28話 来客?
少しばかり雲が浮かぶ昼下がりの空の下、寂れた町を勢いよく駆ける集団がいた。
その集団の者たちは全員、剣や槍、弓矢、盾を装備し、皮の鎧や鉄の籠手、丈夫なブーツを身にまとっている。
「明梨! そっちに行ったよ!」
「任せて!」
ある者たちは連携し……
「魔法部隊、撃てー!」
「「「「ファイアブレット!!!!」」」」
ある者たちは中村樹也の合図で火の弾丸をいっせいに放ち……
「おらぁぁぁ!」
赤茶髮の元不良は一人で格闘し……
「……覚醒……瞬足……………………end」
《この地区の行進ボスが撃破されました。これより、魔物行進を終了します。なお、制限時間外のクリアのため、報酬はでません》
ある者は、眷属を纏い元凶を屠りに……
「あんたたち、あとは残党だけだよ! 暴れな! あと弥生ちゃん。バカは頼んだよ」
「任せてください」
頭の中にアナウンスが響いたことで、心に余裕ができ加速する討伐。
ププー!
車のクラクションが鳴り、全部で五台の改造バスが到着した。
「補給部隊及び帰還車、到着。負傷者と調子が悪い者から預かるぜ」
頭にタオルを巻いた筋肉質な男が、運転席の窓から顔を出してそう言った。
といっても、今はまだ残党殲滅中なので、ここにはきていないのだが……。
「……ん?」「気配……」
朝倉玲奈と春野弥生が、魔物の気配を感じ取った。
後ろの帰還車に迫っている。
すぐに向かおうと、足を出す二人であったが、数歩足を動かしたとたん、気配が消えた。
とりあえず、その方向を見てみると、両手に包丁を持った、胸の大きな女性が微笑みながら立っていた。
「あの人、強いな。補給部隊のリーダーとは思えないよ。確か弥生ちゃんの先生だっけ?」
「隣のクラスの先生でした。でも……」
あんなに表情変える人だっけ?と、不思議に思った春野弥生。
そして、携帯を持っている者たちに、名倉武から連絡が入る。
『こちら司令本部。上空から見たところ、動いている魔物の姿はない。ご苦労。魔物を回収後、全員帰還せよ』
残党討伐終了の知らせが入った。
その知らせに背伸びをする者もいれば、肩の力を抜いて猫背になる者もいる。
「よかった、よかった〜」と安心の声をあげ、「今日はパーティーだな」と夕食を楽しみにする者もいる。
そして、討伐隊の者たちが安心し帰還車に向かう中、一人の少年が魔物の山の前にいた。
「なぁフォン」
「何デスカマスター?」
少年の声には、若干の落胆が混じっているような気がする。
そして、そんな主人の声に、慣れているように返事をする機械の声。
「これって、食えるのか? というか、食うのか?」
「コレヲ主食ニシテイル所モアルヨウデスヨ。ソレニ、イナゴノ佃煮ナドハ昔カラアルジャナイデスカ」
蓮たちの目の前にあるのは、昆虫型の魔物。
正直に言って、かなり気持ち悪いと思う蓮。同時に、悪戯心が湧いてきて、誰かに見せてみようかな?とも思っていた。
(まぁ、今回のパレードボスは大きなカブトムシのような魔物だったので、素材は期待してもいいだろう……きっと我が組織の総合防御力を底上げしてくれるはずだ)
パレードボスはそれなりに堅かったので良い素材になるだろう。
ちなみに、“それなり”というのは蓮のステータスだからである。
実際は一撃で仕留められるモノではなく、傷をつけながら倒すので素材の価値も下がるのだが……。
「とりあえず、持って帰るか……」
異空間倉庫にしまったあと、蓮は転移でショッピングモールの屋上へ帰還した。
○○○
隣区の討伐が終わったあと、幹部メンバーは夕食ができるまでの間、会議室で今回の報告をする。
それには俺も参加しなければならない。
そこで問題に上がったのは……
「純粋に困った。としか言いようがないですね」
報告を聞いて、半田さんがそう言った。
それに答えたのは名倉さんだ。
「まぁわからなくもないが……それならもっと方針をまとめておいてほしかったなぁ」
「まったくです。さすがの僕もカチンときました」
珍しく、温厚な中村樹也さんまでもがちょい怒である。
それは生存者たちとの話し合いでのことだ。
曰く、ユニークスキル持ちの奴らとは組みたくない。
曰く、救助依頼を出したのは全体の総意ではなく、一部なので手は組まない。
曰く、一部の魔物を置いていけ。
最後のやつは、厚かましくも、パレードボスを指定してきたので、殺気をとばし、力の差を見せつけてやった。
「それで、やっぱりそういったところとは、あっちの方向でいくんですか?」
朝倉玲奈が質問に「そうする」と答えた名倉さん。反対意見は特に出なかった。
まぁ、俺たちだってこういったことが予想できないわけじゃない。
こういった事態に備えて、あらかじめプランを決めてある。
あっちの方向というのは、簡単に言うと積極的に関わらない方向ということだ。
ただ、今回は一部救助を求めていたので、掲示板に書き込みをして、ここに来た人たちだけは保護することに決めた。
場所を晒すのは危険だが、隠しようが無いからな。
晒したうえで、どう対処するかだ……まぁ、もし過剰行動を取るようであれば……。
「マスターたち〜。ご飯ができたみたいだし〜。とりま終われば〜」
夕食ができたと、ホープが教えてくれたので、みんな席を立ちフードコートに移動する。
「今日は酒だー!」
部屋を出ながら玲奈さんが飲み放題だー!と声を上げる。
スキルの影響もあって、酔いというものが軽くなっている人もいる。
まぁ、呑めるのが嬉しいのだろう。
自分の稼ぎで毎日缶一本は飲んでいるのをよく見かけるが……
「朝倉君。君、この前吐いたから今日は5本までね」
と名倉さんが言うが、5本でも結構な量だと思う。
何mlの缶だ?
一リットル以上の瓶や紙パックじゃないよな?
今日の夕食だが、普通に買ってきた肉で焼肉パーティーとなった。
目標を決めてから一週間。
色々とあった。
軽く言うと、結城誠率いる勇者軍団と同盟の協定に成功、及び次回の魔物行進までに、日本にいるユニークスキル持ちの会合決定。
現在確認できているのは俺を含めて4人。
「はい、しにがみさん。焼けた肉置いておくよ」
そうそう、結城誠さんだが、あの人マジ勇者だ。
個人情報の開示をあえてやったり、神眼を持っていないときに夜でも狼の群れに一人で飛び込んだり、紛れ込んでいた快楽殺人鬼から女性を守ってけじめをつけていたり……正直に言って凄いと思った。
「こっちも焼けてる。明梨は? 翔太君、ひかりちゃんは? 私もいらないからーじゃあ、しにがみさんに……」
そして、小型ダンジョン、中型ダンジョンの優先攻略。
俺たちは、3日前に内藤病院のある地域にできた中型ダンジョンを攻略。
橋の下というわかりづらい場所にあったので探すのに2日もかかった。
ボス部屋には20人まで入ることができ、レベルの上位20名を参加させた。
攻略者それぞれにボーナスとして1SP・CPが贈られた。
ボスは鉄のゴーレムだったが、そこまで強くなくボス部屋に行くまでが少し苦労した。
ちなみに、今回は白髪の女は見えなかった。
それと、春野弥生がボス部屋に入れなかったり、タゲが取れない現象が起きたが、何もできないのでそのままとなっている。
そしてダンジョンボス討伐最優秀者には、【転移】のスキルが贈られた。
実験的な狙いもあったので、俺はサポートに専念していた。
ひょいっ
「弥生の姉ちゃん。焦げた肉はダメだよ」
「くふふ。いやー流れ的になんかねー」
なので、誰かに贈られたのだが、誰に贈られたか……それはもちろん、俺を除いてここでは最強である汐田先生だ。
一週間前にレベルが80になっていた。
今日の作戦でさらに上がったことだろう。
「サラダのお代わりもありますよー」
「鈴さん。しにがみにも追加してあげてください」
「はい、明梨さん」
あとは、しにがみのことと、反ユニークスキル組織ができてしまっていることだ。
まぁ、俺についてはご想像の通り、大丈夫かこいつ? 的なやつだ。
それも、ホープにいる人たちが言っていたり、書いていたりする。
決して悪い人たちではないのだ。
俺の性格もある程度知っていれば、苦労していることも知っている。
ただ……うん……ただ……最近では、しにがみの時の俺を見つけると、話しかけてくれる人が増えた。
余計に正体がバレるわけにはいかなくなった。
「しにがみのお兄ちゃん。これもあげる」
「ひかり。それは自分で食べなさい。大きくなれないよー」
もう一つは、日本だけじゃなく、世界共通みたいなので、何とも言えない。
組織のようだが、組織じゃないのだ。
普通に掲示板使って情報交換してるし……。
いちおう対処法は結城さんと話し合っているが、しばらくは静観になるだろう。
ユニークスキル持ちを殺せば、そのスキルが得られるというデマも流れているようだ。
それとユニークスキル持ちは、本名と居場所が普通に晒されている。
まぁ、晒した人の名前もわかるので何とも言えないのだが……。
もちろん、一宮蓮の名はまだ掴まれてないぞ。
まぁ、今はこんなところか……。
だから……
「肉の追加。持ってきたぞ」
「先生ありがとー! しにがみさん。どのお肉焼く?」
だから……月野さん。
食事の時くらい、自分を優先していいんだよ?
これ、仮面だからね?
パーティーの間、終始俺のことを満面の笑みで気にかける月野さんであった。
○○○
バサッ……バサッ……
その夜、音を立てながら、星が光る空の下を背中からはやした青い翼を羽ばたかせて飛ぶアッシュブロンドの髪色の少女がいた。
(もうすぐ! もうすぐで、日本だ!)
翼を羽ばたかせながら、手にもっている写真を見て速度を上げる。
下降し雲を抜けると、所々に光のついた建物を見つけた。
(本当は苦手だけど、大丈夫! 勇気を出せ私!)
明かりのついている建物の中でも、一番光を放っている建物の屋上に降り立つ。
この時、時間は20時55分。
あるグループの、消灯時間五分前……。
(とーうちゃーく! あとは、詳しい方向を聞いて、飛んでいけば――ス、ピト――い、いよねぇぇえええええ!)
バッ
と勢いよく両手をとっさに上にあげる少女。
それもそうだろう。
自分の首に添えられているのは、月の明かりによって妖しく光る大鎌の刃。
「ア、アイムロスト」
早口で「迷子です」そう言った少女。
バクンバクンバクンバクンバクン
と休む間も無く動き続ける心臓。
(ま、まだ死にたくない。助けてぇ〜)
そう懇願する少女に聞こえた言葉は……
「あーすみません。空からの訪問って初めてで、こんなことになっているので、警戒が強いのです」
たしかにそうだ。今回はこんな時間にきた自分が悪い。それも空からだ。警戒されるのは当然だ。
と反省をする少女。
「敵意がないのはわかりました」
ここから急に攻撃行動に移っても止められる、という確かな自信を持っている少年。
そして、首に添えられた大鎌が離れる。
ホッと胸を撫で下ろし、手を下げる少女。
心臓の鼓動も収まってきている。
しかし、少女が安心できたのも、一瞬だった。
「よろしければ……」
少年が話し始めると同時に、少女は振り向き……
「詳しい話を……」
月を背にし……
「聞いてもいいですか?」
……ニヤ
トクン…………バタンッ‼︎
月を背にし、大鎌を肩に担いで笑ううさぎの仮面に、死を覚悟しながら……気を失った。
「あれ? ちょっと……」
俺は目の前で倒れた少女の肩を力強く叩き、ゆさゆさと激しく揺する。
ちょっと脅しが強すぎたか?
でも、しょうがない……よな?
まぁ、そんなことよりもまずは先に……「誰か担架ー!」と言おうとして……
『医療は〜ん。マスターが女の子気絶させちゃったから〜早く担架持ってくるし〜』
ホープがアナウンスをしてくれたようだ。
そう。丁寧にアナウンスを……。
「ホープ。言い方、気をつけて」
俺のつぶやきは、ちゃんと届いただろうか?
そんなことを考えながら、医療班の人たちが担架で少女を運ぶのを、気配を消して見ているのだった。
誤解は、というか、全員なんとなくわかってくれているようで、解くまでもなかった。
「……ん?」
少女が運ばれたあと、一枚の紙が落ちていた。
あの少女の落とし物だろう。
「これって……」
その紙は写真で、綺麗な紅葉と共にある建物が写っていた。
飛び降りの舞台としても知られ、その年の漢字を書く寺院。
「ふぅー……調べておくか」
結城さんに連絡もしておこう。
それと……ここなら、あいつがいいな。
読んでくださりありがとうございます。
次回の更新は25日です。




