30話 計算する尖り少女ー青空香澄ー
青空・里川と両方の話を書こうと思っていましたが、思ったより文字数が多くなったので青空香澄のみになります。
青空香澄のステータスが出てきますが、職業とスキル構成のみ記載しています。
レベルとCP・SPを計算すると最初の方とだいぶ矛盾が生じますが、そういう戦闘スタイルのキャラを書きたく、一度職業・スキルを習得する条件を無視して書きました。
スキルなどについては未決定ですので見直し・修正をする可能性があります。
青空香澄に関してですが、髪は茶髪ロングです。
とりあえず、やれるところまで進めます。
「マスター。朝だよ! 起きて起きて!」
フォンの美少女変換声で目覚めた俺は、着替えをして階段を降り洗面所に向かった。
階段を降りているとき、いい匂いが漂い、嗅覚を刺激してきたことから、今日は来てくれたらしい。
話しは戻るが、フォンにはたまに美少女声で起こすように言ってある。
以前、おっさん声で起こしにきた時はちょっとイラっときて投げそうになった。
どうせ聞くなら、可愛い声を聞いて目覚めたい……。
フォンとのふざけたやり取りを思い出しながらリビングにいくと、やっぱり先生がいた。
「一宮、台所借りてるぞ……」
全然問題ありません。
【転移】を手に入れてから、毎日……ではないが、そこそこの頻度でご飯を作りにきてくれる。
先生の第一職業は【内職者】から派生した【料理人】で、料理に色々と補正がかかったり、魔物を食べれるようにしてくれる。
【料理人】のスキルがなくても、魔物の調理はできるのだが……クソまずい。
情報雑誌によると、体内に残っている魔力が関係しているだとかなんだとか……。
「それとこれ……」
カウンターの上に置いてあった布に包まれた四角い箱を手渡ししてくる。
弁当だ。これは毎日もらっている。
まぁ、他の人にも作っているみたいだけど、それはチーム料理人の仕事なので仕方ない。
【異空間倉庫】に弁当をしまい二人で朝食を食べる。
うん……うまいな。
これからと昨日のことについて、少し先生と話しをしてみよう。
先生にきいてみた……「今日はどうするんですか?」と。
俺に短く返してきた……「いつもと同じ。違うのは場所だけ」と。
先生にきいてみた……「昨日のパーティーはどうでしたか?」と。
真顔で返してきた……「ナンパされたから逃げた」と。
その現場を見ていたから俺は苦笑いしてしまった。
先生と一緒に朝ご飯を食べるときは、いつもこんな感じだ。
俺が何かきいて、先生が答える。
あまり会話はしないが、どことなくリラックスできる不思議な感覚。
賑やかなのもいいが、こういうゆったりとした感じも、またいい……。
さてと、朝飯も食べ終わったし……
「みんな行くぞ!」
庭で遊んでいた眷属たちを呼ぶ。
「ふるふる」「きゅっ!」「きー!」「ウォン!」「カー!」「クック!」
それぞれ返事をしながら俺のところまでくる。
ちなみに、全員最終進化までいっているが、サイズ変化のスキルがあるから出会ったときの姿のままである。
眷属装備をしてしにがみの姿になり、玄関のドアを開ける。
「行ってきまーす!」
挨拶をしてから里川たちの拠点へ転移した。
現在時刻は8時30分。
みんな朝食を食べ終わり、それぞれの仕事をする。
作戦開始は12時。
俺は里川たちと最終チェックをしたあと、この地域にある謎の素材屋にでも行こうと思っている。
里川に今どこにいるのか電話で確認してもいいのだが、せっかくだから少し回ってみよう。
○○○
ザー……
と、風が流れ、木々を揺らし、緊張感が漂う空気の中、武者鎧を纏った一人の少女が居合いの構えをとり……
「すー……ふぅー……」
深呼吸をし――シャリン――チャキ……という音と共に、藁で作られた人形が斜めに切断された。
達人のような見事な切り口である。
鍛錬をしているその人物に声をかける。
「おはよう。青空香澄」
「……えぇ、おはよう。なんかよう?」
「……まず刀から手を離せ」
腰に帯刀してある刀に手をかけるなよ。
危ないじゃないか……。
年頃の女子が持つものじゃないな。
まぁ、それはしょうがないけど……それよりも何かされる前に、早く里川のところにいこう。
「ねぇ……」
いこうとしたところで青空が話しかけてきた。
俺に何か用があるらしい。
「少し、手合わせせぇへん?」
言葉を待つとまぁびっくり、美少女からの嬉しくないお誘いだった。
純粋に鍛錬のためなのか、それとも以前の腹いせに一泡吹かせてやろうとでも考えているのか、その両方か……。
しかし、青空には悪いがそのお誘いには乗りたくない。
だってお前って……超めんどうなんだもん。
――それは、昨日の午前中のこと――
シャーロットに異様に謝られたあと、とりあえず屋上に転移した。
「まさかあんなに怖がられるとは……」
「完全ニトラウマモノデシタネ」
「そうだな」とフォンに返事を返す。
俺が接しようとしても怖がられるだけだから、月野さんに任せたが、どこまで改善してくれるかなぁ……。
それよりも、結城さんに連絡して、里川のところには、あまり情報掲示板を使いたくないから直接行ってみよう。
俺のことは結城誠さんが里川・相沢のいる地域の掲示板に、『しにがみのような格好をした者』と書き込んでいるので会えばわかるだろう。
とりあえず、結城さんに連絡を……
「マスター。結城誠カラ通信ガキテイマス」
いいタイミングで向こうから連絡がきたようだ。
向こうも何かあったのだろうか。
「はい。しにがみです」
「おはよう、しにがみ君」
「おはようございます」
急いでいるような感じじゃないな……
「ごめんね。頼みがあるんだ。10日後の隣区を奪還して落ち合う作戦なんだが、トラブルが発生してね。二、三日遅らせることができないかな?」
何があったか気になるが、まだ話してはくれないだろうな。
それにこっちも都合がいい。
「大丈夫です。実はこっちもトラブルができて、これから里川未来に会いに行く予定です。彼女の力が必要でして」
「そうか……そっちも気をつけて。終わったら連絡するよ」
こちらも返事をしたあと通信をきる。
結城さんはなるべく早く終わらせようとするだろうな。
俺の方も早めに終わらせよう。
「クロ。翼を貸してくれ」(カー)
空を飛び里川未来のいる兵庫に向かう。
いま出せる最大限のスピードで空を切って進む。
兵庫に向かうまでに、変わってしまった町の景色を空中から見ることができた。
その時に抱いた感想は、素直に言えば芸術的だなと思ってしまった。
月が欠けたようにえぐれたビル。
建設中の建物が崩壊してできた石と金属の灰色の山。
綺麗に整備された道路は、建物の瓦礫が散乱しヒビが入っている。
寂れ、廃れた街並みは、以前あった面影はなく、現実だと認識しているのに、まるで絵画の世界にいるような……それが改めてこの世界を見た感想だった。
「なんだか、いい具合にこわれてるよなぁ〜。フォン。この景色、録画しておいてくれ」
「カシコマリマシタ」
しばらく空を飛んでいるとやっと目的の建物についた。
正面から入るか?
でも面倒だな。
この格好だから余計に警戒させるかもしれないし……建物が眷属化されているから直接話しかけよう。
鷲が翼を広げたような形の城、光洋瓦で作られた屋根の上に降り立つ。
「初めましてしにがみと言います。結城誠・相沢駆・里川未来と同じだ。とある要件で、里川未来に面会を希望する。どうすればいい?」
ここで俺は、一つの間違いを犯した。
セリフではない。行動だ。
言葉を言い終わったあと、敵対するつもりがない証明として【気配隠蔽】を解き、きょろきょろと辺りを見回した俺は、少し離れた所にいた少女と窓越しに目があう。
木で作られていた窓を開けて、着替えをしていた少女と……。
バタンッ!!!
勢いよく木の扉を閉めた。
体の成長具合から推測して俺と近い歳だろう。
スゴイ眼光だったよなぁ……。
「フォン」
「ナンデスカマスター?」
「やばいよな」
「大丈夫デショウ。コレクライデ同盟ニ支障ガ出ルコトハアリマセン」
まぁ確かに、これくらいで支障が出るものでもないだろう。
しかし俺が言っているのはそういうことではない。
まぁ、着替え中のところを見られても大丈夫という心の強い奴ならば何も問題は――その時、複数の風の刃が俺に向かって飛んできた。
「問題ないわけがないよな!」
大鎌を振って叩き落とす。
目の前には、先ほど着替え中だった少女が鎧を身に着けていた。
戦国時代の武将のようだ。
「すまん。不可抗力だ。冷静に話し合おう」
「理屈よりも感情が優先されることもあるんやで!」
そう言って腰に帯刀してある刀を抜刀して切りかかってくる少女。
右に、斜めに繰り出される刀をさがりながら躱していく。
「ちょっと待て。里川に面会にきた。俺もユニークスキル持ちだ」
刀を避けながら言葉を口にするが……
「さよか。でも私には確認する方法がないねん。大人しく罰されとき。それにあんたが未来と同じゆーなら私より強いんやろ!」
言葉を言い終わると共に至近距離で円月型の物を一つ、俺に向かって投げてきた。
あまりに距離が近かったので落とすことができない。
あとで戻ってくる刃に気をつけなければ……。
それよりも気になったのが、この少女、青空香澄のスキル構成だ。
名前:青空香澄 年齢:16 レベル:62
第一職業:陣使いLV5(固定)
第二職業:眷属支援者LV4
第三職業:道具使いLV3
第四職業:武具使いLV4
スキル:【使役者スキル】【眷属支援者スキル】【道具使いスキル】【魔法使いスキル】【陣使いスキル】【武具使いスキル】【肉体強化LV6】【精神強化LV5】【並列思考LV5】【高速思考LV5】【火魔法LV3】【風魔法LV3】【水魔法LV4】【異空間倉庫LV4】
【武具使い】
開放条件――意思を持たない殺傷力のある物を眷属化する。
例:刀、ナイフ、ムチ、チャクラム、鎌。
職業スキル
【武器庫】【武具操作】【武具融合】
【道具使い】
開放条件――意思を持たない殺傷力のない・少ない物を眷属化する。
例:筆、スパナ、クワ、メス。
職業スキル
【道具箱】【道具操作】
【陣使い】
開放条件――【魔法使い】の上位職業。
他【賢者】【精霊使い】。
魔法陣の大きさ=範囲。込めた魔力量=威力。
職業スキル
【魔法陣作成】【使用魔力減少】【速描き】
戦闘スタイルとしては、道具や陣を使って多方面からの攻撃を得意とするトリッキーなスタイル。
本人も含め色々と気をつけなければならない。
この不安定な場所で休むことなく俺に切りかかってこれるということは本人の運動神経も良いのだろう。
「謝るから許してくれ」
「ノーや。いっぺん痛いめにあっとき!」
めんどくせぇ……。
刀を折って戦意を喪失させる。
と作戦を立てたが、左・右後ろ・右の三方向から円型の刃――チャクラムが迫っていた。
(一つじゃなかったのか⁉︎)
正面には俺と鍔迫り合いをしている青空香澄。
逃げ道は左後ろにしかなく、ステップを踏みながら瞬時にその場から離れる。
「もらいや!」
「なっ⁉︎」
俺との距離が離れると同時に、刀をムチのようにして右上から左下に振り下ろしてくる。
でも――もらったのは俺の方だ。
ムチの形態にしたのが悪手だったな。
俺は左斜め前の方に回避し、同時に距離を詰める。
少し気絶くらいはしてもらおう。
「先に謝っておく。すまんな」
「しまっ⁉︎」
攻撃が当たらず、俺に距離を詰められたのが分かると、失言を発して後ろに跳んで距離をとった。
「――なんてなぁ」
あと一歩――踏み込みと同時に鎌を振ろうと右足を出すと……。
――手のひらの大きさ程の魔法陣が足元で光った。
(こいつ。俺との戦闘中に自分の体で隠して眷属に魔法陣を描かせてやがったな)
あの失態の表情と行動もフェイクかよ。
「爆ぜぇや」
ボウンッ!!!!!
派手な音と共に爆炎が上がった。
威力がかなりあったことから、込めた魔力量は相当なものだろう。
まったく……
(ま、このくらいで許したるわ。ほんまに未来と同じならかすり傷程度やろ。あっ、でもスキルにもよるか)
……初めからこうすればよかった。
「……ん? なんやこれ、黒い粉?――はっ! ウィンドウォ……っ!」
急に力が入らなくなった青空は、ゴロゴロと屋根を転がりそのまま宙に放り出される。
(空に……でも影なんてなかったやん)
このまま落ちると確実に死亡なので降下し抱える。
いわゆるお姫様抱っこの形になるのだが、仕方ない。
「俺の勝ちだ。見たのは悪かったが許せ」
ギロッ
その眼をやめろよ。
言葉も発せないからって呪い殺す気か……。
「おーい! 香澄ちゃーん! 無事ー?」
こちらに手を振りながら一人の少女が走ってくる。
どうやら彼女が里川未来のようだ。
後ろからは担架を持った人たちもついてきている。
「途中から観とったけど、おもろかったでぇ」
途中から観てたのなら止めてくれ。
戦力の確認もしてたんだろうけど……。
「初めまして。『しにがみ』と呼んでくれ。仮面をつけているのはこういう性格だから、気にしないでくれ」
軽く自己紹介をしたあと青空香澄を担架に乗せる。
終始悔しそうな顔をしていたな。
まぁ、あと30分ほどで動けるようになるはずだ。
「初めましてやね。里川未来や! 事情はわかってるから安心せぇや。よろしゅうな、しにがみはん!」
先ほどの物騒な挨拶を交わしてきた茶髪ロングのハイスペック少女と違い、元気な挨拶をしてきた黒髪短髪の、活発なスポーツ系だと思わせる少女。
これが、俺と青空、里川の最初の出会いである。
――現在――
目の前で手に刀をかけながら俺の返答を待つ青空。
「里川はどこにいる?」
とりあえず場所を聞いておこう。
「応えたら相手してくれるんか?」
「予定があるんだ。早くしろ」
そう予定があるのだ。予定が……。
「たぶん近くの神社にいるで。あの子の習慣やから」
「そうか。じゃあ……」
お互いに距離をとって構える。
うん。ちょっと心は痛むが、こいつがムキになっていてよかった。
ザー…………風が吹き終わると――
「ふっ!」
横一文字に攻撃してくる青空の斬撃を飛んで躱す。
(また空か……しかもやっぱり影ないねんな。しゃあない)
目を閉じて意識を集中する青空。
しばらくそのままでいてもらおう。
はぁー……誰が三つ以上の武器と道具を同時に使い、陣と演技を巧みに使う奴と好んで闘うか。
予定があるのだ。
“やる”とは一言も言ってない。
さてと、里川のいる神社に向かうか。
習慣とやらも気になるし……。
○○○
「青空さん。何やってんのやろ?」
「いつもの訓練ちゃうん?」
ずっと動かない青空を見つけた人たちは、彼女のいつもの訓練だと認識していた。
(ん……まだか。せっかく対策考えとったのにあの黒い粉は無しか……)
とうの本人は、しばらく蓮からのアクションをずっと待っているのだった。
読んでくださりありがとうございます。
次回の更新は8日です。
設定もストーリーもしっかりしている作家さんたちはすごいなぁと、改めて思いました。
蓮が空を飛んでいるとき影がないのと、黒い粉はクロのスキルです。他のメンバーも最終進化までいっていると記載しましたが、大体がキング○○(暫定)とかなのでどのように活躍させるかも含めて塾考中です。
クロだけはもう決定しています。あとはスキルの名前と効果ですね。
お付き合いいただきありがとうございます。




