダメージが入るが、なんとか立て直す。
乙女の顔に何すんねん、と減らず口を叩ける余裕があるあたり、なんとか処理できる範囲なのだろう。
(必ず……必ず好機は来る……!)
そして、そんな青空の願いが叶ったのか、一人の声が青空の耳に聞こえる。
――青空、こっちを見ろ!
と……。
その声がした方を見る青空香澄。
――侵蝕する者よ。汝の魂、ここに消化す。
聞き慣れない呪文とともに、自分を包み込んでいた暗闇が消えた。
それと同時に、体力と魔力が徐々に回復している感覚がある。
そして目の前には、自分が爆破したはずの九尾の妖狐が……。
――青空、聞こえているかわからないが、聞こえてる前提で言うぞ。
今作戦の大将から自分へ向けて何か言葉があるらしい。
――パレードボスはかなり弱体化している。倒せるのはお前しかいない。
やはり目の前にいるのはパレードボスだと認識する。
そして、幻術にかかっていないのが確認できるところ、蓮の言う通り弱体化しているのだろう。
――今作戦の大将として命じる。お前の力で、お前が、パレードボスを倒してこい。
(お前お前うっさいわ。やるしかないんやろ?)
クリアになった視界、体力と魔力にリジェネ効果がかかった状態。
パレードボス相手に、これ以上ないほど揃っている好条件。
そして最後に、蓮のある言葉が、青空香澄を滾らせる。
――終わるまで待ってる。だから……早く、戻ってこい。
(…………ふん)
こんなにも、頼もしいことがあるだろうか。
こんなにも、安心できることがあるだろうか。
こんな時でも、嬉しいと、素直になれない自分は変なのだろうか?
昂ぶる気持ちと速くなる拍動が体温を上昇させる。
(こいつを……)
すなわち、目の前にいる敵を……。
(パレードボスを、私が倒す!)
刀を強く握り直し、青空香澄にしては珍しいと思うほど、正面から突っ込んでいく。
同時に、水属性の攻撃魔法を左側に撃ち込み、パレードボスの行動範囲を右側のみに削っていく。
魔力が常に回復しているからできる戦法。
青空はこれ以上ないほど水の弾丸を撃ち込んでいき、パレードボスを誘導する。
そして、青空の位置と、パレードボスの位置が逆になった時――パレードボスの足元が光る。
「どかんや」
氷の爆破がパレードボスを襲う。
だが、そこは魔物たちのボス、一筋縄ではいかない。
青空の攻撃を耐えきったパレードボスは、今度は自分の番と言わんばかりの攻撃を――青白い炎の球を撃ち込む。
左右前後に、魔法も使い攻撃を躱す青空。
攻撃を躱しながらも、青空香澄は考える。
どうすればこの攻撃を抜けられるか、どうすれば攻守を逆転できるか、どうすれば倒せるか。
(私に足りないのは攻撃力。一番威力の高い攻撃でも、高いダメージは与えれんかった)
そして青空香澄に、とうとう捌ききれなかった炎の球が直撃する。
「――きゃっ! くっ……ウォーターウォール!」
このまま倒れれば追撃を受けることは間違いないと判断した青空は、水の壁でいったん遮り、荒くなった息を整える。
そして考える。
弱体化しているパレードボス、自分にはない攻撃力の高い炎の球。
蓮のおかげで体力と魔力が常に回復している自分、足りないのは相手の体力を削りきる攻撃力。
思い出す、しにがみとの戦闘。
「……粉」
この瞬間、青空香澄の脳内で、勝利の方程式ができあがった。
「ウィンドウォール」
水の壁を消し、自分を中心に風の壁が渦を巻くように発動する。
パレードボスは、風の壁なら容易く破ることができると判断し、最大の炎で、最大の攻撃力で、青空香澄に突撃する。
「ぐぅ……!」
あまり使わない、武器庫に閉まってあった盾を前に構え、突進を受け止める青空。
そして、【異空間倉庫】から食事用に大量買いをしていた小麦粉を出し、風に乗せて自分とパレードボスを包み込む。
なるべく広い範囲に散るように、精神世界でもあるであろう酸素や魔素が入り込めるように。
そして……
「なんや。ボス言うても、炎はこんなもんか。ショボイなぁ」
最大限の挑発。
しかしその挑発は、数多もの魔物たちをまとめ、炎が一番の武器であるパレードボスにとっては、効果バツグンだったようで……。
――ボウンッ!!!!!
パレードボスの炎がひときわ大きくなった時、まいた火種に着火し、大規模な爆発を起こした。
どう考えても、こんな至近距離で爆発したら、パレードボスも、青空香澄も助からない。
だが、今は違う。
蓮の干渉で、弱体化しているパレードボス。
逆に、強化状態にある青空香澄。
そして極め付けは……
(もらっといてよかったわ……)
昨日の朝に、しにがみが気まぐれでくれた“キャラメル”を口に含む。
一人の友人はいつの間にか使っていて、魔物を手なづけていたようだが……。
(友人か……。未来以外にそう思ったの。たぶん初めてやわ)
帰りたい。早く、ここから出よう。
待ってくれている人たちの元へ……。
大規模な爆発が、一人と一匹を飲み込む。
パレードボスを消すように、青空香澄を還すように。
《この地区の行進ボスが撃破されました。これより魔物行進を終了します。なお、制限時間外クリアのため、報酬はでません》
○○○
パレードボス討伐終了のアナウンスが聞こえた。
どうやら、青空がやってくれたようだ。
まだ目は覚まさないか。
しばらく魔力を注ぐ。
数分後、青空の瞼がゆっくりと開いていく。
「おかえり」
「寝起きでその仮面とか。最悪やな」
なんでだよ。
可愛いだろう……。
(本当に待ってたんやな。何分くらいいたんやろ。雨やんでるし)
弱体化していたとはいえ、本当によくやったと思う。
ここは一つ、大将として褒め言葉をかけるべきか……?
例えば、里川のモノマネとか?
む〜。フォン、声の変換頼む。
「か、香澄ちゃんおつか――「疲れるわ〜! ほんますごく疲れるわ〜!」
機嫌が悪くなった。なんか逆効果だったらしい。
俺が怒られてるのか、里川が怒られてるのかわからないが……。
「はぁ〜。私は寝る。それと、最後に言うとくけど……別に居てくれたのが、嬉しかったわけやないから」
「……は? あっ、もう寝ちまった」
幸せそうな寝顔だなぁ。
こいつツンデレか?
というか、お前の心には、いつも里川がいるだろう……。
読んでくださりありがとうございます。
次の話は里川未来VS大阪のパレードボス(巨大タコ)の戦闘を書きます。
そして見守りの先生は……。




