29話 神眼を持つ者たち
初めて地名を明確に記載しました。
それと、一度設定などいろいろ見直しが必要かな?とも思っています。
方弁・方言、気になりましたら感想欄の方に残してくれる嬉しいです。
“……おまえの……お前の魂‼︎……いただくぞ”
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
カーテンで仕切られたある一室のベッドで、バッと勢いよく悲鳴を上げながら少女が起き上がった。
「ハァ……ハァ……」
荒くなった息を整えながら、顎から冷や汗の雫を落としながら考える。
(あれは悪魔か死神だ。黙って不法入国した私を殺しにきたんだ〜)
早く逃げないと、と思い【転移】を使えることも忘れて、部屋から出るためにベッドから降りようとすると部屋のカーテンが静かに開いた。
びくっ‼︎
と体が震えたが、少女が見たのは、自分と同じ歳くらいの黒髪の女の子だった。
「私は月野明梨。初めまして。気分は……凄い悲鳴だったけど大丈夫?」
日本語で話しかける月野明梨。
『適合』により、言葉が共通で通じることに、昨日のやり取りで蓮が気づいたのだ。
(ひ、人! な、何か言わないと……向こうは自己紹介してくれたのに……私も名前)
この少女……
「ゎ…………ボソボソ」
この少女、『シャーロット・ウィルソン』は、極度の人見知りであった。
思っていることはたくさんあるのだが、うまく言葉にすることができない性格である。
「え〜と」と戸惑う月野明梨。
シャーロットは、また上手く喋れなかったと落ち込んだ。
今もだが、幼少期の頃から同世代の子たちとコミュニケーションが取れなく、友達と呼べる子はいなかった。
せっかく夢だった日本に来れたのに……また同じ失敗をするのかと思っていた。
「シャーロット・ウィルソンだ。そうだな?」
不意に現れたうさぎの仮面と聞こえた声に、驚く月野明梨と怯えるシャーロット。
シャーロットに至っては、青い顔になってごめんなさいを連呼している。
ため息をついた蓮は、月野明梨に「頼むぞ」と言ったあと、シャーロットの大事な物である写真を渡してどこかに転移した。
○○○
夕刻。
空がオレンジに染まる、日が沈みかけの頃。
俺は10人の選抜者と共に里川未来の拠点に来ていた。
「えー、まーなんやー。ようこそ、とでもゆーとこーかー……二回目やけどな……」
若干、微妙な表情で、戸惑いながら挨拶をする頭にオレンジ色のスライムを乗せた少女、里川未来。
里川の側には、彼女の親友である同じ歳の無駄にハイスペックな女の子、『青空香澄』が俺を睨んでいる。
午前中のできごとをまだ根に持っているようだ。
不可抗力だったのに……。
「あぁ、しばらく世話になる」
頷きながら挨拶を返す。
しばらくといっても、タイムリミットは10日だ。
実は10日後に、結城誠さん率いる勇者軍団と向こうの隣区とこっちの隣区を同時進行して落ち合おうという計画を立てていたのだ。
まぁ、今回は俺も向こうもトラブルが重なったので、計画ができるかどうかわからないが……。
「それでどの子や? 確かうちと同い年なんやろ?」
日の光を遮るように手をおでこに当てるポーズをしながら、里川未来は10人しかいない俺たちのグループを見渡す。
というか、観てる。
「あれ? いないんか? 観光の子」
何かあったか? といった感じの顔を向けてくる。
あったと言えばあった。無いと言えば無い。
そんな感じの薄っぺらいできごとがあった。
電話をかけようか迷ったが、なんだか嬉しそうな声が表から聞こえてきたのでやめた。
「来たみたいだぞ」
俺たちと同じように、玄関から入ってきた少女は、先生と月野さんに手を繋いでもらっている。
キョロキョロと内装を見渡しながら微笑み目を輝かせている。
シャーロットが目の前にくる前に、俺は後ろを向いた。
「何してるん?」
後ろを向いた俺に疑問を持ったのか、里川未来が聞いてくる。
「あの子。俺がトラウマになったらしい」
正確にはこの仮面がだが……まったくモモの可愛さを理解できないとは困った子だ。
「そらしゃーないわ……」
なぜか納得している里川。
俺なんかよりも怖いものたくさんあるだろうに……。
と、そんなことを思っているうちに、俺たちの目の前まできたシャーロット。
「…………ボソボソ」
「『シャーロット・ウィルソンです。日本に来るのが夢でした。よろしくお願いします』と言っています」
いま喋ったのは月野さんだ。
俺は【聴覚強化】があるので問題なく聞こえているが、持ってない人は聞こえないだろう。
そして月野さんだが、シャーロットの言葉を聞くために【聴覚強化】を習得したという、何とも優しい、彼女らしい行動だ。
「うん。歓迎するで! ちゅーわけで、今夜はパーティーや!」
里川の言葉で、歓迎パーティーが始まった。
夕食を食べるには少し早いが、メニューがお好み焼きやたこ焼きといった炭水化物なので腹にはたまるだろう。
俺も焼けたのを取って食べていく。
シャーロットは人見知りなので、月野さんや島田さん、あと、ここの同じ歳くらいの人たちが相手をしている。男の相手はまだ無理なようだ。
先生は……あれ? なんかナンパされてね?
あっ先生がどこかに行った。男ががっくりしてる。
なんかスッキリしたなぁ〜。
「せや! しにがみはん。食事終わったら、会議室にきてや。明日からの作戦の詳細決めるでー」
「あっつ、あっつ」と言いながら、お好み焼きを口に入れながら喋りかけてくる里川と、相変わらず睨んでくる青空。
いいかげん収まってくれないかなぁ〜。
「了解した」
ここ里川未来の集団も、結構な粒ぞろいだ。
しにがみ軍団は、俺を中心としたグループ、勇者軍団は全員のレベルがほぼ同じで集団行動の得意なグループ。
そしてここは、ユニークスキル【超天才】の里川未来が率いる頭脳集団で、『里川・青空の天才将軍コンビ』と『竹中文雄さん』という52歳の叔父さんが、後方で戦術を考えるのが得意などこかの天才将軍のような人がいるヤバイグループ。
このグループと戦争をした場合、手のひらで踊らされる光景が目に浮かぶ。
里川が変な思考を持つ奴じゃなくてよかった。
まぁ、ユニークスキルに関する一つの仮説はあるが、これはわからないしな。
でも、完全な的外れというわけでもないだろう。
明確にわかるのはいつごろか……。
そして食事が終わり、俺は中村樹也、月野明梨、シャーロットと共に会議室にきた。
月野さんがいるのは通訳だ。
俺たち男や初めて会う人と話をするための……。
今も中村さんが月野さんを通して会話を成立させている。
それと、俺のことも話してくれているようで、徐々に怯えている感じが無くなってきているように感じる。
指定された会議室の前に到着し、扉を叩く。
里川が返事を返したので入ると、中には里川未来、青空香澄、竹中文雄さん、それと忍者6人の集団がいた。
刺客とかはいないようだ。
まぁ協力関係を築きたいのに刺客を配置するのは悪手だしな。普通はやらん。
里川に席に座ってくれと促されたので席に着くと、まず自己紹介が始まった。
「知ってると思うけど、うちが里川未来や。そんでこっちが香澄ちゃん、竹中さん。あと、うちらの諜報部隊の忍者たちや」
職業が忍者というわけではなく、スキル構成や装備で忍者っぽい者になっているようだ。
ちなみに、職業【冒険者】がレベル10になると、上級職として
【陸賊】【空賊】【海賊】
とフィールド特化型の職業になる。
里川の忍者集団は、全員【陸賊】のようだ。
まぁ、壁や天井、水上を走行できるスキルがあるから足がつく場所なら便利な職業だ。
俺はまだ設定していない。
クロやナップル、ベリーがいるから陸・空は必要ないし、するなら【海賊】かなと思っているが、何があるかわからないから保留中。モグラは水泳得意って何かで聞いたし……。
そして、俺から順番に自己紹介をし、シャーロットの番が回ってきた。
やっぱり月野さんが喋るようだ。
「えっ、それ言っていいの? ……もう知ってる? 隠していても意味がないし、戦力になるから言ってほしい? わかった」
そう。俺と里川未来には、シャーロットがどのくらいのステータスで何のスキルを持っているのかわかっている。
ちなみに、俺は本名もステータスもスキルも誰にもバレていない。
本当は【神眼】持ちにはバレる覚悟で、最初に結城誠に接触したのだが……まさか【情報屋】のスキル【情報操作】が欺くと思わなかった。
俺のステータスが全体的に上だったからなのか……でも【気配隠蔽】は見破られたけどな。
わからん……。
「シャーロット・ウィルソン。15歳。カナダから来ました。ユニークスキルは【蒼龍】。よろしくお願いします」
月野さんの声に合わせて席を立って頭を下げるシャーロット。
蒼龍か……あと三つもあるんだろうな。
蒼龍と聞いて、里川未来があと三人がどんな人物か予想してるな。
「朱雀は小麦肌のイケメン希望」とか言って青空香澄に話を進めろと突っ込まれてるし……。
数時間後、会議は無事に終了した。
明日から9日間、京都、そして大阪を奪還することが決まった。
京都と大阪の現状とそこにいる、もしくはいた人たちは……
「……あの」
「……ん?」
会議室を出ると、シャーロットが月野さんを伴って、弱い声で喋りかけてきた。
まだ慣れないか……でもまぁ、元からの性格っぽいし、一日でもこれだけ進歩すれば凄い方だな。
「……………………」
長い沈黙が流れる。
他の人たちは寝床や拠点内を、里川や竹中さんに案内されてどこかに行ってしまった。
青空は少し離れたところから、たぶん二人を待っている。
「……ありがとう」
……くそっ。
さっきまで怯えてたくせになんか可愛いな……。
というか、なんかどこかであったような展開だな。
行動する前にお礼を言われるって……。
俺はあれか? そういう運命?
まぁでも、それも悪くないか……。
それに遅かれ早かれいつか奪還はするんだ。
今回のきっかけを作ったのはシャーロットだしな。
でも、なんて言おうか……「こちらこそ」……う〜ん、頭に『?』が浮かびそうだな。
結局、迷って出た言葉は……
「その言葉。作戦が終わったあとに、もう一度聞かせてくれ」
じゃあな。
と、手を上げながら振り向いて、その場を転移した。
転移する直前、元気に「うん!」と聞こえたような気がした。
○○○
「あっはははは。それ、ほんまか〜。しにがみはんもおもろいとこあんねんな〜」
その夜。
里川の拠点の一室では、蓮のことについて語られていた。
いわゆる女子トークのネタにされていた。
ここにいるのは里川未来、青空香澄、月野明梨、島田彩香、シャーロットの五人である。
それは、自分たちのところでのしにがみの評判であったり、女子トイレ付近に地中から出てきたり、たまに変なボケをかましたり、地面から出てきたとき、体についていた虫のせいで子供たちに嫌われたり……などなど、そんな内容の会話が続いた。
ちなみに、今はトランプでババ抜きをしていたりする。
「あ〜……シャーロットちゃん。顔に出すぎ〜」
ジョーカーを持っているのはシャーロットのようだ。
【超天才】のユニークスキルを持つ里川とは……天才でなくても、分かりやすい表情をするらしい。
「それよりも、あの仮面はどうにかならへんの?」
里川のカードを引きながら、少し高い綺麗な声で青空香澄が言う。
余程今日の午前中にあったことが嫌だったようだ。
いつか素顔を拝んでやるとも思っていたりする。
そろったカードを捨てる。
「もともと人前に出るのが苦手な人みたい。それよりも青空さん。しにがみさんと何かあったの?」
ちょっと強めに発言したような気もしたので確認のためにそう聞く島田彩香。
(どうせまた何かの事故なんだろうなぁ)と思いながら青空のカードを引く島田彩香。
その発言に乗るように里川未来が発言する。
「まぁまぁ香澄ちゃん。あれは事故だって言うたやろ。減るもんやないんやし、大目に見たらええんちゃう?」
「何をされたんですか?」
島田彩香のカードを引きながら月野明梨が聞く。
「うん? それはな〜「ミク」……何でもないねん」
里川未来が言おうとしたが、青空香澄が止めに入った。
(いや〜香澄ちゃんがこない男に敵対心見せるとぉ珍しい……初めてやないかなぁ。でも、しにがみはんはあの先生見とったよねぇ。う〜ん、でも香澄ちゃんもスタイルよくておっぱい大きいし〜)
と、里川は親友のことを想っていた。
的外れの見解かもしれないが、小さい頃から他人に興味を示さなかった親友が、出会いはあれだが一人の男にあんなにムキになっているのが珍しいのだろう。
シャーロットが月野明梨のカードを引く。
ペアが揃い、二枚捨てる。
そしてシャーロットは持ち札をシャッフルし、下に向けて里川の前に出す。
ババ抜きのルールでやっていいのかわからないが、それをツッコむ者はここにはいなかった。
「う〜ん……「神眼はダメよ」……わかっとうねん! ……これや!」
青空香澄からツッコミが入り、運任せで一枚のカードを引く。
シャーロットは残ったカードを見て、表情が緩んでいる。
もう全員が確信していた。
(((あっ、ジョーカー引いたな)))
と……。
そこから勝負は急展開を迎える。
青空が里川のカードを引いて残り一枚になり、島田彩香に引かせ、島田彩香も一枚になり月野明梨が引き、月野明梨の一枚をシャーロットが引き……
「ウチがビリやねん!」
悔しそうな表情をして落胆する里川未来。
「こうなったら……明梨ちゃんのおっぱい! 香澄ちゃんとどっちが上か、確かめさせてもらうわー!」
「「「えぇっ!」」」
何がこうなったらなのか、さっぱりわからないが、里川未来による身体測定が始まり……
「なんで……なんでウチは育たんのやぁぁぁあああ!」
あとで自分が一番ダメージを受けたのだった。
読んでくださりありがとうございます。
次回の更新は2月1日です。
それとちょっとした裏話と次回予告です。
最初、ユニークスキル【超天才】は青空香澄にしようかと思っていました。でも天才の設定で超天才にしてもなぁ〜と思ったので新キャラ考えました。あと京都と大阪の現状を書こうと思ったのですが、突入直前に変更してあの形になりました。
シャーロットは最初はアメリカでしたがカナダに変更したんです。アメリカで書いてみたいキャラができてしまったので……。そのキャラの公開は次の章の最後あたりで公開です。
次話では青空香澄と蓮の出会い。それと里川未来の秘密やちょっとした決意的なものを軸に書いていく予定です。
あとは……作者のこの作品のちょっとした悩みですね。ここで言っておきます。
・キャラが多くなりすぎてしまう。
・キャラの被りが多くなってしまう。
・魔物と人類のパワーバランスが上手くとれない。
まだいろいろとありますが、こんなところですねぇ。
それでも楽しみに読んでくださっている皆さまありがとうございます。




