26話 終わりと始まり
明けましておめでとうございます。
2019年、よろしくお願いします。
一部スキルの表記が今までと違いますが、こちらの表記でいこうと思います。
「う〜ん。……よし、お前は『ナップル』だ。よろしくなナップル」
「クック、クック」
俺の言葉に、「よろしく」と返事をするナップル。戦闘中、ラメを投げて仲間にした土モグラだ。攻撃が当たると危ないので、ずっと地中に隠れているように指示を出していた。
今、内藤病院では中村樹也さんたちが説明をしている。もちろん、病院は【眷属化】されており、トイレやシャワーなどの設備も使えるようにしてある。病院には月野さんの母親もいたらしく、無事に再会できたようだ。【眷属化】した人たちは、先生と春野弥生以外は解除した。
そして俺は、第二部隊が土モグラと戦った場所にいる。それは【眷属化】や【眷属装備】、スキルを確認するためである。
【潜地】
地面に潜ることができる。一秒で魔力を一、消費する。地中にいる間は、特定のスキルは使用できず、地中から地上へは攻撃することはできない。
なるほど、だから攻撃するときも、わざわざ地面から出て攻撃していたのか。
「とりあえず、装備は……う〜ん。ブーツ」
「クック」
『土モグラのブーツ』
使用可能スキル。【潜地】【脆牙】
【脆牙】
土属性の攻撃。当たった部分を脆くする。
「【脆牙】」
そこらへんの手頃な瓦礫を見つけ、壊れないようにチョンと軽く蹴ってみた。
蹴りが当たった箇所はパラパラと音を立て、少しだけ崩れた。
「防御力が自慢の敵には良いかもしれないな……」
亀の魔物とかゴーレムとか……。
それじゃあ、次は……
「【潜地】」
スキルを使用した瞬間、茶色いオーラが体全体を包んだ。そして……
「うおっ!」
沼に引きずり込まれるようにゆっくりと、ではなく、ボトンと水の中に落ちる感覚があった。
バタ足をして陸を目指し、大鎌を持っていない左手で地面を掴み地上へ……ヒョイヒョイ、地上へ出ようとして、左手が何回も手招きをした。
「……こうか?」
もう一度左手を出して手首から上だけを解除し力を入れ地上へ。
「よっと。よし、コツは掴んだ。視界は問題なかったな。というか……」
問題がなさすぎてつらい……見たくないモノをうじゃうじゃ見てしまった。土モグラも人類食べる前にあれらを先に食べろよ。
「はぁ〜」
「マスター、大丈夫デスカ?」
「あぁ、まぁ、慣れるしかないだろう。フォン、地中内は撮らなくていいからな」
「ゴ安心ヲ、光ガナイノデ撮レマセン」
その言葉を聞いた瞬間、普通に見えることなど忘れて、ガッツポーズをとって大いに喜んでしまった。
「クック、クック」
そこで、新しく眷属にしたナップルが会話に入ってきた。
「ふむ。獲物を見つけていた方法は、地上から聞こえた音と微かな匂い?」
だとしたら……行進ボス、上手く釣れるかもしれない。
思いついた作戦を伝えるべく、練習も兼ねて病院まで地中を、なるべく速く泳いで移動した。
病院の駐車場にきた。警備として何人か配置しているようだ。足音が聞こえる。
「なるほど。こんな感じね……」
人がいない場所まで移動し、今度は左手を地中から出して左手のみ【潜地】スキルを解除する。そして地面に手をかけて、地上に出た部分から解除し、地上に立つ。
「だんだん慣れてきたな……ん?」
地上に戻った途端、気配察知に3人の反応があった。同時に、ヒソヒソとした話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、本当にいるの? 【気配察知】に反応はないんだけど……私、幽霊とかダメなんだけど……というか、なんで私まで……」
「それは彩ちゃんがいるから大丈夫だよ。春野さん」
「えっ⁉︎ 明梨、私はアンデッドが大丈夫なだけよ。それに今回は幽霊じゃなくて変態でしょ。3人で飛び出して同時に攻撃するよ」
そういえば、ここ。【眷属化】された病院の敷地内だった。【眷属化】された『建物』には【気配隠蔽】は無効化されるんだ。建物の中にいる人には無効化されないけど。
あぁ、そうか。
俺が地面の中、敷地内の地中にいるときからかな?
現れたのを感知した病院が、怪しい人だと思って人をよこしたのか……あれ?
でも、話の流れがおかしくね?
変態ってどういうこと?
と俺が思考をまとめていると……
「行くよ」
島田彩香の掛け声で角から3人――春野弥生、月野明梨、島田彩香――が出てきた。
「あれ?」
「誰もいないね」
「鳥肌が〜」
「わ、私、本当にいたのかもう一度聞いてくるね」
「ちょ、ちょっと明梨」「待ってよ」
結局、3人ともいなくなってしまった。
あとで知ったことだが、俺が出た場所、女子トイレのそばだったらしい。そして3人、というより、女性全員の誤解は無事解くことができた。
○ ○ ○
「総員、配置についたな」
あれから数時間後、作戦会議を開き行進ボスのエサを用意し終わったあと、戦える人たち、約140名が建物の上にいた。病院とは200メートルほど離れている。
「それじゃあ、あとは頼みます」
「了解だ。任せておけ」
上半身裸の中村樹也さんに後のことをお願いし、俺は別行動をとることにした。
そして良いタイミングで、行進ボスが起き出した。
「お腹が空いた。あっちから美味そうな匂いがする。たくさん、たくさんある!」
眠っていた王様は、起き出すと鼻を動かし、エサのある方に地中を泳いで進む。
トントントントン
とエサが「ここにいるよ」と主張する。
「うまそう。たくさん」
地上が近づくにつれ、強くなっていく匂い。王様は、大きく口を開けて、スピードを上げる。
そして……
トントントントントントントントン
「ククー!」
近づく音と匂いをめがけて、王様は地中からバンッ! と勢いよく飛び出し大量の服を口に含みながら宙を舞った。
そのとき……
「総員! 攻撃開始!」
「「「「「ウィンドボール!!!!!」」」」」
「「「「「ウィンドカッター!!!!!」」」」」
「「「ウィンドスピア!!!」」」
中村樹也の合図で、建物の上に待機していた140名が【風魔法】を唱える。全員、レベルは1以上上がっていたのでSPで【風魔法】を習得した。
「ギュアァァァァ!!!」
全方位360度の攻撃に、相当なダメージを受け、悲鳴を上げる大型トラックほどの大きさの巨大土モグラ。
「まだまだー!」
地上に現れている間、弱点である風属性の攻撃を受け続けた巨大土モグラは……
「クァァァ」
弱々しく鳴いたあと再度、地中へと姿を消した。
「もう一度、出てきたら攻撃する!」――上手くやってくれよ――
中村樹也の言葉に、気を引き締め直す討伐隊の面々。
自信のついた討伐隊の面々は、まだかまだかと、行進ボスを待った。
「酷い目にあった」
それでも、せっかくの大量の獲物なのだ。そう簡単に諦めることはできない。何よりも、人類はなぜか殺さなければと本能と理性が働く。
確実に殺すために、人間どもが足場にしていた建物を一つずつ潰していこうと作戦を立てていたが……
「クッ⁉︎」
全速力でその場を離れた。
本能が警告をした。頭で考えるよりも先に身体が動いた。
――ここから早く離れろと……
「地中での鬼ごっこか……」
いいね。地中でも最強になってやる。
右に旋回するヤツを追う。
随分と速いスピードで逃げているようだ。
でも……
「おい……」
――トナリニイルゾ
「ククッ⁉︎」
突如、自分の隣に現れた不気味な微笑みを向ける仮面にびっくりし、左に旋回する。
(そうだ……もっと慌てろ……もっと恐怖しろ……お前には……)
下、上、左、右、斜め。
ヤツの行く方向に先回りをし、誘導する。ヤツの思考は、恐怖で混乱している。
どこに向かっているのかもわからずに……。
「ククク!」
ここまでは、地中に居てはマズイと考え、またもや全速力で地上へと出て行く巨大土モグラ。
しかし……
「攻撃!」
「クッ⁉︎」
しまった……そう思ったが、もう遅い。再び空中にいる間に、また風属性の攻撃を受けた巨大土モグラ。しかし、地中にはあの化け物がいるため戻ることはできない。絶対に安全な地中が、今では一番危険な場所となっているのだから……。
「ククク」
こうなったら、と宙でダメージをくらいながらも討伐隊がいる建物の一つをめがけて突っ込もうとする。
「「「ウィンドウォール!!!」」」
風の壁によって速度を減少させられ、その間に建物にいた人は全員逃げていた。おまけに、自ら弱点属性の壁に突っ込んだことによって多少のダメージもくらった。
「クッ!」
ダメージをくらいながら建物に突っ込んだ巨大土モグラは怒りを感じていた。
人間ごときに……ただのエサにと……
そんなことを考えていると、後ろから声が聞こえた。
「【エンチャント・風】対象、討伐隊員。【魔法フィールド・風」
それは、自分の死を告げる声……
「袋のネズミ。チェックメイトだ」
行進ボスを取り囲む討伐隊。
俺は大鎌を持ったままの右手を左肩の方に持ってくる。
「総員――シュッ!――屠れ!」
「「「「「【覚醒】!!!!!」」」」」
「「「「「【魔攻覚醒】!!!!!」」」」」
俺の合図で、風属性の攻撃が獲物にいっせいに降り注いだ。
「ギュァァァァァ…………」
悲鳴にならない声を上げて、行進ボスは力尽きた。
《この地区の行進ボスが撃破されました。これより魔物行進を終了します。なお、制限時間外のクリアのため、報酬はでません》
討伐確認のメッセージが脳内に響き、俺たちは本当に終わったのだと実感したあと、歓喜の声を上げた。
俺は討伐隊の人たちを見渡しながら、もう一つの作戦が成功してよかったと安心していた。
○ ○ ○
「えー、それでは、(片方だけど)隣区の奪還を祝って、乾杯!」
「「「「「乾杯!!!!」」」」
現在時刻は18時40分です。
皆さん、討伐隊にいた人も、そうでなかった人も、今日はご馳走が用意された夕食を美味しそうに食べています。やはり、楽しめる時に楽しむのが一番ですよね。こんな世界になってしまいましたし……。
討伐自体は、16時14分に終わりました。
行進ボスや討伐した魔物は、しにがみさんが【異空間倉庫】の方にしまったみたいです。死亡者はゼロです。幸先がいいです。
え? 貴女は誰かって?
もう……最初からショッピングモールにいたじゃないですか。むしろしにがみさんよりも先にいましたよ。
え? 名前を聞いていない? それは失礼しました。
私の名前は、探見鈴といいます。
「あっ、玲奈さん。討伐お疲れ様です」
「あぁ、鈴ちゃんも名倉さんのサポートしてたんだっけ? おつかれ」
そうなのです。なんと私、討伐隊に選ばれませんでした。まぁ、運動は苦手なので、むしろ選ばれなくて安心していましたが……命をかけた戦いに、持久走でビリから3番目の人を選ぶ必要もないでしょうし。
「いやー! それにしても、デカイゴブリンを倒したときはスカッとしたねー! めいっぱいの力で頭を叩き割ってやったよ。それから…………」
今日はお祝いということで、お酒を飲むことも許可されています。玲奈さんはだいぶ酔っているようです。まぁ、嬉しさもあれば寂しさもありますからね。
私は地方から来ましたから地元がどうなっているかわかりませんが、もう親のことは諦めています。
私はひどい人間です。
あのとき、ゴブリンに慰み者にされているとき、早く自分だけでも助かりたいと思っていました。
それで、助かりました。今は、一人じゃなくて良かったと思っています。だから、生きたいと前より強く思っています。
「ちょっと、お手洗いに行ってきます」
「行ってらっしゃ〜い。だれかー! おつまみ追加ー!」
玲奈さん酔いすぎです……。
この後、私にとって運命の出会いがありました。
(あんなに酔って玲奈さん大丈夫でしょうか?)
そんなことを考えていた私は、いつも曲がり角のときは、誰かとぶつからないように少し大回りするのですが、この時はしなかったのです。
だから……ドン!
「きゃっ!」
「うおっ!」
今どき、曲がり角でごっつんこというシチュエーションをショッピングモールの中でしてしまったのです。
「あ〜ごめんなさい。私、考え事をしていて……」
定番のセリフを言います。この時は別に、ラブコメ的な展開は期待していなかったのですが……
「あ〜いえ、こちらこそすみません。大丈夫ですか?」
はっ! この声!
――『すみません』――
同じだ!
私は目を見開いてその声の主を見ました。それはもう脳内に焼き付けるように……。
そこにいたのは……
「あの〜本当に大丈夫ですか?」
普通の青年でした。
特徴をあげろと言われても、黒髪茶目の身長170センチくらいの、顔は良くもなく悪くもない、どこにでもいそうな少しダルそうな雰囲気を放つ、目立つのが嫌いそうな青年です。
(この人がしにがみさんですか……意外です)
でもこれは大発見です。さっそく玲奈さんに報告しなくては……もちろん、密かにですよ。公表するのは彼も嫌でしょうから。
「大丈夫です! ありがとうこざいます!」
そう言って、私は走って玲奈さんのもとに急ぎました。
「は、はぁ。なぁフォン。今の人って、Mなのかな? ぶつかって「ありがとうございます」なんて言わないよな?」
「色ンナ人ガイルノデス。ソレヨリモ、連絡ハスルノデスカ?」
「う〜ん。向こうも隣区の奪還が終わったみたいなんだ。県だし、直接会いに行ってみようかな? 悪い人じゃなければ、同盟を結べるかもしれない。わからないけど……」
○ ○ ○
「玲奈さん! 玲奈さん!」
私はうつむいていた玲奈さんを興奮のあまり激しく揺すりました。
「見つけました! あの人を……玲奈さん?」
この時、揺すったのは間違いだったと後悔しました。
「き……気持ち、悪い……ゔぇぇぇ」
「ぎゃー! 誰か! バケツとふきんと水ー!」
こうして、騒がしい宴会は、幕を閉じました。
それと、この次の日から『ショッピングモール内は、ながら歩き禁止』のルールが追加されました。誰かがながら歩きしながら問題を起こしたのでしょうか?
《特定の条件を満たしました。職業【名探偵】を追加します》
「ねぇ、マスター。騒がしかったから分かり難かったけど〜。なんか一部に正体がバレたっぽいよ〜。誰か分からないけど〜」
「えっ⁉︎ なんで⁉︎」
読んでくださりありがとうございます。
次回の更新は11日です。
次回はダンジョンが現れる前の金曜日が書かれています。ダンジョンが現れる前と後の蓮の心情など注目してほしいところです。
最後に、唐突に新連載とか始める。
こんな作者ですが2019年もよろしくお願いします。




