27話 モノクロだった世界
「行ってきます」
玄関の鍵を閉め、誰もいない家にむけて挨拶をしてから最寄りのバス停に向かう。
バスに乗り、駅につく。
朝の時間帯で、駅は人で混んでいる。
改札を通って電車に乗る。
この時間の電車は、いつも混んでいるので立っている。
学校に一番近い駅についたので電車を降りる。
改札を通って駅を出る。
プゥッ!
学校まで歩いていく途中で車がクラクションを鳴らしたようだ。
…………………………。
学校について教室に入り、自分の席に座る。
しばらくすると、担任の汐田先生が教室に入ってきてホームルームを始める。
「今から進路調査の紙を配る。今月までに出すように」
…………………………。
汐田先生は、そう言って一番前の列の生徒に紙を配る。
前から紙が送られてくる。一枚とり後ろに回す。
休み時間になった。
みんな、それぞれ仲の良い者たちで話をしている。
さっきの進路の話をしている者もいる。
俺は本を読むか寝ているか……今日は本にしよう。
「彩ちゃんはどこに進学するの?」
真面目な性格で面倒見のいい委員長の月野さんが島田さんと話していた。俺との席もそんなに離れていないので、たまたま聞こえてしまった。
「あー、私はどうなるかわかんないんだよねー。家にいても親と話さないし。進学の費用も出してもらえるかわからないから、どこかに就職して一人暮らしでも始めようかなぁ。明梨は保育士だっけ?」
「そう。もう進学先も決まってるんだ」
「さすがだねぇ〜。私もいろいろ考えないとな〜」
…………………………。
休み時間が終わる。
いつもの授業を受ける。眠くなるような授業。黒板に書いてあることは、全部教科書に書いてある授業。
色のついたチョークで書かれた言葉を、色のついたペンでノートに書く。
授業が終わる。
昼休みになった。
購買に昼食を買いにいく。
適当にパンと飲み物を取ってレジに並ぶ。
「なぁ、毎回思うんだが、なんで俺がここにくるとみんな引いていくんだ?」
俺の後ろに新しく誰かが並んだようだ。
「あんたが不良だからでしょ。赤茶の髪だし目つき悪いし。昨日だって○○高校の奴らとケンカしたじゃない」
「目つきは生まれつきだよ。お前が一番よく知ってんだろ。それに昨日はあいつらが悪い」
…………………………。
昼食を食べて、午後の授業を受けて、いつもの学校での一日が終わった。
部活には所属していないので、早めに学校を出て電車に乗る。
バスに乗る駅についた。
スーパーに向かい買い物をする。
金曜日なのですこし多めの買い物をした。
バスに乗って家に帰る。
「はぁ〜疲れた」
買ってきた物を冷蔵庫に入れたあと、椅子に座りテレビの電源をつける。
数分間テレビを見たが、つまらなかったので電源をきる。
ご飯を食べ風呂に入り、自分の部屋にいき宿題をし、軽く予習と復習をしたあとベッドに横になる。
いつからだろうか?
まわりを見なくなったのは……。
いつからだろうか?
夢も目標も考えなくなったのは……。
いつからだろうか?
人に興味を持たなくなったのは……。
いつからだろうか?
全部、どうでもいいと思うようになったのは……。
○ ○ ○
次の日、朝食を食べたあと、日課である庭の植物に水やりをしようとリビングのカーテンを開けた。
「は?」
意味がわからなかった。
どう考えても、こんなところに洞窟ができるなんてありえない。いや、正確には洞窟の入り口だが……。
寝ぼけてるのか?
まだ夢の中とか?
庭用のサンダルを履き、洞窟に近づき触る。
本物のようだ。
こういう時は、警察だよな?
面倒なことは全部任せよう。
…………………………。
もう一度、庭にできた洞窟を見る。
「…………入るか」
リュックに食料を入れながら、思っていた。
(おもしろそうだ……)
はやかった。
行動が、思考が、鼓動が……。
なぜか、心が躍っていた。
顔がにやけているのが、自分でわかった。
突如、庭にできた洞窟が、俺の世界をカラフルに色づけた。
――現在――
「せっかくなので、今日は休みにしましょう。昨日頑張ってもらったから今日は自由行動ということで……」
朝、朝食を食べてからショッピングモールのところに転移で来た。
そして、名倉さんに今日は休みと伝える。
「わかった。それで通知をしておくよ」
数分後、名倉さんが放送で今日は自由行動と伝えていた。
俺は、娯楽が減ったこの状況で、みんながどんな風に過ごすのか気になって見回ることにした。
「自由行動って何すればいいんだろう?」
「だったら明梨。翔太君とひかりちゃん連れて、ここにあるゲーセンコーナーにいかない? 使えるかわからないけど……」
月野さんと島田さんがそんなことを話していた。
ホープのおかげで、いちおう使えるみたいだけど整備とか全くしてないんだよな……これからやる奴らも出てくるだろうし、早めにやっておくか。
「はぁ⁉︎ ダンジョンに行く⁉︎」
「あ〜なんか動いてないと落ち着かないんだよ。中村さん、半田さんと一緒に様子見に行くだけだから大丈夫だ」
「私も行く! ちょっと待ってなさいよ!」
ボス部屋に挑まないよな? 中村さんと半田さんと春野弥生が一緒なら大丈夫だろう……あとでどうだったか聞いておくか。
「澪。ちょっとそっちを持ってくれないか?」
「うん」
「それにしても、すごいねぇ。スキルで病気も治しちゃうなんて。たいしたもんだよ」
「そうだね。お母さん。あとでタコ買いにいかないと」
「若い子ばかりだからたくさん食べるだろうねぇ」
今日のお昼はたこ焼きみたいだ。
夕食は何だろうか?
前に先生が話していたお店は、両親のお店、自分の家のことだったようだ。
はやく先生の手料理食べたいなぁ。
「今日は自由行動になったみたいですよ。玲奈さんあの人を探しましょう!」
「それはいいけど、名前までわかってるの?」
「………………現場百回。地道な調査です。髪の毛とか落ちてないか探してきます」
「行ってらっしゃ〜い。私は何しようかな?」
一部ってこの人たちか……。
まぁ、名前を知られていないのなら問題ないか……。次は病院の方を見に行ってみよう。
「陽奈。無理はダメよ。そろそろ休みましょう」
「わかった。でも外に出たい」
「そうね。じゃあ薫さんにお願いして、少し外にいようか」
「うん! チャチャも一緒!」
風間陽奈。
病気で寝込んでいた少女。病気はスキルで治したが、筋力は治らなかったようだ。もともとそんなに筋肉がついてなかったからかもしれないが……。
【肉体強化】があるから、近いうちに歩くどころか走れるようになるだろう。
他にも、職業レベルを上げるために頑張る人たちもいた。
なんか携帯ゲーム機やパソコン、サッカーボール、野球ボールを【眷属化】してみたやつとかいたな。
色々試して情報提供してほしい。
「マスター。作戦ガ成功シテ良カッタデスネ」
一通り見回った俺は、屋上にある建物――塔屋――にきていた。
「そうだな。自信をつけてくれたようで何よりだ」
まぁ、九割くらいは先生のためだったが……。
あの行進ボスには、みんなの土台になってもらった。ユニークスキルを持っていなくても行進ボスを倒したというのは、かなりの自信につながるはずだ。
またやってもいい、くらいに思ってくれてればいいな。
「わぁ! 原田先生! 虹!」
「あら、本当。きれいな虹ねぇ」
そんな声が聞こえ、俺も空を見上げる。
太陽を囲むようにできた、丸い虹だった。
「たしかに綺麗だなぁ」
本当に綺麗だ。よく見える。
すぅー
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」
「過去最高ニ長イタメ息デスネ」
「しょうがないだろう……」
違うと分かっていても、先入観って怖いわ〜。
「綺麗だなぁと思ってさ」
目を瞑る。
思い浮かんだのは、ダンジョンを攻略した時に、光の中で見た期待の笑みを浮かべる白髪の女。
「……待ってろよ」
必ず……「一宮」
下で俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
汐田先生だ。
屋上に降りる。
今は仮面を外してもいいだろう。
「これ」
紙皿に乗せたたこ焼きを渡してきた。
できたてなのだろう。
うまそうな匂いが漂っている。
「ありがとうございます。……先生」
もう……決めたんだ……。
「なんだ?」
必ず、俺たちが辿りつく。
「先生は、叶うとしたら、どんなことを願いますか?」
叶えてもらうぞ……俺たちの望みを……。
読んでくださりありがとうございます。
これは作者個人の感覚ですが、朝に車が突然クラクションを鳴らしたら、何があったんだろう?くらいは思います。
中学、高校のときは進路は悩みました。
自分の後ろにちょっと怖そうな人がきたら嫌だなぁと思ってしまいます。
ダンジョンができてから、ライムとモモに出会ってから色づいていく日常。
壊れた日常が色づいていくというのも、変な感じがしますが、目的・目標に向かっていくと決意した蓮であります。
次回からは人類反撃の一ヶ月です。
次回の更新は18日です。




